紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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――世界はどうして、こんなにも残酷なのだろう。

幸せと不幸が乱立し、いつもどこかで誰かが泣いている。

本当の事を公表することは罪なのか?その無念は何処に行くというのか?。


――俺は…その怨嗟を晴らさねば進めないと思っている。


第68話 怨嗟の行く末。

 

 

燃え盛る社を背に、二人の戦士は互いにぶつかり合う。

ここにはこの二人以外、誰も居ない。ただ、相反する意思が激しくぶつかり合っているだけだ。

 

世界を壊すために戦う者と、世界を守るために戦う者。

互いの意思が激しくぶつかり合い、戦闘をより苛烈化させる。

どちらもお互いに引かない。そう、これは意地の張り合いなのだから。

 

 

芽吹「はああああっ!。」

 

 

先に攻撃を入れたのは芽吹だった。この激しい競り合いの中で、峻輝は彼女との錬度による差を埋められなかった。最も、"邪神教団"を抜ける時に多数の"使徒"と戦った傷がまだ癒えていないというのもあるが、根本的に経験が違う。彼女は、2年前から戦い慣れている。それに、選ばれなかったとはいえ「元勇者候補」だ。死地を何度も乗り越えたことにより、心身ともに今の自分よりも遥か上をいっている。

 

技量、メンタル共に最強の相手だ。一対一で対峙するとこうも強いとは思いもしなかった。

これが、流星の師か…それなら、彼のメンタルがあそこまで強くなったことに納得がいく。

だが、自分も負けてられない。この"選択"を選んだ時から、覚悟は固めているのだから。

 

だから、自分は「信念」で戦う。もう、後戻りするわけにはいかないのだから。

 

 

峻輝「なめんなァァァッ!!。」

 

 

身体を削られながらも、逆袈裟によるカウンターを入れる。

一瞬の判断で芽吹は避けるも、僅かに掠り、少量の血が舞い上がる。

 

 

芽吹「はぁ…はぁ……っ…やるわね……。」

 

峻輝「あんたこそな…こんだけやって俺の方がダメージがデカい…割に合わねェぜ…。」

 

再び、向き合う二人。互いに"一手"を詮索する。

そんな中、彼は芽吹に一つ質問する。

 

峻輝「…あんた、2年前にこの世界の"嘘"を知ったんだろ…?。」

 

芽吹「…いきなり何…?。そんなこと聞いてどうするの…?。」

 

峻輝「何も思わなかったのかよ…ッ?。」

 

芽吹「…えっ……。」

 

歯を食い縛り、噛み殺すように放ったその言葉からは凄まじい怨嗟を感じさせて。

 

そしてその目に宿るのは……"怒り"。

 

峻輝「おかしいと思わねェのかよッ!?。一部の人間が好き勝手に嘘の情報を与えて、その駒にされてたんだぜッ!?。まるで消耗品のように扱って、1人が死ねば候補者を立てて"勇者"として戦わせるッ!。神の力だか何だか知らねェが、デカい力を使った代償に身体の機能を一つ、失う事も隠してた!。」

 

拳を震わせて、声を上げる。

 

峻輝「何もかもが嘘ばっかりなんだよ!自分達の都合の良いように、必死になってる奴らを上手く利用して本当の事を告げないッ!。知ったら知ったで、情報管理をされて大赦の言いなりで生きていく事になるッ!こんなの、おかしいじゃねェかッ!。」

 

芽吹「…ッ…それは……。」

 

峻輝「俺の家族もそれで処分されたッ!確かに、やり方に問題はあったけど何も殺す事は無かったじゃねェかッ!根っこが変わらない限り、この世界は変わらねェッ!。変革の時とか言うけどよ、その土台が生きてる限り、またそんな世界へと戻ってしまうッ!。あんたもそうだろッ!真実を隠された挙句に、"勇者擬き"としてあんな地獄に放り込まれてよッ!。亜耶ちゃんも世界の為の生贄になるところだった!。そんな奴らの為に、血と涙を流す価値があるって思えるのかよッ!?。」

 

芽吹「ッ…それでも私達は…自分の意思に従ってこの選択を取ったッ!。」

 

跳ね返すように言葉を返した芽吹。

彼女の言葉にはあの頃の思いが込められていた。

 

芽吹「許せない事はあったし、思い出すと今でも憤りは感じるわ…けどね、それはもう過去の話なのよ。過去に囚われては前に進めない…私達は"未来"を考えなきゃいけないの。」

 

峻輝「……んだよ…それ……。」

 

小刻みに身体を震わせる。この答えの先が分かっていた芽吹は、再び銃剣を構える。

 

峻輝「真実を知ってもなお、この世界に手を貸すなんてな!とんだ大馬鹿者達だぜ!。」

 

 

