紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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例え、この身が闇に堕ちても構わない。
自分が死ぬことになっても構わない。

ユウナが生きられる未来を――。
その為に俺は…世界を敵に回す。


第74話 "悪意"という名の優しさ。

 

 

峻輝(崇徳)『ユウナが生きる未来を俺は…作る。』

 

 

 

 

彼が放つこの"悪意"は空間を変貌させる程の異常であり、何もかもが規格外。

加えて、この"悪霊"はとてつもない邪気を持った存在であり、かつて"初代勇者"達がその身に憑依させた「切り札」の中でも"禁忌"と呼ばれた存在の霊を憑依させている。

 

日本三大悪霊の一角である「崇徳天皇」。それは"悪意"を引き寄せる性質を持っており、それを糧にどんどん強くなる。加えて、"呪具化"した『大葉刈』が引き寄せる邪気も合わさって、計り知れないほどのエネルギーを持った"切り札"だ。こんなもの、人の身に宿せばどうなるか誰にも想像は付かない。きっと、彼の命がもたないだろう。

 

しかも、身を凍らせるほどのこの"悪意"がこの異空間から解き放たれたら世界にどんな悪影響を及ぼすか…そう考えると、あまり時間は掛けられない。

 

 

園子「…覚悟、決めなきゃね。」

 

 

たらりと、冷や汗を搔きながら槍を構える。

こんな規格外の敵、小学生時代に3体の"バーテックス"を一人で相手した時以来だ。最も、今は純粋な勇者ではなく、それを模したイミテーションを纏っている姿…あの頃のような力は出せない。それでも、立ち向かわなきゃいけない。

 

 

――先手を仕掛けたのは、園子だ。

地面を蹴って、とてつもないスピードで突撃する。

 

 

園子「!!!。」

 

峻輝(崇徳)『…こんなもの、ユウナの抱える苦しみを考えればどうってこと…。』

 

 

避ける素振りも無く、彼は左手で矛先を受け止める。

流れる鮮血を気にすることなく、強靭な握力で刃を離さない。引き抜こうにも全く動かない様子に、彼女は歯を食い縛る。

 

 

峻輝(崇徳)『――この世界は残酷だ。命を賭した者に何の労いも無い。英雄視するばかりで、その苦しみを理解しない。あんただってそれを感じていただろうに…残念だよ。その苦しみを唯一、理解してくれると思ったのにな。』

 

園子「…ダメ…その力を求めないで!。本当に"戻れなく"なっちゃう!。」

 

峻輝(崇徳)『もう遅ェよ。今更、どうだっていいんだ。この"悪霊"から伝わる怨恨が俺に言ってくるんだ。「この無念を晴らしてくれ」って。分かるか?これは、名も知らない者たちが世界に"殺された"怨恨なんだよ。そして今まさに、ユウナが世界に殺されそうになっている。』

 

 

右手を開くと、邪気を放って彼女を吹き飛ばす。

地面を激しく転がる彼女は、その衝撃で吐血してしまう。全身の骨が砕かれたかのような衝撃…受けた傷が開いてさらに追い打ちを掛けてくる。

 

 

園子「ぅう……がは…ッ……ダメ……立ち上がらなきゃ……私が倒れるわけには……!。」

 

 

それでも、立ち上がる。その背に背負ったものの為に。

援軍は期待できない…自分しか、彼を止められない。槍を地面に突き立てて何とか態勢を立て直す。

 

 

峻輝(崇徳)『もう無理だろ。さあ、諦めて神樹の"枝"を渡せ。俺は未来を変える。彼女が生きられる可能性を渡してくれ。』

 

園子「……ダメだよ……"約束"だもん……私達(人類)は……もう間違えるわけにはいかないんだ……。」

 

峻輝(崇徳)『…そうか…ならば…死ね―――。』

 

 

振り下ろされた一閃。

空間ごと切り取るような一撃に、峻輝は手ごたえを感じる。だが……。

 

 

峻輝(崇徳)『…何…受け止めただと…?。』

 

園子「っ…ぅう……"勇者"……なめないでよね…!。」

 

 

強引に弾き飛ばす園子。だが、代償は決して大きくない。傷口からさらに血が溢れ出す。いくら致命傷では無いとはいえ、残された時間に余裕はない。

 

 

園子「……一つ、言わせてくれないかな……。」

 

峻輝(崇徳)『…何…?。』

 

園子「…"祟り"の本質は『天の神』がもたらしたもの……それに、神樹様の"枝"に残された"神力"は奇蹟を起こせるほどじゃない…あくまで世界中に散らばった"残滓"の量を報せるだけにしかすぎない……そんなちっぽけな"神力"であの強大な『天の神』の祟りが消えると思う…?。君がその情報を何から得たかは大体、想像は付くけど…書いてなかったかな……「極めて低い」…っと。」

