紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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…私は戦うことが出来ない。
でも、いつだって寄り添っていける人間になりたい。

そう願った時、彼女は"覚醒"する。

―みんなを死なせない―

その願いは…"奇蹟"を起こす―――。


第59話 神化。

四国全土を覆う巨大な異形。

『凶星』と呼ばれる仮説上の恒星「ネメシス」の名を取って付けられたこの人造バーテックスは"人造神計画"において生まれた産物であり、「死」を象徴する星として人類への粛清の為に教団によって生み出されたもの。

 

亜耶が手に入らず、邪神が呼べなくなった時の第二の計画として立案されたこの怪物はまさに、悪魔そのもの…"神"とは程遠い存在だった。

"神"と決別した人類を粛清するために『三神官』が発現させた。

だが、彼らが亜耶の事を諦めたなんてそうは思えない。この怪物をけしかけて戦力を一気に割こうと画策したのだろう。その仮説が正しければ、"使徒"だって動いているに違いない。

そう、亜耶さえ手に入れば彼らの計画は達成される。これは強硬手段だ。邪魔者を排除するにはうってつけだ。

 

この大混乱の中、園子はその可能性を視野に入れる。

事実、この怪物が現れる前に亜耶に異変が起きている事を考えれば彼女の持つ力のステージが上がっている事を明白だ。それは彼らも感じていることだろう。

 

園子は全力で思考をフルに回転させる。

 

目の前の事態だけに視野を向ければ色んな角度から死角を突かれる。

 

これは、宗主となってから大人達との謀(はかりごと)で得た経験だ。

だから、今回は戦わない選択をした。

何より最優先事項は亜耶を守る事。世界を守るのと同じくらい、彼女は重要人物なのだ。

 

だから、この怪物は彼女達に託すとしよう。

 

人を守る"勇者"達に。

 

………………………………………。

 

シズク「こんなの聞いてねェぞ、どうすんだ!。」

 

あまりにも巨大な敵になす術が無い一同。想定を遥かに超えてきたこの

存在に、少しずつだが戦意を失う者も少なくはない。

しかし、彼女…楠芽吹は違った。

 

芽吹「怯むな!。コイツが"生物"なら必ず倒せる方法があるはず!。各部隊は各地に散開!。それぞれの部位に攻撃を仕掛けて動きを止めるわよ!。」

 

芽吹は冷静に見つめる。

 

芽吹(コイツが"バーテックス"なら、必ず心臓部があるはず…それを討ち取れば瓦解する!。勝機は失われていない…!。)

 

戦意は衰えない…しかし、実際にどう対応すれば良いか思考が追い付かない。

亜耶も異変を起こしている。瞳の色が元の色と赤の交互に入れ替わり、明らかに普通じゃない。

 

流星「亜耶!大丈夫か!?。」

 

亜耶「……あれを…この世界から追い出して……あのままじゃ……人類が……。」

 

流星「任せてくれ!。久遠さん、亜耶を安全な場所へ!。」

 

久遠に亜耶を託し、出撃しようとしたが彼女が手を掴んでくる。

 

亜耶「私も…一緒に…!。」

 

流星「何を言ってるんだ!危険すぎる!。」

 

亜耶「それでも…行かなきゃいけないの……。」

 

引き下がらない亜耶。

瞳の異変は未だ収まっていない。

だが、素直な彼女がこうまで引き下がらないのは何か理由があるのか…。

判断に迷う。教団から狙われている彼女を戦場に連れて行っていいのかと。だが、その迷いを玲司が振り払うように。

 

 

玲司「坊主、巫女ちゃんの言う通りにしてやれ。」

 

流星「久遠さん!?。」

 

玲司「俺の勘だが、あの化け物を沈めるにゃ力だけじゃ無理な気がする。見ろ、あのスケールだぞ…こちらが仕掛けても蚊が刺したようなもんだ。あれが"バーテックス”なら必ず「御霊」があるはず。ソイツをぶち抜けば俺達の勝利だ。撃退じゃダメだ、討伐しねェとこの危機は去らねェ。」

