そして"人"という種を超え、この世界の新たなる"神"として君臨する。
"偽神戦争"。
この争いは、そう語り継がれる――
第79話 "偽神戦争"
――我々は、神に仕えし神官。
この世に生を受けてから、一族代々でその名を継いで来た。故に、我らには人としての"名"など無い。
「表」が"勇者"の家系である"乃木家"ならば、我らは「裏」を司る一族…知る者はこう呼ぶ。
「三大神官」と。
旧世紀に語り継がれしこの國…かつての名は「日本国」に存在したとされる三大神「天照」「月詠」「須佐ノ男」の名を与えられ、本来ならば天上の神"天の神"に仕える神官として旧世紀では裏で活躍したとされている。
しかし、滅んだ「西暦時代」は科学の進歩から"神"への信仰そのものが薄れていき、やがてはその存在さえ人々の中からは消滅していた。
我らの祖先はそこで思い知った。
"神"を否定するものは"科学"そのものと。
人は進みすぎた。"科学"という知識を得て、"神"が施した理そのものを凌駕し始めたことを。
本来ならば、神々が人類に干渉する事は決して無い。だが、人類はその圧倒的な"科学"を行使して"星"そのものを汚し始めていた。
幾千幾億という途方も無い長い年月を掛けて形成された"自然"を破壊し始め、この星を"死"に向かわせている…この事に警鐘を鳴らした"天の神"は「バーテックス」と呼ばれる私兵を用いて、人類への粛清をし始めた。そう、この時点で"天の神"は人類を見限っているのだ。
いくら人が悔い改めようが、"神"はもう人類に見向きもしない。
"科学"によって繁栄した時代は滅び、人類は先祖返りをするかの如くかつての"信仰"による時代へと逆戻りしたのだ。土地神の集合体である"神樹"は生き残った僅かな人類を見守り、"信仰"による時代が続く事を望んでいたとされる。無論、我々もその理念と思想を脈々と受け継いできた一族だ。かつての"科学"の時代に戻る事には否定的だ。
だがいつからか、我々は一つの疑問を持ち始めた。
そう、2年前のあの出来事…"勇者"が"天の神"を退け、世界の運命が変わったあの瞬間だ。
寿命迫る"神樹"に祈りを捧げ、人類はその眷属へと昇華するはずだった。しかし、祈りに参加した神官達はその思いが通じず、砂と化していった。あの時は信仰心が足りないばかりだと思っていた、だがこうも思う。
そもそも、"神"が人類を信用していないが故にその眷属へと昇華する事を否定したのではないか…と。
そして、人類に全てを託した"神樹"は生き絶え、"天の神"は「高天原」へ戻っていった。
"神"が消えた世界…我々はその行く末を見守るべく「本来のお役目」に徹する事にした。「信仰」を護るお役目へと。
――だが、人類がした選択は違った。
"人"として生きる世界…"神"を必要としない世界。その選択が行き着く先は「西暦時代」と同じ"科学"の世界。"信仰"を忘れた世界。
"神"に信用されていない人類がその選択を選べば、かの神は再び現れる。今度は確実な滅びを与えに。
――"人類"は滅ぶべきなのか?。いや、人類だけではない…この世界の生きとし生けるものは全て滅びを迎える事になる。"人類"という種が愚か故に、その他の種までもが巻き込まれる事に。
ならば、"選択"は一つしかない。そう、"人類"が進化すれば良いという事。"信仰"を持ったまま、種を超えれば良いと。
――そうなれば、それを導く存在が必要だ。そう、"神"だ。しかし、"天の神"は人類を見限っている…種を超えて進化しようとしても、それすらも否定するだろう。"神樹"ももう居ない。ならば、"誰が"「神」になれば良いのか?。その答えはすぐに出た。
――"我々"がなれば良いのだ。古の時代から"神"の名前で生きて来た我々が。最も"神"に近い"我々"が。"信仰"を忘れない"我々"が。
いくら叫ぼうが訴えようが"天の神"は応えない。
何、ニ年前にやろうとしていたことを再びやるだけだ。神の眷属…いや、その"上"に登れば良い事。それを邪魔するのなら"天の神"であっても排除の例外ではない。