 

峻輝(崇徳)『…っ…!?。』

 

園子「例え、その可能性があったとしてもそれは…天文学的な確率だよ……もし、失敗すれば"神力"を使った事によって祟りの侵攻をさらに増長するだけかもしれない……そんな不確かな「実験」に、もう一人のゆーゆを付き合わせる気……?。」

 

峻輝(崇徳)『…何を……だとしても、可能性があるなら……!。』

 

園子「君はッ!!。」

 

 

声を上げた園子は槍の柄で彼の腹部に打撃を入れる。あまりの衝撃に、今度は彼が地面を滑ることに。

 

 

園子「"神力"というものをちゃんと理解していない!。人の身に余るもの…そんなものを使っちゃうと人の限界を超えて踏み込んじゃいけないものに変わっちゃうのッ!。君も教団にいたのなら分かるよね!?"バーテックス因子"に吞み込まれた人達がどんな末路を辿ったのかをッ!。」

 

峻輝(崇徳)『!!?。』

 

園子「どんなに"特別"であっても、人は人の器から決して出ることは出来ないし出る必要も無い!。神様の力というものは人にとってはとんでもない劇薬なんだよッ!?。神様が許さない限り、同調することなんて決して無いッ!。君はその劇薬をあの子に使おうとしているんだよ!?。その低い確率の為に、あの子に残された時間の全てを無駄にしようとしてるんだよ!?。」

 

 

血を散らしながら、園子は猛攻を繰り出す。

あまりの猛撃に、峻輝は少し押され気味になる。洗練された槍裁きに、最強の"悪霊"を憑依させても押してくる…これも、才能がその差を埋めているのだと感じ取って。

 

 

園子「本当に救いたいのなら、一人で考えちゃダメだよ!。世界を敵に回してまでその方法を押し通すなんてそんなの……誰も幸せにはならないッ!!。」

 

峻輝(崇徳)『ベラベラと綺麗事をッ!。見捨てたくせにぃいいいいッッ!!。』

 

 

 

 

負けじと、峻輝も反撃の一手を繰り出す。

互いに血飛沫を上げながらも、決して相容れない思いのぶつかり合いが、この戦場にこだまする。

 

そして、その連撃の中で園子は考えていた。

彼の言い分も理解できる。きっと、少し前の自分なら同じことを考えて実行に移していたのかもしれない。そして、仮にも"神力"で彼女……大切な親友である「三ノ輪 銀」が蘇るという事実が目の前にぶら下げられたのなら自分も同じことを考えたはずだ。しかし、今の自分は世界の全てを背負う為に青春を投げ売ってこの地位に居る。

 

友達を救うために、神を見捨てたのだ。それを汲んでくれた神が居たからこそ、この世界に最後の贈り物をくれた。この"恵み"…贈り物は永遠ではない。人類が本当の意味で自分達の足で立って進むための準備物だ。いつか必ず、消えてなくなる。なら、この贈り物をその為だけに使うことが神との"約束"だと、ずっとそう考えてきた。

神の力がもたらすものは、人の身にはあまりにも重すぎる……「満開」と「散華」を経験してきたからこそ、その危険性と後の自分達に降りかかる困難を知っているから、絶望を知っているから使っちゃいけないと、そう訴えている。

 

きっと、この"神力"を使っても、もう一人の友奈…『獅子座』は祟りから解放されない。寧ろ、それが"毒"となってさらに加速させることになる……神の許可無しに、"神力"を使った罰としてその代償を払わされるのは使われた本人だから。

 

あんな苦しみ、そして哀しみをもう見たくない。友奈が抱えた哀しみを知っているからこそ、それを全力で止めたい。残された時間が少ないにしろ、別の方法を探す時間がほんの少しでも残されているのなら、苦しみを与えることなく解放する手立てを一緒に探す。一人で悩まない、悩んだら相談する。その大切さを知っているからこそ、彼女は峻輝に考え直してほしいと、そう訴える。

 

だけど、彼はそれを受け入れない。何故ならば、世界そのものを信用していないからだ。

彼にとって、世界はもうどうでも良いのだ。滅ぼうが栄えようがそんなことが重要ではない。ただ、目の前で尽きようとしている大切な人の命を救える手段があるのならば、それが蜘蛛の糸ほどの細さであっても手繰り寄せようとする。

 

「責任」と「執念」。

その二つが激しくぶつかり続ける。

 

 

園子「私達が争う理由なんてもうないじゃない!!。」

 

峻輝(崇徳)『いいやあるねッ!。時間はもう無ェんだ、一分一秒たりとも無駄には出来ねェッ!理解しねェならここでお前を殺してでも俺は"枝"を手に入れる!。それしか方法が無ェからッ!。』

 

