紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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「「ここから先へは通さないっ!。」」

姉妹は再び、戦場に立つ。
ようやく訪れた安寧の為、夢の為、そして…。


――未来の為に。


第61話 四国防衛戦・序。

~『右足』~

 

あたし、「犬吠埼風」はこの大一番に命を賭けている。しかも、山ほど大きな『足』が今、目の前にあり、動き出さないかと冷や冷やしながら妹の樹と一緒に化け物を通さまいと奮闘している。

 

そう、また人類の存亡を賭けた戦いを繰り広げている。最も、この化け物が身体を倒しただけでみんなペシャンコになっちゃうけど、今はこの無数の怪物を退けるだけで精一杯だ。あのデカいバーテックスは後輩に任せるとしよう。

 

風「…はぁ…はぁ…2年のブランクは中々なものね…。」

 

肩で息をするように、樹と背中合わせで敵群を見据える。こっちは2人、個体の強さはそれほどでもないけど物量で攻めてくるコイツらのやり方は相も変わらず嫌になってくる。でも、どういうわけかこっちを狙ってやってくる…この数なら防衛線なんて簡単にすり抜けられるはずなのに、あたし達をずっと狙ってやってくる。仮に、すり抜けられたとしても防人の「参番隊」が後方に控えてくれている。あたし達が前線で頑張れば、後方の負担が大きく減ることに繋がるだろう。だったら…頑張るしかない。引退したとしても、"勇者"の肩書きはずっとついて回るのもだから。

 

風「樹!キツかったら休んでなさい!。」

 

樹「はぁ…はぁ…ま…まだまだいけるよ!。」

 

……全く、随分と逞しくなったものだ。私生活ではまだ少しだらしない所があるけど、ここ一番という場面での根性は見張るものがある。

正直、メンタルで言えばあたしをゆうに超えているだろう。あの戦いを経験して、心身共に随分と成長している。今や、守るべき妹というよりも背中を預けられる"戦友"だ。けど、ここは姉の威厳を保たねばなるまい。負担は出来るだけ引き受ける。

 

風「どんと来いッ!全部ぶった斬ってやるわッ!。」

 

跳躍。自由落下で地面に着地するまでにバッタバッタと切り裂く。

視界全体が化け物の群れだが、おかげで狙いを絞らずに勝手に切り裂かれてくれる。そして、死角は樹がちゃんとフォローしてくれているおかげで敵を惹きつけるには丁度いいポジションにあたしは居る。

このまま、一気に…そう思っているが、世の中はそんなに甘くは無い――。

 

「ダメだよ、ちゃんとやられてくれなきゃさ?。」

 

幼い少年の声。あたしは耳を疑った。けどそれはすぐに払拭されて。

 

ピスケス「じゃないと僕が戦わなくちゃいけないじゃん。」

 

「魚座」。"十二星座の使徒"の1人。でも、どうしてあんなに小さい子が?どうみても、小学生低学年くらいの背丈だ。でも、放つ気迫は禍々しいもので。

 

風「…やっぱり、出てきたか……。」

 

地面に着地し、樹と一緒に警戒心を高める。それと同時に、怪物達は一斉に動きを止めた。まさか、あの子が?。そう思いながら、一旦止んだ攻撃に少しばかりが荒れた呼吸を取り戻す。

 

ピスケス「お姉ちゃん達さ、悪いけどここで死んでくれない?。早く帰っておやつ食べたいんだよね。」

 

樹「き…君が"使徒"の1人ッ!?。」

 

ピスケス「そうだけど…悪い?。小さいからって、弱いと思ってるんでしょ?。ムカつくなぁ…そういう人達を見てると殺したくなってくるんだよね…。」

 

――流石、"使徒"だ。

こんな小さな子でも、"バーテックス因子"を制御した者だ。だからこそ、「魚座」を名乗っているんだろう。

そういうと、彼は釣竿のようなものを取り出してブンブンと振り回す。

 

