紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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"自分が生まれた意味を知りたい"。


"造り者"である自分には必要ない感情。そう思っていた。
変わりなんて幾らでもある…そう思っていた。
だが、"本物"を見た時…その違いに気付いた。

私は……


"居てはいけない存在"だという事を――――――


第80話 望まぬ生。

 

最終作戦開始から1時間後――

 

『防人』と『旧勇者部』による戦力総数、延べ38人。

 

"新生大赦"は持てる全戦力を投入した。勿論、今の四国本土に防衛戦力は無い。残っているのは防護結界を張ることが出来る43人の神官のみ…自分達が"邪神教団"の本拠地に赴いた直後、四国全土に"避難命令"が敷かれた。

 

つまり、この一戦に敗北は許されない。自分達の背中には、全四国民の命と未来が掛かっている。

そんな覚悟を背負っているからこそ、敢えて"防衛"を捨てたのだ。

 

 

道中、会話は全く無い。

避けられない激戦を前に、武者震いする者や家族を思う者…集中力を高める者、様々だ。

大昔にあったという「天下分け目の戦い」といった所だろう。泣いても笑っても、これが最後だ。

人の悪意から始まったこの戦いはいよいよ天王山を迎える。

 

「神」を求める者と「未来」を求める者。

ここまで来るのに大きな壁と悲しみがあった。日常が壊れ、死んだ者も居た。

そして…親友と刃を交えた。

 

そんな困難を乗り越えて、皆ここに居る。勿論…親友も。

 

自らの意思で、心に従って立っているんだ。

 

 

――全てを終わらせる。

そう、思って。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

峻輝「緊張してんのか、流星?。」

 

流星「峻輝。」

 

 

手渡された飲み物を受け取り、一口だけ飲む。

緊張…そうだな、確かに緊張はしている。だが、不思議と心が澄んでいる気がして。

 

 

峻輝「…色々あったけど、これが最後なんだな。」

 

流星「ああ。」

 

峻輝「こうなる前にはもう戻れねェけど…今は終わらせることだけを考えよう。」

 

 

彼から出たその言葉に、流星は思い返す。

 

 

……………。

 

流星「…審問会…ですか…?。」

 

玲司「ああ。過去のしがらみを堪えて協力的になったとしても、アイツが犯した罪は大きい。罪は清算しなければならない…それが今の世の決まり事なんだ。」

 

流星「…アイツは…峻輝はどうなるんです!?。」

 

玲司「…罪状が罪状だからな。高知支部の壊滅及び所属神官の殺害。それに加え、"神器"の強奪に天災級の呪いを呼び起こした罪……過去に類を見ないほどの叛逆行為だ。神世紀の歴史上、最もデカい罪とも言えるだろうさ。そのあたりは流石の宗主様も厳格に審議をなされる。教団壊滅の一手を担ったとしても、塗れた罪を洗い流すには足りない程のものなんだよ。その辺りは三上の坊主も理解しているさ。」

 

流星「……"最悪"を想定しろ…と?。」

 

玲司「…そう怖い顔すんな。全ては奴の同意の元で行う審問会だ。そこで下された判決が何であれ、引き受けると承諾してくれたよ。これはアイツの意思でもある。だから…尊重してやってくれ。男の覚悟ってやつを。」

 

玲司(まあ…その"最悪"の判決を言い渡すと同時に「交換条件」を突きつけてきたのは、"黒百合"の時に学んだ駆け引きって事なんだろうな……でも、俺は…――――。)

 

……………。

 

 

「総員!戦闘準備ッ!!。雑兵が来るッ!!。」

 

 

"弐番隊"から声が響く。同時、大多数の"人造バーテックス"が飛来してきた。

 

 

雀「うわわわわ、出たァァァッ!!。ここ、海上なんですけどッ!。」

 

芽吹「各位は消耗を最小限に留めろッ!。少数でもいい、上陸優先で突き進め!!。」

 

 

芽吹の号令に、一同は迎撃戦を展開。各船舶に配置された"護盾型"の防人達が一斉に結界を張り始める。

 

シズク「ハッ!この戦い、2年前を思い出すなァッ!。」

 

