紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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その少女、神に愛されし者。
その少女、寄り添う者。
その少女…『草の神』の名を持つ……。


第60話 カヤノヒメ。

四国全体に降り掛かる厄災。

世界の命運を賭けたこの一戦に、"奇蹟"が起こった。

"巫女"の少女は『器』と認識し、人の意思と神の意思をその身に宿す。

身体の中に芽生えた『芽』は花を咲かせ、この世界に再び"奇蹟"を呼び起こした。

 

金色の大樹は天へと伸び、今まさに滅びの光を真正面から受け止めていた。燃えては再生を繰り返し、この土地諸共世界を守る為に弾き返そうとする。

 

 

――私は何も出来ない。

いつも、みんなが守ってくれる。血を流しながらも私の日常を崩さない為に。"普通"を手放してまで、命を賭してまで私を守ってくれる。だから何かの役に立ちたかった。私なりに出来る何かを…私だけじゃなくて世界に振り撒かれた"悪意"を退ける為に、一生懸命なあの人達の為にやれる事を探した。そして…気付いたんだ。私の中にある『芽』の存在に。

その『芽』は託されたものだった。2年前のあの時、神樹様の眷属になる為にこの身を捧げようとした。それは、"巫女"にとってとても名誉な事だ。神様に仕え、その声を届ける役目を担う"巫女"にとって、神の眷属へと昇華出来ることは大変名誉な事なのだ。私はそれが当たり前で、勇者様とは違う"お役目"だと思っていた。それ以前に私は「本来」ならば、もうこの世には居ない。

 

"全て"思い出したんだ。私が「神化」…"カヤノヒメ"になってから、捻じ曲げられた記憶が全部、戻って来た。

 

そう…私は2年前、人類が"規約"を破った事で怒り狂った「天の神」の怒りを鎮めるために贄として捧げられるはずだった。そう、「奉火祭」

の贄に選ばれた数人の"巫女"のうちの1人だったんだ。

でも、別の人がその役目を担った。蘇る記憶の中でその人を知った。

 

東郷美森様。

2年前、『壁』を壊して"規約"を破った張本人だった人だ。

けど、それは大切なお友達や仲間を地獄から救う為の優しい決断だった。世界の真実を知り、無限にも続いていた「勇者の悲劇」を終わらせようとしたんだ。その責任を取る形で、私達の身代わりに志願した。

 

…あの時から、私は"勇者様"に守られてきた。

そして、今も世界を守る為に奔走している。きっと何処かで、芽吹先輩達と同じでこの怪物を倒そうと戦っているのだろう。

 

――今度は、私が助けたい。

そう強く思ってから、私はこの力を別の事で使う事を決めた。

この力はこんな事のために使うべきじゃない。神樹様から託されたこの『芽』の役目は世界中に散らばった残滓を一挙に集める為。

そして、十分な量が集まったそのあかつきにはそれを手放し、更なる恵みを世界中に広げる為の『種』だったんだ。

――でも、私は"使った"。

 

世界を…大事な人達を助ける為に。この力が、今を一生懸命に生きている人の役に立つのなら私は喜んで使う。

 

恵みは与えられるものじゃない…自分達で、切り開いていかなきゃいけないから。

だから、神樹様…ごめんなさい。この力を「守護」の為に使わせていただきます。

託し、信じてくださったことを無碍にしない為にも…私は、「神の力」を使います。

 

 

―――――――――

 

 

亜耶『お願いッ!。押し返してッッ!。』

 

心の底から湧き出る声を絞り出す亜耶。それに応えるように、黄金の大樹はどんどん伸びていく。滅びの光は高度を徐々に下げ、地面を目指していくが大樹がそれを防ぐ。

何度焼かれようと、何度折られようと屈することなく天へと目指して。

 

流星「亜耶っ!。」

 

手助けしようと「疑似満開」を発動させようとする。だが、彼女は首を横に振る。

 

亜耶『大丈夫!。私を…信じて!。』

 

流星「ッ…!!。」

 

状況は拮抗。押し返しては押されての繰り返し。周囲にはその余波が風となって吹き荒れ、周辺の木々が激しく弛む。

祈り続ける彼女は消耗しているのか、僅かに息切れしている。それを見て、流星は歯痒い思いをしながら。

 

そっと、手を添える。

 

亜耶『!?。』

 

