紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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「何かに縋って生きているなんてそんなの、生きてるなんて言わないわよッ!。」


ぶつかり合う刃と刃。
剣を極めた者同士のぶつかり合いは、互いの意地のぶつかり合いとなる。


第62話 四国防衛戦・破。

〜『左足』〜

 

眼前に広がるは、無数の怪物。

超弩級の人造バーテックス「ネメシス」の出現から2時間…この巨体は四国全体を覆うように展開し、太陽の光さえも遮り人々の不安を掻き立てる。そして、各部位から"星屑"に似た怪物までもが出現し、これが厄介なものとなっていた。

 

"人造神計画"によって生み出されたこの怪物は未曽有の事態を引き起こし、世界は瞬く間に混乱の渦に陥る。

被害状況など、逐一連絡を受けているわけではない。実際にどの程度の被害が出ているかなんて全く知らない。だからこそ、急いでこの化け物を駆逐せねばなるまい。

 

最も、戦力に限りがある現状でこの敵群をどう退けばよいか考えるほうが重要だ。今のところ、この巨体は動く気配がない。あの"砲撃"で莫大なエネルギーを消費したのだろう、亜耶と流星によって跳ね返された部位は激しく損傷している。だが、バーテックスは再生能力を有している為、この個体だって例外ではない。唯一、救いなのはその再生能力が「遅い」という事だ。"オリジナル"なら受けたダメージなんてとっくに修復している。仮にも、人が作った「紛い物」だ。まだ、完全ではないということか。

 

あのデカブツは流星に任せて、各地に散開しているこの敵群を退けることが与えられた役割だ。

そして、『左足』に居る友奈、美森、夏凛もまた、他の部位で奮闘する仲間達同じくこの敵群と対峙していた。

だが、状況は一変する―――。

 

 

現れた一人の男…「天秤座」によって。

 

 

「お嬢さん方、無意味な抵抗は止めて武器を収めてはくれんかの?。」

 

 

仮面の下で響く優し気な老人の声。編み笠を被り、手には黒い鞘に納められた刀が握られていた。

だが、その声とは裏腹にこの老人の放つ気迫は底知れないものだった。特に、武道に精通している友奈と夏凛は身が震えるほどの威圧感を感じ取っていて――

 

 

友奈「夏凛ちゃん、この人…。」

 

夏凛「…ええ、"強い"わね。この上なく…。」

 

 

今まで現れなかった「天秤座」の出現。交戦経験が全くない事からこれが初見となる。だが、この異様な感覚は今まで対峙して来たどの敵よりも違ったもの…そう、「武」を極めた者が放つ感覚だ。

 

「天秤座」…"ライブラ"は歩を進めながら3人に近寄る。

 

 

ライブラ「若人よ、ここで命を無駄にするでない。お前さん方は賢い。矛を納めてというのなら儂も手は出さんでの。」

 

美森「…申し訳ございませんが、それは出来ない相談です。」

 

一呼吸置いて、狙撃銃を構える美森。だが、それと同時に頬を"何か"が掠めた。

 

美森「!!?。」

 

頬からたらりと流れる血を見た後、ライブラを見ると、いつ抜いたかも分からないは白刃が露わになっていた。

予備動作なんて全く無かった。

 

美森(この一瞬で、居合を!?。それと同時に斬撃を飛ばしてきた…何も、見えなかった……しかも、"わざと"外している……。)

 

圧倒的な力に思わず戦慄する。だが、彼は答えを求める。

白刃を鞘に納め、もう一度問いかける。

 

ライブラ「無駄な殺生は好まん。静かに矛を納めて事態を見届けるが良い。お主等は「間引き」には引っかからん、司教殿はお主等を迎え入れたいと考えておる。」

 

その発言に、夏凛は拳を震わせる。

 

夏凛「……間引きって何?。それって『三神官』が勝手に決めた事じゃないの…?。」

 

 