この地に眠る怨嗟の悪霊…いや、"邪神"を利用して今こそ天上の神を打ち破り、その役目を引き継ごう。今を生きる"人類"全てを進化させる。それについて来れない者、否定する者は排他されるべきだ。この星を統治する存在が変わるだけの話…"意志"を持った種が生き残る為の手段だ。そして、この美しい青の星を守る為に。
そう、"我々"は"神"に叛逆する。そして、"我々"が新たな"神"となって、
"新世界"を創造する。そう、"我々"は"天の神"を超えた"神"――
――『星神(ほしがみ)』へとなるのだから。
――――――――――
芽吹「『反攻作戦』…?。」
防人寮。旧勇者部メンバーを含め、ここに招集を掛けた玲司がそう告げる。
玲司「そうだ。"邪神教団"…いや、"三神官"へ全戦力を賭けて一大反攻作戦を実施する。これは宗主様のお考えだ。」
風「…確かにもうウカウカしてらんないわよね、この状況。」
太陽が全く見えない暗い空を見る風。星もなく、光そのものを失った光景。まるで、星そのものが停止したかのような暗黒の世界。この未曾有の事態に全ての企業、学校、施設は全て休止状態に。"新生大赦"が主導となって食糧や生活必需品の配給によって人々の生活は難なく過ごせているようだがこれも時間の問題だ。
好転させるには"三神官"の企てを阻止し、この暗黒の世界を作り出した"邪神"『崇徳』を討伐する事…全員がそれを理解している。
幸いなのが『崇徳』がまだ"完全体"では無いこと…それに必要な"最後の鍵"が亜耶ということもあり、"三神官"の次の狙いは彼女と言うことも予測出来ている。彼女は"三神官"の息が掛かった神官が居ることも否定できない為、"乃木家"によって厳重に保護されている。ただ、連絡は取れるようしているとのことだが、これも"乃木家"が保有するプライベート通信のみといった徹底ぶりだ。連絡の入る人間も限られている。
夕海子「成程…「守り」は万全なので「攻めろ」という事ですのね。」
夏凛「私達の"擬似勇者外装"も残り回数が少ない。あと数回の戦闘で使えなくなるわ。だから…。」
美森「「最も戦力が充実している"今"」が好機…という事ね。」
玲司「ああ。三上坊主のお陰で奴らの本拠地も割れている。瀬戸内海の孤島…そこに奴らの"神殿"があるというわけだ。座標位置も特定済みだし、船を出す準備もしている。後はお前達の心意気のみ…ということだ。」
しずく「……それ、聞く意味ある?。」
玲司「…無いっちゃ無いわな。言い方を悪くすりゃ「徴兵」だ。この作戦に関しては決行が確定している。無論、防人全隊に加えて旧勇者部の面子も全員だ。「この事態をすぐに沈静化しなければ、「もっと最悪」な状況へと陥る」。宗主様はそう言っていた。」
園子の言う「もっと最悪な状況」…"それ"が何なのかは容易に想像がつく。
友奈「…"天の神"がまた現れる。"本物のバーテックス"を引き連れてまた…。」
樹「"三神官"を止めて"邪神"を倒さないと、また2年前と同じ状況に戻る…今は"神樹様"がいないから、人類は今度こそ滅びを迎える…。」
雀「そ、そんなの……ッ!。2年前にみんなで取り戻した世界なのにッ!。」
芽吹「だからこその「徴兵」なんでしょう。無論、止められても行くわ。この一戦に、未来が掛かっているもの。今更同意なんて必要無いわ。」
玲司「わかってる…わかっちゃいるけどよ。」
玲司は懐にあるタバコを取り出し、吸おうとするがそれを握り潰して。
玲司「…全員が生きて帰って来れる保証が無ェ。時間も限られてるし、2年前以上にヤバい状況をお前らにまた押し付ける事しか出来ねェ…世界の命運の前に、「自分達の未来」の事を考えてくれ。考えろって言っても八方塞がりなんだけどよ…俺はお前らに「死ね」と言ってるようなもんだぞ…!。」
歯を食いしばり、悔しさで言葉を詰まらせる玲司を見て先に口を開いたのは…流星だった。
流星「顔を上げてください、久遠さん。」
玲司「坊主…!。」
流星「…分かってるはずです。俺達は「死にに行く」為に決着をつけるわけじゃないと。」
玲司「でもよ…ッ…!。」
流星「世界の事も勿論、大事です。あの人達に大層な願いがあったとしても、誰かの明日を奪って良いはずなんてない。"天の神"にだって、それを奪う権利なんてない。俺達はそれを否定する為に戦いに行くんです。宗主様の命令だからじゃない、俺達自身の意思で戦いに行くんです。それは宗主様だって分かっておられるはずです。」
