紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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理解。
それは簡単であってとても難しいもの。
特に、心を知る事は永遠と言っても良いほど可能なことではない。だけど、歩み寄る事は出来る。

私は…彼を理解したい。


第70話 君を"理解"したいから。

 

 

―――世界の真実を知ってしまった。

あの日、「獅子座」に拾われてから俺は当時の状況を彼女から聞いた。勿論、口言葉では到底信じきれない事だが、起きた現実を目の当たりにしてからはそんな夢物語のような現実を受け入れるしかなかった。ただ、聞いた事だけを鵜呑みにしたわけではなく、新生大赦から奪った古い文献や「勇者御記」の写本を読んでからその信憑性の高さに正直、言葉が出なかった。

 

―――ある日、「獅子座」はあるものを持ってきた。

それは、アイツ…流星と同じ「擬似勇者システム」が入った弍号端末だ。

 

 

「世界をもっと知りたいなら、戦う力を持つ事だ。それが、お前の凍り付いた過去を解かすものとなる。」

 

 

 

――正直、その言葉が理解出来なかった。だけど、何もしないよりはマシだと心にそう言い聞かせて、試してみた。

…結果は、今の通りだ。俺は見事にそのシステムへの適合を果たし、「擬似勇者」としての力を手に入れた。アイツと同じ"景色"だ。この日を以て、俺も"特別"へと変わった。

 

言われるがままに、戦いに身を投じた。人を傷付ける事に戸惑いが出るのかと思ったが…意外にも、何も感じなかった。そうか…俺は元々、「こういう人間」だったのだと思い知る事になる。あの両親の息子だ、自分もどこかで普通の人とは違うズレた歯車があるのだろう…そう思っていた。

 

 

―――だけど、"真相"を知った。

「擬似勇者」として戦い続ける俺は名を捨てて「黒百合」という第二の名前で活動していた。これは、日常を振り返らないという意味合いがある。同じく、名を捨てた「獅子座」の真似事をしたのだ。全く別の人間として生きていく…全てを知るまでは。そう、考えていた。

 

だがある日、新生大赦の一施設に潜り込んだ時に「あるもの」を見つけてしまった。それは、俺がまだ小さかった頃…両親が捕まった「上里家襲撃事件」の記録だ。公表されていたものとは全く違う記録…当時、俺が聞いたのは過激派による令嬢の殺害。俺の両親が所属していた「反大赦団体」が引き起こしたテロ行動だと報道された。そこから、俺は「忌み子」として、周囲から迫害に近い扱いを受けることになった。幼いながらも、俺はそれを受け入れるしかないと思っていた。だって、人を殺したんだ、過激な思想を常日頃から俺に言っていた事を思うと、それは仕方のない事なんだと諦めるしかなかった。このつまらない人生が確定されたのだ、親の犯した罪は子が背負って生きていくものだと、そう諦めていたのだ。

 

だけど、それは"嘘"だった。

本当は、何かしらの要因でこの世界の"真実"を知ってしまったのだ。

どう知ったのかは謎だが、俺の両親はその"真実"を公表すべきだと思って行動を起こすことにした。だが、相手は国家権力だ。ただの一般市民が何を叫んだってただの戯言として流される事は明白だ。それでも、俺の両親は訴え続けていた。

そして遂に大赦から「異端扱い」の烙印を押され、社会的地位を失うことになってしまった。

 

「反大赦団体」に所属していた人達の中にも、同じく"真実"を知った人達が何人かいる事を知り、その人達を訪ねてデモ行動を起こす活動に加担することにしたんだ。結果は現状が語っている。やはり、「異端」の集まりが起こす行動など誰も見向きもしない。そして運命の日…あの悲劇が起きた。

 

「乃木家」に次いで、大きな権力を持った名家「上里家」に歴史の真実について直談判する決意を固めたのだ。意外にも、「上里家」は当時の団体の話を聞くことに前向きな姿勢を取っていた。最も、鎮圧化出来るならといった建前も懸念されたが、本当に話を聞くつもりだったらしい。その上で謝罪を行い、世界の真実を公表せず、"偽り"の情報を語り続ける「真の理由」を話す事を考えていたのだという。