夕海子「でもあの時とは違って、強くなっていましてよッ!!。」

 

美森「うッ!!。」

 

 

銃撃を行う彼女に突如、強烈な頭痛が襲い掛かる。

 

 

友奈「東郷さん!?。具合が悪いのッ!?。」

 

美森「…大丈夫…そうじゃないんだけど…"呼ばれてる"?。」

 

夏凛「こんな時に何よッ!!。」

 

 

違和感と頭痛に苛まれる彼女は、見えてきた本拠地の島の先を見据える。

 

 

美森(…間違いない。この感触…誰かが私を呼んでいる…!。)

 

 

―――――――――――――――――――

 

~邪神教団本拠地・埠頭~

 

 

「…やはり、"同じもの"だと引き寄せあうのか…。」

 

埠頭に佇む一人の少女もまた、美森と同じ症状に苛まれていた。

そこに、「獅子座」がやって来て。

 

 

"獅子座"レオ「どうやら、君の"オリジナル"が来たみたいだね。その頭痛は警笛なのか、それとも…。」

 

"射手座"サジタリウス「…どちらがこの世界に存在するのかを決めろという世界からの警告だ。貴女と違って、私は造られた生命……いわば、禁忌の存在なのだから。」

 

 

そう言って、「射手座」は仮面を取る。

彼女…東郷美森と同じ顔。決定的に違うのは……"心"だ。

 

 

サジタリウス「…"オリジナル"を倒してその存在を乗っ取ればいい…"東郷美森"として、彼女に成り代わればいい……"三神官"達はそう言っていたが私は…。」

 

レオ「……後の事は、君自身が決めると良い。」

 

サジタリウス「…"獅子座"…。」

 

レオ「君の"人生"だ。後悔の無い選択を取ればいい。」

 

 

瞳を閉じて、何かを考える"射手座"。そして……決心した。

 

 

サジタリウス「ありがとう。私は…行くよ。」

 

レオ「…幸運を祈る。」

 

 

壁に立てかけられた銃を手に、静かに立ち去る"射手座"。その後ろ姿に、"獅子座"は―――

 

 

レオ(…今、残っている"使徒"達は自分達の為だけに戦うだろう。そして、私も…。)

 

 

手袋を取り、手の甲にまで伸びた禍々しい"痣"を見る。

 

 

レオ「……残りの"人生"を、悔いなく…―――――。」

 

 

―――――――――――――――――。

 

 

芽吹「…先に上陸できたのは私達だけ…か。」

 

 

沖の方を見る芽吹。

戦闘による光と音…彼女率いる"壱番隊"と旧勇者部の面々以外はまだ、人造バーテックスの群れと激戦を繰り広げている。

 

心配していないと言えば嘘になる。この激戦、無事でいられる保証なんて何処にもない。下手をすれば、また死人だって―――。

 

だが、足を止めるつもりはない。

この戦いを乗り越えなければ、明日は無い…これで最後なのだから。

背中を仲間に任せて、決着を付けに行く。

 

そして…その戦いは急に訪れる。

 

 

美森「!!!。下がって!!。」

 

誰よりも早くに気付いたのは美森だった。同時、一発の弾丸が地面に着弾する。

 

 

風「…おいでなすったわね…偽東郷!!。」

 

 

高台の上、そこに佇むのは銃を構えた"射手座"。仮面を捨て、その素顔で現れる。

 

 

サジタリウス「…用があるのは貴様達じゃない。先に進みたければ進むと良い。」

 

樹「ど、どう言う事…!?。」

 

美森「…私に用があるのでしょう、"射手座"?。」

 

友奈「東郷さん…ッ!!。」

 

 

深く、深呼吸する美森。"射手座"は彼女を待つように。

 

 

美森「――ここは私が引き受けます。皆さんは先を。」

 

流星「東郷先輩…本気なんですか…?。」

 

美森「ええ。彼女は私を"待っていた"。呼ぶ声がしたの。きっと、彼女も同じように。」

 

サジタリウス「理解が早くて助かる。そう、私はお前を待っていた。決着をつける為に。」

 

美森「そう言う事…気にしなくてもいいわ、彼女の言葉に嘘はない。私が保証する。」

 

