紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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感謝しているんだ。お前が俺に歩み寄ってくれたから。
けど、俺はお前の"全て"を理解していない。

だから…理解したいんだ。

お前の…"全て"を――




第75話 親友。

 

 

 

流星(覚醒)『結城先輩は宗主様に付いていてください。その傷、命にまで届くほどです。』

 

 

そう言って、流星は手から淡い光を放って園子の傷をほんの少しだけ癒す。

 

 

友奈「傷が塞がった!?。」

 

流星(覚醒)『応急処置にしか過ぎません。けど、それで出血は収まるはず……後は宗主様の気合次第です。』

 

園子「…あはは……気合…ねェ……頑張るよ……。」

 

峻輝(崇徳)『はっ……すっかり、勇者気分かよ。マジで変わったな、お前。』

 

流星(覚醒)『気分ではなく、"勇者"だ。お前こそ…随分と人相が悪くなったものだな。その姿、"悪意"の塊が蠢いているぞ?。』

 

 

峻輝の周りに漂う"悪意"はさらに増長する。

世界に漂っている"悪意"を一挙に集めているのだ、この"悪霊"の特性によって。特に、流星はそれを敏感に感じ取る。人の"悪意"に過敏な彼にとっては、この空気こそ"毒"そのものだ。油断していると精神が乗っ取られそうになる…それほどにまで、この怨恨が濃すぎるのだ。

 

 

峻輝(崇徳)『スゲェもんだろ。この世界にはこんなにも"悪意"が満ちている。結局はそうなのさ、神様が居なくなって、人は欲深くその上に立とうとする…人のその醜さこそ、この"悪意"の正体だ。』

 

 

円を描くように、峻輝は流星の周りを歩きながら説いていく。

 

 

峻輝(崇徳)『だからこそ、世界は一度リセットしなきゃなんねェ。ま…今はそんなことはどうでもいいんだけどな。あれほど、晴らしたかった「恨み」が今や俺の力になっている。父さんと母さんの無念さえも、俺の力になってるんだ。』

 

流星(覚醒)『力なんかじゃないぞ、それは。お前はその"悪霊"が引き寄せる怨恨に影響されている。幾万幾億の人々の怨恨をお前がその身一つで受けているんだ。このままだとお前がもたないぞ。』

 

峻輝(崇徳)『今更、自分の身が可愛いなんて思っちゃいねェよ。俺は俺の本懐を成し遂げる。"枝"を手に入れ、ユウナを救う。他の奴の未来なんて知ったこっちゃねェ。』

 

流星(覚醒)『そんな身勝手が許されると思うか?。』

 

峻輝(崇徳)『ああ、思うな。』

 

 

瞬間。

二人が激突。その衝撃はこの異空間を震わせるほどに。

 

 

友奈「…始まっちゃったね。」

 

園子「ゆーゆ……ごめん…私……。」

 

友奈「いいんだよそのちゃん。後は任せよう?。次代の"勇者"に。』

 

 

―――――――――――――。

 

峻輝(崇徳)『ははは!遅れてるぞお前ッ!!。』

 

 

峻輝の猛攻に、流星は押されていく。元々、身体能力も彼の方が上だ。自分が先に"疑似勇者"になったとはいえ、基礎的な体力と飲み込みの速さには差があった。それに、彼は園子との戦闘で既に手負いの状態だ。それなのにこの差…才能を見せつけられているようでメンタルが削られていく。だが、泣き言は言ってられない。ここに来たのだって、彼を止めるためなのだから。

 

 

流星(覚醒)(「覚醒満開」のリミットだってある…俺の体力でどれだけ持つか分からないが、峻輝のあの力を抑え込めさえすれば…!。)

 

 

勝負に出る。

そう考えた流星は猛攻の中で霊気弾を放った。

 

 

峻輝(崇徳)『おっとッ!。』

 

流星(覚醒)『虚を突いたッ!。そこだッ!。』

 

 

よろめいた峻輝に向かって、右手のトンファ―で攻撃を仕掛ける。

しかし……。

 

 

峻輝(崇徳)『残念。狙いは良かったが…鈍いぞお前。』

 

流星(覚醒)『ッ……!?。』

 

 

大葉刈の柄で受けられ、強烈な前蹴りをまともに受けてしまう。

 

 

峻輝(崇徳)『俺とお前じゃ、勝負にならねェ。根本的な動きと覚悟が違ェんだよ。』

 

流星(覚醒)『…それでも…俺は……!。』

 

 

ゆっくりと立ち上がる流星。さっきの蹴りはかなり効いた。呼吸が乱れるほど…急所に入ったようだ。

しかし、息を整えて再度、構えを取る。

 

 

峻輝(崇徳)『やめとけ。おとなしく身を引いてろ、お前を殺したくねェ。』

 