 

だが…「反大赦団体」は一枚岩では無かった。

俺の両親が所属していたのは当時の大赦と話し合いの場を設けたかった「穏健派」で「上里家」とコンタクトを取ったのは俺の両親だった。

正攻法で「上里家」へと漕ぎ着けたのだ。だが、それとは真逆に世界の利権…いや、神樹を独占しようと画策していた「過激派」がこの会談を利用してテロ行動を起こしたのだ。当然、二つの派閥がある事を知らない大赦にとっては、この会談そのものが彼らの巧妙な「罠」だと認識してしまった。そして、会談の場を設けた両親はその首謀者として扱われる事になり、当時の「蠍座」が上里家の令嬢を殺害した事で「神刑」が言い渡された。

 

…これが、あの事件の真相だ。大赦は後に真相を知ったが混乱を避けるべく、そしてこの団体が瓦解する事を見越して二つの派閥があった事を公表せず、「世の悪」として世界から身分諸共、排斥した。

 

…あの時、過激派が来なければ――。

…あの時、「上里家」との会談が無事に終わっていたのならば――。

…あの時、事件の真相を知った大赦が事実を捻じ曲げなければ――。

 

――俺の両親がその後に取る行動は分からない。真っ白とは言えず、限りなく黒に近い行動を続けていた事に変わりはない。だから、この悲劇が起こらずに「上里家」から真相を知った後に犯した罪はちゃんと償わなければいけなかった。知って欲しいが故に、過激な思想へと変わってしまった事はいけない事だったと思い知るべきなのも当たり前の事だ。

 

…そんな未来があれば、俺はこんなことをせずに済んだのかもしれない。でも、もう立ち止まれない。一度抱いてしまった「恨み」は消えやしないのだから…。

 

俺を理解出来る人間なんてこの世界には…――

 

 

――――居ない。

 

 

……………………………………………。

 

 

峻輝「………ぅっ……。」

 

 

……視界がボヤける。ああそうか…あの後、俺は気を失って。

それにここは…どこだ…誰かが俺をここに運んだのか…?。

 

そう思いながら、意識を取り戻した峻輝はゆっくりと眉を開く。すると、視界に映った少女は小さな笑みを浮かべて自分の顔を覗き込む。

 

 

友奈「良かった!。目を覚ましたんだねっ!?。」

 

 

――その人物に、峻輝は一気に目が覚める。

 

峻輝「結城…友奈っ…!?。なんでお前がここに…っう…!?。」

 

友奈「動かないで?君の傷、とっても酷かったから…東郷さんに前に教えてもらった応急処置をしたんだけど…ごめんね、下手っぴで。」

 

巻かれた包帯は乱雑で、まるで小さな子供が巻いた布のようで。

だが、その必死さが分かるほどに傷の至るどころにガーゼや包帯が巻かれていた。

 

峻輝「何のつもりだ…俺を…新生大赦に突き出すか…?。」

 

友奈「そんな事しないよ?えっとね…ここ、私の部屋なんだ?。東郷さんのお家が隣だから少しヤバいかもと思ったけど、ここしか無かったから…私の両親、今週はお仕事で帰ってこないからしばらくは大丈夫だよ?。」

 

そう言いながら、氷水に浸したタオルを額に当てる。

 

峻輝「……冷てェよ。風邪引いたわけじゃねェんだから。」

 

友奈「あっ、ごめん!。うぅ…どうしよ…東郷さんに聞いた方が早いけどマズいよね…ネットで調べるしかないかな……あ…あんまり大きな声を出すと東郷さんが心配して来ちゃったりでもしたら…あわわわ。」

 

峻輝「チッ……落ち着けよ。そのまんまでいい、あんた…俺より一つ年上なのに冷静さなんてもんがまるで無ェんだな。かの有名な"勇者部"の人だったから尊敬はしてたんだけど。」

 

友奈「うぅ…ごめん……。」

 

峻輝「…いいって。尊敬も"昔の話"だ。今は動けねェ…あんたに敵意が無いなら俺も何もしねェ。ただ…説教は勘弁な。あの時のこと、今でもウザいくらい耳に残っちまってるんだからな。」

