今更、人の世界に戻るなんて…赦されるはずが無い。
そう…人は神によって。
"管理"されなければいけないのだから。
"生太刀"を構える流星。
その矛先は……この一連の事件を全て裏で操っていた人物"三神官"。
"邪神教団"は彼らがこの計画を「裏側」で動かす為の隠れ蓑でしかなかった。
「表側」は"新生大赦"として、乃木園子を支える"三神官"としての公務を遂行し、そして「裏側」では自らの目的を叶える為に"邪神教団"なるものを創設し、"邪神"と呼ぶ四国に封印された旧世紀の大悪霊『崇徳』を現世に呼び起こす事。
だが、この傲慢な神官達は"ソレ"すらも利用するつもりなのだろう。最早、その野心に塗れた悪意を隠しきれていなかった。最も、隠すつもりもないのだろうが。
緊張感が走るこの場に、満身創痍の園子が両者の間に割って入る。
園子「…もう、"本音"で話せば?。私、分かってるの。『崇徳』は悪霊…神格的な力も無いし、積もり積もった怨嗟の塊のような負の存在…そんなものを"神"と呼べるはずがない…この『崇徳』を崇拝するなんてないでしょ?。そう…これは、"天の神"にぶつける為の最終兵器…高次元の存在に対する「核」のようなものなんだよね。」
天照「…その通りでございます。同じ高次元の存在と言えど、悪霊は所詮悪霊…神の足元にも及ばない存在そのものです。しかし、その邪なる力は神にとっては毒……神を殺すにはこの上ない絶対的な"兵器"なのです。」
月詠「それに、この世界は"神"によって管理されるべきなんだよ。人って過ちの権化そのものだし、旧世紀の歴史を紐解いて見れば、過ちを繰り返してばかりの愚かな種…そんなものが、野放しにされたこの時代で過去の過ちを起こさないはずが無い。ましてや、旧世紀の出来事の殆どを知らない、今の時代を生きる人間は特に…ね。」
須佐ノ男「その行く末を見守るだけでは、かの神は再び世界を破壊しに降臨する事だろう。神樹亡き今、神の後ろ盾の無い人類は滅びを受け入れるしか選択肢が残されていない……これは"攻勢"の時なのだ。」
友奈「攻勢って…ッ…!!。」
園子「……一応、聞くけど…"天の神"を倒した所で、君達の言う「神が管理する世界」にするには…別の神様が必要だよね?まさかとは思うけど……。」
その言葉を聞き、"三神官"はゆっくりと地面に降り立つ。
天照「ええ、その"まさか"ですよ。」
月詠「"勇者"もいないし、"神"に最も近い存在…そう、"神官"だよね?"巫女"はその途上の少女の事を言う…その中で更に神に近い存在と言われたらそう……"三神官(私達)"だよね?。」
須佐ノ男「"天の神"を討ち倒し、最も神に近い"我々"がこの世界の新たなる"神"となって、人類を「管理」する。」
自らが"神になる"。
その言葉に最も反応を示したのは……峻輝だった。
峻輝(崇徳)『…だったら…アイツの…ユウナの"祟り"をどうにか出来るよな…?。』
友奈「峻輝君ッ…!?。』
それを聞いて、笑うのは…月詠だ。
月詠「あっはははッ!君ってば、あの死に損ないをそうまでして生かしたいの?。」
峻輝(崇徳)『…なんだと……?。』
須佐ノ男「アレは最早、生きる屍だ。最も、本人が一番それを理解している。最も強大な「獅子座」の"バーテックス因子"を支配出来たのも、自分に残された時間が無いことを理解しての事だ。命に未練がないからこそ、体組織の変貌にも耐えうる精神性と肉体性を持っていたのだろうな。まぁ、それ以前に別の世界線の"御姿"だ。神の力を持った身体故に、どの因子もその支配下に置く事は可能だったという事だ。」
友奈「ッ…なんて酷い事を…あの苦しみは死ぬよりも辛いものなんだよ!?。誰にも言えない上に、孤独に死を待つだけのとても怖いもの…なんで平然とそんな事が言えるのッ!?。」
天照「…だとすれば、彼女の居た世界線の"勇者"達はもっと残酷と言えるでしょう。」
友奈「えっ……!?。」
