紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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復讐が正しいかどうかなんて、普通の人からすれば間違ってると言われるだろう。

恨みを晴らしても何の意味もない…復讐には何の意味もない…誰しもがそう言うに決まっている。だが、俺は違う。

晴らさねばならない恨みがあるから前に進めない。そう、俺は…。

前に進む為に、この恨みを晴らすのだ。


第66話 嘘だらけの世界。

 

 

 

6月の青い空の下、俺は人生の転機を迎えた。

燃え盛る業火の中で身体を焼かれながら、その痛みすら感じる前に命が終わりを迎えようとする。15年という歳月の中、ここで生涯を終えようと言うのだ。

 

あの時は、別にそれで良かった。友達を助けて死ぬなんて漫画の世界ではよくある事だ。これを乗り越えて、アイツがデカくなってくれるならこの命なんて安いもの。元々、ロクでも無ェ人生だ。夢があっても俺は明確なビジョンなんてまるで無かった。ただ、世話になった人たちに恩を返せない事だけが心残りだったが…まぁ、仕方ない。後は流れに任せて骨になりますか。

 

―――そう、考えていた時…「あの人」と出会った。

 

 

「君はここで終わるのか?。」

 

 

辺りが静止した。一体、何が起きている?。身体中を包み込む業火が蝕んで来ない。だが、最も不思議なのが身体の大部分が大火傷を負っているはずなのに何故か、痛みも感じなかった。

 

目の前には特異な仮面を身に付けた少女が立っていた。

この声の主はコイツからか…だが、どこか異様だ。それに、「畏怖」すらも感じる。そして、その少女がもう一言。

 

 

「真実を知らないまま、ここで終わってしまうのか?あまりに勿体無い…君は生きなければならない。」

 

「…真実…?。」

 

「そうだ。君の過去には"理由"がある。それを知らないまま流れに任せるのもまた一つの選択だが……その為に名を捨てられるというのならこの手を取るといい。」

 

差し伸べれられた手。何を言っているか全然分からなかった。けど、全てを見透かされたかのように、心の底でずっと燻っている何かが呼び起こされる気がした。それに何処か…"似ている"気がして。

 

 

――俺は…その手を取った。

 

「…なら…生かしてくれ。その真実ってのを教えてくれるなら、何だってやるさ。」

 

「そうか。名は何という?。君の真名だ。」

 

峻輝「三上峻輝だ。」

 

自分の名を聞いた途端に、その少女は仮面を取る。その顔は…よく知っている顔だった。

 

「私は名を捨て、今は『獅子座』を名乗っている。これはコードネームのようでね…そうだな…またの名を……。」

 

 

 

ユウナ「『ユウキ ユウナ』という。」

 

 

………………………………………………。

 

彼女と出会ってから俺はその「真実」とやらを知った。

この世界が隠してきた本当の事…「外」の世界は"天の神"と呼ばれる絶対的な存在に支配され、この「四国」と呼ばれる神の加護を受けた狭い「箱庭」の中で300年も過ごしていた事。

 

周期的に襲ってくる化け物を退治する"勇者"という存在。世界が「死」を迎えていたという事。そう、神樹の寿命が来ようとしていたのだ。だが、1人の少女がした選択によってその滅びから逃れて今があるという事。

 

神樹が消えて神の加護が無くなった世界…それこそが、今の世界だ。

正直、俺はただの神様だとばかり思っていた。そんな、非日常な事が起きているなんて夢にも思わなかったからだ。だけど、それが真実で俺達は大赦に嘘を吐かれていたという事になる。だが、俺が一番憤りを感じたのは…その真実を知った俺の両親が口封じの為に殺されたという事だ。“異端者"として、周りから迫害され世界から見放された俺の両親。

 

狂っていると思っていた両親はそうではなくて、世界に真実を伝えようとしていたのだ。だが、当時の神官達は混乱を避ける為に異端扱いとし、この隠してきた歴史の為に排除した。俺の両親は…何も悪く無かったのだ。秩序の為に、その身を滅ぼされたんだ。

 

 