 

友奈「あの時……分かった。何も言わないよ?私も戦う気は無い。もし、新生大赦に突き出す気があるのならここに連れて来てないから安心して?ただ、怪我をして倒れてた君を見かけたからこうしてるだけ。今は忘れよう?お互いの事。」

 

一時休戦。

2人はそれで合意した。そこからしばらく沈黙が続くが、先に言葉を発したのは友奈だった。

 

友奈「ねェ…一つ、聞かせてもらっていい?。嫌じゃないなら良いんだけど…。」

 

峻輝「……なんだ。」

 

友奈「…「獅子座」の事なんだけど…あの子、私と同じ「存在」って言ってたけど……それってどういう事なのかな…聞いた話だと「枝葉の別れた世界線の"私"」って事なんだけど。」

 

峻輝「…俺も詳しくは知らねェ。「並行世界」ってやつだろうけど、そんなもんが本当に存在すんのかも分からねェ。ただ、この世界は何が起きても不思議じゃねェって事は分かる。だから、その話が本当なんだろうなって思う。」

 

友奈「……そっか。」

 

峻輝「気になんのか?あの人の事。」

 

友奈は自分の手を見ながら、コクリと頷く。

 

友奈「……私と同じって事はきっと……"祟り"もおんなじなんだなって。」

 

 

"祟り"。

それを聞いて、峻輝は苦い顔をする。

去り際に本人から告げられた身体の秘密。あの夥しい痣は明らかに命の危険を知らせている。事実、彼女に残された時間は残り少ないもの…それを何に使うかは分からないが、終わりが近づいている事で彼女は生きる事を諦めてしまっている。袂を分ったとはいえ、自分にとっては運命を変えるきっかけをくれた人物だ。

…正直、何とかしたい。そう思っているが……。

 

 

峻輝「……変に同情すんなよ?。あの人は…自分の生き様にケジメをつけようとしている。あんたが出張った所でどうにもならねェぞ?。」

 

友奈「…うん、分かってる。それは私が一番理解してる。この身に起きたあの苦しみと絶望感…私がよく知ってるから……。」

 

自分の胸元を押さえながら、かつて痣が刻まれた箇所を強く握り締めて瞳を閉じる。

 

峻輝「……そうか、すまねェ。少し…無神経だった。」

 

友奈「ううん、いいの。あの子なりの覚悟があるなら私は…変に踏み込まない。ただ、どうにかなるものならしたいって気持ちはあるけどどうにも出来ない事はちゃんと理解してるから。でも…貴方はどうなの?。」

 

峻輝「…はっ?。何が……。」

 

友奈「あの子の事…どうにかしたいって思ってるんでしょう?。」

 

 

………相も変わらず、確信を突いてくる。

そうさ、その通りだ。自分の復讐も大事だ、その為にこの人生を投げ売ってるのだから。だけど、心に残るものがずっとあった。

本当は一緒に来て欲しかった。世界を捨てた者同士、この復讐を終えたら静かに身を隠して過ごしたかった。だが、彼女は拒絶した。

 

『三神官』との"制約"により離反出来ない事。その"制約"が何なのかは全く分からない。だがそんなものよりもっと重いものがあった。

それが先ほど、友奈の語った"祟り"だ。

彼女は自分には想像が付かない程の大きな"呪い"を抱えている。それがどうにもならない事で、時間が全く残されていない事。

もう、諦めるしか選択肢が無いこと。全てを知った自分を唯一理解してくれた人…その恩があるから放っておけなかった。

 

だが、彼女も覚悟を固めている。その覚悟に異議を唱えるのは違う気がした。自分だって、覚悟の元で周りを拒絶している。それと全く同じ事なんだ。彼女は救いを求めていない。なら、あの時はその事実を受け入れて去るしかなかった、諦めるしかなかった。

だけど、やはり……諦めきれなかった。それがずっと心の奥底にあるのだから。知らなければ良かった…そんな後悔さえ、自分を蝕んでくる。

 

 

無意識に拳を固めていると、友奈が手を重ねてくる。

 

 

友奈「…やっぱり、君はとても優しい人なんだよ。」

 

