紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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――救いたい人がいる。

俺の生を繋いでくれた人。変わるきっかけをくれた人。

もう、手遅れなのは分かってる。それでも…。

――誰かの為に、一度だけでもいいから足搔いてみよう…。


第71話 "ユウキ ユウナ"が生きる世界。

 

 

 

「私は"祟り"を抱えている。」

 

 

その一言から始まった俺の葛藤。

別れ際、一緒に来て欲しくて手を差し伸べたが彼女は拒否をした。

最初はそれで良いと思っていた、俺も自分の事情で行動する事にしたから。それに、あの人を巻き込む事になる…そう思ってあの時は諦めた。

 

だけど、日を追うごとにあの人が言った言葉が頭から離れない。

 

 

「私には時間が無い。」

 

 

その一言がずっと脳裏に過ぎる。つまり、あの人は死ぬという事だ。

分かっている、「死」を受け入れた人間はどんなことがあっても希望を見出さない。

元々、自分が居た「世界線」であの人は死ぬ以上の地獄を経験している。

だから、「死」は彼女にとってある意味の解放なのかもしれない。けど、俺は…生きて欲しいと思っている。

 

報われない人生、そのまま終わるのはあまりにも悲しすぎる。俺が踏み込んでいい領域じゃないのは理解している。だけど、一度だけでもいいからあの人が「助けて」と言えば俺は……そこに全力を出せる気がする。

 

 

 

 

 

 

――絶対に言わないだろう、口が裂けてもあの人は絶対に言わない。残りの時間を使って『三神官』に使われる道を選んでいる。

 

"制約"だかなんだか知らないが、あの人は呪いのほかにも目に見えない"枷"を填められている。

 

俺の身勝手というのは重々、承知しているさ。生きることを望んでいない人間にとって、俺の願いはただの迷惑なものだ。だから、こう思うんだ。

 

 

――俺を生かしたのなら、とことん"迷惑"をかけてやる…と。

 

 

 

…………………………………………

 

 

峻輝「――ここも、ハズレ…か。」

 

 

―俺は今、新生大赦の資料保管施設に潜入している。

理由はあの人に掛かった"祟り"を解く手段を探す為だ。もし、手立てがあるのならこんな場所に保管なんてしていないのは分かっている。だから、もっと上……旧世紀の情報が厳重に保管されていると言われる「封印殿」ならあると思い、その在処の情報を探っているという事だ。

 

そこにも無ければ、八方塞がり…自分の目的と一緒に本殿を落として乃木園子から聞き出すか、『三神官』に問いただすかの2択となる。当然、どちらもリスクは高い…前者は全面対決になるし後者は望みが薄い。どちらにせよ、苦労することは明白だ。まあ…前者なら、時を早めるだけの事…いずれ、新生大赦本殿に攻め入る段取りをある程度は考慮している。

 

 

 

……どうして、こうなっちまったんだろうな……俺の人生、たった15年でここまで波乱になるなんて思いもしなかった。だけど、こうなる運命だったのかもしれない。昔読んだ本にこうあった。

 

「人は生まれたその瞬間から、神によって運命が決められている」。

 

――何故か、その文面が頭の中に残っている。

確かに、そうなのかもしれない。神が全ての世界だ。神の為に尽くし、神の為に戦い、傷付きそして……死んでゆく。

 

それが当たり前の世界だった。だからこそ、神が全てを決めていると言われてもどこか納得が行く。

 

でも、本当にそれでいいのか?。だとしたら、俺達"人類"は何だって言うんだ?。神に媚びてまで、その為だけに生きているなんてそんなの…死んでいるのと変わりないじゃないか。

 

そして俺が今、救いたいと思っている人も神と世界によって滅茶苦茶にされた人だ。

 

何が"祟り"だ…何の権利があって、人にそんな呪いを掛けると言うのだ。

 

そのせいで、あの人は死から逃れられない現実にある。あの人が何をしたと言うのだ、本当は世界の為に尽くして来たんじゃないのか。それを、こんな仕打ちをされるなんて俺は…納得がいかない。

 

 

だからこそ、予定を変えてこんな行動に出ている。俺のやってる事が混乱を招いているなんて百も承知だ。けど、関係無い。

 

全てを捨ててまで俺は世界を壊し、あの人が生きる世界へと変えたい。

 

 

あの人…「ユウキ ユウナ」が生きる世界を――――。

 

 

峻輝「――やっぱり、"コイツ"に頼る他無いか。」

 

気が付けば俺は、ある奴の家の前に立っている。表札に書かれているのは……。

 

 

「紫藤」。

 

 

俺の…親友"だった"奴の家だ。

 

 

峻輝「…虫が良いのは知ってるさ。けど、背に腹は変えられねェ。場所さえ教えてくれればそれで……。」

 

 

「お前は…!。」

 

 

……ったく、タイミングが良い事だ。今日は少し、ツイてるのかもしれない。誰か取り巻きがいると思っていたが、まさか…1人だなんてな。

 