彼の爆発的な踏み込みに、僅かながら反応が遅れた。

その隙を逃す彼ではない。繰り出された攻撃は芽吹の身体を容赦無く切り裂いた。

 

 

芽吹「ぐううッ…!?。」

 

 

 

 

――深い、これはやられた……けど、まだ致命傷ではない。

幸い、「加護」が効いたお陰で難は逃れている。しかし、ゲージがざっくりと削られるほどの斬撃だった。これがなければ確実に致命傷だったと、歯を食い縛りながら一度距離を取ることにした。

しかし、彼の追撃はそれを許さない。先程までとはうって変わって、攻撃のレベルが全然違う。

"怒り"に乗せたその攻撃、精神で上回ってきたのだ。セオリー通りなんて通じなくなった。

 

形成逆転。

思わず、防戦一方となってしまう。

 

 

峻輝「そんな大層な考えに切り替えられる程、世の中の人間はうまく出来てねェぞッ!?。寧ろ、あんたらのようなおめでたい連中の方が少数派だッ!ネットの記事を見たろ!?。俺が起こした行動を面白がって、乗っかって来てる愚かな奴らがわんさか現れてる!これが現実だ。"真実"を突きつけりゃ、すぐに心が闇に堕ちる!。人間ってのはそういう生き物なんだよ!。」

 

芽吹「ッ…だからと言って、それが世界を壊す理由になるかッ!。」

 

 

負けじと、彼女も攻勢に移る。一進一退、互いの意思のぶつかり合いは引くことを知らない。

血飛沫を上げながらも、その場には刃同士がぶつかり合う鈍い金属音が響き渡り、炎は煌々と燃え上がる。徐々に煙が流れてきたのか、視界が少しだけ悪くなる。

 

 

芽吹(気持ちで負けてきてる…技量を凌駕するほどの気持ちか…並大抵では無い事はわかってはいたけど、こうまで恨みが強いとは……。)

 

 

 

乱れた呼吸を整え、深く深呼吸する。

落ち着け、焦りは負けを呼び込む。無力化する他ないのなら、確実に決定打を打ち込まなければこの男は沈まない。

そう思って、僅かな隙すらも逃さない態勢を取る。

だけど、彼の"質問"にまともな回答を出していない。だから、語る事にした。

 

 

 

 

芽吹「…おかしいと思わないのか…お前はそう言ったわね?。」

 

峻輝「…何だ今更…覆すっていうのか…?。」

 

芽吹「…許せない事は確かにあった。大事な部分だけ秘密にされ、いきなり世界の真実を突きつけてきたんだもの。勇者候補生とか都合の良いことを言いながら、何があるか分からないあの地獄に放り込まれた事は今でも忘れないわ。」

 

そして、彼女は…その気持ちを抑えて乗り越えた意思を見せつける。

 

芽吹「けどね、私達がそれをやらなければいけなかった。世界が前に進む為に、それに…私達の「価値」を知らしめる為に。」

 

峻輝「価値だ……?。」

 

芽吹「私達は一つの適性から集められた集団…その数、33人よ。その中の1人しか選ばれない"特別"な席…内、32人は落第するの。そして私はその落第生の1人に入った…それが「防人」。選ばなれなかった者達は当時の彼らが画策した「反抗作戦」の為の布石とされたのよ。当然、憤らないわけがない。1人減っては補充要因が追加され、まるで消耗品のように…感じ方次第では、私達の命に価値が無いかのようにも思う事もあったわ。」

 

峻輝「はっ…なら何故、今でも新生大赦の犬として働くんだ?。そんな気持ちがあったのなら、当時に反抗すりゃ良かったろ。そこまでされてまだ信じてるっていうのかよ?。」

 

芽吹「お前は何か、勘違いしているわ。」

 

右手に括り付けた赤いリボンが風で靡く。そのリボンは戦友の形見だ。

 

芽吹「大赦の為に戦ってたわけじゃない。私達の意思で、現実と向き合う覚悟をしていたの。今でもそう、これは私達自身の意思ッ!心に従った結果よッ!。私達の「価値」を証明し、その"悪意"に負けないために命を賭けてきたッ!。お前の抱くその恨みが分からないわけじゃない。家族を無慈悲に奪われたんだ、怒りに満ちて当然だろう。けど…。」

 

 

力強い眼差しで戦意を高揚させ、雰囲気が一気に変わる。

 

芽吹「それが理由で他人の人生を壊していい訳がない。お前のやっている事はただの怨念の押し付けよ!。」

 

啖呵と共に、凄まじい精度の狙撃を繰り出す。

それは、峻輝の左腕を貫いた。でも、峻輝は怯まずに。

 

峻輝「押し付けの何が悪い!?。世界を爪弾きにされた奴らは何も出来ずに大きな力に飲み込まれて消えていった!その無念はどこに行くってんだ!?それなら俺が…。」

 

 

その無念を晴らしてやるのさ。父さんと母さんの無念をな――。

 