 

並ならぬ彼女の言葉に、全員は意図を汲んだ。

これ以上の言葉はいらない…この場を託して、先に進む。ただ一人、友奈を除いて。

 

 

友奈「東郷さん。」

 

美森「…友奈ちゃん。」

 

 

ただ、呼び合うだけ…でも、それだけでお互いに通じている。

『必ず、生きて』…っと。

 

 

サジタリウス「……感謝する、東郷美森。」

 

美森「敵に感謝される筋合いなんてないわ。でも、貴女の思いはちゃんと理解したつもりよ。」

 

サジタリウス「ああ。これはもう"使徒"としての役割を果たす戦いじゃない。"個人"という名の私闘だ。」

 

 

沈黙。

互いの手には、それぞれの得物が。そして…同時だった。

引いた引き金の速度は寸分狂わず、同時だった。二発の銃声が一発に聞こえるほどに。

放った弾丸同士がぶつかり、火花を散らす。そこからは駆け引き無しの銃撃戦だ。

 

 

サジタリウス「私は"お前"という存在を模範し造られた命だッ!!。」

 

 

吐き出すように、生い立ちを話す"射手座"。

"造られた命"という、重罪…人が犯した禁忌の塊。人を否定した存在、それが"自分"だと。

自分が望んだわけじゃない。気が付いたら、人から"生"を与えられていた。それだけなら、まだ良かったかもしれない。だが、問題は―――。

 

 

サジタリウス「姿形だけの空っぽな存在!!。"向こう側"のお前の"存在"だけを欲した愚か者共が禁忌を犯して造った命!!。心を否定した存在ッ!!。」

 

 

心残りが無いように、全てを吐き出す"射手座"。その猛攻に、美森は冷静に対処しながら判断を間違えないように銃弾の雨あられを遮蔽物を駆使して搔い潜る。

 

 

サジタリウス「知ってるか?一つの世界に同じ存在があるという事が神への冒涜だという事を。そう、私は神を崇める"神世紀"においてただ一つ、その真理から逸脱した存在だという事を。」

 

美森「……だから、何…?。」

 

サジタリウス「"本物"に成り代われない愚かな命なのだ。私は…居てはいけない存在…この世界の真理を否定した存在だ。"こちら側"に来て、お前を見てしまった時、全てが虚しくなった。真っ当に"生"を生き、苦楽を共にした仲間もいれば悲しみも味わっている…そんなお前を羨ましいと思ってしまった。"人"として生きているお前が羨ましいと思ったのだッ!!。」

 

美森「だったら…ッ…!。」

 

 

掻い潜った先の好機。彼女は見逃さない。

放った弾丸は"射手座"の銃撃を潜り抜け、左足に命中した。

 

 

美森「生きればいいじゃないッ!。"私"に拘るから生き方が分からなくなるのッ!。」

 

サジタリウス「何度も言わせるな…私は…ッ!。」

 

美森「その命は貴女自身よッ!"私"じゃないッ!。」

 

サジタリウス「!!!。」

 

突き刺さったその言葉。感情のままに放った弾丸が明後日の方向へと突き進む。

 

 

美森「人の悪意によって生み出された貴女の気持ちを理解しろと言われたらそれは出来ない。いや、してはいけない…だって、その心と命は貴女が持っているのだから。」

 

サジタリウス「…だが、私は……!。」

 

美森「私という存在が貴女を惑わせ、狂わせてしまった。それが、遠い違う世界の自分の事であっても同じ事…望まない生を与えられ、偽りの東郷美森として貴女は生きている。だから、その存在全てが否定されたようで悲しくて仕方がない。"神"を崇拝する世界だもの、禁忌の技術によって生み出された貴女は世界からは忌み子として視線を向けられてしまう…でも、ここにはもう"神"はいない。貴女を否定する存在は居ないのよ。」

 

 

銃を下ろす美森。

そして、"射手座"の瞳からは涙が溢れていた。

 

美森「生きることはとても困難な事よ。でも、貴女は"私"じゃない。私は私の人生があるし、貴女には貴女の人生がある。選択肢を潰していたのは自分の方じゃない…そう言う悪い所は私と同じね。」

