…俺は心が弱い。それ故に、怒りに飲まれやすい。その結果が、これだ。
…手を差し伸べてもいいのだろうか。こんな俺でも…アイツの手を掴もうとしてもいいのか。
拾ったこの命、俺は……アイツを助けるために使うと今…決めた。
……三上峻輝による"本殿襲撃"から5日が経った。
あの戦いの結末は"三神官"の乱入によって思わぬ方向へと進んでしまった。
今、この世界の空は…ずっと暗い。今が昼なのか、夜なのかが分からないほどに。そして、空を覆い尽くすほどの星空は…見えていない。
もちろん、この事態に世界は大混乱となっている。ついこの間に超大型の人造バーテックスによる混乱を鎮めたばかりなのに、今度はこの空だ。事態の収拾に目処が全く立たない。
結局、"三神官"の思い描いた展開へと着々と進んでしまった。どんなに否定しても、抵抗しても彼らの思惑そのものに誘導されるかのように、彼らの理想通りに事が進んでしまっている。あれから、5日が経つというのに大きな動きは見せていない。俺が峻輝を怨嗟の闇…いや、「崇徳」から切り離すために振るった一刀は彼の命を救う為の一刀に過ぎなかった。その代償に、かの大悪霊は復活を遂げてしまった。それがこの事態と言うことだ。事情も何も知らない者からすると、俺は大戦犯だ。理由が何であれ、この選択を取った責任は負わなくちゃいけない。
…けど、そんな事は些細なものだ。親友1人の命を天秤に掛けたあの選択肢を迫られた時、俺は迷わずに親友の命を取った。世界の事は後でどうにでもなる。けど、親友の命は違う。失えば二度と戻らないもの。もう、無くしたとばかり思っていた俺の希望がまだ潰えていなかった事。道は違えてしまったが、アイツの本意が聞けたのならそれはそれでよかったのかもしれない。誰が何と言おうと構わない。俺はこの選択を取ったことを。
―――後悔していないのだから。
〜"新生大赦附属讃州病院〜
流星「気分はどうだ?。」
俺はある一室…峻輝が入院する病室に足を運ぶ。そう、見舞いの為だ。
力弱い眼差しで見つめながら、深く息を吸い込んで――。
峻輝「――調子良いよ。何だろうか、コンディションは抜群って言えばいいのか。」
そう言いつつも、その笑みには力を全く感じない。それもそうだろう、あの宗主様との戦いに加え、俺との戦い…そして、"三神官"の策略によって自身がその力の一端を使った「崇徳」の影響もあってか、身体は衰弱し切っていた。それだけじゃない、これまでたった1人で世界を敵に回して来たんだ。生きているのが不思議なくらい、肉体も精神もボロボロの状態なのだから。
でも、コイツは生き残った。
俺はそれがすごく嬉しかった。あの後、「崇徳」と切り離されたコイツは戦いの傷跡もあり、一時は危ない状況に陥っていた。
だが、医師の賢明な治療もあってか何とか一命を取り留めた。宗主様も無事だ。ただ、外傷が酷くて暫くは出歩けないそう。
顔を合わせる俺達。
互いに沈黙が続く。
無理もない、ついこの間まで決別した関係だったのだから。
無論、俺はそうじゃないが…コイツは心の底に秘めた闇を剥き出しにしていた状態だ。
今更、「ごめん」なんて言うはずもないし言えるはずもない。
だけど、先に言葉を発したのは…峻輝だった。
峻輝「……流星、俺はまた…生きてしまったのか。」
流星「…ああ、しぶとくな。なんだ、あのまま死んでいればいいなんて思っていたのか?。」
窓の外を見る峻輝。空に起きた異変をじっと見つめながら、拳に力が入っていた。
峻輝「…分かんねェよ。ただ…唯一の方法がお前らに邪魔をされた。敗けた人間だ、今更暴れようとは思わねェ。けど…もう、アイツは助けられねェんだなってそう思ってな。生きる意味を無くしたというか…ハハ、体が万全になりゃあ牢の中にブチ込まれるんだろうな。父さんと母さんと…同じ末路を歩むのかな。まぁそれもいいかって、思って。」
流星「…「獅子座」の事だな。彼女がお前の生きる理由だったって事か。」
峻輝「ああ。アイツは俺を生かした上に力を与えた。それが、"三神官"の描いたシナリオだったとしても俺にもう一度、チャンスをくれたのは違い無ェんだ。その恩を返せないまま、アイツが苦しみの中で死んでしまうって考えると…俺も生きてる意味を全く考えられねェってそう考えちまうのさ。自分勝手な話だろ?好き勝手に世界を滅茶苦茶にした挙句に俺は何人もの神官を殺した。あの高知支部を壊滅させたのだって、初めは復讐心からだった。真実を知って、騙して来た奴らがのうのうと生きているのが許せなかった。なぁ、これって間違ってるのか?騙されてた人間が憎しみを持つなって…お前はそう言うのか?。」