憤りを感じる。

まるで、自分達が"神"かのように、人の命の行く末を操作していることに。

そう言った事はもうたくさんだ。今、隣に居る大事な友達がそんな目に遭っている。なのに、またこうして個人の思惑によって人の命を弄ぶような事は許される事ではない。

 

――私は…許さない。

 

スルリと、二振りの剣を構える。ライブラも感じ取ったのか、彼女に合わせて刃を抜く。

 

夏凛「あんた達は何とも思わないの?おかしいと思わないの?「間引き」される側になったらどう感じるのよ!?。」

 

ライブラ「――それも、運命と受け入れるだけじゃよ。」

 

瞬間。申し合わせたように二人が激しくぶつかり合う。だが、力負けしているのは夏凛だった。

ジリジリと、互いの刃が競り合っては意地のぶつかり合いが始まる。

悲しいかな、この競り合いはきっと勝てない。だが、力を緩めれば確実に斬られる。

徐々に刃が迫る中、夏凛はまた問いかける。

 

夏凛「っ……本当に、『三神官』が目指すものが正しいって思えるの…!?。」

 

ライブラ「分からんの…しかし、神と共に人生の大半を過ごしてきた儂にとっては司教殿の言う事には共感出来る。人間、どこまで行っても限界が知れておる。儂もそうじゃ、老いていく度にこの身の限界を知る…。」

 

力強い振り抜きに、吹き飛ばされていく。だが、一瞬にも満たない時間でまた距離を詰められる。

重い金属音が何度も響き渡る…友奈と美森は飛び交う怪物の駆除に手いっぱいだ。

最も、この相手は自分が務めるつもりだ。

 

ライブラ「人が"神"に近付けば、見る景色も変わる…この時代に老人は付いていけんよ。」

 

 

勢いがより強まる。夏凛は受ける事しか出来ない。

「天秤座」…この剣客の技術は刀剣に携わる者全てを凌駕している。

齢78歳、幼少から"乃木若葉"の逸話を聞いてからずっと打ち込んできた剣の道。

信念の剣、人を守る剣としての伝説は色褪せずに今も語り継がれている。今も、その憧れを捨てきれない。凡人が辿り着いたこの境地こそ、彼の底知れぬ技術力の高さだ。

 

そして生まれた時から神と共に生き、人生の大半を信仰の元で生きて来た事から、今更時代が変わるこの波についていけないと感じていた。

その矢先、『三神官』が彼の元へとやってきた。

 

 

――人の域を超えて、生きてみないか。

 

この言葉は、彼にとって衝撃を与えるものだった。

幼少期、憧れていた"乃木若葉"は勇者だった。そしてそれは、神の選んだ戦士として普通の人とは掛け離れた遠い存在だということになる。

いくら、研鑽を重ねてもその"壁"を超えることは出来ない。人の域を捨てなければ、限界を知る事になる。

そして、歳を重ねる毎に重ねて来た研鑽が衰えて行くのを感じる。

今でも、十分に強い…いや、十分過ぎるほどに。

しかし、自分の体の事は自分がよく知っている。年々、衰えていくと共に…。

 

――彼は、病を患っていた。

病魔に蝕まれ、いつまで生きられるか分からない。人としては当たり前の事だろう、それが自然の摂理だからだ。

人も自然の一部…だから、そうなる事は当たり前のことで何ら、おかしな事は無い。だが、憧れの人物が見た景色をまだ見ていない。歴史上の伝説しか知らないが、人を超えて見る景色はずっと違うものなはず。

彼はそれが見たかった。そして、神の元で生きてきた人生を今更、変えることなんて出来ない。ましてや、自分と同じくその風習の中で生きて来た老人達にとっては。

 

人である限り、神という最上の存在に縋って生きていかなければいけない。それが、この世界が歩んできた歴史だ。おかしいとは思わない、そうあるべきだ。老人は…変革を望んでいない。

 

