紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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―俺は、"人"としての生を全うする!。


=そう…『私』は"特別"から逃げられなかった。
だから、どうか………



―"私"を……助けて。


第64話 人である為の世界。

―――「ネメシス襲来」から、3時間が経過した。

各地で奮闘する戦士たちの活躍もあり、戦況は好転しつつある。

「魚座」と「牡牛座」の撃破。「虚神」となった2人を救うことは出来なかったが、敵の戦力を削ぐ事に成功した。素直には喜べないが。

 

そして今、この未曾有の大厄災を終息すべく、1人の少年が勝負に出る。

 

 

〜『胴体部』〜

 

…あの後、俺は無我夢中に空を覆い尽くすほどの化け物の胴体に向かっていった。地上の事は分からない、だけどあの人達なら全てを守り切ってくれると、そう信じて振り返る事なく、このデカブツを止める為に。

 

…今思えば、こんな命懸けの事をするなんて思いもしなかった。少なくとも、『擬似勇者』になる前は考えもしなかった。ただ…自分の役割を理解したと言えば良いだろう、今はこの世界を守る為に俺は突き進んでいる。

 

正直言うと、俺はこの世界の事はあまり好きじゃない。

"特別"である事が勝手に独り歩きして、求めてもいないのに周囲の目は期待の眼差しを向けてくる。そして……蔑まれる事も。

 

ただ、"特別"に対して過敏な世界だとばかり、当時は思っていた。

でもある日、俺も世界の真実を知った。

旧大赦の人達が何を考えているかも分からなかったし、この世界の真実は一部の者にしか知らされていなかった。峻輝の言葉を借りるなら、「嘘だらけの世界」と言うことになる。

でも、今は思うんだ。

この、嘘だらけの世界でも残酷な世界でも、理不尽な世界でも…俺達は"人"として生きている。

 

今、天空を覆うこの化け物をけしかけた"邪神教団"…いや、もう"三神官"の暴走というべきだろう、人を神に近付ける為に間引くこの馬鹿げた計画を止めないといけない。

 

彼らは変わりつつあるこの世界を受け入れられない者達だ。

不確かな神を呼び出し、新たな神を用意した上で信仰の対象とし、それと同時に全人類を「神の眷属」たる種族へと引き上げる夢物語のようなこの計画…付いてこれない者は捨てられる思想。こんな現実的ではない無謀な計画は決して認めない。

だから俺は…全てを背負ってここにいる。

 

―――この…化け物の身体の中に。

 

 

 

 

流星「…ここ…は……?。」

 

 

周囲を見渡す流星。その周りの光景に度肝を抜かれる。

確かに、この化け物…「ネメシス」の体内に突入したはず…なのに何故か、目の前に広がる光景は……。

 

壮大な草原が生い茂る空間だった。

 

だが、静かすぎる程に何もない…まるで、外の惨事が嘘かのように。

まるで、別の世界に訪れたかのような感覚…この異様な空間は何故か安らぎすらも感じ取れる。

しばらく進んでいると、草原の中に一人の少女の後ろ姿が見えた。

そして、その少女は分かっていたかのように振り返ることなく、声を掛ける。

 

 

"待ってたよ、異例の『勇者』…紫藤流星君"

 

 

――優しい声。この声に聞き覚えがある。

 

流星「…貴女は。」

 

"君も分かっているよね。その証拠に、ちっとも驚いてないもん"

 

 

 

振り返るその少女は…――

 

"結城先輩"に似ていた。

 

 

 

 

流星「…初代勇者…"友奈"の起源……貴女は…『高嶋友奈』…ですね。」

 

その少女…"始まりの友奈"である『高嶋友奈』は、その答えにコクリと頷く。

 

 

"…ねェ、ここ…どう思う?"

 

流星「…どうって……。」

 

"何もない広い草原……「外」の化け物の中とは思えないよね。でもね、これって一つの「答え」なのかもしれないよ?"

 

 

「答え」…何が言いたいかはすぐに分かった。

『人類』という種族が淘汰され、神の眷属となった後の光景…つまり、肉体を失い別の存在へと昇華した後の世界の光景だ。

 

この星…「地球」は生命の星。自然と生命が調和した世界。だが、『人類』は行き過ぎた。知能を獲得し、「科学」を生み出し、自然の恵みとは別に自らが"恵み"を生み出せるほどにまで進化した。

これは、神々の想定を遥かに上回った。結果、人類は星を汚し、調和を乱し始めた。長い歴史を紐解くと、同種族間で相互理解が出来ないために無益な争いを幾度となく繰り返している。資源の独占、大地の支配。その欲深き行動は神々の間でも問題視された。

 

そして…かの神が動き出した。

かの神は消えていない。今もまだ、世界を監視し続けている。

これは、「星」の意思なのかもしれない。これが、本来正しくあるべき世界の姿なのかもしれない。

彼女が問いを投げてきた「答え」は、そういう事だ。

 

だが、流星は"否定"する。

 

 

流星「…例え、そうだとしてもこれも"嘘"だ。」

 

少女…高嶋友奈は黙って聞く。

 

流星「この姿が正しいなんて思わない。この結末が正しい筈なんてない。」

 

"…何故、そう思うの?"

