紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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お前の抱える"恨み"は多分、理解出来ないのかもしれない。理解してほしくないのかもしれない。

でも…お前が誰かを救いたいと、そう願って戦っているのなら絶対に。


一緒に歩けるはずさ――。


第76話 因果を断ち切る刃。

 

 

峻輝(崇徳)『…"生太刀"に神力が戻った…だと…?。』

 

 

手元から離れた"生太刀"は今、流星の手の中にある。

 

 

まさか、アイツにその"素質"があったと?いや、違う…あの刀に眠る英霊の魂が、アイツの信念に同調したのだろう。そう、この俺が持っている"大葉刈"のように。

 

…乃木若葉の魂。もう、還ったはずなのに"信念"だけはその刀に眠っていたか。だが、それがどうした。

 

 

峻輝(崇徳)『俺に宿っているこの「崇徳」の憎悪が"大葉刈"の怨嗟をより増幅させているッ!今更、乃木若葉の信念が敵うほどじゃねェよッ!。』

 

 

流星は、深く深呼吸をする。

 

――分かる。この刀が歩んできた歴史が、かつてこの刀を持って戦った少女の信念と…涙が。それでも、諦める事なく挫ける事なく…後世に託していつか、この世界を取り戻してほしいと。

 

そして…"友を救え"と――。

 

 

流星(覚醒)『ふぅぅう……はぁああああッッ!。』

 

 

開眼と共に、その刀身がかつての輝きを取り戻す。

 

 

友奈「…凄い…それに…綺麗…。」

 

園子「…302年もの間、ずっとその刀身が錆びる事は無かった。"神具"だからかなって思ってたけど…そっか…分かっちゃった気がする。きっと、ご先祖様と同じ信念を持つ子がいつか現れるとそう願った"祈り"がずっと残ってたんだ。だから、その時が来るまで刃が朽ちる事は無かった。そして今。」

 

 

流星が纏う光がより一層に、輝きを見せる。

 

 

園子「――現れたんだね。その信念を持つ子が。」

 

 

 

流星(覚醒)『勝負だ、峻輝ッ!。』

 

峻輝(崇徳)『来やがれッ!お前の全てを否定して、もう一度叩き落としてやるッ!。』

 

 

激しくぶつかり合う2人。光と闇を浴びた閃光がその場を照らす。

 

 

峻輝(崇徳)(なんだ…さっきとまるで違う…力は俺の方が明らかに上だ。武器が変わったからといって、コイツの強さまで変わるはずなんて無ェはずだ…。)

 

 

力押しに始めて負け、意外性に困惑する峻輝。

互いの刃が火花を散らしながら競り合いを続け、そして徐々に流星の刃が迫ってくる。

 

 

流星(覚醒)『峻輝、俺はお前のようになりたいって思ってた。』

 

峻輝(崇徳)『なんだって…?。』

 

流星(覚醒)『いつも明るくて、俺に無いものをお前は全部持っていた。嫌なことがあっても前を向いて歩いていけるお前を俺は…羨ましいと思ったんだ。』

 

 

強引に刃を振り抜き、仰け反った峻輝の懐に蹴りを入れる。

 

 

峻輝(崇徳)『ごは…っ!?。』

 

流星(覚醒)『でも、お前の抱える"闇"を俺は見逃していた!いや…見て見ぬフリをしたんだ!。』

 

峻輝(崇徳)『…ッ……!。』

 

流星(覚醒)『初めて出会った小学生の頃、お前は全部を"恨んでいた"。この世の全てが敵と思うほど、自分以外の者を誰も信じていなかった!。俺は気付いていたんだ、だからあの場に俺は現れた…お前の持つその"闇"が気になって!。』

 

峻輝(崇徳)『…見て見ぬフリって言ったな?今だから言うぜ、それは"違う"。』

 

 

血を拭い、今度は峻輝が攻勢に入る。

 

 

流星(覚醒)『くぅ…ッ…!?。』

 