 

峻輝「――よォ。」

 

流星「峻輝…お前、何故俺の家に…。」

 

 

手には買い物袋。そうか、買い出しに出ていたのか。確か、コイツの両親は大赦務めだったな。ということは…なるほど、俺が"原因"か。

 

 

峻輝「俺に敵意は無ェ。最も、お前がその気なら受けて立つけど。」

 

流星「…ここじゃ、人目がつく。俺に用があるんだろ、中に入れよ。そこで…ゆっくり話そう。」

 

そう言って、流星は家のドアを開ける。

 

峻輝「助かるよ、話が早くて。」

 

流星「聞きたいことは山ほどあるんだ。お前と腹を割って話せるなら…な。」

 

 

……………………………………。

 

流星「お茶…ほうじ茶でいいか?。」

 

峻輝「気を使うなよ、なんでもいいさ。」

 

周囲を見渡す峻輝。

変わらねェな…相変わらず、何も無い部屋だ。

 

少しだけ、懐かしくなる。

 

 

流星「それで…何の用だ?。今、お前の行動がどれ程の混乱を招いているのか、自分がよく分かっているだろう?。」

 

峻輝「はっ…すっかり、大赦の犬だな?。」

 

流星「ッ…はぐらかすな…!。」

 

峻輝「まァ落ち着けよ、悪かった。俺が間違いでお前が正しいもんな。そう聞いて当然だ。けど、俺にも引けない事情がある。そこだけはハッキリさせておく。」

 

 

…しばらくの沈黙。2人は互いに見続ける。

だが、先にその糸を解いたのは…流星だった。

 

 

流星「…いいさ。その時が来れば、俺は全力でお前と向き合う。」

 

峻輝「お前に出来るならな、俺は強ェぞ?。」

 

流星「それでも超えてみせる。俺の声が届くまで、何度だって。」

 

峻輝「…はぁああ…お手上げだ。お前と探り合いしても俺が負けるだけだ。本題を言う、お前に会いに来たのは"ある場所"を教えてもらうためだ。」

 

流星「ある場所?。」

 

峻輝「「封印殿」。お前、行ったことあんだろ?。」

 

それを聞いた流星は、顔色を変える。

その顔は…敵対者を見る顔だ。

 

流星「お前…今度は何をする気だ?あそこは…!。」

 

峻輝「旧世紀の情報が大量に保管された禁区だろ?知ってるさ、それだけじゃねェ…あそこには、"神"に関する情報もいくつか保管されている。どれもこれもが世の中に出てねェ大赦にとっては"都合の悪い"情報が山となるほどな。」

 

流星「そこに行って、その"都合の悪い"情報とやらを公表するつもりか?。」

 

峻輝「それも面白ェな、世界が大混乱に陥ってますますカオスな状況になりやがる。」

 

流星「…真面目に答えろ。」

 

峻輝「へいへい。俺は今、ある人を救いたいと思っている。」

 

 

…そう告げたアイツの顔は驚いていた。

ったく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしやがって。そんなに意外だったか?。

 

 

峻輝「その人には時間が無ェんだ。一刻も早く、情報を集める必要がある。」

 

流星「その人って…誰なんだ?。」

 

峻輝「お前には関係無ェ。早く教えろ、それだけ聞けたら俺は消える。」

 

その時、流星が立ち上がって俺の胸ぐらを掴んでくる。

その表情は見たこともないほど、怒っていて。

 

流星「ふざけるなよお前!。一方的に何でもかんでも、振り回して来て!。俺なら教えてもらえると思ったか?甘く見るなよ!。俺だって、"防人"の一員だ!そんな大事な情報を簡単に渡すわけが!。」

 

峻輝「――頼む。お前しか…頼れる奴が居ない。」

 

 

歯を食いしばって、握る力が強くなる流星。

殴られるだろう…そう思って、峻輝は受け入れようとする。だが…彼は殴らなかった。

 

 

流星「……っ……何だよ……こっちがどんな思いをしてお前を止める為に色々考えてると思ってるんだ…やっと、面と向かって文句を言えると思ったら今度は「封印殿」を教えろって…どこまで自分勝手なんだ、お前……。」

 

峻輝「…すまねェ。」

 

流星はスマホを開いて峻輝に位置情報を送る。

 

流星「…この山間部のポイントに「封印殿」がある。だけど、強固な結界が敷かれているはずだから、簡単に突破は出来ないぞ。上位神官か宗主様の側近…安芸さんしか解除出来ないはずだ。」

 

峻輝「つまり……。」

 

流星「ああ、必ず察知されると言うことだ。」

 

峻輝「やっぱり、容易じゃねェか。分かった、後はどうとでもなるだろ。サンキュー、お前から送ってもらったこの情報は消しておく。俺との関与が露見されちまったら、お前も牢送りになっちまうだろうからな。」

 