そんな問いかけに俺が出せる答えは…「分からない」という事だ。
もし、俺がコイツと同じ立場だったとしたら…きっと、同じように怒りに飲み込まれてしまっていたに違いないだろう。人の悪意を感じ取れる異能を持っているんだ。きっと、コイツ以上に俺は闇に堕ちていたかもしれない。だから、コイツの問いかけてくる事に俺は否定も肯定も出来ない。
けど、一つだけ…言えることがある。それは…――
流星「…例え、その復讐を遂げたとしても死んだ人間は帰ってこないしその無念は晴れないと思う。残るのは…負った心の傷と復讐の矛先が自分に向くという事だ。手に掛けた者の家族…恋人…友達…その全てから、憎しみを向けられる事になる。人の明日を奪うという事はそういう事だと俺は思う。でもお前は…自分の意志で立ち止まったじゃないか。「「獅子座」を救いたい」。その気持ちが、憎しみを乗り越えたんだ。それを何というか、お前は理解しているか?。」
峻輝「……さぁな。」
流星「"愛"だよ。お前は彼女を愛する気持ちが復讐心を乗り越えていたことに気付いていなかったんだ。"憎しみ"と"愛"のせめぎ合いでお前は自分を制御出来なくなっていた。それがあの悪霊…「崇徳」を呼び起こしてしまったんだと思う。」
峻輝「…"愛"か。けど、アイツはもう死ぬしかない。"祟り"の中で苦しみながら死ぬのを待つだけだ。その間に、あの"三神官"に使われ続けるって思うと俺は……ッ……!。」
「方法はきっとあります。」
ガラリと、病室の扉が開く音がする。
そして、1人の少女の声が響く。
峻輝「――亜耶ちゃん…。」
峻輝の事を聞きつけて厳戒態勢の中、彼女は無理を通してここにやって来た。勿論、1人ではない。芽吹が引率する形で。
流星「…亜耶に我儘を言われたんですね?芽吹さん。」
芽吹「ええ。まぁ、貴方もこの子がここに来る事を知っていたんでしょうけど。」
流星「俺は反対しましたよ?けど…やっぱり、コイツに会わせておくべきなのかなって…その、すみません。」
芽吹「いいわ。私は病室の外に居るわね。けど、長居はできない…この状況下で"三神官"が亜耶を狙いにやってくるはずだから。10分だけの猶予を与えるから、話したい事を全て話しておきなさい?。」
そう言って、芽吹は病室を後にする。
そこに残ったのは流星と亜耶、そして峻輝の3人だ。
「こうなる」前は殆どこの3人で過ごしていた…あの"事件"の後、大きく道を違えてしまったがようやくまた、この3人で集まることが出来た。
峻輝「…はは、久しぶり…かな。あの神社で会った時以来だな?。」
亜耶「はい。貴方はすごいお馬鹿さんです。人の話も聞かないで、好き勝手にやりたい放題やって…みんなに迷惑を掛けて。」
峻輝「怒ってる…よな。」
亜耶「はい…とっても怒ってます。けどそれよりも…良かったって思う気持ちの方が強いのが正直な所です。死ななくてよかった…またこうして、お話が出来るんだなって。」
峻輝「…俺が死なずに済んだのはそこにいる"お人好し"のお陰だ。あのまま放置するっていう手もあったろうに、コイツが声を絞り出して俺を連れ出してくれって聞かなかったんだ。」
流星「…俺が言わなくても、結城先輩がお前を連れ出していたはずだ。あの人もお前を助ける為にあの場に居合わせたんだからな。」
峻輝「…そうかもしれねェな…あの人は…"同じ"だから。」
亜耶「…三上君。「獅子座」の事ですけど…私が何とかします。」
「何とかする」。
そう言われても、ピンと来なかった。
「神の呪い」をどうやって、解くというのか…時間も残されていない。亜耶が歴代でも随一の力を持った巫女だとしても、それが叶うとは思えない。きっと、自分を気遣ってくれているのだろう…峻輝は半信半疑で聞いていた。
けど、彼女の眼差しは真剣そのもので。
亜耶「…私の力を使って、"祟り"を浄化します。それには新生大赦に残された"枝"も必要ですけど。」
峻輝「待て…その"枝"は使っちゃいけねェモンだって散々、邪魔をされたものだぞ?。いくら亜耶ちゃんの言葉でも、そんな許可が下りるはずも無ェ!。」
亜耶「…だったら、貴方は彼女を諦めるのですか?。怒りと憎しみを乗り越えて「たった1人の女の子」を助けたいと世界に刃を向けてまで成し遂げたかった悲願を…貴方は諦めるのですか?。」
いつもの彼女とは全然違う力強いその言動。
全てを諦めかけていた峻輝に、再び「火」が灯る。
峻輝「――諦めたくねェよッ!。助けられるもんなら助けてやりてェッ!。自分の"死"が身勝手な"神"のせいでむかえられるなんて…「人の死」じゃねェだろッ!。アイツも本当は世界の為に身を削って来た奴なんだッ!それなのに…それなのにそんな結末なんてあまりにも残酷過ぎるだろうがッ!。」