峻輝(崇徳)『……あの時、お前は俺に"寂しそう"って言ったんだぜ!?。』

 

流星(覚醒)『…お前……。』

 

峻輝(崇徳)『気付いたからこそ、お前は1人でボールを蹴ってた俺の前にやってきたんだろうが。親のやった事のせいで俺は何もしてねェのに悪人扱いだ。でも、それが世の常なんだよ。罪を犯した人間の子供は親のその業を背負わされる。明るく振る舞ってたのもその陰から目を逸らした姿だ。本当の俺は真実を知る前から世界を恨んでいた。ずっと演じていたからこそ忘れていた一面だった。お前は十分、俺の抱えている"闇"を理解しようとしてたぜ?けど、そうさせなかったのは俺自身だ。』

 

 

斬撃を飛ばし、流星は硬い壁に叩きつけられた。

 

 

流星(覚醒)『が…ッ…は……!?。』

 

峻輝(崇徳)『嫌だったんだよ。"闇"を見られちまうのが。だから、"嘘"の自分を演じている方がずっと楽だった。そうすりゃ、見えてくる景色も変わってくるんじゃねェかって。後もう少しだったんだ…あの夏に起きた事さえなければ、俺は自分の"闇"に蓋をして生きていけるはずだった。でもまぁ、そうならねぇわな。神様が居なくなったこの世界でも、まとわり付いた因果ってもんは死ぬまでついて回って来やがる。一生、ソイツと運命を共にしなきゃなんねェんだ。だから思い出したんだよ…俺はこのクソッタレな世界が大嫌いだってな。』

 

 

瞬間、峻輝の纏う空気が一変する。

それは、彼の宿す「崇徳」の特性のせいだった。"怨嗟"の権化であるこの悪霊は闇をさらに増幅させる力を持つ。

 

そしてそれは次第に、世界を蝕んでいく――。

 

 

流星(覚醒)『…でも、その世界で俺達は生きている。嫌な事も苛立つ事もたくさんある…ありすぎるくらいに、世界は残酷で理不尽すぎる。良いことなんて何一つない…そう言った人達の方が多いだろう。でも、そこから目を背けちゃいけないんだ。』

 

 

峻輝の"闇"に対抗するように、流星の"光"が辺りを照らす。

 

 

流星(覚醒)『"悪意"は人を蝕む…目を背けて恨み続ける事で、その"悪意"は伝播されていく…そうなってしまえば、取り返しのつかない事になるんだ。峻輝、今お前が世界の全てを敵に回してまでやりたい事って自分のその"闇"に従った事じゃないだろう?。』

 

峻輝(崇徳)『!!?。』

 

流星(覚醒)『"獅子座"を……彼女を救いたいからなんだろう!?。お前は変わったんだよッ!。"恨み"を乗り越えて、1人の為に命を賭けられる…俺の知っている"お前"なんだよッ!。』

 

峻輝(崇徳)『黙れ…黙れ黙れ…ダマレェエエエエッッ!。』

 

 

感情を剥き出しに、突っ込んでくる峻輝。

だが、流星は冷静に見極めてその動きを制するかのように、刀を振い続ける。その"悪意"を打ち消すように。

 

 

園子(…彼は知らずのうちに、呑み込まれているんだ…「崇徳」に。その"闇"を利用されて、身体と精神が乗っ取られ始めてる……ここにやってきた本当の理由を思い出したかのように、否定すらし始めてる…流星君、時間は残されてないのかもしれない。)

 

 

友奈「流星君ッ!。君が今、討つべきものは…――。」

 

 

 

流星(覚醒)『その…"悪意"ッ!。』

 

 

放たれる閃光のような攻撃は、"大葉刈"を媒体に放たれる峻輝の"闇"…いや、「崇徳」の力を削ぎ始める。

 

 

流星(覚醒)『"恨み"と"怒り"に呑まれるなッ!。お前はちゃんと"恨み"を乗り越えているんだよ!。自分自身で、過去の"恨み"を打ち消して!。』

 

