紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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もう、止められない。止まらない。

俺は……全てを手に入れる。


第73話 黒百合の乱。

 

 

 

『封印殿』の結界が破られてから数時間後…現場に向かった神官達から連絡が来ない。

つまりは、そういうことだ。止められなかったという事。

誰が侵入したかなんて大抵予想は付く。目的までは分からないが、あそこに用があったという事は何かしらの情報を探りに来たのだろう。そうなれば、次の目的は――

 

 

園子「ここ(本殿)に来る――。」

 

 

最大限の警戒態勢を。私も、戦う準備を整える。

彼は直接、ここを落としに来るだろう…まるで、旧世紀の"戦国時代"を感じさせるような気持ち…あの頃の大将はこうして、静かに覚悟を固めていたのだろう。

不思議と、心が落ち着く…きっと、こうなることが分かっていたからかもしれないからだ。

そして、負けるわけにはいかない。自分が倒れたその時、それは"新生大赦"が崩壊するという事。

 

私はまだ、何も成し遂げていない…だから、まだ死ねないのだ。

本殿に居る神官達は避難させている。彼の狙いは私…無駄な殺生はしないと信じているからこうして自分一人がここに残った。武力衝突は免れない、だから戦いながら対話を試みようと思う。

 

彼の怒りを、思いを…その全てを受け入れて謝るために。

 

 

園子「――私はいつでも構わないよ。本殿の扉は開いている…だから、来なよ。」

 

 

 

三上峻輝君。

 

 

 

………………………………………。

 

流星「――そうですか。」

 

その一方、俺は芽吹さんから連絡を受けていた。

『封印殿』が何者かに襲撃された事。現場に向かった神官達が全て、返り討ちに遭った事。死人は出ていないが、甚大な被害をもたらしたらしい…『封印殿』そのものは無事らしいが、誰がやったかなんて自分が一番よく知っている。だって、アイツにその場所を教えたのは…"俺"だからだ。

 

 

(私達は『封印殿』に向かうわ。流星、貴方は"勇者部"と連携して不測の事態に備えて頂戴。)

 

流星「わかりました。そちらもお気をつけて。」

 

(…一つ、聞きたいことがある。貴方…"何か知っている"わけじゃないわよね?。)

 

 

――この人に嘘は通じないし、吐きたくない。

俺は…正直に事の詳細を伝えた。正直、後で殴られることを覚悟して言ったんだ。しかし、意外にもあの人はこう言って。

 

 

(――そう。彼がね……分かったわ。報告によると歴史的文献の数々は無事みたいだし、直接的な被害は捕らえに来た神官達を返り討ちにした事と結界が破られた事ぐらいみたいだし、後は細かな調査で色々と分かることよ。ただ…反省はしなさい。貴方の取ったその行動で神官達が傷付いたという事。下手をすればここにある情報の全てが塵と化したかもしれないという事。それほど、大きなしでかしをしたのよ。)

 

流星「…はい、すみません…。」

 

(ただ…友達を思っての行動だと私は思っているわ。だから、その責任を果たしなさい。貴方が…彼を止める事。次の行動は予測出来ない。何を探りに貴方に『封印殿』の在処を聞いたかなんて分からないけど、知った情報次第では大きな手を打ってくるはずよ。その時は…全力で戦いなさい。人を理解するという事は、命を懸ける覚悟と同義よ。)

 

流星「分かっています。それについては、何の問題もありません。次、会った時は全力で戦うとアイツにもそう告げています。理屈も何もいらない…アイツが抱えてる"闇"を叩き潰さないときっと分かり合えないから…任せてください。俺は…大丈夫です。」

 

それを聞いた芽吹の声質は柔らかくなり「あとは任せた」、それだけを告げると通話が切れた。

 

 

流星「…アイツが動く。ならば…結城先輩にも知らせないと…!。」

 

 

―――――――――――

 

~新生大赦・本殿~

 

 

黒い雲が空を覆う。今にも雨が降り出しそうなこの空の下、静かな本殿の門の前に彼…峻輝は立っていた。

すでに"疑似勇者"へと変身を終えていて、その両手には得物がしっかりと握りしめられていた。

 

峻輝「…えらく手薄だな。歓迎しているのかそれとも…余裕なのか……俺がここに来るという事はすでに看破されてやがったか……。」

 

そう言いながら、門を潜る。

だがその先に彼女…乃木園子が変身を終えて既に待ち受けていた。

 

 

峻輝「なんだ、出迎えをお願いした覚えは無ェんだけどな。」

 

園子「そうだね。でも貴方は大事なお客様だもん、門の前まで出てくるのは礼儀として…だよ。」

 

 