ピスケス「この化け物達を使って四国民を襲ってもいいけど…死なれちゃ困るんだよね。"大司教"様が言ってたんだ、優秀な者だけを生かしなさいって。」

 

…どう言う事?。こんな化け物をけしかけておいて、世界を滅ぼすつもりが無い?。それに、「優秀な者」だけって…?。

そう心の中で疑念を抱くと、自然と口に出る。

 

風「…どういうつもり、この世界を一度滅ぼすんじゃないの!こんな規格外の化け物を呼び出しておいて!。」

 

そう問いかけると、まるで嘲るかのように「魚座」は高らかに笑う。

 

ピスケス「アハハ、バッカじゃないの?そんな事したって何の意味もないじゃん!。新しい世界にしたって、そこに誰も居なかったら何のためにこんな事をしてるんだって話でしょ?もう少し、頭使いなよ。」

 

…癪に触るな。そう思いながらも、とりあえず覚えた怒りを鎮める。

そんなあたしとは裏腹に、樹は冷静に問い掛ける。

 

樹「…まさか、人類を「間引く」つもり…?。」

 

ピスケス「ピンポーンッ!。そう、まずは神様と決別した人類を粛清するんだってさ。その上で、"適正"のある者だけを残してこの計画は次の段階に移るんだ。後のことは分かんない、あの人たちの考えてる事は難しいからね〜。」

 

無邪気に笑う「魚座」。子供故の無邪気さなのか、物事の善悪がまるで判断出来ていないように言ったことに対してケタケタと笑う。

それは気味悪さまでも感じさせ、命を奪うという行為に対して遊びの感覚でしかない。本当はちゃんと導かなければいけない立場だがそうは言ってられない。こんな小さな子供でも、世界に仇成す強敵なのだから。

 

そして、得物の釣竿を振るうと糸の先についた針が碇のように巨大化し、2人の首目掛けて横から飛んでくる。

 

樹「お姉ちゃん!。」

 

風「ええッ!!。」

 

ガキンと、鈍い金属音が鳴り響く。風が大剣で受け止めていた。

しかし、遠心力を加えての質量さで身体ごと吹き飛ばされる。

だけど、これは計算済みだ。

 

風(強い…けど、この子は"遊び"の感覚だ。だから、読みやすい!。)

 

吹き飛ばされながら、防御耐性を取り続ける。優勢だと思い込んでか、「魚座」は追撃をかけてくる…そう、妹(樹)が張り巡らせた"糸"に気付かずに。

 

ピスケス「んんッ!?。」

 

視認しづらい角度で張り巡らせた糸は「魚座」の追撃を簡単に受け止めた。何本も束ねられた糸の強度はバカにならない。

 

樹「お姉ちゃん!。」

 

風「おいたをする子はッ!。」

 

ピスケス「!?!?。」

 

跳躍した風は大剣を構え…否、投げ捨てる。そして、右手を開いて。

 

 

――パシンッ。

 

 

平手打ち。

「魚座」は思わず目を見開く。

 

風「命はね、おもちゃじゃないのよッ!。」

 

ピスケス「…ぁ……。」

 

風「あんたみたいな小さい子を打つ趣味なんてないけどね、反省するなら許したげる!。もう、こんなことはやめなさい!。」

 

なんとか、手を差し伸べようとする風。

しかし…――。

 

樹「!!。お姉ちゃん、離れて!。」

 

風「えっ!?。」

 

"何か"に気付いた樹はワイヤーを伸ばして風を引き上げる。

先ほどまで彼女が居た場所が大きく陥没する。

 

ピスケス「………うるさいなぁ……。」

 

仮面がコロンと落ちる。打たれた頬が赤く染まるが、向けられた視線はまるで"恨む"かのように。

 

ピスケス「…そうやってさ、何でも自分の言うことが正しいんだ?。大人ってそうだよね、何でもかんでも子供のすることにケチをつけるッ!。」

 