流星「…何が出来るかなんて分からない。けど、側に居てくれと言われたからそうする。俺も居る、みんなで…世界を守ろう。」

 

亜耶『あ……ッ…うんっ!。』

 

流星が手を添えた途端、黄金の樹は更に輝きを増す。

 

流星(亜耶が神樹様の力を集約させる「器」なら、俺はそれを行使する為の「剣」だ。俺も身体の一部がそうなってるから応えてくれるはず…お願いだ…俺達のこの世界は歩み始めたところだ、滅びなんて誰も望んじゃいない!。ただ、一部の人間の"悪意"で誰かの日常が奪われることなんて決して許されないことだ…だから…!。)

 

流星の身体から蒼い光が溢れ出す。そして、それは亜耶も包み込んで。

 

流星「俺の声に応えてくれ、そして亜耶に力を貸してくれッッ!。」

 

叫びと共に大きな光が2人を包み込む。

大樹が大きくなり、圧倒的な質量のエネルギーを包み込むように枝が伸びる。

そして、2人は天に手をかざす。

 

「「いっけェエエエエッッ!!。」」

 

枝から枝へと、2人の思いを繋がるように葉が生い茂る。

そして、巨体が跳ね上がる。ネメシスが放ったエネルギーは見事に押し返され、開いた『腹部』に直撃。爆発を起こしたエネルギーは飛散し、衝撃波となって辺りに凄まじい風が吹き荒れる。

 

流星「やったか!?。」

 

立ち上がる黒煙を見上げる流星。その隣で亜耶は糸が切れたように倒れる。

 

亜耶「…まだ…終わってません……。」

 

瞳の色は元に戻っている。しかし、激しく消耗しているのか彼女は細目で流星を見つめながら。

 

亜耶「厄災はまだ…元凶がまだ生きています……。」

 

流星「……そのようだな。」

 

徐々に黒煙が晴れると、損傷を受けたネメシスがその巨体を維持していた。最も、この質量が倒れれば天災と何ら変わりは無い。なら、取れる手段は一つしかない。

 

亜耶「…「御魂」を…破壊してください…。」

 

流星はバイザーに備わった通信機から連絡を入れる。

それは、防人だけではなく各地で戦っている旧勇者部メンバーにも繋がっていた。

 

流星「皆さん、聞こえますか?。奴の攻撃を跳ね返すことに成功しました、周囲の被害はゼロです。ですが、奴はまだ健在です。」

 

………………………………

 

『この巨体の態勢が崩れてしまうと、街そのものが圧壊します。ですから、この戦に勝つには「討伐」による消滅しかありません。』

 

樹「え…えぇえええッ!?。」

 

風「…「討伐」か…何か、算段はあるの?。」

 

………………………………

 

『損傷した奴の『内部』に突入し、「御魂」を破壊します。コイツは"バーテックス"…なら、やりようはいくらでもある。』

 

夏凛「確かにそうだけど…このデカさなら『御魂』も規格外よ。それに、星屑モドキがウジャウジャと溢れ出してる。」

 

美森「時間は掛けられない。再生されれば意味が無い…何人かそこに向かった方が…。」

 

……………………………

 

『いえ、一番近い俺が向かいます。皆さんはこの巨体が崩れないように、そして取り巻きが人々に危害を与えないように迎撃をお願いします。』

 

雀「あわわわッ!?流星君、とんでもない事言ってないッ!?。」

 

シズク「おいおい、無茶を言ってくれるぜ!。ただでさえそのデカい『右腕』が動き出さねェかヒヤヒヤしてるってのによッ!。」

 

夕海子「紫藤さん、その発言の意味を分かってまして?。つまり、再生までの時間に討伐出来なければ、生きて帰ってはこれませんのよ?。」

 

…………………………

 

深呼吸をする流星。不思議と、緊張感も無い。心が研ぎ澄まされていくように感じ、全てが上手く行く気がした。当然、失敗は許されないしその背に背負うものの重大さは理解している。

何千何万という、この「四国」で生きている人類の命を背負っているのだ。だが、2年前に止まった刻はもう動き出している。「神世紀」となってから「外」の世界と隔絶され、300年の時を経て英雄達の思いがようやく届いたのだ。そして今、世界は変わろうとしている。かつての世界を本当の意味で取り戻す為、人類は現れた「外」へと開拓に着手しようとしている。それが、いつまで掛かるか分からないし調査自体だっていつ始まるのかも分からない。