天照「考えてみてください。貴女が"祟り"を乗り越えて今、生きていられるのは自らがその呪いを打ち破った事にあります。しかし、その原動力を与えたのは紛れもなく、散っていった英霊達と貴女を取り巻く"勇者"達がいたからこその"奇跡"。だけど、当の彼女はどうです?全ての絶望を知り、誰も手を差し伸べなかったからこそ今の彼女が居るのでは?それはつまり…あの苦しみを知った上で誰も手を伸ばさなかった事を意味するのです。貴女と彼女は同一人物…しかし、それは光と影そのもの…貴女が勝ち取った"幸福"の裏では、"不幸"をその身に受けて呪いと共に生きる運命を強いられた世界線の"自分"がいる…誰もが幸せになれるなんてそんな事は無いのです。全ての事象の裏では、反転した存在が居る…覚えておいてください。それが、彼女…「獅子座」なのですよ。」
友奈が何か反論しようとしたその刹那、なんとか立ち上がった峻輝が天照に襲い掛かる。
天照「…おや。」
峻輝(崇徳)『ごちゃごちゃとうるせェんだよ…助けてくれんのかそうじゃねェのか、さっさと答えやがれッ!。』
月詠「ありゃりゃ…それが人に物を頼む態度なのかな?いや…"神"に対する不敬って事だよね?。」
須佐ノ男「死にゆくさだめを持つ者に慈悲などない。本人もそれを望んでいる、これは我々の間で交わされた"約束"なのだ。」
峻輝(崇徳)『黙れェエエエエッッ!。』
激昂する峻輝は大葉刈を手に、突撃。その刃は完全に月詠の首を捉えていた……はずだった――。
峻輝(崇徳)『なッ…!?。』
月詠「残念、君達の攻撃は通じないよ?。」
刃が首筋に触れる寸前で止まる。まるで、空間が切り取られているかのようにその切先が無くなって見える。
須佐ノ男「三上峻輝。そろそろ"返還"してもらおうか?。」
須佐ノ男が指を鳴らすと、峻輝の身体から邪気が溢れ出す。
峻輝(崇徳)『ぐあああッ!!。』
流星(覚醒)『峻輝ッ!。』
天照「"予備プラン"が功を奏すとは…我々は幸運に満ち溢れていますね。」
友奈「ッ…この…ッ…!。」
拳を握り締め、"三神官"に立ち向かう友奈。だが、峻輝と同じくその攻撃の殆どが「切り取られる」。
流星(覚醒)(一体何なんだ、あの力は…!?。)
月詠「さぁ、出てくるよ?。旧世紀の…それも、更に遡った古き時代の大悪霊…怨嗟の化身、またの名を…"邪神"。」
大悪霊「崇徳上皇」が。
――――――
――世界中が暗闇に包まれ、まだ昼頃というのに辺りは夜のように黒く染まる。それは人々の不安を煽り、負の感情が爆発的に広がっていく。
そんな中、「旧勇者部」のメンバーはその暗い空を見上げながら。
樹「お姉ちゃん…これ…。」
風「…ええ、良くないことが起きる。それも、とんでもない事が…夏凛!防人…楠達に連絡して!。乃木が居ない今、ここはあたしが責任を取って対応するから!。」
夏凛「え…ええッ!。」
美森(友奈ちゃん…そのっち……。)
――――――
芽吹「総員、出動準備よッ!。」
夏凛から連絡を受けた芽吹は事態を冷静に受け入れ、防人全隊を招集。戦闘に立って号令を掛ける。
雀「うぇえッ!?ついこの間、恐ろしい化け物を倒した所なんだよッ!?。」
狼狽え、声を上げる雀。まぁ、無理もない。四国全土を覆う超弩級の人造バーテックス"ネメシス"を倒した所だ。それに続いてこの暗闇…それも、今までとは全く違う感覚…。
夕海子「…紫藤さん達は無事なのでしょうか。」
しずく「…分からない。けど、その心配をしている暇はないと思う。」
全員が見つめながら、芽吹はこう思っていた。
――恐らく、これが…防人史上最大の戦いであり、そして…。
"未来"を分ける最後の戦いになると。
――――――――
途轍もない怨嗟の中、その身体はどんどん蝕まれていく峻輝。
まるで、少しずつ自分という個体が消えていくかのような感覚…自分の身体に起きている異変だからすぐに分かる。完全に飲み込まれるのは時間の問題だと。そして、消えそうな声で彼に…流星にお願いする。