峻輝「……やめろ、そんなんじゃねェ…俺は…。」

 

友奈「ごめんね、でも言わせて欲しい。君がそれを大事だと思っているのなら貫くべきだと思う。君の復讐は同意出来ないけど、自分の信念と同じくらい大切な事なら、例え無理だとしてもやれる所までやるべきだと思う。」

 

峻輝「……でも、無理と分かっててやる意味があんのかよ…あの人の覚悟を踏み躙ってまで、自分の気持ちを貫く事が正しいって言えるのかよ…?。」

 

友奈「正しいか正しくないかじゃない。自分の気持ちだよ、心に従って動くべきだと思う。今の君は迷子の子供のようで、泣かずに手探りで親を探しているのと同じ…自分の事と大切な人の事でずっと悩んでる。」

 

 

…言葉が出ない。"同じ"だからだろうか…この人も"祟り"を抱えていた時、言いたくても言えなかったのかもしれない。自分で何とかしようと躍起になっていたに違いない。そして…一度は"諦めた"のかもしれない。

 

…ったく…同じ顔でそんなことを言われちまうと揺らいじまうじゃねェか。俺が何の為にこの力を手にして世界に喧嘩を売ったと思ってるんだ。ここでやらなきゃただの中途半端な野郎じゃねェか…自分が前に進む為だろ、他人の血を流してまでやらなきゃいけない事なんだよ。この世界が憎いから。でも…――

 

 

――喪いたくねェよ。

自分のはただの事情だ。後でどうとでもなる。でもあの人は…時間が無い。もう、無理なのかもしれない。けど…見捨てられねェよ。

どうすりゃ良いんだ…手段が無ェのなら、時間が掛かっちまう。その間に確実に呪いが身体を蝕んでる…俺は…どれを選べば良いんだ……。

 

目の前にいるコイツは同じ顔をした別人だ。あの人じゃない、けど…その優しさと暖かさは全く同じだ。そして何処か…俺を"理解"しようとしてる。だから、こんな言葉を掛けてくるんだろう…敵なのに、ズルいじゃねェか…心のどこかで、コイツと対峙しちまう事に戸惑いが出ちまうじゃねェか。

 

 

結城友奈…何なんだ、"この人達"は…何でこんなにも……。

 

「優しい」んだ。

 

 

――その時、友奈の部屋の扉が開く。そこにいた人物は…――。

 

美森「友奈ちゃん?。その人は…!。」

 

牡丹餅を片手にやってきた美森は、そこにいた峻輝の姿を見て敵意を露わにする。勿論、友奈は誤解を解くために声を出そうとするが。

 

峻輝(ったく……何でこうもタイミングが悪いかね……仕方ねェ、この人が責められるんなら……!。)

 

机に置いてあったハサミを手に取り、友奈の背後に回って首筋に突き付ける。

 

峻輝「動くな、動けばコイツの喉を掻っ切るッ!。」

 

友奈「え…ちょ……ッ……!。」

 

美森「ッ……卑劣な真似を…人の家に忍び込んで何を企んでるのッ…!?。」

 

友奈「違うの東郷さんッ!彼は何も……!。」

 

峻輝「ハッ…コイツの「擬似勇者外装」ってのを奪おうとしたんだけど…タイミングが悪かったようだ。ここは退かせてもらうぜ、下手な動きさえしなけりゃ傷付けたりはしねェ。」

 

テラスに向かって少しずつ下がり、退路を確保すると。

 

峻輝(……さて。)

 

力を緩めて彼女にしか聞こえないように耳元で。

 

 

――すまねェ、ありがとう。

 

 

それだけを言うと変身して一気に飛び出していった。巻かれた包帯が外れて風と共に空を舞う。

 

美森「友奈ちゃん、大丈夫ッ!?。」

 

友奈(……峻輝君…どうして君はそこまで………。)

 

 

"悪者"になろうとするの…――

 

 

…………………………end。




結城友奈。
恩人と同じ姿をした少女。

彼の運命に、この少女"達"が常に関わっている。

そして彼は………

大切な人を救う手立てを探す――

次回
第71話 "ユウキ ユウナ"が生きる世界。
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