必死に訴える峻輝。その目尻には涙が溢れていた。
――やっと、その"本音"が聞けた。そんな峻輝に流星は手を差し伸べる。
流星「…だったら、お前のその手で救ってやれ。俺達がその手伝いをするから…もう、1人で全部を背負い込むな。」
峻輝「ッ…うぅ……俺は…お前を裏切ったんだぞ!。なのに何でそんなに優しくしてくれるんだよッ!?。」
流星「馬鹿野郎が…そんなの決まってるだろ…!?。」
"親友"だから。
――半ば強引にその手を取り、強く握り締める。
そして、互いに涙を流しながら2人の少年はまた…。
"親友"に戻れた。
亜耶「――お帰りなさい、三上君…ううん、シュン君ッ!。」
その小さな両腕で2人を抱き締めるように、亜耶は大粒の涙を流す。
そんな3人を、芽吹は病室の外から微笑ましく見守っていた。
――――そして、3日後。
芽吹「――三上峻輝。貴方がこれまで行ってきた一連の行動は容認出来るものではない。本来ならば、即身柄を拘束し刑を科す所だけど…宗主様の御意向も得られた今、その刑を一時保留とする。その間、防人"壱番隊"預かりとし、我々の監視下で行動してもらう。いいわね?。」
峻輝「うすッ…!。」
夕海子「昨日の敵は今日の友ということですわね?よろしくお願いしますわ、“黒百合"さん?。」
峻輝「はい!。よろしくお願いしますッ!。」
シズク「…ったく、ついこの間まで殺し合いをしてた奴に背中を任せる事になるなんてな…世の中、わからねェ事ばかりだぜ。」
雀「で、でもあの子強いんだよね!?なら、心強いんじゃないかなッ!?その…背中から刺してこない事を祈るばかりだけど…。」
流星「アイツはそんな事しませんよ。大丈夫、"本当"のアイツに戻った今、きっと俺達の力になってくれます。」
シズク「けどよ、国土の奴もとんでもねェ事を言い出しやがったな?。オレ達も知らなかったんだけど神樹様の"枝"なんてもんがあって、それが本殿の奥底深くで厳重に守られてきたものを使って「獅子座」の"祟り"解くなんて…この間、奴からそれを死守する為に宗主共々、お前も死闘を繰り広げたんだろうが。」
流星「…ええ、俺も驚きましたよ。でも、今の亜耶は皮肉にも"神"に近い存在と化しています。自分の"神力"を用いれば、あの"枝"に残された神樹様の"神力"をほんの僅か、拝借する程度で"祟り"を浄化する事が可能だと、本人はそう言ってました。」
シズク「マジかよ…アイツ、もうオレ達の手の届かない"存在"になっちまったということか…。」
流星「…いえ、"連れ戻し"ますよ。もう、この世界に"神"の干渉は必要無い。人類が本当の意味で前に進むのなら、"神"なんて必要ないんです。それに、彼女がそうなってしまったら変わりつつある"新生大赦"が昔の姿に戻ることになる…もう、誰にも利用させませんよ。彼女も…貴女達も。」
シズク「はぁああ…生意気な口を聞きやがって!お前なんかに守ってもらうほどヤワじゃねェっつうの!。国土が"そうなっちまった"時、"連れ戻す"役目はお前1人に背負わせねェ、オレ達も一緒に"連れ戻す"。自分1人で何でも出来るなんて思うなよ、小僧が。」
流星「はは、分かってますよ。だから…その時は助けて下さい。」
シズク「…ったく、そういうのが生意気だっつってんのに…まぁいい。今はとりあえず、この気味悪ぃ状況をどうにかするぞ。そんでもって、自分達が"神"になろうって考える馬鹿な野郎共をぶちのめして、全てを終わらせるぞ!。」
流星「――はいッ!。」
峻輝(…声を出せば、みんなが助けてくれる。俺はやっとその事に気付けた。そうだ…独りぼっちなんて事は絶対に無ェんだ。俺は自分が犯した罪を償いながら、精一杯生きていく。父さん、母さん。ごめん…俺、ずっとあんた達の事を勘違いしてた。あんた達も世界の為に動いていただけだったんだな。そんな事も知らずに俺はおかしな両親だって思っちまってた。それに、無念を晴らせなくてすまねェ。それ以上に、大切な事が出来た。けど、全部終わらせたら必ず、その無念を晴らして見せるから…今度は別の方法で、誰にも迷惑を掛けずに…あんた達が本当に伝えたかった事を世界に伝えてみせるから。だから――)
――じゃあな、俺のクソッたれな"人生"。
―肆『三上峻輝の章』―
――完。
――すれ違いや遠回り、壁に翻弄されて長くなったが、2人の少年はまた"友"に戻れた。
大切な人を、守るべき者を守る為に…2人の"勇者"は最後の戦いへと赴く。
そして、この世界…いや、"星"を巡る戦いは最終章に入る――
次回
―終ノ章「星の章」―
第79話 "偽神戦争"