――こんなの、許せる訳がない。

 

あんな過激派に身を寄せなければいけないほど、当時は追い詰められたのだろう。そいつらも何らかの理由でその真実を知った連中だった。許せなくて、世界に対して反旗を翻したのだろう。ずっと騙されていた事に憤り、テロを起こす気持ちは分からなくもない。事実、今の俺がそうだからだ。

 

 

――俺の家族を返してくれ。

 

もう二度と、その愛を感じ取れない所に連れて行かれてしまった。存在も何もかも失い、最初から居なかった者としてその身分すらも抹消されたのだ。本当の事を言うだけで迫害を受けるこんな嘘だらけの世界なら俺は…その全てをぶち壊してやる。嘘が正しい世界なんて間違っているし、それに賛同する者も俺の敵だ。そして、知っても守ろうとする奴らも同じく。

 

 

――全てを"ゼロ"にして、正しい世界に変えてやる。

 

例えそれが間違ったやり方だとしても、その嘘を守ってきた奴らがこの世界にいる限り、何も変わらない。大赦が生まれ変わろうと知ったことではない。その業を背負うのは…大赦に「属する者」全てだ。その為なら俺は…。

 

 

――必要悪になる。

 

全てを失おうが関係ない。もう、俺には何もないのだから。家族も、日常も…友人も。

後戻り出来ない、する必要もない。俺は自分の為に戦う。

 

 

そして俺は……"黒百合"になった。

 

 

………………………。

 

レオ「…そうか。」

 

教団本拠地の一室。『獅子座』は峻輝の告げた言葉に驚きもしなかった。

 

峻輝「…止めないのか?。」

 

レオ「君が決めた事だ。私に止める権利なんてない。」

 

彼が告げた事、それは……。

 

レオ「それにしても、わざわざ"それ"を私に告げるなんて律儀なんだね。私が『獅子座』と知っての事なのに。」

 

峻輝「あんたには恩がある。俺に力をくれた上に身体も"治して"もらった。本当なら骨になっちまってたのに、今こうして生きて本懐を遂げられるのはあんたのおかげだ。だから、知ってもらう必要がある。」

 

レオ「…『三神官』に反旗を翻す…か。」

 

椅子に座り、外の景色を見つめながらその言葉を口にする。

 

峻輝「…ああ。アイツらも俺の"対象"だ。アイツらはこの世界を2年前に戻そうと…いや、それ以上に傲慢な事を考えてやがる。結局、アイツらが目指す世界だって俺の嫌う"嘘"の世界に変わりは無ェ。だから、消す。根源を根こそぎ消さなければ、何も変わりはしねェ。」

 

レオ「……壮大だね。やはり、君を連れてきたことは間違ってなかったよ。」

 

峻輝「…あんたも一緒に来い。あんただって、成し遂げたい事があるんだろ?。だったら…。」

 

レオ「それは出来ない。」

 

向ける眼差しは何処か儚く、それでいて威圧すらも感じさせる。だが、最も感じたのは…。

 

 

――"虚無"…だった。

 

 

レオ「…私は"制約"で『三神官』から離反は出来ない。それに、する必要も無いと考えている。」

 

峻輝「…なんでだ?。」

 

レオ「私には「何もない」からね。」

 

 

「何もない」。

これが、その"虚無"なのか。だが、何故そんなに"無"でいられるのか。その瞳からは「全てを諦めた」かのような、そんな雰囲気すらも感じさせて。

 

レオ「私の「出生」については説明したでしょう?。私はこの世界に「居てはいけない」存在だ。同じ人物が二人も居ること自体が特異なんだよ。」

 

峻輝「…何言ってるか分かんねェよ…。」

 

レオ「だろうね。私の存在そのものが理解できないものだ。だから…――。」

 

峻輝「――違ェよっ!!。」

 

声を荒げた峻輝は、『獅子座』の両肩を掴む。

 

峻輝「なんで全部を諦めてるんだ!?。生きてりゃ、やれることだってあんだろっ!?。」

 

レオ「……君は最も"人間"らしいね。仕方ない…これを見てくれ。」

 

