紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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造られた命。
それは神への冒涜であり、禁忌とされてきたもの。

望まずして生まれ落ち、存在そのものが悪とされる。

この世界に、私の居場所はないのか……いや、気にする事もない。
ただ、「創造主」の為に尽くすのみ。


第69話 複製人間(ホムンクルス)。

 

 

「はい、仰せのままに。」

 

峻輝と芽吹が激闘を繰り広げている最中、1人の少女は黒煙が上がる場所を見つめながら、端末の通信を切る。

そこは、2人が戦っている場所…峻輝が燃やした社だ。

その少女…「射手座」は仮面を静かに取って赤い炎が上がる社を見つめながら、その手に得物を握り締める。

 

 

サジタリウス「…三上峻輝と楠芽吹。どちらが勝とうがこちらには得しかない。流儀に反するが、漁夫の利を得るとするか。」

 

 

流儀。

最も、「造りもの」の私からすればそんな事を貫く方がおこがましいというものだ。そう、"人形"である私には感情など必要無い。この姿も奴…「東郷美森」の遺伝子を元に生み出された複製人間だ。

勇者のみならず"巫女"の適性を併せ持つ逸材…『三神官』は奴の才能に目を付け、その遺伝子データに基づいて「私」という存在を創り出した。

 

私は"禁忌"である「命の創造」から生まれた存在。

この神が統治していた世界において、私という存在さ許されるものではない。「命を創る」という行為はそれだけで重罪なのだ。

まぁ…そんな事、知ったことではないが。私はただ、命令に従うのみ。

 

 

サジタリウス「さぁ、この戦いの勝者を狩りに行くとしよう。」

 

特徴的なライフルを取り出し、空中を走るかのように現場に急行する。

 

 

 

…………………………………。

 

 

峻輝「…ッ……楠芽吹…強かったな…「擬似満開」を使ってもこうまでダメージを受けるとは。」

 

芽吹との戦いでついた傷を応急処置で何とか塞ぐ。だが、布はすぐに赤く染まり、止血が出来ているか微妙なラインだ。

 

あの時、撃たれた傷がこうまで引っ張るとは思いもしなかった。

最も、技量では確実に負けていた。"呪具"の力を解放すれば何とかなりそうだったが、"アレ"は危険過ぎる。なんたって、まだ制御出来ていないのだから。

 

もう、自分はボロボロだ。

支援も何も無い、本当にただ一人だ。覚悟はしていたが、実際はかなり厳しい状況だ。楠芽吹…新生大赦の最強戦力と言ってもいいほど、彼女は強い。現時点で彼女を超える者は"勇者"くらいだろう。そんな者を相手にしていたのだ、ここまでの傷は想定の範囲内だろう。

 

 

峻輝は自分の手を見る。

何故だか、小刻みに震えていた。これはダメージによるものではない、もっと深刻な…そう、心のダメージだ。自分だからよく分かる、ほんの僅かだが、芽吹の言葉に少しだけ揺らいでしまった。

 

あの時、彼女が言った事……。

「過去に囚われて戦うのはやめろ。」

その言葉が、心の奥底にほんの少しだけ突き刺さる。

 

…分かってはいる。こんな事をしても、何かが変わるわけじゃない。寧ろ、変わらないだろう。ほんのちっぽけな人間ただ1人が恨みを振り撒いた所で、「世界」という巨大な概念を染め上げる事なんて出来やしない事。だが、自分には「コレ」しかないから…真実を知った時、許せない気持ちと後悔でいっぱいになったあの感覚を覚えてしまっているから。

 

…負けられねェんだよ。俺は。

 

前に進む為に、この過去を精算しなければいけない。その為なら、どんな事だって……そう思っていた矢先、自分に向けられた殺気を感じ取る。

 

峻輝「!?。」

 

咄嗟に身体を逸らして右側に避けた峻輝。その直後、弾丸が彼の居た地面に突き刺さる。しかもこの弾丸は…"邪気"が込められたもの。

という事は……"教団"の追手か。

それに、この射撃の精度は…知っている。

 

暗がりからゆっくりと現れたのは「射手座」。予想通りだと踏んだ峻輝は"大葉刈"を取り出して。

 

峻輝「ハッ…教団も必死だな。俺1人に"使徒"が出張るか。」

 

サジタリウス「それだけ、お前という存在を看過できないという事だ。」

 

何の躊躇もなく、第二射を放って来る「射手座」。

今度はそれを"大葉刈"の刃で弾き飛ばして臨戦態勢を整える。

 

峻輝(チッ…2連戦なんてな…流石にキツイぜ。楠芽吹から受けた傷が深すぎる…。)

 

ジワジワと、体力が落ちていくのを感じ取る。

致命というわけでは無いが、長丁場は確実に不利になる。最も、向こうは万全だ。こんな満身創痍で"使徒"を相手にどこまで粘れるか…流石に冷や汗までは隠せない。そして、それを見逃す奴じゃない。

 

サジタリウス「お前がここにいるという事は…楠芽吹を破ったというわけか。」

 

