この嘘の世界を壊す為に。
少年は戦う。
真実を隠した世界を壊す為に。
そして…その果ては…――。
第67話 復讐、その果てに――。
三上峻輝が全世界向けて放ったあの"声明"から数日が経った。
新生大赦は関連の企業、施設、学校に対して最大限の警戒態勢を敷いている。彼の起こした騒動は燃え広がるように、世界に大きな爪痕を残しているのだ。
そして、彼のその過激な行動は一種の民衆にも影響していた。
混乱事を好む者、話題性に乗っかる者、新生大赦の方針に異議を唱える少数派などがその行動に感銘を受けて彼の行う「粛清」を支持しだしている。
人というのはこのような醜い一面がある。
面白半分に踏み込み、事態の大きさを理解していない者。これを好機と見て、自らの思想を押し通すべく当事者を担ぎ上げて転覆を狙う者な、言い出したらキリがない種類の人間が多く現れるのだ。
こう言った人間は、どちらが勝利しようが自分に害が無ければ簡単に手の平を返す。要するに、流れに乗る事しかしない人種だ。最も、恐れているのがその意志を継いだ後継者なる者が現れて再び混乱を起こさないようにしなければいけない事だが…今はそんな心配をしている場合じゃない。ついこの間まで、世界の存亡に関わる大きな戦いを終えたばかりだ。心身は癒えても、態勢は短期間では持ち直せない。
「ネメシス・バーテックス」の残した爪痕はライフラインにまで影響し、まだ復旧出来ていない地域もある。
主に動いているのが新生大赦であり、政府として機能している事でその対応に追われている最中でこの事態だ。
きっと、彼はこれを見越しての行動なのだろう。指揮系統は麻痺状態、宗主・乃木園子も多方面の視察に追われてまともな議論が交わせない中での事態なのだ。
そんな中、流星はある人物に呼ばれて待ち合わせ場所にやって来ていた。
その人物とは……。
友奈「お待たせ、流星君。」
流星「結城先輩。」
コートを羽織り、小さく手を振って彼女…結城友奈はやって来る。
街は静まり返り、いつもなら人通りの多いこの場所もまるで早朝深夜の静けさのようにいろんな店舗がシャッターを下ろしている。
友奈「…街、人が少ないね。」
流星「ええ…アイツの起こした各地の事件のせいで新生大赦から自粛要請が発令されてますから…。」
友奈「…亜耶ちゃんの事、どうなったの?。」
この事件…通称「黒百合の乱」と呼ばれる事件が始まってから亜耶は新生大赦本殿に保護され、そこで生活を送るようになっている。
全てはあの時…「カヤノヒメ」と呼ばれる"人"を超えた種に開花した事が原因だ。
彼女の持つ力はこの世界に散らばる神樹の残滓を集めることが出来、"神託”を受けられる今までにも無い巫女の力であり、それはこの「神無き世界」にとって大きな影響を及ぼす存在となっている。
園子の下で、側近である安芸を付けて最大限の保護対象とされており、この「黒百合の乱」において"邪神教団"が彼女を狙ってこないようにある程度の自由を制限する運びとなっている。それだけ、今の彼女は世界にとって重要な存在となってしまったのだ。
もう、数日も顔を合わせていない。だが、自分達と一緒にいるよりも最も信頼出来る人の下で生活を送る方が彼女の安全に繋がるという事で、満場一致でその保護をお願いしたのだ。外部との連絡も絶たれた状態で、彼女は外の情報だけ入るように配慮されている。窮屈かもしれないが、これは本人も賛同している事だ。早く自由を取り戻せるように自分達が頑張らなければいけない。
流星はその様子を彼女に伝えた。
友奈「そっか…亜耶ちゃん、大変だね。」
流星「結城先輩こそ、"身体"は大丈夫なんですか?。」
友奈「私の場合はもう意味を成さないものだから、亜耶ちゃんみたいに狙われたりしないと思う。もしそうなら、とっくに来ているだろうし、それに…。」
自分の手を見ながら思い返すことがあった。
彼女も「高嶋友奈」の事を聞いている。最も、自分が"人"に戻れたのは彼女のおかげでもある。あの時、手を引いて戻してくれた事を思い出していた。
友奈「――私はちゃんと"人"に戻してもらったから。」
それを聞いて、流星も納得の意を示す。そして、本題へ。
流星「結城先輩、俺をここに呼んだ理由は?。」
友奈「そうだった、お話しが逸れちゃう所だったね。防人で今、自由が利いているのは君だけだよね?。」
流星「…ええ。芽吹さん達は直属ですから、新生大赦の指示に従って各地で厳戒態勢に入ってます。俺は遊撃だそうで…最も、相手がアイツだからでしょう。」
友奈「そのちゃんの配慮…だね。」
流星「恐らくは。俺としてもその方が助かります。アイツが現れたら、きっと感情を制御出来そうにありませんから…。」
友奈「…そうと分かれば、話が早いかもね。」