 

『獅子座』は徐に全ての衣服を脱ぐ。その身体に刻まれたものに峻輝は息を呑んだ。

 

レオ「…これは"祟り"だ。この痣が全身に回っているのは君の目を見ても明白だろう?そう、私には"時間"が無い。」

 

峻輝「…祟り……何の…ッ!?。」

 

レオ「神に逆らった代償だ。自分の世界線で私は君と同じように全てを知り、身体を造り替えられたことに怒って世界を壊そうとした。その時に神の怒りを買ったんだ。これがその証、安心するといい。本来ならこの祟りを知った時点で伝播するが、ここは違う世界線だ。君に何の影響も無い。」

 

峻輝「…解く方法は…?。」

 

レオ「…無いね。その先にあるものは「死」だ。」

 

峻輝「……っ……あんたは…死んじまうっていうのかよ…っ!。」

 

コクリと頷き、脱いだ服を着なおしながら儚い笑みを向ける。

 

レオ「遅かれ早かれ、ね。だが、生きている内はやることはある。私は私の"理由"があるんだよ。「何もない」なかで唯一、それだけが残っているものだ。」

 

峻輝「それって……『三神官』の為…か…?。」

 

レオ「…違う。私自身の"為"だ。」

 

 

――――それ以上は、何も言えなかった。

彼女が…「死ぬ」?。逃れられない運命に、抗う術もない。時間も無い。

だから、言う事は最早…何もない。

 

 

峻輝「……分かった。もう、何も言えねェわ。それじゃあ、俺は行く。世話になったな、あんたには感謝してる。」

 

レオ「待つんだ。」

 

去ろうとしたその時、『獅子座』は峻輝を呼び止める。

 

 

峻輝「なんだ………ッ!?。」

 

ふわりと、唇を伝う感覚。お互いの顔の距離がゼロになる。

ほんの少し、口づけを交わした後、彼女は離れる。

 

 

レオ「行ってくるといい。その道に君の幸せは無いのかもしれない。だが、生き甲斐というのならばやってみると良い。どんな結果であれ、それが君の一歩だ。」

 

 

峻輝「……ありがとう。」

 

それだけを告げ、峻輝は去った。

部屋の扉が閉まり切った途端、『獅子座』はまた外を見る。

 

レオ「…ここからは敵同士だ。生き抜いて見せろ、君のその復讐の果てに何があるのか…自分自身で見てみると良い。私が見れなかったその景色が……どんな色をしているのか…。」

 

 

……………………………………。

 

「待てよ。」

 

聖堂を突き進む峻輝を呼び止める声が響く。

その声の主は…「蠍座」だ。だが、それは友好的なものではない。

まあ……分かっている。この人間の持っている残忍性と感覚は常人では理解できないものだから。

 

 

スコーピオン「ガキが、面白い事をやろうとしているな?。ようやく、尻尾を見せやがったか…薄気味悪い"黒百合"野郎。」

 

臨戦態勢に入る『蠍座』。

コイツらは最早、敵だ。いや、味方と思った事は無い。一度たりとも。そもそも、『三神官』に忠誠を誓っているのはごく一部で、この集団は理念の賛同の元に集まった集団。それに、この『蠍座』は快楽主義者だ。戦う為ならどんな事だってやってのける。そして、コイツは…。

 

 

峻輝「テメェとは浅はかならぬ因縁がある、忘れたとは言わさねェぞ!。三上大河と三上春歌、その名前に聞き覚えがあんだろっ!?。」

 

 

父さんと母さんが死ぬ事になった張本人。最も、両親はコイツの残虐性を知ってもなお、あんな大罪を犯したのだ、虫の良い話だという事は分かっている。だからコイツばかりが原因というわけでは無いが、そのきっかけを作ったんだ。無用な殺しをした事によって。

 

 

スコーピオン「ヒャハッ!なんだ、お前そいつらのガキだったかァ!?。」

 

峻輝「そうだッ!別にテメェを恨みやしねェが…いらねェ殺しをした事であの2人は「神刑」に処されたッ!。そんなテメェは生きている、それが何よりも許せねェ!。」

 