峻輝「…違うな。痛み分けだ、俺はここで捕まるわけにはいかねェ。戦略的撤退ってやつさ。最も、テメェが現れたのなら状況はちっとばかし厳しいけどな。」

 

サジタリウス「ならば、降伏するといい。だが、生きて陽の目を見る事は出来んぞ?。お前の所業により、本拠地は火の中に消えていったのだからな。おかげで新たな拠点を探さねばなるまい。」

 

峻輝「はっ…過激にぶっ放したのは「蠍座」の野郎だろうが。」

 

会話の中で、殺気を感じ取る。

次の刹那、予備動作も無しでまたもや発砲する。今度は、左肩を掠めた。

 

峻輝「チッ…相変わらず、めんどくせェ野郎だッ!。」

 

受けた傷を気にすることもなく、一気に間合いを詰める。

「射手座」の厄介さはこの狙撃力。あの「東郷美森」の遺伝子を持つ存在だ、彼女と同じ能力を持っている事から何としてもコイツの距離にさせるわけにはいかない。

そう感じつつ、"大葉刈"を頭上から振り下ろす。

 

だが、「射手座」はライフルで受け止め、腰に備えた小銃を取り出して4発の弾丸を接射した。威力は低いが、これも"邪気弾"。峻輝の「擬似勇者システム」に搭載されている「加護システム」のゲージが一気に減らされた。

 

 

峻輝「ちぃ…ッ…!。」

 

 

――僅かに血が流れ落ちる。「加護システム」が作動したとはいえ、撃たれた事に変わりはない。正確に同じ場所に4発の弾丸を撃ち込んだんだ、痛みを感じないわけがない。腹を押さえながら、少しだけ後退する峻輝は思考を巡らせる。

 

 

峻輝(…眉一つ動かさずに対処しやがった…まるで、マシーンだな…。)

 

サジタリウス「三上峻輝。その「擬似勇者システム」を返還しろ。それは、『三神官』が作ったものだ。貴様のおもちゃなどではないぞ。」

 

峻輝「やなこった…これは「獅子座」から貰ったものだ。アイツらから直接受け取ったわけじゃねェ。それに、俺に完全に適合しちまってるから取り戻した所で何の意味も無ェぞ。"権限"も全て俺のものになってるからな。」

 

サジタリウス「…「獅子座」め、厄介な事を……。」

 

そういうと、2丁の拳銃を取り出す。

その構えは殆ど彼女…「東郷美森」と同じだった。

 

峻輝「はっ…仕草も何もかも、東郷美森ってわけかよ…。」

 

サジタリウス「そうだ。私は奴の遺伝子から造られた「複製人間」…奴の癖もその全てが同じものだ。」

 

峻輝「テメェは…それでいいのかよ…?。」

 

サジタリウス「………何?。」

 

峻輝「その言い草だと、まるで自分の存在に興味が無ェみてェだ。テメェはそれでいいのかよ?。「複製人間」だっつっても、テメェ自身の"個"はあるだろうが。」

 

――"個"。

それを問われた「射手座」は…笑う。

 

サジタリウス「はははっ…面白い事を言うな貴様?。"個"を気にする必要など無い。私は造られた者…「命」に興味など無い。」

 

 

2丁拳銃のトリガーを引き、弾丸の嵐をお見舞いする。

峻輝は巧みに避けながらも、傷の突っ張りで多少動きが鈍る。そこに、弾丸が刺さってしまう。

 

サジタリウス「私は『三神官』がもたらした旧世紀の禁忌によって生まれ出た命だ。"錬金術"と呼ばれる無から物質を創造する術のようだが、それは化学と同義だ。当時は魔術的な何かと思われていたのだろうが…人の命の"創造"はその界隈では禁忌のものだったらしい。そうだろうな、神を崇めし人類にとって、人が人を"造る"なんて大罪そのものだ。神への冒涜、自然の摂理への逸脱…散々な言われようだ。」

 

 

一気に駆け出し、接近しながら弾丸を放ち続ける。

この戦法は予想外だった。幾つか被弾し、峻輝は血飛沫を上げる。

 

峻輝「ぐうう…ッ……!!。」

 

サジタリウス「私の存在自体があり得ないのだよ、その技術が失われたこの時代ではな。しかし、私は生まれた。「東郷美森」と同じ顔、声、身体つき、技術、癖…その全てが寸分の狂いも無く完璧に再現された個体…それがこの私…「複製人間(ホムンクルス)」だ。」

 

 

ホムンクルス。

それは、「錬金術」と呼ばれる旧世紀時代より遥か昔に提唱された「金」以外の物質から金を作り出すための学問として広まったものだが、その性質から「命」の創造すらも可能だと言われていた術であり、現代化学の原型だと、遺された御記にそう書かれていた。当時はおろか、旧世紀に纏わる情報がほぼ残されていない事から現代においては色々と捻じ曲がった情報が伝播されていたのだろう。

 

そして、「ホムンクルス」とはその過程で生み出された「命」であり、人の手で造られた人間…つまり、「人造人間」の事だ。

彼女…「射手座」は"錬金術"で生み出されたものではない…れっきとした化学により生み出された存在であり、旧世紀時代にその理論である「クローン技術」を用いて生み出された個体。