 

サジタリウス「だったら…だったら私はどうすればいい……東郷美森ですらない私の存在は……。」

 

美森「それを見つけるのがこれからの課題でしょう?。生きてみれば分かるわよ。そうして泣ける事が何よりの証拠でしょう?。」

 

 

手を伸ばす美森。戸惑いながらも、"射手座"はその手を取ろうとする。

この手を取れば、何かが変わるかも知れない…だったら、生きて…――。

 

―――"未来"を掴もうとしたその時。

 

 

サジタリウス「!!!。危ないッ!!。」

 

美森「……えっ?。」

 

 

"射手座"の眼前の先。

いつの間にか現れていた"月詠"が、手鏡から閃光を放った。その軌道は確実に彼女の中心を捉えていて、確実に命を刈り取る死の光。

 

そして、気付いたら自分が彼女を突き飛ばして。

 

 

サジタリウス「…がふッ…!。」

 

 

死の光が心臓を貫いていた。

 

 

美森「あ…貴女……ッ!!。」

 

月詠『あ〜あ…何で邪魔をするかなぁ…まぁいいや。どのみち、君は"廃棄"決定だったから。いい働きだったよ?"射手座"。』

 

美森「…月詠……ッ!!。」

 

月詠『そう怖い顔しないでよ。感謝するんだね、"射手座"のお陰で貴女は生きている…まあ、長生きできる時間が出来ただけだけど。』

 

 

怒りのままに放った弾丸が月詠を貫いた…かに見えたが、そこには穴の開いた札しかなく、月読の無邪気な笑い声と共に燃え尽きた。

 

 

美森「しっかりッ!ッ…血が止まらない…ッ!!?。」

 

サジタリウス「……無駄だ……心臓を…貫かれて……がはッ!!。」

 

 

どんどん赤に染まる自分の手と地面に広がる鮮血。抱えるその手から、彼女の温度が低くなっているのを感じた。

 

 

美森「なんで私を庇ったのっ!?。」

 

サジタリウス「……泣いて……くれるのか………私は…お前の敵……だぞ……。」

 

美森「関係ないわそんなのッ!。」

 

サジタリウス「…フフ……ッ…どのみち私は……お前に討たれる…つもりだった……けど………お前が私を生かそうとしてくれたから……"私"という存在を認めてくれたから………思っていた結末よりも……ずっと……。」

 

 

身体の内から逆流してくる血に息を詰まらせながらも、言葉を振り絞る。

『まだ、死んではいけない。ちゃんと伝えるまでは。』

 

最後の瞬間まで、命の炎を燃やす。

 

 

サジタリウス「……最後の最後で……人間らしいことが……出来た………お前がああ言ってくれなかったらきっと……分からないまま………自分を呪いながら……死んでいた………。」

 

 

美森は大粒の涙を落としながら、彼女の手をしっかりと握る。その体温が完全に失われるまでずっと。

そして…"その時"が訪れる。

 

 

サジタリウス「……あり……がとう…………。」

 

 

―――一筋の涙を流し、今まで一度も笑わなかった彼女が…笑った。

その儚げな笑みを浮かべたまま、最後の最後で手に入れた自分の"幸せ"を抱きながら―――。

 

 

"射手座"…「東郷ミモリ」はこの世を去った―――――。

 

 

――どんな命にだって価値はある。それがどのような方法で生み出されたとしても。

だから…こんな悲劇をもう起こしてはいけないんだ。

 

 

美森は彼女の亡骸を抱えたまま、そう思った―――――――。

 

 

…………end。

 




"射手座"は最後の瞬間に"人"としてその生を全うした。

それだけでも、救われたと思う…そう思う東郷美森は彼女を弔った。


―邪神教団・神殿―。
偽神を討つために先に進む一同の前に現れたのはかつて防人として共に戦った戦友であり"双子座"となった「高崎美咲」とその妹である「高崎美優」。

再び壁となって立ちはだかる2人と対峙すべく、シズクと雀がその場に残る事に。

そして、両者は"激突"する…――


次回
第81話 力という名の"正義"
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