スコーピオン「勝手にキレてろよ、俺は公正な裁きを受けたんだ。その上で大赦は俺に「神刑」を下さなかった…あまりに腐ってるとよ、神様に魂を捧げる事だって戸惑うらしいぜ?。なら、やりたい放題やりゃいい話だ。トコトン腐ってやれば、日の目を見る事が出来なくなるくらいだ。死ぬ事は無ェ、ただ死ぬほど退屈だけどな。」

 

その瞬間、『蠍座』の頬に銀閃が走る。

たらりと流れる血を横目に、確かな手応えに彼は笑う。

峻輝は「擬似勇者」に変身しており、"大葉刈"がその手に握られていた。

 

峻輝「…黙れよ。いいからそこをどけ、俺はここを出ていく。今はお前の遊び相手をしてる暇はない、この因縁は必ず精算する。だから…。」

 

スコーピオン「そういうわけにはいかねェのよ。『三神官』直々の命令でな…お前を始末しろってさ。」

 

そう言って、取り出したのは峻輝の纏う「戦衣」の解除装置。

だが、峻輝は……。

 

峻輝「無駄だぞ、もうコレの管理者権限は俺の手にある。」

 

スコーピオン「ハッタリを…。」

 

そう言って、強制解除装置を起動させる。

 

……………………。

何も起こらない。それを見た『蠍座』は、解除装置を地面に捨て、踏み潰した。

 

スコーピオン(…『獅子座』か。奴め、情が移ったとでもいうのか?。まぁいい、その方が……。)

 

ゆっくりと、ナイフを抜く。その目はまるで獲物を前にした野獣のようで。

 

スコーピオン「楽しめるわなぁああ!!。」

 

峻輝「おおおおおおおッッッ!!。」

 

 

―――――――――――――――

 

数日後、“黒百合"…いや、三上峻輝が引き起こした「造反事件」は新生大赦にも伝わり、その事件によって彼らの本拠地が壊滅的な打撃を受けたと情報が入っていた。勿論、それは流星の耳にも。

 

流星「峻輝…ッ…。」

 

芽吹「――以上が、受けた報告よ。彼は単独で動き出している…世界への復讐。大々的に掲げて新生大赦に対して攻撃を始めたわ。」

 

亜耶「…リュウ君…ッ!。」

 

流星「ああ、分かっているッ…あの馬鹿野郎…ッ…!。」

 

亜耶(三上君……本気なの……?。)

 

―――――――――――――――

 

友奈「……こんな事…。」

 

彼の宣言は動画配信サイトを通じて全世界へと配信され、その多くは「馬鹿馬鹿しい」と鼻で笑っているが、既にいくつかの施設が破壊され、その様子を映し出された映像からは様々な憶測が飛び交っている。

やれ「邪神教団」の侵攻だ、やれ「新勢力」だと騒ぎが収まらないほどにまで、社会的な騒ぎへと発展してしまっている。

 

それに、「本当に世界を壊すのか?」「次は何処を潰す?」「やるなら宗主を狙ってはどうか?」など、この体制に不満を抱く者達が彼の行動に乗っかろうとしている。やはり、世界が一つになるのは困難を極めるのかもしれない…そんな声が出てくるという事は、園子の目指す世界は程遠いという事だ。最も、そんな声を聞く耳を持たないのも分かっている。一度、彼と対峙したからだ。彼に味方は必要無い…本気で世界を壊すつもりだと分かっているから。

 

 

友奈「…止めないと…今度こそ…私の声を届けるんだ…!。」

 

 

拳を握り締める友奈。

彼の起こしたこの行動によって世界は…更なる混沌に陥る事に―――。

 

 

―参『国土亜耶の章』―

 

――完。




峻輝の引き起こしたこの混乱。

それは後に「黒百合の乱」と呼ばれる事になる。
そして…彼の復讐を止める為の戦いが始まる。

次回
― 肆『三上峻輝の章』―
第67話 復讐、その果てに――。
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