 

流星「…寂しいから。」

 

 

 

心に手を当て、流星はあたりを見渡す。

確かに、居心地が良いのかもしれない。穢れも無く、「星」が自然体でいられるこの光景は本来のあるべき姿なのかもしれない。だけど、"人"という生命が生まれたのも必然だった。それが神が想定しなかった道筋を歩んでしまったとはいえ、それも一つの"選択"によって進んだ結果だ。

 

世界は"選択"で左右される。その結果がどうなるかなんて誰にも分からない。神にすら分かっちゃいない。

だから、悩むんだ。悩み続けて"選択"するんだ。それがどんな結果を招いたって、受け入れて前に進むしかない。

 

西暦時代を滅ぼした"天の神"だってそうだ。神だって"選択"する。

変わろうとしているこの世界だって"選択"によって歩み始めたのだ。そう…過去の悲劇を反省して神に恥じない種族へと生まれ変わるために。

 

"人"は"神"に近づく必要も無いし、なる必要も無い。大事なのは"人"としてどう生きるか。

何処まで行っても、ちっぽけな存在故にそれ以上にならなくてもいい。必要も無い。

誰も居ない世界は確かに美しいのかもしれない…だが、命という概念を捨て去ってまでそんな平穏はいらない。

人として生まれたなら、俺は――――。

 

 

流星「―――"人"としての生を全うする!。」

 

 

力強い決意。

それを聞いた高嶋友奈は「安堵」した。

 

 

"そっか。それが「答え」だね?良かった…"特別"である君がそんな風な答えを出してくれたこと、安心したよ”

 

 

安堵の感情と共に、"何か"を感じ取った。

それは…――――。

 

 

"でも、ごめんね。私、貴方の邪魔をしなくちゃいけないの"。

 

流星「!?。」

 

次の刹那。

猛烈な痛みが腹部に走った。息が詰まる程の衝撃。視線を向けると、半透明だった高嶋友奈の拳が腹部に深くめり込んでいた。

 

流星「が…っ…は…っ!?。」

 

"――私の魂はここに縛られてしまった。2年前にね、神樹様が消えちゃった時に私も消えるはずだった…けど、『三神官』に見つかっちゃってね。私の意思諸共、今は彼らの支配下にある"

 

悲しそうな表情をしながら、彼女は語り出す。

まるで、助けを求めるかのようなか細い声で。

 

半透明な姿が徐々に具現化し始める。

 

"…四国を覆う巨大な怪物…「ネメシス・バーテックス」は外殻…本体は"私"。そう…私が「ネメシス」の"御魂"

 

実体を表した少女…高嶋友奈は、勇者装束を身に纏う。背中には翅が生え、神々しい姿をしていて。

だがそれと同時に、明らかな敵意を向けられていた。

少女「高嶋友奈」としての存在から、別の存在へと変換される。今、目の前に居るのは"討伐"しなければならない「敵」。流星は腹を括る。その覚悟を汲んだのか、高嶋友奈……否、「ネメシス」は。

 

 

"君に、お願いがあるんだ"

 

 

彼に、懇願する。

 

ネメシス「「私」を討って。そして…助けて。私は……人の敵になりたくない。」

 

頬を伝う一筋の涙。それを見て、拒絶なんてするはずがない。

長きに渡り、神樹の一部として世界を見守ってきた少女。"友奈"の起源である彼女は誰よりも優しく、強く、そして…。

 

――脆い。

 

生前、最期の時まで決して弱音を吐かなかった彼女が、たった一度だけ吐いた弱音。

 

「人類の敵になりたくない」。

 

その願いは誰よりも優しく、心の底からの本音だった。

だったら、それを受けた自分は……。

 

 

流星「――分かりました。」

 

覚悟を、願いを汲む。

 

ここからは理屈はいらない。彼はその儚い"願い"を叶えるために、彼女は"呪縛"を断ち切るために。

ただ、ぶつかり合う。

 

激しくぶつかり合う2人。この静寂な空間が一気に戦場へと変わる。

動くたびに散る花々…まるで、悲しみを体現しているかのようにこの戦いの辛さを演出する。

 

 

ネメシス「――悲しいね、やっと世界が前を向いたと言うのに…一部の人はまだ、神様に縋ろうとしているなんて。」

 

流星「はい…だけど、その気持ちが理解できないわけでもない。」

 

拳とトンファ―がぶつかり合い、互いに競り合う。

 