峻輝(崇徳)『その"ユウナ"を救う手段を邪魔してるのはお前だろうがァアアアッ!。』

 

 

その時、峻輝の動きが一瞬だけ止まった。

――"救う"?。

――そうだ、俺は…過去の事をすっかり忘れて、あの人を助ける事だけを考えていた。父さんと母さんの無念を晴らしたい…その為に、世界を敵に回してまでこんなことを続けていたはずだった。

だけど…今、自分がここにいるのは"恨み"ではない…そうだ、たった1人を救いたい為にここに立っている。だって、その手立てがここにあるから…僅かな可能性がここにあるから。

 

そうだ…もう、過去の事なんてどうでも良くなっていた。今ここで、暴れたって両親は帰ってこない。そればかりか、その無念が晴れることは永遠にないだろう。だって、人の心の中からは完全に忘れ去られた存在なのだから。

 

この復讐はいつしか、無意味なものへと変わっていた。知らず知らずのうちに、それを上回るくらいにあの人の存在が大きくなっていた。

 

 

 

―――気付いた時には、アイツの刃が俺の身体に食い込んでいた。そして…――。

 

 

流星(覚醒)『斬ッッ…!。』

 

 

容赦の無い袈裟斬りをまともに受けちまった。けど、何故だろうか…痛みを感じられない。斬られるなんて死ぬ程痛いはずなのに、痛みを感じるどころか、何処か安らぎすら感じさせる。

 

 

冷たい雨がより強くなる。俺はその場に大の字に倒れ込む。そして、身体の中から自分の血が流れ出ているのが分かるほどにまで、深い傷を負っていた。

 

 

流星(覚醒)『はぁ…はぁ……。』

 

峻輝(崇徳)『…はは、最後の最後に自分を貫けなかった。そっか、お前の言う通りだったよ。』

 

 

雨に打たれながら、自分のやって来た行いを顧みながら、弱々しい声で呟く。

 

 

峻輝(崇徳)『俺は…とっくに"恨み"を乗り越えてたんだ。お前が亜耶ちゃんを助けたいように、俺はあの人を…ユウナを救いたかった。』

 

流星(覚醒)『………。』

 

峻輝(崇徳)『結局、俺は…誰かを救うための力すらなかったって事だ。ここにこうしてお前が立っている…それが、答えだろう。なぁ流星、頼むよ…"神樹"の枝を渡してくれ。それがあれば、あの人はきっと…。』

 

流星(覚醒)『…答えは……無理だ。』

 

峻輝(崇徳)『…はは、そっか……そりゃそうだよな…あの人は世界を滅茶苦茶にしている"邪神教団"の、それも頂点の戦闘者である「獅子座」だ。新生大赦からしてみりゃ、敵のデカい戦力を潰せる絶好の機会だ…犠牲無くして自滅するなら、その答えは……。』

 

流星(覚醒)『――違うッ!。』

 

 

胸ぐらを掴み、上半身を起こさせて流星は声を荒げる。

 

 

流星(覚醒)『俺達は…"戦争"をしているのか?違うだろう!?お互いの信念がぶつかり合って、譲れない所にまで来てしまったからここまで大きな問題になったんじゃないのかッ!?気付けよ!この世界は…俺達は最初からずっと手のひらで踊らされていたんだよ!あの"三神官"にッ!。』

 

峻輝(崇徳)『…ッ……。』

 

流星(覚醒)『"使徒"の全員がどうかなんて俺は全く分からないし、違う悪意を以て世界を滅茶苦茶にしてるのかもしれない!けど、「蟹座」に出会ってから少しずつ分かったんだよッ!何かを変えるために手っ取り早い方法を取るために悪魔の力を手にした者がいるって事をッ!。だから、信念のぶつかり合いだって思った…けど、そこまで来てしまったらそれは次第に"戦争"へと変わっていく…無関係な人達を巻き込んで、引き返せない所にまで変わってしまう!その結果、どちらかが生き残るまで戦い続ける事になる!俺達が今、まさしくそうじゃないのかッ!?。』

