紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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自分の中にあるもう一人の人格…普通ではないその特異体質。

"解離性同一性障害"。

そういわれる心の異常が私にはある。

だけど、最も信頼できる"友"でもある。

けど今は、仲間に囲まれている…もう一人に自分を受け入れてくれた仲間達に囲まれている。

だから"私たち"は……一人じゃない―――。


第82話 防人の戦い。

 

――たった一人の肉親を取り込み、力におぼれた少女は自分の意志で人の殻を破った。

いや…その肉親すら"偽り"だった。

 

教団に入ってから得たこの力で妹の記憶を見たからこそ、より"力"に執着するようになった。

目の前にいるこの異形は最早、力の権化そのもの……誰も信用せず、自分しか頼りにならないと腹を決めた少女の姿だった。

 

それに相対するのは、"仲間"を知った少女達…その中の一人「山伏しずく」は彼女に近い気持ちを"かつて"、持っていた。

 

自分の中にいるもう一人の自分…"シズク"。

もの静かな自分とは正反対の荒々しい人格…でも、そんな"彼女"は表の人格である"自分"をずっと守ってくれた。

こんな体質だからこそ、周囲の目は冷たく、時には物珍しく、そして気味悪がられたりもした。

 

その度に裏の"彼女"が現れては、"自分"を守るために力でねじ伏せてきた。

結果、私は"孤独"となった。けど、不思議と寂しくはなかった。

いつも"彼女"が居てくれるから……身は一つでも、心は二つ…だから、友達なんて別にそこまで必要としてこなかったし、必要最低限の付き合いさえすればそれで良かった。

 

だけど、そんな私に転機が訪れた。それは、"防人"に選ばれたこと。

勇者候補生として、旧大赦に抜擢された少女たちが集まり、己を高めあう。そして、最終選考によりその座を得る。

 

もちろん、その座は別の人に渡ったのだけれど、私を含めた32人の候補生達は別の任務を担う"防人"として、行動することになる。

 

その中で私は今のチーム…楠達のチームへと入ることになった。

当初はぎこちないチームワークだったが、死地を共に乗り越えることで絆が生まれていた。

あの"シズク"でさえ、心を開いた。その時に、気付いた。

 

 

これが、"仲間"なんだと。

自分は…いや、"私たち"は独りぼっちじゃない。そう気付いたからこそ今、ここに居る。

 

だから、目の前で力におぼれた彼女は"かつての自分たち"がいつかその場所にたどり着いてしまった姿なのかもしれない。

 

 

シズクは真っ向から否定する。もちろん、"私"も…――――――

 

 

 

 

虚神ジェミニ『何が"防人の戦い"よ。世界の為に戦う勇者だって言いたいの?。」

 

シズク「違うな!。結果、そうなってるだけでオレ達は自分たちがそう思ったからこそ、戦ってるんだよッ!。」

 

 

照準を絞り、狙うは虚神ジェミニの心臓…つまり、"疑似御霊"。

しかし、異形と化した彼女の反応は人のそれをはるかに凌駕し、不規則な動きで距離を詰められる。

振り上げられた片手の刃が、自分の肉を掠める。

 

 

シズク「ちィッ…訳分かんねェ動きをしやがって…っ!。」

 

虚神ジェミニ『――この姿は私が望んだもの……人という器では絶対にたどり着けない力そのもの。いい気分だわ…ずっと歯痒かったものが取れた気分で!。』

 

シズク「ああそうかい、ならそんな醜い姿をしたまま地に伏せるといいさっ!!。」

 

 

間髪入れずに放たれた弾丸は何発か直撃するも、効いている様子は見受けられない。

それに、消耗している様子もない…それに比べて、こっちは傷を負った上に体力も削られていく…これが、"差"だとでもいうのか……シズクは気持ちを保ったまま、何とか隙を突こうとする。

 

 

虚神ジェミニ『いくらやったって無駄!。見なよ、他の"使徒"は虚神の力を制御できず、暴走した挙句に死んでいった。それを知ってから、私はこの力を制御する為に更に力を求めた。その結果がこれよ。二分割された"双子座"の疑似御霊が一つとなり、完全体となった"双子座"の力さえあれば、"勇者"そのものを超える事が出来る!!。それが今の私!。もうあきらめなさい、あなた達が勝つことなんて万に一つもない…すべてを受け入れて死んでいくだけ……。』

 

シズク「……ごちゃごちゃと…うるせェんだよっ!!。」

 

 

手に持った銃剣のトリガーを引き、弾丸を放つ。しかし、それも届かない。後方で見ている雀は覆らない情勢に歯を食いしばっていた。

 

 

雀(どうしよう……シズク、強気なのはいいけど明らかに劣勢だし………。)

 

 

そう言って、震える自分の手を見る雀。

 

――なぜ、自分が震えるのか。

いつも誰かの陰に隠れて、守ってもらう。自分は"防護型"だというのに。

今だって、戦っているのはシズクだ。無論、防護型の防人に大した戦闘能力は無い。敵の攻撃から仲間を守るのが自分の役目だ。

だけど、その役目とは裏腹に自分は"守ってもらっている"。

いつも、泣きついて守ってもらってばかりいる自分に、今回はなぜか腹が立った。

何もしていない自分が震えるのはおかしいじゃないか。そう、思って。

 