流星「待てよ。お前は…本当にこの世界を壊すつもりなのか?。」

 

峻輝「…ああ、そうだ。」

 

流星「亜耶も…お前に戻って来て欲しいって思ってる。俺だって…!。」

 

峻輝「すまねェ、本当にすまねェ。亜耶ちゃんの事はもう…いいんだ。気持ちにケリを付けた。今、あの子が見てるのはお前だ流星。お前に寄り添う巫女として、あの子はお前の往く道に最後まで付き合う覚悟を固めてる。だから、俺から頼みがあんだ。『三神官』に絶対、渡すんじゃねェぞ。アイツらは自分の事しか考えてねェ。"邪神"を呼ぶなんて大層な事を言ってやがるが、実態が何なのかは"使徒"でさえ分かってねェんだ。この世界の本当の敵は…アイツらなのかも知れねェ。」

 

流星「何か…知ってるのか…?。」

 

峻輝「さぁな。これに関しては俺もマジで分かってねェ。けど、亜耶ちゃんがアイツらの手に落ちれば全てが滅茶苦茶になっちまう事は間違い無ェ。俺の目指す世界とアイツらの描く世界は…真逆だ。」

 

流星「待て…今、世界はどう動こうとしているんだ!?。教団で何が起きてる!?。」

 

峻輝「この間の「人造神計画」は破綻しちまったが、亜耶ちゃんが人を超えた存在になった事はアイツらにとって大きな収穫だった。それだけしか言えねェな。俺もマジで知らねェんだ。」

 

流星「分かった。…亜耶の事は守り切るさ、それにお前だって――。」

 

峻輝「それに関しては……期待すんな。ただ、その時が来れば…全力で止めてみせな。お前の全身全霊をかけて…俺を否定してみせろ。」

 

 

それだけを言うと、峻輝は去っていった。

ただ、出したほうじ茶は全て飲み干していた。

 

――少しは…話が出来たのか。

流星はそう思い、峻輝を見送った。

 

次に会う時はきっと…アイツが全力で向かってくる時だろう。その時、俺はその全力を超えなければいけない。

 

そして、アイツの復讐心を打ち砕いてこっちに連れ戻す。その為に俺は……。

 

今よりももっと…強くなる――。

 

 

……………………………………。

 

〜『封印殿』〜

 

峻輝「…山間部のさらに奥地…空からじゃないとなかなか辿り着けない場所…ハハ、強固な結界で空からも完全に隠しきってやがる。流石だ、神無き世界でも、まだこんな強力な結界を創り出せるのか。」

 

 

目の前にある鳥居を潜ると、巨大な古い社が姿を現す。峻輝はその前に立ち、既に「擬似勇者」へと変身をおえていた。両手には二つの呪具…"生太刀"と"大葉刈"が握り締められていた。

 

 

峻輝「神聖な結界に、この呪いは猛毒だろ。さて……。」

 

二つの"呪具"を合わせると、膨大な瘴気が辺りを覆い尽くす。

 

峻輝「――神の持ち物であったこの2つの"神具"は、俺という"素材"を媒介に人の"悪意"を大きく吸い取って"呪具化"した。…この世界は"悪意"だらけだ。目に見えない、醜い人の"悪意"が蔓延してやがる。そのせいで、各地にばら撒かれた神樹の残滓がどんどん衰退してやがるんだ。まぁ…原因は「外」…にあるのかもしれねェけどな。」

 

そう言って、膨れ上がった瘴気をその身に宿す。

 

峻輝「ぐっ…っ…うぅ……はは…流石にこの瘴気を纏うのは身体に毒…だな。でも、これもあんたに比べたらまだまだだ…そう…"祟り"に苦しんでるあんたに比べたら……!。」

 

 

脳裏に浮かべるのは「獅子座」…"ユウキ ユウナ"の顔。

全てを諦めた彼女にもう一度、"希望"を与えられるチャンスがあるのなら…それが例え、一本の蜘蛛の糸だったとしても――。

 

 

――自分の全てを賭ける"価値"はある。

 

 

峻輝「ウオオオオオオオオオッ!!。」

 

 

渾身の一叫び。纏った瘴気を一気に解き放つ。

結界と激しくぶつかり合い、強烈な衝撃波が当たり一帯に吹き抜けていく。

 

そして――。

 

 

峻輝「はぁ…はぁ……ッ…何とか……競り勝ったか……。」

 

結界の札が全て焼き切れ、地面に落ちると同時に「封印殿」の入り口が現れた。

 

 

峻輝「……ここに…答えがあるのなら…持ち帰ってみせるさ。そして…あんたが生きられる世界を…今度こそ……。」

 

 

 

――あんたが…"笑える"世界に。

 

 

…………………………………end。




「封印殿」の内部へと踏み入れた峻輝。
強行突破で突入したせいで、新生大赦がやってくるのも時間の問題だ。

そして彼は…


――パズルの「ピース」を見つける。

次回
第72話 たった一つの道。
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