両者は向き合う。その雰囲気に隙など全く無い。

 

 

園子「…少し、お話をしよっか。仮面を脱いだ貴方とこうして顔を合わせるのは"初めて"だからね。」

 

峻輝「…フン、手短にな。これから嫌というほど意地をぶつけるつもりなんだからな。」

 

園子「…貴方の過去を調べさせてもらったよ。火に油を注いじゃうかもだけど、貴方のご両親の事、当時の大赦は理解していなかった。」

 

峻輝「…いいさ。何であれ、やり方は過激そのものだったからな。俺もそうだ、血は争えねェ…訴えたいことを押し通すためにはこういった手段でねェと伝え方が分かんねェ不器用な一家だ。」

 

園子「――今でも、大赦を恨んでいる?。」

 

その質問に、峻輝が出した答えは…。

 

峻輝「――どうだかな。」

 

 

 

――もう、どうでもよくなったのかもしれない。最初は、両親の無念を晴らすために世界を壊すつもりだった。その気持ちが今もあるといえばある。しかし、前ほど必死にはなれない。

 

世界の真実を隠し続け、嘘で塗り固められたこの世界はくだらないと今でも思っている。だから、一度壊して正しいものを主張できるような世界へと生まれ変わるべきだと考えてはいる。だが、何故だろうか…そんなことをしても、世界が大きく変わる保証はない。事実、自分が起こしたこの行動を面白がっている人間が多くみられた。要するに、人は面白いものに乗っかる習性がある…ついこの間までは何とも思っていなかったのに、行動を起こした人間に乗っかって、自分と同じことを強く主張する。微塵も興味がない癖に、自分も革命の一部になっていると勘違いを起こしているのだ。そんな人間が塗れたこの世界で、当初の目的を果たしたところで何の意味も無い…そういった馬鹿どもが調子に乗るだけだと、最近はそう思い始めていた。

 

――意地…なんだろうな。自分がこの道を選んだ為に中途半端で終わらせたくない…そんな子供みたいな意地がずっと身に染みている。だからこそ、今更引き返したくないんだ。

だが、それ以上の"意味"を今は見付けている。その結果が生むことは世界の混乱だ。この世界に残った最後の"神力"を利用しようとしているのだ。たった一人の為に。

 

いつしか、その思いが自分の中の全てを上回ってきた。だからこそ、ここに立っている。明確な理由を以て、ここに立っているんだ。

 

 

気付けば俺は、"生太刀"の切っ先を向けていた。

 

 

峻輝「この世界はクソだ。神だのなんだのに振り回されて、いつも誰かが泣く羽目になる。それが誰かはお前が一番理解しているだろう、当事者だもんな。それでも…この世界を守るか?。」

 

 

園子「――守るよ、全部。」

 

 

――直後、申し合わせたように2人は激突する。

互いの刃がぶつかり合う剣戟の中、黒い雲から大粒の雨が降り注ぐ。

 

 

峻輝「立派なもんだ、そこまで意地を貫けるのなら、俺はもうお前らを否定しねェよ!。」

 

園子「だったら…こんな事、やめにしないッ?。」

 

 

以前、対峙した時とはまるで違っていた。

彼女の剣戟はとても精巧で、意表を突いてくるかのように自分の一手を防ぎ続けてくる。

流石、"最強"と謳われたことはある…相手にとって、不足はない。こうでなくては困る。

峻輝はそう感じながらも、彼女の牙城をどう崩そうかと詮索する。

 

 

峻輝「お前を倒して俺は"あるもの"を手に入れる!。」

 

園子「…"あるもの"?。」

 

競り合いの中で、彼が言ったその一言に攻撃の手が一瞬だけ緩まった。その隙を逃さない峻輝、放った一刀は彼女の胸を僅かに削った。

 

峻輝「ここにあるんだろ?。神樹が遺した最後の神力…"枝"が!。」

 

園子「!!。」

 

 

この反応…やはり。

そう思う峻輝はさらに攻撃の手を強める。

 

 

峻輝「それが必要なんだ!。おとなしく渡してくれるなら俺は消えてやる!。」

 

園子「…それを使って、何をする気?。」

 

峻輝「決まってる……"あの人"を救う為だ!。」

 

 

大きく横薙ぎに振った"生太刀"の一撃を、彼女が難なく防ぎ切る。

 

 

峻輝(マジかよ…涼しい顔で防ぎやがって…!。)

 

 

槍を構える彼女の雰囲気が一変。構えただけで伝わるこの威圧感…とうとう、"本気"になった。

 

 

園子「君がどんな事情を抱えているかは知らないけど、「宗主」としてそれは看過できないかな。」

 

峻輝「ッ……!。」

 