 

"錬金術"という言い回しは神を絶対的な存在として信仰しているこの世界に対しての挑戦とも受け取れるもの。本質を捻じ曲げられたその理論は「神への冒涜」として、大赦の者達を挑発する材料にもなるからだ。

だが、実際には"錬金術"にはそのような大層な創造を行う事は出来ない…あくまで別の物質から別の物質へと変換させる技術の事。

 

「命」の創造が出来るのは、旧世紀時代の化学力によるもの。

時が止まり、化学の進歩どころか衰退した現代においてそんな理論は失われたテクノロジーそのものだ。だが、『三神官』はその理論を入手していた。その第一号が彼女という事だ。"勇者"と"巫女"…その双方の適性を持つ「東郷美森」の遺伝子データとサンプルを使って。

 

その事実を理解している「射手座」にとっては"個"と呼ばれるものに何の興味も無い。意思も感情も、何もかもが必要無い。それを持つ意味を理解出来ないから、知らないから。

 

ただ、言われた通りに行動する。物事の善悪も関係無い、ただ命令を遂行する為の"人形"…それが、彼女だ。

 

だが、「複製人間」なんていう存在はあっちゃいけないもの。その存在を認められない事や、自らの命ですら価値を見出せない悲劇の存在…人が犯した最大の罪そのものだから。

だから、彼女そのものに"罪"は無い。言うなれば、被害者とも取れるだろう。目の前にいる彼女は命を弄ばれた存在そのものなのだから。

 

自らをそう名乗るその心情を理解出来ない峻輝は、人の悪意が起こしたこの恐ろしさと悲しさ、そして「人間になりきれない」この存在を哀れに思う。

 

峻輝「……よォく分かったよ。つくづく、クソだな。この戦い、新生大赦が勝とうが『三神官』が勝とうが己の都合の為の世界に変わりはないって事だ。」

 

 

――"迷い"は吹っ切れた。

何が、「過去に囚われるな」だ。何が「復讐は何も生まない」だ。

目の前にいるコイツは他人の悪意で生み出された可哀想な存在だ。自分の命の価値を知らないまま、生きてる屍のような奴だ。

人の身勝手が詰まった存在を目の前にして、心底失望した。

 

やはり、この世界はロクでも無ェ――――

 

瞬間、満身創痍の身体からは想像がつかない程の気力が満ち溢れる。

 

 

サジタリウス「なんだ…何処にそんな余力が…ッ…!?。」

 

峻輝「お前は哀れな奴だ。見せてやるから少しは学んでみろよ。これが……ッ…!!。」

 

爆発的な踏み込み。

「射手座」の反応が完全に遅れた。

 

サジタリウス「しま…ッ……!?。」

 

 

――――命の力だッ…!。

 

目にも止まらぬ速さで通り抜けた峻輝。そして、「射手座」は無数の斬撃に襲われた。

 

 

サジタリウス「なぁあ……ッ……!?。」

 

 

――何が起きたか全く分からない。

訳も分からないまま、切り裂かれて地面に突っ伏している。

なんだ…この"力"は…。

 

 

峻輝「感情が無けりゃいいって思った事は何度もあるさ。辛い事ばっか経験してるとな、そう思っちまう。だが……それを無くしたらもう人間なんて呼べねェ、ただの"化け物"だ。腐っても俺はそんなものに成り下がら無ェ。同情はしねェぞ?もし、生まれた事に疑問を抱くならソイツは造った張本人達に聞いてみな。」

 

そのまま、振り返る事なく峻輝は歩き続ける。

 

 

峻輝「――後、お前は「東郷美森」じゃねェ。たまたま同じ顔と声をした"人間"だ。それだけは心に仕舞っとけ。」

 

 

峻輝は夜の街に消えていく。

たった一撃で沈んだ「射手座」は倒れたまま夜空を見上げながら。

 

 

サジタリウス「……命の価値…か。理解など……出来ん…。」

 

そっと呟くと、そのまま電池が切れたように気を失った。

 

 

――――――――

――――――――――

 

 

峻輝「………クソ…視界がボヤけてきた…あの野郎、人の腹に弾撃ち込みやがって…ッ…!。」

 

あの踏み込みと斬撃を浴びせた中、「射手座」は度重なる邪気弾の直撃により「加護システム」が衰退した峻輝に1発だけ銃弾を撃ち込んでいた。これは致命的なダメージだ、ほぼ生身で受け止めたようなもの。

それに続き、芽吹との戦いで発動させた「擬似満開」の代償もある。彼は…限界だった。

 

峻輝「クソ……俺は……死ぬわけには…いか…な……――。」

 

寒空の下、彼は意識を手放した。

その直後、騒ぎを聞きつけて来た1人の少女が倒れる彼を見つける。

 

それは……――。

 

 

「君は……ッ……!!。」

 

 

結城友奈…だった――――。

 

 

……………………………end。




芽吹と「射手座」との連戦によるダメージと疲労で意識を手放した峻輝。

そして、彼は意識を取り戻した。
だが、そこに居たのは…彼を介抱した結城友奈だった。

次回
第70話 君を"理解"したいから。
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