 

峻輝(崇徳)『…何が…言いたいんだ……。』

 

流星(覚醒)『俺達の"本当の敵"は…最初から"三神官"だって事だ。』

 

 

2人の会話の元に、弱々しい足取りで園子がやってくる。友奈に支えられながら。

 

 

園子「…君の"恨み"さえも利用されたんだよ。そしてきっと、「獅子座」を想う君の気持ちだって…利用した。その纏っている悪霊がそうだと思う。君が発現したものじゃなくて…その"擬似勇者システム"の中に仕込まれた爆弾だったのかもしれない。」

 

峻輝(崇徳)『……爆…弾……だと…?。』

 

園子「うん。その悪霊はね、日本三大悪霊の一つ「崇徳上皇」でこの四国に封印された旧世代の最強の怨霊の一つ…人の恨みや闇を助長させて、世界に大きな影響を及ぼすもの…君の抱えるその闇が目覚めさせるための鍵だった…そして、それこそが………。』

 

 

 

「そう、我々がこの世界に呼び込みたいかの"邪神"…"天の神"打倒の為の本懐だ。」

 

 

声の方向に目を向ける一同。そこには……。

 

 

園子「……須佐ノ男…!。」

 

須佐ノ男「流石は宗主様…自ら、その答えに辿り着いたのですな。」

 

園子「…彼が悪霊を纏ったその時から、確信しただけだよ。神様に対抗出来るものなんて、よくよく考えたら最初から一つしかなかったからね…退屈凌ぎで歴史文書を読み漁った甲斐があったというものかな。この四国にとんでもない怨霊が眠っていた事に気付けたんだから…!。」

 

月詠「うーん、でも100点満点とは言えないね。90点、実に惜しい。」

 

友奈「どう言う事…!?。」

 

天照「その"擬似勇者システム"は彼を鍵としていません。元々は紫藤流星…貴方の纒う「壱式」がそうだったのです。」

 

流星(覚醒)『な…んだ…って…!?。』

 

須佐ノ男「楠芽吹用に構築した新型の"勇者システム"…彼女は憤怒の中で生きており、その本質はずっと心の中に根付いていた。それが不幸にも他の者の手に渡り、そして何故か…予定外の人物が適合した。かつて、「災害」に巻き込まれ、"神樹"に救われた少年…"擬似御姿"のお前に。」

 

友奈「"御姿"…それって、私と同じ…。」

 

月読「あー、でも貴女程じゃないよ?。彼は「災害」に巻き込まれて脳に深刻なダメージを負った。放っておけば死ぬだけだった彼を哀れんだ"神樹"がそのダメージを修復する為に自らの神格の一部を授けた。"勇者"や"巫女"以外に、それも人の"悪意"をダイレクトに感じ取れる人間が居たなんて、予想外だったよ。そんな人間の手に私達が作った"擬似勇者システム壱式"が渡ってしまった事が予想外の事故だったって事。確か、君にそれを渡したのは…久遠玲司だったね?後で彼を処分しないと…ま、そのお陰で予備プランが花開いたんだけどね。随分、遠回りになったよ。でも、褒めてあげる。現世に「崇徳」を呼び込めたんだから。後は…"カヤノヒメ"である国土亜耶が手に入れば…。」

 

流星(覚醒)『やらせるかよッ!。芽吹さんを、峻輝を利用した上に今度は亜耶まで!。』

 

 

"生太刀"を構える流星。

そして、それを向けるのは本当の敵である"三神官"。

 

四国を取り巻くこの事件の黒幕…そして、この戦いは……。

 

 

――"終局"へと向かう。

 

 

…………………………end。




"神の名"を名乗る人間達。

彼らの目的は"神そのものに昇華する事"。

そして…最強最悪の怨霊が現世に姿を現す――。


次回
第77話 "邪神教団"。
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