――だが、彼女…三好夏凛は否定した。

 

 

夏凛「何かに縋って生きているなんてそんなの、生きてるなんて言わないわよッ!。」

 

張り上げた声に比例するように、ずっと押され続けていた剣を押し返し始める。

 

ライブラ「なんと……覆すか…ッ!。」

 

夏凛「貴方の事はよく知ってる!私は剣の道に携わった身ッ!だから、貴方の成し遂げて来た功績はよく知ってるわッ!。」

 

ギリギリと、重い音を立てて再び睨み合う。

 

夏凛「敵うとは思わないッ!。でもね、人はその域を超える必要なんて無いのよッ!。」

 

ライブラ「若い頃はそう思っておったわ、しかし…生きてみれば分かる事じゃ。儂等は、神さんと共に生きて来た。ずっと、信仰しておった。じゃが、その神さんが消えてなくなれば時代に取り残された者は何を信じて生きて行けば良い?。人生の大半をその風習で過ごし、余生を過ごすだけの身となった今、この急激な変革についていけると思うてか?。否、それは若者だけの特権じゃよ。老人もよの、夢を見たいのじゃよ。」

 

再び、押し返される。

腕の力に限界を覚え始めて来た。しかし、この力強い剣戟を受ければ間違いなく「死」を迎えてしまう。

 

ライブラ「人の身を超えれば、その続きを追う事が出来る。老いと共に諦めた者も多かろう、じゃが夢を持つ事は皆、平等なんじゃよ。そして、神さんに近付けばこの人生に悔いなく逝くことが出来る。ずっと、寄り添い縋ってきた神さんの元で天寿を全う出来る。それこそが、この歴史で生きて来た人類の望む姿なのじゃよ。」

 

夏凛「ッ…勝手に決めんなッ…!!。」

 

意地が、気持ちが、この力の差を凌駕し始める。

 

夏凛「それは、自分達が変革を恐れて押し付けてるだけじゃないッ!。あんた達だけじゃない、みんな不安なのよ!。それでも、もう神様が居ないからみんな必死に探してるんでしょうがッ!。」

 

強引に振り抜いて弾き飛ばし、地面を蹴って飛び出す。

その速度は早く、「天秤座」の反応が僅かながらに遅らせる程に。

 

夏凛「老人とか、子供とか…若者とかそんなの関係無いッ!。こんな化け物を使って人を間引く事がおかしいんでしょう!?。そんなの、許せるはずがないじゃないッ!。」

 

ライブラ「お嬢さん、理解しなされ。現実を見続けてその勢いを無くしたのが我々なのだ。今更、世界を変えたところでどうなる?。元ある形に戻した方が安寧が訪れると思わんかね?。」

 

夏凛「ッ…そんなの…ッ…!。」

 

ライブラ「変革が決して悪いとは言わん。じゃが、その全てを受け入れられる人間の方が少ないと知った方が良いぞ?。人類がまた、愚かな行いをする前に間引き、神に近付いた者達だけが生きれば良い。自然と同じじゃ、高品質の作物を作るのに、邪魔な草花を間引くのと同じ…増えすぎた害獣を間引くのと同じ…それが今度は人類というだけじゃ。この世界は…神と共に自然の中で生きておる。その一部である我々、人類もまたその摂理に従わねばならん。それが、この手段というわけじゃ。ここから先は…人を超えた者のみが生きられる世界。余剰なものは排除せねばならん。」

 

淡々とそう告げる「天秤座」。

優しい声とは裏腹に感じるもの、それは……「傲慢」だ。

 

何が、間引きだ。何が、摂理だ。そんなの関係ない。自分達が優れているからといって、劣等者を虐げる権利なんて誰にもない。それこそが、"余剰"だ。自分達がついてこれないからって、諦めなければいけない夢があるからと言って、他人の夢や希望を奪っていい権利なんて誰にもない。こんなのただの…人間の"悪意"だ。