流星「誰にだって、変革を恐れる気持ちはある。今までの日常が全てひっくり返ってしまうんだ。だから、不安になるしこれからの未来の想像なんて、簡単に描けやしない。だから、過去を振り返るんだ。「あの時」は良かったって。」

 

互いに弾き飛ばされ、向き合う。

 

流星「けど、人はやっと自由の翼を得ることが出来た。取り戻したんだ、神に示すことによって。だからこそ、飛び立たなければならない。これまでは神がその道を切り拓いてきた。けど今度は自分達でその道を作らなければいけないんだ。今度こそ…間違わないために。」

 

ネメシス「…そんな立派な考えを持っているなら君はきっと大丈夫。」

 

優しい声とは裏腹に、攻めてくる攻撃の精密さは自分の持つ力量を遥かに上回っている。

"支配"されているといったか、この攻撃はきっと彼女の意思じゃない。

 

自らの野望の為なら、英霊だって利用するというのか?

そんなに"神"が重要なのか?どうして、神に拘るんだ。

 

"止めて欲しい"。

 

戦う直線に感じた彼女の心の声と本音。

それを聞いて込みあげてくるものがあった。

 

死してなお、彼女はまだ利用されなければいけないのか。しかも、自分の意思とは反対にやりたくもない人類の"間引き"をさせるというのか。

 

こんなの…"悪魔"の所業じゃないか。

 

そんな、"怒り"にも近い感情が込みあげてくる。

この"願い"はなんとしても叶えなければいけない。彼女が"人"として、天で待つかつての仲間達の元に行けるように。

 

 

 

流星「――俺に力を貸してくれ……"亜耶"っ!!。」

 

 

――――――――――――

 

 

亜耶「!!。」

 

地上で待つ亜耶にその声が届いた。

そして、流星の声に交じってきたネメシスの叫び…いや、「高嶋友奈」の"願い"が自分の中にも伝わってきて。

 

亜耶「…偉大な勇者様…高嶋友奈様。永きに渡り、この世界を神樹様と一緒に見守ってくださった優しい勇者様。貴女の最後の願いを…聞き受けました。」

 

亜耶の身体から、淡い光が溢れ出す。

周辺の木々が微かに黄金色に輝き始める。この混沌とした戦場に似つかわしくない奇跡の光…この光は「生きとしいけるものの意思」そのものだ。

 

この世界で生きる命の光、それがこの戦場を照らす。

神に近付いた巫女である彼女しかできない事…その祈りが天に伸びていく。

 

亜耶(…勇者様だって同じ人間…"特別"であっても、中身は普通の女の子。本当は天寿を全うし、"人"として死ぬことを望んでいたはず…でも、この世界の過ちが数人の少女の運命を狂わせた。それでも、挫ける事なく自分の人生を投げ売ってまで世界を守る選択をしたんだ。最後の願いが"討たれる"事だなんてこんなの…報われないにもほどがあります。どうか…どうかこの世界を…私達を守ってくださった功労者にせめてもの祝福を。)

 

 

――――――――――――

 

ネメシス「!!。」

 

その時、彼女の前に5つの光が現れた。その光に彼女は……"懐かしさ"と"嬉しさ"が込みあげてきた。

そして、彼女にしか聞こえないように。

 

 

――"友奈さんっ!"

――"友奈ぁっ!!"

――"友奈さん”

――"高嶋さん"

 

――――――よく、頑張ったな。待たせて済まない……"友奈"

 

 

ネメシス「あ…あ…あ……みんな……!。」

 

 

彼女にとって、もう聞くことも感じることも出来ない大切な友達の声が聞こえる。

共に苦楽を乗り越え、一人ずつ命を散らしていった大切な仲間達。一緒に居た時間は短いけれども、どこかずっと一緒に居たかのような戦友達。

 

"支配"は解かれた。

その身体は徐々に戻り、「高嶋友奈」としての姿を取り戻す。

そして、目の前には流星が居た。その手には…光を帯びた刀が握り締められていて。

 

――静かに、突き刺さった。心臓を捉え、「ネメシス・バーテックス」の"御魂"が貫かれる。

 

"…ありがとう……私の我儘を聞いてくれて。これで、私は…―――"

 

 

吹き荒れる風に散る花々と共に、彼女の身体は徐々に消え始める。

彼女が「最期」に見たものは―――

 

 

友奈(高嶋)「…アンちゃん…タマちゃん…ヒナちゃん……ぐんちゃん…若葉ちゃん……やっと…皆の元に――――。」

 

自分に手を差し伸べるかつての仲間達。その手を取って、302年越しに。

 

 

――――ようやく、再会できた。

 

 

…………………end。

 

 




――あの後、何が起きたかよく分かっていない。

でも、確実に言えることがある。

俺(私)達は…

世界を、守り切った―――。


次回
第65話 送り火。
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