 

「擬似満開」を発動。周囲の時間が止まる。

ただならぬ雰囲気に、芽吹も「強化装束」を起動させる。

そして、目にも止まらぬ速さで2人は激突。互いに傷付きながらも、一切手を緩めない。

 

峻輝「この世界はクソだ!。例え、乃木園子が変えたとしても直に元に戻るッ!。なんたって、『三神官』のような傲慢な奴らがまだまだいるんだからなッ!どうせ、真実を捻じ曲げて自分達の都合の良いように、世界を操作するッ!神様なんて誰も見ちゃいねェんだッ!。」

 

 

――そうだ、神は無慈悲だ。

全てを救えるほど、万能じゃない。神だって死ぬ、それは人と何ら変わりはない。そんな不確かな者に頭を下げて縋るなんて、馬鹿馬鹿しい。

「神」から離れられない世界なんだ、「神」の為に真実を捻じ曲げる事だって何とも思わない。それが秩序だと錯覚しているから。

 

こんな世界…居るだけで吐き気がする。

全部、壊してやるんだ。

 

全部全部全部、俺の全てを奪ったこの世界を壊してやる。

 

 

峻輝「落ちろよ…楠芽吹ィイイイッッ!。」

 

振り下ろされた一刀が、芽吹を断ち切る。

……かに、見えた。

 

芽吹「ッうう…ッ…!。」

 

銃剣を盾に、その一刀を受け止める。だが、傷付いた場所から血が噴き出て力が少しずつ抜けていく感覚に襲われる。

だが、ここで膝を着くわけにはいかない。この怒りを受け止めなければ、彼の考えを崩す事は出来ない。そして何より…流星の為にも。

 

芽吹「ッ…あぁあああッ!。」

 

気合を込めて力を振り絞り、勢いで弾く。思わず、よろけた峻輝の頬に。

 

峻輝「ぐううっ…!?。」

 

鉄拳をお見舞いした。

握り拳を解くと、肩から流れる血を抑えて痛みで顔を歪める。

いくら、「強化装束」を纏っているとはいえ、「擬似満開」に勝る性能ではない。あの力は強力だ、何せ勇者の「切り札」を再現した機能なのだから。

 

 

芽吹「はぁ…はぁ…ッ……そうよ…神様は無慈悲よ…苦しむ人を見ても、手を差し伸べてくれない。世界規模で見れば、1人の不幸なんて何の影響も無いのだから…でもね…。」

 

ゆっくりと歩み寄り、倒れる峻輝に銃口を突き付ける。

 

芽吹「お前のその復讐は同じ人間を生むことになる。お前が憎むものと同じ思いを抱いて、その怨嗟は永遠と続く…私達はね…それを止める義務があるのよ…。」

 

峻輝「綺麗事を…ッ…!。」

 

芽吹「綺麗事で何が悪い?変わらないからといって全てを諦めて壊すなんて…浅はかにも程があるわ。考え直しなさい。その怨恨の果てに、自分の未来がどうなるか…過去に囚われて戦うのはやめなさい…。」

 

…静かに、銃剣を下す。

「強化装束」状態が維持出来ずに、強制解除となる。

 

芽吹「…何も、許せとは言わない。けど…流星はお前が戻るのを待っている。世界が無慈悲でも、お前を1人にしない為に彼は…。」

 

峻輝「――るせぇんだよ…ッ……。」

 

芽吹「ッ…!?。」

 

峻輝「うるせェんだよッ!。流星流星ってッ!アイツの為に俺を止めたいだけだろッ!?アイツはいいよ、それを受け入れて前に進めるだけの強さを持ってる!だが、俺は違うッ!。」

 

上体を起こし、"生太刀"を向ける。

 

峻輝「…晴らさなければいけない恨みがあるんだよ…復讐からは何も生まない?違うな、それを成す事で前に進める人間だっているッ!あんたら(勇者)のように、人は強くねェんだよッ!。」

 

 

弱々しく立ち上がる峻輝。

まるで、迷子の子供のように周りの全てが見えていない。

ただ一つ、「両親の無念を晴らす」といった自分の中の大義名分が、限界を超えて自分を動かしている。

 

もう、帰る場所はない。必要もない。この、恨みさえ晴らせればきっと……。

 

そして彼は……立つ。

 

峻輝「がはっ……俺は…負けるわけにはいかねェんだよ……。」

 

それだけを言うと、彼は…。

 

 

――立ち去っていった。

 

 

………………………end。

 




芽吹との激闘を繰り広げた峻輝は満身創痍だった。

自分を突き動かすもの全てを否定され、それでも引き返す事はしない。
そんな彼の元に、「射手座」が現れる。

東郷美森の複製人間である彼女は、『三神官』の命令で彼を追いかけていたのだ――。

次回
第69話 複製人間(ホムンクルス)。
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