背中に陣が開く。そして、そこから顔を覗かせるのは…――。

 

 

樹「――バーテックス!?。」

 

「魚座」の名を持つバーテックス…「ピスケス・バーテックス」。

 

 

ピスケス「大っ嫌いだよ!。吐き気がするほどにッ!。」

 

地面の中に吸い込まれるように潜行する「魚座」。背に現れた「ピスケス・バーテックス」の能力なのだろう、その潜行能力の厄介さは身に染みている。

だが、そこに人間の思考が入るのだ。一瞬で眼前に現れる。

 

風「!!。」

 

ピスケス「さっきのお返しッ!。」

 

碇の部分を手に、風の横腹にそれがめり込む。

 

風「がっ…!?。」

 

肺の中の空気が一気に吐き出されるほどの衝撃。目の焦点が合わなくなる風は勢い良く地面を転がっていく。助けようと動き出した樹に、今度は狙いを定めて。

 

ピスケス「いいからお姉ちゃんも死になよッ!。」

 

樹「きゃあああッ!。」

 

潜行能力を駆使して一瞬で懐を取ってくる。突き出された碇が樹の身体を捉え、たまらず殴り飛ばされた。

 

ピスケス「…説教なんて聞きたくないッ!。学校に居た時からそうだ、みんな僕のやる事に口を出すッ!!。」

 

 

――彼、「魚座」は"神樹館小学校"の生徒だった。

名門と呼ばれる学校に通っていたごく普通の男子小学生だったが、問題は彼のその"性格"にある。

 

「命」というものを理解していない。つまり、倫理観が欠如しているのだ。痛みというものを全く理解出来ず、痛め付けられる人間を見ては「どうして苦しむのか」が分からないでいた。故に、それを知るために同級生をたくさん傷付けていたのだ。だが当然、その行動は問題視される。時には親を呼び出されたりもしたし、池の鯉を陸に上げて弱っていく様子を観察していると注意を受けたりもした。

 

どうして、みんな自分の事を理解してくれないのだろう。ただ、「知りたい」だけなのに――。

 

その「好奇心」がおかしい事にも気付かずに、ダメだダメだとばかり言われ続ける毎日に嫌気が差した。知ることは罪なのか?。つまらない毎日を送っていると、突如として"神樹"は消滅した。

 

神様も「死ぬ」のか…幼くして「死」という概念に興味を抱いた「魚座」。そこを、『三神官』が目を付けたのだろう。彼らの誘いを受け、親元から姿を消した。当然、捜索願いは出されているものの帰る気など全くない。あのつまらない毎日を過ごすくらいなら、今のこの状況を利用して自分の知りたい事を沢山知る方が面白いに決まっている。ただ、疲れる事は嫌だ。あまり戦いたくない…自分はただ、観察していたいだけだ。虫や植物の成長を観察する他の子供達と同じように。

だけど、「ダメ」と言われるとムカついてくる。

そしてそれは…この2人にも。

 

――立ち上がってくる。あれだけ、強い一撃を加えたのに。「遊んで」くれるならいいが、いい加減疲れてきた。それに、自分に説教をしてくるこの2人を見ているとイライラしてくる。一思いに殺してしまおう。

 

――あれ、おかしいな…力なら勝ってるのに何故か「痛み」が身体を走る。あれ…何で自分は宙を舞っているのだろう?。

 

風「…はぁ…はぁ…ッ…!。」

 

――僕を打った女だ。ムカつく女。あの大きな剣で殴られたのか……殴られた……?。「痛い」…?。

 

 

ピスケス「あああああああッッ!!。」

 

気が付くと、「魚座」は地面をのたうち回る。

全身を襲う痛み…風が攻撃したのは彼ではない。彼が出した「ピスケス・バーテックス」だ。

 

風「……やっぱり…そうか……。」

 

樹「お姉ちゃん?。」

 