園子「あの"枝"はこの世界に散らばる残滓の残りを報せるもの…枝が枯れたその時、"恵み"は失われる。人類はまだ、その準備を終えていない。人類が立て直すための最後の贈り物なんだよ。」

 

峻輝「それがどうした…時が早まるだけの話だろうが、一人の命が掛かってんだぞ!。」

 

園子「…幾千幾万の命も掛かってる。」

 

峻輝「…何を…ッ!。」

 

園子「君が誰かを助けるためにこんな行動を取った事は分かった。『封印殿』に赴いたのも、"それ"が理由なんだね。けどね……あれは使っちゃいけないものなの。」

 

峻輝「んなの関係あるかッ!。それしか方法が無ェんだよッ!。」

 

 

"大葉刈"に持ち替えた峻輝は、怒涛の連撃を繰り出す。だが、決定打は与えられない。その全てを見切っているかのように、攻撃の手を悉く防がれる。次第にメンタルが削られるも、それでも諦めない。この"最強"を崩す為に、全てを賭けて挑み続ける。

 

 

園子「神様の力を使うのはダメだよ。それは"約束"なの……本当の事を話して。もしかしたら、力になれるかも―――。」

 

峻輝「――それしか、無ェっつってんだろッ!。」

 

園子「ッ……!?。」

 

峻輝「…あんたらはいいよな……2年前なら間に合ってるんだから…でもな…神様が消えたこの世界においてそんな奇蹟が起きるはずも無ェ…自力でどうにかするしか無ェんだよ……その"答え"が…たった一つの道が目の前にあるのなら手を伸ばしたくなるのは当たり前だろうがッ!。」

 

 

――"祟り"を祓う手段が…そこにあるのなら…!!。

 

 

園子「……ぇ………?。」

 

 

息が詰まりそうになった。

"祟り"…まさか、彼はそれを祓う為に"神力"を手に入れようと言うの?。

助けたい人って……まさか……。

 

 

瞬間、彼は目の前に居た。

目に宿るのは揺るぎない意志。叫びと共に振り下ろされた一撃は彼女の表を突いた。

ほんの僅かに反応が遅れた園子はその斬撃を受けてしまう。だが、致命には至っていない…すぐに態勢を立て直し、彼を引き剝がす。

 

峻輝もまた、返された槍を一撃を受ける。右肩に深く刺さったそれは力を瞬時に奪うほどの傷だった。だが…得物は離さない。

 

両者、息を切らしながらも対峙し続ける。雨は無情にも強さを増し、最早対話すらも成立しないほどにまで大きな音を立てて――

 

 

峻輝「――なァ…あんた達だって、2年前に世界を捨ててまで一人を助けたかったんじゃねェのか…?。」

 

園子「……そう……だよ………。」

 

峻輝「ならよ……ちょっとくらい、情を向けてやってもいいんじゃねェのか……あまりにも不条理じゃねェか……あの人は、一度は世界の為に戦ったんだぞ!。なのに、どうしてこんな仕打ちを受けなきゃなんねェんだッ!。どうして、"こっち"のあの人は幸せを手にして"向こう"のあの人は不幸のまま人生を終わらなきゃいけねェんだッ!。どうして"世界"はあの人に……冷てェんだよ……。」

 

園子「ッ……それは……。」

 

峻輝「どうしてあの人を独りぼっちにすんだよッ!!。誰も気にかけてやらねェんだよ!。あの人は……"ユウナ"は泣くことも出来なくなっちまったんだぞッ!!。」

 

 

峻輝の叫びに"大葉刈"が反応を示す。

禍々しい気……この武器の持ち主も世界に見放されて無念の中で散っていった。それに同調したかのように、その纏う膨大な"怨嗟"が彼を包み込む。

 

 

そして……「漆黒の花」が芽を開いた。

 

 

峻輝「……――来い"崇徳天皇"。」

 

 

花が散ると同時に、地面から膨大な量の"邪気"が溢れ出てくる。

それは瞬く間に本殿を覆い尽くし、冷たい漆黒の世界へと変貌させた。

 

 

日本三大悪霊の一つ「崇徳天皇」。

"大葉刈"が内包していた怨嗟の気と峻輝の世界に対する"怒り"がこの禁断の"切り札"を発動させた。

 

 

 

峻輝(崇徳)『――ユウナが生きる未来を俺は……作る。』

 

 

…………………………end。




最強の"悪霊"をその身に憑依させた峻輝の力は天災に匹敵する。

その特性はこの世界に漂う"悪意"を糧に増長するもの。


園子は…全身全霊を以てこの"悪意"に挑む。
彼が…吞まれる前に―――。


次回
第74話 "悪意"という名の優しさ。
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