だが、少しずつでも、牛歩の一歩だとしても進む事に意味がある。そして諦めない限り、その先にはきっと目指したものが手に入るはずだから。

 

ここで、その"可能性"を閉ざさせはしない。

少年は…"決意"する――。

 

 

流星「それでも行きます。それが、俺の成すべき事だからッ!。」

 

その時、「擬似勇者システム」が光り輝く。

画面を見ると、そこには「擬似満開」と書かれていたはずのアイコンが変化し、「覚醒満開」へと切り替わっていた。

 

流星「これは…"あの時"のッ!?。」

 

亜耶が手を重ねる。

 

亜耶『今の貴方なら、成し遂げられます。私、国土亜耶は"勇者"紫藤流星に寄り添う"巫女"。貴方様のご無事をお祈りします。』

 

"カヤノヒメ"として覚醒した亜耶の影響と周辺の神樹の残滓が彼に集まり、あの時間軸で顕現させた力が完全に発動出来るようになっていた。だが、今はそんなことはどうでもいい。この力が、必要だと言うこと。

それしか、考えられなかった。

 

流星「行きますッ!!。限定解除ッ!。」

 

―『覚醒満開』!。

 

「擬」から「覚」へと変わり、残滓が一気に集まる。そして…一輪の大輪の花を咲かせた。

赤から蒼へ。心の現れとも言えるその色は今の彼を示す色だった。

 

『覚醒満開』状態の流星は空高くに飛び上がる。

 

………………………………………

 

芽吹「…あの光……総員、流星の指示に従って!。あの腕が動くだけで山が動くようなものよッ!。後輩が勝負に出るッ!私達はその手助けをするのッ!。」

 

………………………………………

 

友奈「信じよう、新しい時代の勇者を。私達が選択した"可能性"をッ!。」

 

………………………………………

 

「「往けッ!紫藤流星ッ!!。」」

 

 

―――――――――――――――

 

 

流星「うおおおおッッ!。」

 

全身を包み込む蒼い光はネメシスの損傷部に一直線に向かっていく。

 

流星(…必ず、コイツを倒して見せる…!。)

 

接近に気が付いたのか、ネメシスは体内から大量の星屑モドキを解き放つ。しかし、その物量に物怖じせずに突き進む。蒼き閃光はその群れの中を突っ切っていく。亜耶はその様子を地上から見届ける。

 

亜耶(…私は祈り続けます。彼の無事を…そして、この世界の人々の幸せの為に。)

 

再び、淡く光る。それは共鳴するように、彼女の放つ光も蒼に。

そして、残滓が光の粒子となって天へと伸びる。

 

"勇者"と"巫女"。

戦う者と寄り添う者の気持ちが一つになる。

 

流星「―――飛べぇえええッ!。」

 

左手を振るい、光の波動を放つ。密集する星屑モドキを一瞬にして消し去る。そして、内部への距離はもう目の先だ。だが、抉られた肉が再生し始める。予想よりも早くに自己再生が始まっているのだ。

だが、関係無い。時間を気にして焦りを募らせれば必ず失敗する。

 

そして………。

 

 

芽吹「………反応が消えた。突入に成功したか。」

 

地上に残ったメンバーは迫り来る敵群を見据える。

 

雀「あわわわっ!。来た…来たァァァァ!。」

 

芽吹「防人全隊と旧勇者部に告げる。作戦成功は紫藤に掛かってる、しかしこの敵群を通せば成功したとしても被害は甚大なものとなる。いいか、1匹足りとも超えさせるな!。自らを絶対防衛線と考えて行動しろッ!。私たちは…この戦いに勝つッ!。」

 

先陣を切る芽吹。敵群は数え切れないほどにまで視界を覆ってくる。

その数、各部位に展開するものだけで推定1000体以上。

対するこちらの戦力は…36人。

 

 

――頼んだわよ、流星。

 

 

"勇者"達は、『厄災』へと立ち向かう――

 

 

………………………………end。

 

 

 

 

 

 




"カヤノヒメ"として覚醒した亜耶の「奇蹟」により、難は逃れた。
しかし、元凶は排除出来ていない。
各部位で防衛戦を張る戦士達の前に、"使徒"達も現れる。


そして、この戦いは苛烈を極める――。

次回
第61話 四国防衛戦・序。
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