風「……"使徒"って、「バーテックス因子」で進化した人類なのよね?。でもね…乃木から聞いたのよ。確かに、その因子で体組織は大きく変化を起こしている。そして、前に死んだ「乙女座」は"虚神(うつろがみ)"という融合形態になったって聞く。だったらさ…進化したんじゃなくてあれは……。」

 

 

―――バーテックスに乗っ取られてるのよ。

 

 

斬られた「ピスケス・バーテックス」は彼の体の中に消えていく。

そのダメージは共有されているのか、"人間"の方には傷なんてないがまるで自分が斬られたかのように痛みに苦しんでいた。

 

風「ごく一部を除いて、他の"使徒"も同じなのかもしれない。その因子が身体を支配して徐々に"バーテックス化"している。"虚神"は因子に支配された証拠…そして、あの子の苦しみ方を見るにそれは……。」

 

樹「…あの子も…因子に支配されてる…?。」

 

ピスケス「はぁ…はぁ…何だよこれ……何でこんなに痛いの…!?。僕、斬られて無いのにッ!。」

 

戸惑いを隠せない「魚座」。だが、風は悲しい顔で見ながら――。

 

風「――もう、"人"じゃないのよ…君は……。」

 

ピスケス「えっ…何を言って…がああ…ガアアアアアッッ!?。」

 

身体の中に戻った「ピスケス・バーテックス」が彼の身体を突き破るかのように再び現れようとしている。

 

樹「えっ…何これ……。」

 

風「手遅れ…か…樹、せめて"人"として死なせてあげましょう…。」

 

静かに大剣を構える風。そして、ゆっくりと振り上げる。

 

樹「えっ…お姉ちゃん…何を…?。」

 

風「いいからッ!暴れないように抑えてッ!。まもなくこの子は"虚神"になるッ!こんな小さな子が「バーテックス因子」に耐えられるはずがないッ!その力を使った時点で因子が暴走しちゃってるのッ!。人の心を失った化け物になって死ぬくらいなら人のまま死なせてあげたいッ!。」

 

妹に手を掛けさせる訳にはいかない。ここは、あたしが――

 

そう思っていると、「魚座」の身体が細切れにされた。

 

樹「…お姉ちゃんばかりがそんな"役回り"をしなくていいんだよ…?。」

 

ワイヤーを垂らした樹が下を俯きながらそう言う。手を掛けたのは樹。

「魚座」は血潮をあげることなく砂のように消えていった。

 

風「なんで………。」

 

樹「お姉ちゃん、「自分があの子を怒らせたせいだ」って思ってたでしょ…?。」

 

風「樹……。」

 

樹「分かってるよ。私だってちゃんと覚悟してる。人を傷付ける事になることぐらい、「コレ」を受け取った時からちゃんと覚悟してたんだよ。でも、お姉ちゃん優しいから…敵でも、あの子の事を放っておけなかったんだよね?。園子さんの言った事が嘘であって欲しい…そう思って"バーテックス"の方を攻撃したんだよね…?。」

 

ガランと、大剣を地面に落とす風はその場にへたり込む。泣く事はない…けど、何処かやるせない気持ちになる。

 

――崇高な目的の為には、どんな命だって利用するって言うの?。この子は確かに歪んでいた。許されないことは沢山してきている。だから、同情はしない…けど、こんな人道を外れた事をやってまでこの世界に"神"を呼びたいっていうの?。人類を間引いてまで、"神"に近付きたいっていうの?そんなもの…誰も望んじゃいない。こんな事……。

 

風「――許されるわけがないッ!!。」

 

 

声を上げる風の肩に手を置く樹。

災厄の"星"はまだ、降り注いでいる…――――

 

 

……………………end。




『左足』。

友奈、美森、夏凛もまた強敵と対峙していた。

「天秤座」。

その者は、「剣豪」と呼ばれていた――。

次回
第62話 四国防衛戦・破。
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