流星(覚醒)『カッコつけるな…俺はこの日を待ちわびていたんだ!。お前ともう一度対峙した時は、必ず連れ戻すって!。』

 

 

また飛び出す流星。

だが、やはり実力の差は埋まらない。

 

それもそのはず、峻輝はずっと一人で戦ってきた。"疑似勇者システム"を手に入れてから、"黒百合"として行動してきた毎日は常に命のやり取り……芽吹や園子といった強敵とも戦い、教団から離反してからは"使徒"とも戦ってきた。孤独に戦ってきた事と並みならぬ執念がこの強さを引き出している。

 

それ故に、流星との差をずっと引き延ばしてきたのだ。何度打ち込んでも、峻輝には届かない。ただただ、傷付いていくだけ。

 

――それでも。

 

 

園子「…ッ…動かなきゃ…ゆーゆ、私はいいから彼を……。」

 

友奈「大丈夫。」

 

 

そういう友奈の目は…彼を信じ切っていた。

確かに、力は及ばない。根本的な戦闘センスが彼とは全く違う。だからこのままだと力負けして、地に伏せるのは流星になるだろう。

 

けど…「大丈夫」と言い張れる。

何故なら……。

 

 

流星(覚醒)『――はあああッッ!。』

 

 

"心"だけは、誰よりも強いから。

 

 

峻輝(崇徳)『何度やっても結果は同じだっつってんだろッ!。』

 

振るうその一撃。

それはとうとう、流星の身体にめり込んだ。

 

 

流星(覚醒)『ぐああ……ッ!?。』

 

 

受けた一撃。

それは、致命にも近い一撃だ。

自分の血が宙を舞う…それと同時に、灼熱感が一気に襲い掛かる。

 

それでも、彼は…倒れない――

 

 

 

 

…理解出来ない。

何故、こうまで力の差を思い知らしめてるのに、勝ち目が無いと分からせているのに、どうしてまだ立てる?。

…もう、立って来ないで欲しい。本当に、殺さなければいけなくなるから。

 

このまま諦めて倒れてくれてれば、俺はコイツを手にかけることは無い。世界の全てを憎んでも、袂を分ってしまったといえどかつての"親友"を血に沈めるのは心が痛む。それを捨ててまで成し遂げなければいけないことは分かっているし覚悟はしている。だが、出来ればそうしたくない。これは、俺のただの"我儘"だ。

 

けど、コイツは立ってくる。何度も何度も何度も。

血塗れになりながらも、身体が砕けそうな勢いで叩きつけられながらも相も変わらず立ち上がってくる。

 

勝負はとうに見えているというのに……コイツはこんなにもしつこい性格じゃないのに……無理な事は諦める癖に……本当に、変わったんだな。いや……成長したんだ。身も心も、コイツらと一緒にいる事でずっと強く。

 

 

――羨ましいな。

俺とは全く違う道を歩いてる。光と闇…知らない間に俺達は"真逆"の道を歩んでいたんだな。俺も…真実を知らなければ、ずっとコイツといられたのかもしれない。コイツを支えてる人達と一緒に居たのかもしれない。いや…"心"さえ強ければ、知ったとしても憎しみに飲み込まれることもなかったのかもしれない。

 

――けど、今は違う。

俺にも譲れない信念がある。自分の事以外でこんなに必死になったのは今まで一度も無かった。守りたいものが出来たから俺はコイツと対立している。

 

「神の力は"劇薬"」。

乃木園子はそう言っていたな…確かに、そうかもしれない。それはあの人が望んだ事じゃないかもしれないし、好転する可能性だって極めて低いのかもしれない。だけど…目の前にその手立てがあるのなら、手を伸ばしたくなるのは当たり前なんじゃねェのか?。世界が壊れちまっても、それ以上に大切だと思っているからこうも必死になれるんじゃねェのか?。

 

 

――なら、俺は……。

 

 

峻輝(崇徳)『流星ッ!お前を討つッッ!!。』

 

 

――今度は…"殺しきる"。

一線を越える必要がある…人を救うと言うことはそう言う事だ。

 

俺が選ぶのは……"ユウナ"だ。

 

 

『『はぁああああああッッッッ!!。』』

 

 

ぶつかり合う、2人の少年。

辺りに衝撃波が広がる…ここは、樹海化のような"異空間"。だが、ここまで激しいぶつかり合いはきっと、現実世界にも大きな影響を与えている事だろう。

 

――そして。

 

――――――――

――――――――――――。

 

…武器が砕けて宙を舞う。

このぶつかり合いで、どちらかの得物が砕けたのだ。

それは……流星のトンファーだった。

 

そうなると……もう、分かるだろう。

 

――この競り合いを制したのは…峻輝だ。

空高くに打ち上げられた流星は激しく地面に叩き付けられる。そして…ピクリとも動かない。

 