 

流星「それは分かってますけど……!。」

 

手を掴む亜耶の力が強くなる。

自分に起きた異変に苦しみながら、力強い眼差しで。

 

亜耶「――お願い。」

 

流星「……ッ…分かった。君は俺が必ず守る。だから、傍を離れないで!。」

 

亜耶「…はい…!。」

 

流星は亜耶を抱え、走り出す。

 

夕海子「ちょ…紫藤さん!?。」

 

流星「すみません、亜耶と一緒にアイツの胴体下まで行きます!。」

 

シズク「お前馬鹿か!。国土を連れて行くなんざ、何かあったらどうすんだ!。」

 

亜耶「…これは…私の意思です。」

 

声を絞り出す亜耶。

その一言に何故か誰も逆らえなかった。

そして、芽吹は流星に託す。

 

芽吹「分かった。何か打開策があるのね?。」

 

亜耶「分かりません…けど、どうしても行かなきゃいけない気がするんです…きっと、このままじゃ多くの人が技犠牲になってしまいそうで…。」

 

芽吹(亜耶の"巫女"としての力か……良い事なのか悪い事なのか……。

でも今は…!。)

 

コクリと頷き、芽吹は亜耶の手を取る。

 

芽吹「もう、守られるだけじゃないのね。一緒に乗り越えましょう。力を貸して、亜耶!。」

 

亜耶「はいっ!。」

 

流星「行きます!。」

 

亜耶を抱えたまま跳躍し、徐々に姿が見えなくなる。

後輩が自らの意思で死地に向かっていく様子を見ながら、心配どころか心強さを感じる。

守るのではなく、信じる。

それこそが、この戦いを乗り越える算段になりそうで。

 

――頼んだわよ。

 

そう、心で呟きながら自らも死地に向かっていった―――。

 

 

…………。

~『右足』~

 

幸い、陸地には着地していないのか『右足』に相当する部位は海上で佇んでいた。

しかし、その際に発生した水害でいくらかの家屋は倒壊してしまっている。

そしてそこには、犬吠埼姉妹が居て。

 

風「…これが夢なら早く覚めて欲しいわね。」

 

樹「お姉ちゃん…これ、"勝てる"の?。」

 

このスケールの敵は2年前の「天の神」を思い出させる。

世界の終焉。この巨大な怪物を退けなければ間違いなく世界が終わる。

せっかく、止まっていた「刻」が動き出したと言うのに、こんなことで世界を終わらせるわけにはいかない。

"人の悪意"の塊であるこの怪物は何としても、討伐しなければいけない。この一戦に、残された人類の存亡がかかっている。

 

2人は覚悟を決めたのか、互いに頷き合って端末を「起動」させた。

辺りを眩う光が戦場を照らす。

 

『疑似勇者外装』「参式」と「肆式」。

 

計5つの正式型が全て揃った。

黄色と緑の光を纏い、姉妹は戦場に降り立つ。

 

風「…「参式」…ほんと、2年前と何ら変わりないわね…得物も大剣、ちゃっかりしてるわ。」

 

樹「そういう私だって、2年前と同じものだよ。でも、これなら馴染んでるからやれると思う。」

 

その時、『右足』の一部が開いてそこから無数の『怪物』が放たれる。

それを見た2人は驚愕して。

 

風「はぁ!?。何よあれ!。」

 

―星屑。

『星座型』と呼ばれたバーテックスを構成する無数の怪物。それに酷似した適性体が飛来してくる。

当然、物量で攻めてくるこの怪物に意思は無い。故に、"死"を恐れない特攻そのものの勢いで2人に向かってくる。

 

風「またコイツ等の相手をしなきゃなんないわけっ!?。勘弁してよ!。」

 

大剣を横薙ぎに振るう風。

空間ごと切り裂くその威力は絶大で、向かってきた一団を一瞬にして消滅させた。

 