少女は前に出る。その全てを否定する為に、その悪意に立ち向かう為に。

 

 

夏凛「そんな世界ッッ!。」

 

左手の剣で「天秤座」の刀をかちあげる。ほんの数秒だけ、彼に"隙"が出来た。それで十分だ、間合いは十分にある。自分にはもう一振り…本命の"右"の太刀がある。

 

 

夏凛「必要無いッ!。」

 

 

渾身の一振り。それは、「天秤座」の身体を……斬るに至らなかった。

完全に間合に入った、距離も完璧。避ける事は不可能に近い。だが、それでも彼は「やってみせた」。

 

…これが、"差"というものか。彼は"剣豪"と呼ばれた者。剣道界においてその名を聞かないなんて事はない。自分もよく参考にした。そして、その手本となった者がこうして敵として立ち塞がっている。

そして振るわれるは、命脈を断とうとする歴戦の刃。

だが、その刃が彼女の身体を斬ることはなかった。

 

夏凛「がはっ…!?。」

 

 

直後、脇腹に走る痛み。刃が入る寸前に峰に方向を変えて強烈な峰打ちを放った。それが、見事に直撃。打ち抜かれた衝撃で夏凛は吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながらようやく体が止まった。

 

夏凛(……どういう…こと……?。)

 

カチンと、鞘に収まる音が響く。「天秤座」はトドメを刺す事なく、刃を納めたのだ。

 

ライブラ「…お嬢さん方を殺す気など毛頭無い。優れた人種、それよか"勇者"様じゃ。足止めするよう言われただけでの。先程も言うたじゃろ、『三神官』殿はお嬢さんらに仲間に加わって欲しく思うとると。」

 

夏凛「ゲホ…誰が……ッ!。」

 

ライブラ「…じゃが、儂も衰えたよの……まさか、"斬られる"とは。」

 

数滴、血が地面に落ちる。

かすり傷だが、夏凛の一刀は"届いていた"。

あの反撃の際に、左手の剣を振るった。致命傷を避ける為に、剣を間に入れて防御体制に入ろうとしたのだ。

しかし、偶然にもその刃が「天秤座」の左腕を擦り切っていたのだ。

何のダメージにもならない、少し絡んだ程度の傷と同じだ。しかし、この剣客相手に一刀を入れただけでも賞賛ものだ。

 

そして、何故が「天秤座」は……"嬉しさ"が込み上げていた。

 

ライブラ「面白い嬢さんじゃ。色々と理屈を並べたがの、儂は剣一筋で生きて来た身じゃ。純粋に、お嬢さんの剣に驚いたわい。1人の剣士として、同格と見る。次までには鍛え上げておくのじゃな。我々を止めたいのなら、今のままでは成し遂げられん。ましてや…。」

 

空…「ネメシス」を見る。

 

ライブラ「あの巨大な物怪(もののけ)を止めたいのなら。さらばじゃ、また会おう。」

 

そう言って、霞のように消えていく「天秤座」。

彼は、"バーテックス"の力を使っていなかった。つまり、己の剣技のみでここまで圧倒したのだ。

そして、彼もまた「蠍座」や「獅子座」と同じく、"バーテックス因子"を支配した人種だろう。

 

強大な敵…これまで現れた"使徒"の中でも群を抜いた戦闘者。はっきり言って「完敗」だ。こんなの、勝利とは言えない。

だが、必ずまた対峙する。その時までにはもっと強くなって。

 

 

 

――――彼の考えを否定する。この変革を認めさせる為に。

 

 

………………………end。




少女は弱い。
傷付く事が何よりも怖くて、死ぬ事がどんなことよりも恐ろしい。

だから、逃げたい。
ずっとそうやって、生きて来た。でも、それと同時に思ったことがある。

「私を守ってもらう為に、私が守るんだ。」

この矛盾こそ、少女の本当の強さだった――。

次回
第63話 四国防衛戦・急。
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