手応えはあった。武器を砕いた感触…そして……アイツの身体を斬った感覚。そして俺の「大葉刈」には、アイツの血がベットリと付いていた。

 

周りの声は聞こえない。

乃木園子が何かを叫んでいる。多分…流星が"死んだ"事に狼狽えているのだろう。

 

俺は…一線を超えた。超えちゃいけない線だった。ここで踏み止まらないと本当に引き返せない事になる。それを俺は…超えたんだ。ただ唯一の親友を…"殺す"事で。

 

…おかしいな、涙が出ない…いや、"泣けない"のか。俺は本当に身も心も…"化け物"になっちまったのか……それでいい…もう今更、俺は"人"に戻ろうとも思わない。

 

 

なら後は……。

 

 

友奈「ッ……!。」

 

 

最後に立ち塞がって来る壁、「結城友奈」。

拳を固めて闘志を高める。流石、一度は「神」の領域に踏み込んだだけはある。そしてコイツは…"ユウナ"と同じだ。

 

 

峻輝(崇徳)『…退け。お前もコイツのように死ぬつもりか?。無駄な血を流させるんじゃねェよ。黙ってここを通せ…俺の勝ちだ、"枝"は貰っていく。』

 

友奈「…させないよ。だって君は…――。」

 

峻輝(崇徳)『――言うなッ!。』

 

友奈「ッ!!?。」

 

峻輝(崇徳)『見たら分かんだろ…もう、俺の目からは涙が出ねェんだ。身も心も化け物へと変わってる…親友を殺しても泣けなくなってんだ。』

 

友奈「…だったら…何でそんな顔をするの?。本当に身も心も怪物になっちゃったのなら、そんな辛い顔はしないよッ!。」

 

峻輝(崇徳)『…本当に"同じ"だな、あの人と。まぁ…あんたみてェに熱心に言わねェし、冷徹だけどその言葉に込められてる暖かさは全く同じだ。結城友奈…どの世界に居ても、どんなに心が冷たくなっても話す言葉には人を"想って"る気持ちが伝わってくる。』

 

 

ゆっくりと、「大葉刈」を振り上げる峻輝。

 

 

峻輝(崇徳)『けど…あんたとあの人は違う。後はお前だけだ…ッ!。」

 

 

次に狙うのは友奈の命。

その命脈を絶たんと、凶刃が迫る。

 

――しかし。

 

 

峻輝(崇徳)『な…何だッ!?。大葉刈……いや、違う…「生太刀」がッ!?。」

 

 

峻輝が手にしたもう一つの神具…乃木家に代々伝わる伝説の家宝、初代勇者"乃木若葉"が手にしていた刀「生太刀」。

 

"呪具化"したはずのその神具からは眩い光が放たれていた。

そして、それは……。

 

 

友奈「りゅ…流星君の元にッ!?。」

 

 

仰向けに倒れ、目を覚ます気配の無い流星の横に突き刺さる。

 

 

峻輝(崇徳)(まさか「拒絶」された!?。馬鹿な…アレは最初に支配したはず……悪意に染まってから随分と経つぞ…もう、神具に戻る気配なんて全く無いというのに…それに、アイツは……!。)

 

園子「……ご先祖…様…?。」

 

 

誰にも視えていない。視えるはずなんてない。

けど、園子だけには分かる。倒れている流星の横に突き刺さる「生太刀」。そこには……"蒼い烏"が止まっていた。

 

 

「…………まだ…立てる。」

 

 

ゆっくりと、立ち上がる少年。致命傷を受けているのにも関わらず、死に直結する程の傷を受けたにも関わらず。

 

 

「…………まだ…やれる。」

 

 

「生太刀」を手にする。

黒く染まったその刀身はかつての輝きを取り戻す。人の悪意によって変貌したその姿を取り戻すように…再び「神具」へと。

 

 

流星(覚醒)『戦えるッッ!!。』

 

 

「生太刀」は応えた。

――諦めない彼の"心"に。

 

 

峻輝(崇徳)『流星…お前……ッ!。』

 

 

園子「………ご先祖様は彼に託したんだね…流星君ッ!。」

 

 

傷を押して立ち上がる園子は声を上げる。

 

 

園子「その刀は乃木の信念そのものッ!。大丈夫、君になら必ず使いこなせるッ!だから、それで彼の心を救ってッ!心に従ってッ!。」

 

 

流星(覚醒)『はいッッ!!。』

 

 

 

………………………end。




――お前を化け物になんかさせてたまるか。

今度は負けない。
真っ向からぶつかって、お前の抱える哀しみを、恨みを、嘆きを。


―――断ち切ってみせるッ!。


次回
第76話 因果を断ち切る刃。
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