風「…え、マジ…?。」

 

樹「来るよ!?。」

 

唖然としていると第二波がやってくる。それをカバーするように、樹が放ったワイヤーが次々と怪物の群れを細切れにしていく。

確かな手応えを感じる2人は、少しばかりが自信に満ち溢れる。

だが、こんなのはただの足止めにしか過ぎない。あの巨体が動き出せば、それだけで甚大な被害を被るのだから。

そこへ、風のスマホに着信が入る。相手は美森だ。

 

風「もしもし、東郷!?。あんた達は何処にいるのッ!?。」

 

――――――――――――。

 

美森「『左足』に当たる部分です!。ここは私と友奈ちゃん、合流した夏凛ちゃんが敵を食い止めてます!。」

 

近接型の2人が突貫し、怪物の群れを悉く潰していくがそれでも手数が足りなさすぎる。それに、「本丸」は全くの無傷だ。

 

(こっちは『右足』!。それに、星屑のような化け物がウジャウジャと放たれてるわ!何なのコイツ!?。)

 

美森(状況は同じ…まさしく、揚陸艇のような役割を果たしてると言える…でも、この巨人…頭部に当たる部分が存在しない?。)

 

遥か前方まだ広がるその巨躯の先を見据えるが、頭部らしきものは確認されない。衛生写真から送られた映像でも、それに当たる部位が存在しない。

 

美森(…もしかして、"不完全体"?。)

 

腰に据えた二丁の拳銃を取り出して速射で接近してきた敵性体を撃ち抜きながら、思考を巡らせる。

 

美森(…下から攻撃しても大したダメージが入らない…やはり、中枢に当たる部位を攻撃しなければこの巨人は消えない…!。)

 

――その時、目を疑う光景が目に入る。

 

美森「えっ……『腹部』が…開いた…?。」

 

 

―――――――――。

 

"上半身部"のそれぞれの『腕』に向かう防人達もその様子を確認する。

 

夕海子「…何ですの…一体、何をする気で…?。」

 

芽吹は開いた『腹部』に集中するエネルギーを見据える。

そして…一気に冷や汗が吹き出て。

 

芽吹「マズイ!。総員、一斉に前方に向かって突き進んで!早くッ!。」

 

雀「な…何が起こるのッ!?。」

 

芽吹「あの化け物、攻撃する気だわ!!。腹の中心に莫大なエネルギーを検知してる!それどころじゃない、周辺の"残滓"も吸い込んでるっ!。」

 

シズク「腹!?。待て、胴体には向かった紫藤達が居るんじゃ!。」

 

それを聞いて血の気が引いた芽吹はスマホを取り出して流星に連絡を入れる。しかし、この非常時で通話に出るほど呑気じゃないのは当たり前のことだ。何コールしても全く出る気配がない。それどころか、腹に溜め込まれるエネルギーはどんどん膨張していく。

 

芽吹(くっ…お願い…そこから逃げて…亜耶……流星ッッ!!。)

 

――――――――――――。

 

胴体部。

煌々と輝くそのエネルギーの付近には足を止めた流星と亜耶がいた。

山間部に当たるその場所に人気は無い…しかし、今まさに放たれようとしているその光からは逃れられそうにない。

 

流星「ッ…ダメだ、間に合いそうにない!。それに、何をする気だコイツッ!!。」

 

グッと、抱き抱えられた亜耶は流星の袖をしっかりと掴む。

だが、何故か恐怖感が全く無い。この光がもたらすのは確かな"死"だと分かっているのに。不思議と、心が落ち着いていた。

 

亜耶「………あの光は、滅びの光。」

 

またしても様子がおかしい亜耶。

流星は彼女に視線を向けると、紅く変わった瞳の色が徐々に変化していく…それどころか、彼女の身体が淡く光だした。

 

流星(まただ…一体、亜耶に何が起きているッ!?。)

 