パチンと指を鳴らし、真っ直ぐな目で見つめてくる。
友奈「流星君、私達と一緒に行動しない?。旧勇者部のメンバー全員がこの事態をどうにかする為に動こうとしているんだ。」
流星「俺が…貴女達と…?。」
友奈「うん。今までは裏方だったけど、私は彼を止めたい。その為に戦うと言っても良いぐらいだよ。ここで止めないときっと、取り返しのつかない事になるし、本当に"戻れなく"なっちゃう。芽吹ちゃん達が公務をやってくれるなら、君は動きやすいと思う。亜耶ちゃんの事も、安芸さんが居るから安心だし…どうかな?。」
その申し出、願っても無い事だった。
止めないと行けない…それは分かっていたが具体的にどう説得すればいいか根詰まり状態だったから。それに、この人達が力を貸してくれるなら、とても心強い。結城先輩は特にアイツに対して、真剣に考えている。彼女もきっと、その場に関わりたいはずだ。ならば、断る理由が無い。俺は、その手を取る。
流星「はい、よろしくお願いします。」
友奈「よぉっし!それじゃ、讃州中学の"勇者部"に向かおう!。みんな、そこで待ってる筈だからッ!。」
流星「え…ええッ!?。」
半ば強引に手を引かれ、学校に向かって走り出す。
その答えが嬉しかったのか、終始休む事なく彼女は走り続ける。情けないが、自分は彼女の体力についていけずに息を切らしてしまっていた事は内緒だ。
そして……。
〜讃州中学・勇者部部室〜
玲司「お、やっと来たな坊主。来ると思ってたよ。」
部室の窓際でタバコを吹かせながら、玲司は手を振る。意外な人物に、流星は目を丸くする。
まず、第一声に飛び出した言葉が。
流星「なんで久遠さんがここにっ!?。」
これだった。
待っていましたと言わんばかりに、用意した言葉を告げる。
玲司「お前な…予想通りの言葉を話すんじゃねェよ。もっとこう…あんだろうが?。」
流星「いや…無いですよ…。」
玲司「そっか?。まあいい、話はおおかた聞いたろ?つまりあれだ、俺はお前のお目付け役でこの遊撃隊…"旧勇者部"の臨時顧問ってことだ。」
夏凛「臨時顧問っていうのはおかしいけど……それより、部室でタバコはやめなさいよ!。」
玲司「おお……楠と同じツッコミ……。」
美森「久遠さんは安芸さんからの指示でここに来たのよ。亜耶ちゃんの近況報告も受ける意味で…ね?。」
風「まぁ、こんなみすぼらしいおっさんは少しどうかと思ったけど……。」
玲司「誰がおっさんだッ!。俺はまだ26だっつうのっ!。」
樹「お姉ちゃん、失礼だよ…?。でも、新生大赦の人がいてくれたら色々と助かるから感謝してます。」
玲司「くぅ~っ!。ありがたいねェ、神官になってから感謝されたのは初めてだぜ~。」
…安芸さんからの指示…そうか、宗主様が色々と動いてくれたんだな。この問題と真正面から向き合えるように、最適な人員を与えてくれて…なら、俺はこの問題に集中出来る。
そう思って、気合を入れなおす。
そして、久遠さんが俺の方に手を置いた。
玲司「坊主。お前のダチだ、余計な事は考えずにひたすら向き合え。小せェ事は楠達がカバーしてくれる。お前を復興メンバーから外したのはアイツの気持ちだ。この問題に集中できるように、小難しい事は全部アイツが引き受けてくれた。だから、他の事は心配すんな、俺も居る。心に従って、やりたいようにやれ。」
流星「はいッ!!。」
――嬉しい。
峻輝を止めたい、その意志を全員が理解してくれて、その為の道筋まで用意してくれた。
芽吹さんが、宗主様が、安芸さんが、久遠さんが……そして、この"旧勇者部"の人たちが。
みんなが俺の為に考えてくれた。世界の事や亜耶の事を引き受けて、ただ一つ…「親友を止める」事だけに集中出来るように。
必ず止めて見せる。そして、今度こそ……
――また、"親友"に戻るんだ。
――――――――――
―――――――――――――――
峻輝「――これで、"二つ目"。」
燃え盛る社。
そこは、新生大赦の管理する神社。今は大した役目を果たしてはいないが、2年前までは多数の神官が大きな催し事の前にここで大規模な祈祷を行っていたと言われる重要拠点の一つと言われた場所だ。
彼が主にターゲットにしているのは、こういった神官が良く関わる拠点の数々だ。これは明確に破壊の意を示す為の行動であり、神を否定してこの嘘を壊すといったメッセージも込められている。関連企業等も同じだ、新生大赦の息が掛かった場所は全て彼の対象となる。
逃げ惑う神官達を蔑むように見下ろしながら、その社へと歩き始める。
峻輝「…ここまでやってもまだ現れねェか…勇者達を討ち倒せば、コイツらは無力化出来るってのに。」
「…なら、お望み通り現れてあげましょうか?。」
1発の銃声。それに気が付いた峻輝は"生太刀"で弾き飛ばす。