峻輝「オッサンの気持ちはありがてェけどよ、俺もそう思ってるぜ?。ついこの間まで滅茶苦茶した奴が言えた義理じゃねェけど…この一戦に俺達の"明日"も含まれてるんだ。絶対に生きて帰ってくるさ。全員で…な。」
玲司「…お前ら…。」
玲司は流星と峻輝の肩に手を回して力強く抱き寄せる。
玲司「…覚えてるか?。お前らと初めて会った時の事。」
流星「はい。確か、久遠さんの車が故障して渋滞を起こしてた時…ですよね。」
峻輝「俺も覚えてるさ。クッシャクシャの名刺を渡して「神官だッ」って名乗ってたよな。」
玲司「そうさ。あん時のお前らはそんじょそこらの学生だった。でも、あの日…坊主が楠用に調整された「擬似勇者システム」を起動させて巫女ちゃんを守り、そして奴らの"巫女狩り"を食い止める為に防人として戦ってくれた。"人造バーテックス"に"使徒"…弥勒を連れ戻すために過去に飛び、そして、“人造神"との戦い…そんでもって、“黒百合"としての三上の坊主と戦った事……お前は一年にも満たないこの数ヶ月でとんでもねェモンに巻き込まれ続けて来た。」
流星「でも俺は……。」
玲司「わぁってるよ。お前の戦う理由は最初からずっと「巫女ちゃん(亜耶)を助ける為」だって事。今も変わらねェ…そうだろ?。」
流星「はい…ッ。」
玲司「そんで三上の坊主。真実を知って世界を憎んだお前は両親の無念を晴らす為に武器を手に取った。そして、"祟り"に苦しむ「獅子座」を救う為にたった1人で世界に牙を剥けた。でもその行動は最初から「大切な人の為」だってことだ。」
峻輝「…オッサン…。」
玲司「…デッカくなったよなぁ、本当に。挫折も苦しみも味わい、そしてその度に立ち上がって来たお前らは俺なんかよりもよっぽど大人だ。けどよ、"大人"としてお前らに…いや、ここに居る今から戦いに行くお前ら全員に言うことがある。」
玲司はタバコを捨て、大きく息を吸う。
玲司「例え、手足が千切れようとも生きて帰ってこい!。そして、「お役目」なんかじゃなく、「心に従って」最後まで戦え!。これは世界の命運を賭けた戦いなんかじゃねぇ!お前達の"明日"と"未来"を賭けた正真正銘の"最後の戦い"だッ!。あのクソッタレ共に…一発喰らわせてやれッ!!。」
「「「はいッッッ!!!。」」」
全員は背筋を伸ばし、声を上げる。
そして、その数十分後……"勇者"達は最後の戦いに赴くべく港へと向かった。
「タバコ、良かったの?なけなしのお金で買ったものでしょ。まだ新品同然じゃない。」
港で船に乗り込もうとする一同を見守る玲司に、安芸が話しかける。
玲司「いいんスよ先輩。こういう時こそ、大人がカッコつけなきゃ締まらねェでしょうが。」
安芸「…いいけど。でも…いつになっても慣れないわね。子供達が世界の為に死地に向かうのは。」
玲司「死地…か。そいつはちょいと違うなぁ先輩。」
安芸「…ん?。」
玲司「アイツらは"未来を勝ち取る為"に戦いに行くんです。いつだってそうだ、歴代の勇者達も「お役目」の為だけじゃねェ。その根幹はみんなで"明日"を迎える為に最後まで諦めずに戦って来たんですよ。だから今度こそ…これが最後になるんスよ。"勇者"の戦いは…ね。」
船が出航する。「希望」という名の戦士達を乗せて。
玲司「――さァて、先輩。俺達は俺達の"戦い"をするとしますかね。もう、"絞って"んでしょ?。」
安芸「――ええ。"三神官"の息が掛かった者は全て洗い出せてるわ。彼が…「蟹座」が協力してくれたお陰でね。宗主様も直にこちらに合流する、あの子達が帰ってくる場所を…守りましょう。」
"未来を賭けた戦い"。
作戦名『「天十握剣」(あめのとつかのつるぎ)』
―――開始。
…………………………end。
"三神官"が鎮座する"邪神教団"の本拠地へと乗り込んだ"勇者"達は迫り来る“人造バーテックス"の群れと対峙しながら、突き進む。
だが、そこに待ち受けていたのは東郷美森を倒す為に全てを賭けてきた彼女と同じ姿の「人造人間」…「射手座」だった――。
次回
第80話 望まぬ生。