亜耶「…リュウ君、私がみんなを救ってみせます。」

 

流星「何をどうやって!?。それよりも、ここを早く離れないと!いや、間に合わない!。せめて、地下深くに身体を潜り込ませれば少しは…!。」

 

生存への道を探す流星とは裏腹に、亜耶は根拠の無いその発言を実行しようと流星の目を強く見つめる。何故か、否定する気にはなれなかった。先程から彼女の身に起きている異変…これが、何を意味するのかは分からない。

しかし、このままだと自分達はおろかこの土地一帯が焦土と化す。

ならば、彼女の言う通りに任せるしか道がないのかもしれない。

一瞬の判断が命取りとなる、そしてそれは時間が残されていない。

 

そして、彼が出した答えは――――。

 

 

流星「――亜耶、分かったよ。君の言う通りにする。俺に何か出来ることはあるか?。」

 

亜耶「――側に居てください。私一人では不安だから…居てくれるだけで勇気が出る。」

 

ぐっと、手を握る亜耶。

死の光はもう間近に迫っている。そして、彼女は…祈る。

 

亜耶(…どうか、この世界の人達をお守りくださいませ。私の身体を通して、この辺りの残滓を…"神樹様"の遺したお恵みを力に変えて。)

 

暖かな光が彼女を包み込む。その光は何処か弱々しいが、それに呼応するように周辺の"残滓"が淡く光り始める。

 

流星「何だこの光…とても、暖かい…?。」

 

亜耶「これは人々の生きる"意思"…心の光です。神樹様の遺した"残滓"は土地を豊かにするだけの恵み…ですが、そこに人の"意思"が混ざる事で奇蹟が起きる…私は…その"器"。」

 

周囲の木々が同時に光を帯びる。まるで、金色の樹海を彷彿させるようで、山間部の木々が全体的に輝きを帯びて。

 

流星「何が起きて…!?。」

 

亜耶『大丈夫。この世界に神が消えたとしても、人を信じて託してくれた神の"意思"は「恵み」へと姿を変えてずっと見守ってくれてます。』

 

瞬間、亜耶が空を見上げると巨大な樹木が天へと伸びて、ネメシスの放ったエネルギーとぶつかり合う。

凄まじい衝撃波。エネルギーに押し負けて燃えていくが、とてつもない再生速度で樹木が息を吹き返す。

 

”奇蹟"。

この光は人の思いが形となって、彼女を"器"に発現されている。

そして、世界中に散らばった神の残滓が力を貸してこの奇蹟を引き起こしている。

 

彼女…国土亜耶は人の枠を『超えた』。

 

 

………………………………………。

 

天照「これは……。」

 

「三神官」は教団本部でその奇蹟を目の当たりにしていた。

 

須佐ノ男「ようやく…ようやく、この時がやってきたか……。」

 

月読「神に好かれた"巫女"は神の領域に踏み込んだその時、人を超える…"神託"から始まり、そして神の力をその身に宿す。あの時、神樹様は残滓と共に"あるもの"を1人の少女に託した。」

 

映像に映る亜耶の瞳は金色へと輝き、巫女装束も神々しい光を放つ衣へと変化していた。

 

天照「恵みの種子…それが思わぬ形で彼女の中で発芽した。そしてその姿こそ…人の形をした"神樹様"と言えるでしょう。」

 

 

―――『カヤノヒメ』。

これこそ、我々が目指した領域。

 

この「神化」した少女を手に入れ、我々の悲願を達成する。

神による統治の下、人類全体が同等の存在…。

 

"高位生命体"へと昇華した新世界を創造する為に―――。

 

 

…………………………end。




大切な人達を、世界を守る為に"巫女"は祈りを捧げた。
その祈りに応え、神の意志は彼女の中に眠る「種子」に呼応する。

『カヤノヒメ』。

彼女、国土亜耶はその神の名で呼ばれる事に…―――。

次回
第60話 カヤノヒメ。
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