園子「早計だよ!。きっと、別の方法がある!。けど、"神力"は絶対にダメ!。彼女を苦しめたくないなら、毒を以て毒を制すなんて危険すぎるよ!!。」

 

峻輝(崇徳)『危険だろうが何だろうが!!。』

 

 

一進一退の末、先にそのチャンスを掴んだのは…峻輝だった。

 

 

園子「…!?。」

 

峻輝(崇徳)『もらったぁああああッッ!。』

 

 

放たれた斬撃。すかさず防御態勢を取ったが、盾にした槍が耐え切れずに砕け散る。

そして、無情にも―――。

 

 

園子「……ぁ…………。」

 

 

――打ち上げられる自分の身体…大量に舞う自分の血……全てが静止したかのようにゆっくりと宙を舞い上がる。

目線の先には、血の涙を流した満身創痍な峻輝の姿。そして…力無く地に叩きつけられた。

 

 

園子「けふッ………。」

 

 

―――寒い。

視界がぼんやりと、霞んできた。血を流し過ぎた。今の一撃は命に届く一撃。もう、全ての感覚が無い。痛みさえも、感じないほどに。

 

 

峻輝(崇徳)『…はぁ…はぁ……俺の……粘り勝ちだな……。』

 

園子「……私の……負けかぁ………。」

 

 

 

――何故か、怖くない。全てを受け入れようと身体が、頭が勝手にそう思っているんだろう。

全力を尽くしてダメだったんだ、仕方ないよね。もう、指一つも動かせない。ここまで執念が強いなら、敵いっこないや。

 

 

峻輝(崇徳)『…やばかったよ、あんた。"崇徳"に頼らなかったら俺が負けていた。』

 

園子「……ねェ……やっぱり、考え直さない…?。」

 

峻輝(崇徳)『無理な相談だな。ここであんたを殺すんだ、この身に付いた血が消えることは無ェ。大人しく引き下がるなら、ここまで手を汚した意味なんて無ェよ。』

 

園子「……いいよ……私はここで死ぬ。けど、やっぱり……"神力"は……。」

 

峻輝(崇徳)『…死ぬと分かったから言うぜ。忠告は感謝する。けど…少しでも方法があるのなら俺はそこに全てを賭ける。それでダメなら…全部滅んじまえばいい。俺も…あの人も…世界も。』

 

 

そう言って、大葉刈を大きく振りかざす。

その狙いは…彼女の"首"だ。

 

 

峻輝(崇徳)『じゃあな、「宗主」乃木園子。お前の事は……忘れねェ。』

 

 

音もなく振られた刃。

それは、彼女の首に深く―――――。

 

 

―――――――

―――――――――――

――――――――――――――――

 

 

「……させない。」

 

 

凶刃が止まった。

その主に、峻輝は歪ませる。

 

そして、続くように。

 

 

「そのちゃんッ!!。」

 

園子「ゆー……ゆ………?。」

 

 

異空間を突き破り、友奈と流星がここにやってきた。

 

 

峻輝(崇徳)『…お呼びじゃねェんだよ、お前らは…!。』

 

流星「お前に無くとも、俺達はある。」

 

 

苛立ちを隠せない峻輝。だが、流星は冷静に声を絞り出す。

 

 

流星「言ったろ、次会う時はお前を止める時だと。」

 

峻輝(崇徳)『…どいつもこいつも俺の邪魔をする……遂には、お前までッ!!。』

 

友奈「峻輝君!。」

 

 

友奈の顔を見た峻輝は…激昂する。

 

 

峻輝(崇徳)『その顔で俺を呼ぶなッ!。この間は感謝してるが今は違う!。』

 

流星「――もう、いいだろ。」

 

峻輝(崇徳)『何が…ッ!。』

 

流星「お前は優しすぎる。たった一人の為に、世界を敵に回せるほどに。だけど、俺はお前に生きて欲しいと思っている。」

 

峻輝(崇徳)『は…ここまで滅茶苦茶にした奴をか?。意味分かんねェな、同情ならいらねェぞ、どうせお前だって俺を理解してねェくせに…!。』

 

流星「ああ、してないな。お前がずっとその"殻"に籠っている限り、することも出来ることも無いッ!。」

 

 

ゆっくりと歩み寄る流星。

そして……「覚醒満開」を発現させた。

 

 

流星(覚醒)『俺はお前を止めて連れ戻すッ!。言いたいことは全部言ったッ!。後は全力で来いッ!。』

 

 

 

……………………………end。




――大切だから。
『お前には分かんねェよッ!。見捨てられた奴の気持ちなんざッ!。』


――大事にしたいから。
『お前が俺にくれたんだろッ!。"日常"を!!。』


――"友達"だから。
『『俺は、お前に勝つッ!!。』』


次回
第75話 親友。
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