峻輝(崇徳)『り…流星…俺ごと…その刀で俺ごとこの怨嗟を切り裂いてくれ…ッ!。』
流星(覚醒)『お前…何を…ッ!。』
峻輝(崇徳)『お…俺は何も守れなかった。最後まで人に迷惑を掛けて、守りたい希望も全部…最初から利用されちまってた…今更、頼むのも図々しいけどよ…コイツらの好きには…させたく……。』
弱々しい峻輝の声を聞き、流星は手に握る"生太刀"をゆっくりと構える。その様子を見て、峻輝は安堵した表情で。
峻輝(崇徳)(どうせ、一度死んだ身だ。生かされてここにいるのなら…元ある運命を辿るべきだ。俺のやりたいことはもう…やりきった。後は…親友達に全てを……。)
友奈「…ダメだよ!。」
止めに入ろうとした友奈を遮るのは…園子だ。
何も言わずに、コクリと首を縦に振る。その様子は…何か知っているようで。
だが、それを見逃す"三神官"じゃない。当然、邪魔しに来る。
天照「…させませんよ。我々の願いの成就…今、それが目の前にある!。」
友奈「だあああ…ッ!。」
地面を蹴って飛び出した友奈が拳を固めて振りかざす。だが、月詠と同じく、空間が切り取られたかのように攻撃が寸前で止まる。
でも、彼女はそれが分かっていた。ほんの少し、ほんの少しだけでいい。時間さえ…稼げれば。
そして、流星は…刃を振るう―――
――――――
峻輝(崇徳)『……なっ……。』
――斬られたはずなのに、痛みが全く無い。それどころか、自身を取り巻く怨嗟の渦がどんどん薄れていく。
流星(覚醒)『…生きろ。』
峻輝(崇徳)『えっ…?。』
流星(覚醒)『生きろと言っているんだ!。少しでも罪を感じているのなら生きて償えッ!。俺に全部を押し付けるなよッ!守りたいんだろッ!?それを人に任せるなッ!お前にはまだ…やれる事があるだろッ!。』
峻輝(崇徳)『…お前……何をした……?。』
流星(覚醒)『……お前を蝕む怨嗟を断ち切った。けど、「崇徳」までは断つことは出来なかった。少なくとも、お前の身体を奪って権限する事は無い。』
峻輝(崇徳)『何してんだお前!俺を殺せば、この悪霊は!。』
流星(覚醒)『出来るかよッ!生きていた親友を…もう二度と会えないと思っていた親友が生きていたのに、世界の為にその命を断つなんて俺には出来ないッ!。生きてくれ…頼む、全部を…諦めないでくれ。』
声を震わせながら、峻輝の胸ぐらを掴んで訴える流星。だが、切り離された怨嗟はどんどん膨張し続ける。世界に蔓延る悪意を取り込むように。
須佐ノ男「…所詮、"人"だな。世界を諦めたか。だが、安心するといい。これで、人類は"人"という種を超えることが出来る。今こそ、"天の神"を討ち取り、我々が新たな……。」
流星(覚醒)『黙れよッ!。』
真っ直ぐな眼差しで、"三神官"を見る。状況は芳しくない。どちらかというと絶望的な状況だろう。自分がその手綱を…断ち切ったようなものだから。でも、流星は絶望しない。
流星(覚醒)『この世界は終わらない!そして、"天の神"を討ち取らせる事も…させない!。"神"がこの世界に関わる事ももう…無いッ!。』
月詠「…勢いだけで言われてもね?。現実を見なよ、封印は解かれた。もう間も無く、世界は次の段階へと突き進む。」
流星(覚醒)『それでも…俺達は最後まで諦めない!今に見ていろ、あんた達の思い描く展開にはならない!俺達が…"勇者"達がまだこの世界にいるのだから!!。"人"を守る勇者…それが…"俺達"だッ!!。』
"人"を守る勇者。
少年はそう叫ぶ。
―――そして、世界は今日。
"悪意"に包まれた―――
………………………end。
――"邪神"は解き放たれた。
世界はまた…闇に包まれる。
だけど、諦めない。命尽きるその瞬間まで。
戦い続ける。"勇者"として―――
次回
― 肆『三上峻輝の章』―最終話。
第78話 守るべき者の為に。