影から現れたのは楠芽吹。銃剣を片手にゆっくりと歩み寄る。
芽吹「三上峻輝…流星の友達でしょう?。」
峻輝「今更なんだ?そんなこと聞いて、どうするってんだよ。」
対峙する2人。
目には見えない威圧感同士がぶつかり合い、近寄り難い空気を生み出している。
芽吹「やめなさいと言ったら?。」
峻輝「はっ…答え、分かってるくせに。」
芽吹「そうね。だから…――。」
一瞬の出来事。
芽吹から闘気が溢れ出し、戦闘の火蓋が切って落とされた。
鳴り響く銃声。峻輝はその全てに反応して弾丸を避けながら接近する。
…あの時とは比べものならない力。芽吹は彼の成長を肌で感じ取っていた。しかし、自分だって負けてはいない。
峻輝「…へェ…?。」
繰り出された斬撃を銃剣の刃で受け止め、睨み合うように競り合う。
芽吹「安心しなさい、ここには私1人しか来ていない…お前と一対一で対話をする為に、1人でここに来た…!。」
峻輝「俺には関係無ェ。だが、ここで楠芽吹というネームバリューを落とせば…ッ!。」
"生太刀"を握る力を強めるも、その距離は一向に縮まらない。
峻輝「何……?。」
芽吹「なら、勝手に話をさせてもらうわ。投降しなさい、こんな事したって世界が壊れたりはしないわ!。」
峻輝「…決めんなよ。それを決めるのは俺だ…!。」
芽吹「たった1人で世界を敵に回してどうするという!?。お前は新生大赦だけではなく、教団からも狙われる身よ!。野垂れ死ぬのが目に見えてる!。世界を甘く見るなッ!。」
峻輝「この期に及んで説教かよ…"本音"で言ったらどうだッ!?。」
核心を突いてきた峻輝に、芽吹は…――。
芽吹「なら、本音を言おう!流星の為よ。彼を迷わせるものは私が断ち切るッ!。」
ジリジリと、芽吹の攻勢が有利になっていく。
その並ならぬ力に、峻輝は寒気すら覚える。
峻輝「アイツの為だと?。だとしたら、あんたがそこまで身体を張る程、アイツにそんな価値があんのかよ?。なぁ…楠芽吹ッ!。」
芽吹「――好きだから…よ。」
峻輝「――はっ…?。」
芽吹「脆いけど強くあろうと、何度だって立ち上がる彼の勇気に私は惹かれていった!だから、私が流星を守るッ!。崩れそうになりながらも、踏ん張っている彼を私がッ!。」
凄まじい力と気迫。遂には押し負けて、弾き飛ばされる。
もう一丁の銃剣を呼び出し、拘束用のワイヤーを放つも峻輝は間一髪でそれを避ける。
峻輝「こりゃ笑えるな…アイツが好きだから俺の邪魔をするって?。ククッ、あんた…そんな乙女みてェな事を言う奴だったかッ…?。」
芽吹「…言わないわね。今のは、抑えられなかった感情故の言動よ。でも、それも事実。出来るものなら、彼が直接対峙する前にお前を捕まえようとここまで出張ったのよ。最も…"役目"というのもあるけどね。」
再び、芽吹から闘気が満ち溢れる。
峻輝(なるほどな、"役目"に切り替えたか……全く、とんだ強敵なもんだぜ。)
そうは思うものの、深く深呼吸を整えて冷静になる。
自分だってその気迫に負けないくらい強いものを持っていると自負している。そうでなければ、こんな壮大な事は最初からやらない。自信があるから動いたのだ。世界を壊せる自信があるから。
芽吹「お前の過去は調べさせてもらったわ。でも、その復讐の果てに何があるというの?。失ったものや奪われたものは戻って来ない…お前はそれで何が満たされる…?。」
峻輝「満たされる?。」
…思わず、笑いが込み上げて来そうだ。全く持ってその通り。無くしたものはもう戻って来ないのは分かっている。だが、この「恨み」にも近いものを晴らさなければ前に進めないのだ。少なくとも、事実を知った今、自分が本当の意味で前に進むためには、この「復讐」を何としてもやり遂げなければならない。
それこそが生きている意味。生きる選択をした"意味"なのだ。
だから、満たされるものなんて何も無い。強いていうなら、家族が告げたかった真実を世界中の人間に叩き込んでやることくらいだ。
だから…邪魔はさせない。
峻輝「――来いよ、楠芽吹。相手に取って不足なしだ。お前を倒して新生大赦をブチ壊し、そして今度は『三神官』を倒す。それで世界は変わるんだ…この"嘘"が暴かれる事でなッ!。」
………………………end。
=真実を知ってもなお、この世界に手を貸すなんてな!とんだ大馬鹿者達だぜ!。=
ー許せない事は確かにあった。けど、それが他の人の人生を壊していい訳がない。お前のやっている事はただの怨念の押し付けよ!ー
=押し付けの何が悪い!?。世界から弾き出された奴らは何も出来ずに大きな力に飲み込まれて消えていった!その無念はどこに行くってんだ!?それなら俺が…=
その無念を晴らしてやるのさ。父さんと母さんの無念をな――。
次回
第68話 怨嗟の行く末。