 

虚神ジェミニ『もらったぁああああああッ!。』

 

 

苛烈を極める猛攻に、シズクは所々に深い傷を負う。そして、完全に懐を取られた。

 

凶刃が迫る――――

 

 

雀「うわあああああああっ!。」

 

 

その凶刃を止めたのは雀。

叫びながら間に入り、虚神ジェミニのチャンスを奪った。

 

 

シズク「な…加賀城!?。」

 

雀「グス…一緒に帰るんでしょ!?。だったらここでやられないでよっ!。」

 

 

もう、訳が分からなかった。恐怖とかそんなものではなく、気が付いたら前に出ていた。

目尻に涙を溜めながら重い一撃を受け止めていた。そんな状況に、何よりも驚いたのが虚神ジェミニだった。

 

 

虚神ジェミニ(…私の一撃を止めた?。防護型にこんな防御力があるっていうの?。)

 

シズク「…お前…いくら何でも無茶すぎるだろ…。」

 

雀「うぅ…分かってるよ…けど、あのままじゃやられちゃうかもって思うと勝手に動いちゃって…。」

 

シズク「…おい、オレが負けるってか?。」

 

雀「うん…正直、そう思った。けど…二人で頑張れば大丈夫…だよね…?。」

 

(ううん、二人じゃないよ。)

 

 

脳裏に響く少女の声に、雀はびっくりしてその場に尻もちを付く。

 

 

雀「え、えええっ!?。何、誰の声!?。」

 

(ありがと、加賀城。おかげで助かった。シズクの代わりにお礼を言う。)

 

シズク「……ちッ。後で言うつもりだって。加賀城にも声が届いてるってのか。"しずく"。」

 

しずく(うん。だから、私たち"3人"で高崎を止めよう。あの子はずっと囚われている。昔の私たちがああなったかもしれないから…。)

 

シズク「はぁっ!?。高崎を助けるっていうのか!?。無理だろ、だってあいつは虚神に…――。」

 

しずく(でも、支配されていない。人の感情があるならたぶん、助けられる。)

 

雀「高崎さんを…助ける…?。」

 

 

"しずく"から出たとんでもない提案に、二人は驚く。それを聞いていた虚神ジェミニは怒りを露わにした。

 

 

虚神ジェミニ『助ける?。何…私が悲劇に囚われているとでも?。』

 

雀「あわわわ…火に油だったんじゃないこれ!?。」

 

シズク「…ちッ…潰す方が楽だってのに…いいぜ仕方ねェ!。加賀城、サポート頼んだぞ!!。」

 

 

勢いよく飛びだしたシズクは接近戦を仕掛ける。互いに剣が激しくぶつかり合い、火花を散らしていく。

 

 

シズク「おい勘違い野郎!。しずくがお前を助けたいっていうから仕方なくやってるけどなっ!。ガキみてェに意地張ってんじゃねェよっ!。」

 

虚神ジェミニ『意地ですって…!?。』

 

シズク「お前の過去なんて知らねェし聞くつもりもねェけどな!。でもお前、その過去にずっと"負けてる"事に気付いてねェだろっ!!。」

 

 

左手に小銃を構えたシズクは先端についた刃で虚神ジェミニの胸元を切り上げた。

 

 

シズク「確かに力さえあれば誰も楯突いてこねェし、逆らってもこねェ!けどな、その後に残るのは虚しさだけなんだよ!。」

 

虚神ジェミニ『…虚しさ…?。』

 

シズク「何にも満たされねェんだよ!。人間は独りで生きていくのなんて絶対に無理だ!。誰かに支えてもらわなきゃ、前に進めねェんだよっ!。」

 

 

 

――自分がそうだったから。

"防人"になる前は、表面上の付き合いしかしてこなかった。本当に頼れる仲間なんていなかったし、信用もしていなかった。

 

"しずく"を守れるのは自分だけ。

ずっと、そう思ってた。けどあの時…芽吹に力で負けた時、差し伸べられた手があんなにも暖かいなんて知りもしなかった。認めるしかなかった。"独りよがり"だったと。

けど、認めてからは心のつっかえが取れた気がした。"しずく"が笑うようになった。心の底から。それは自分だってそうだった。

 

"仲間"に命を預け、預けられる事がこんなにもうれしいことなんて思わなかった。

"信頼"を知ったからこそ、今までにない強みを得る事が出来た。でも、コイツはどうなんだ。

 

過去の自分が行きついた先…そう思うと、何故か悲しくなってくる。

 

 

けど、意固地なコイツは認めようとしない。そりゃそうだろうな、ずっとそうやって生きてきたのだから。

今更、変えられるわけなんてねェよな――――。

 

 

 

 

虚神ジェミニ『私はずっと"独り"だッ!。だからそれでいい!!。強くなって生きていけば、失うものなんて何もないッ!!。』

 

雀「そ、それは違うよッ!!。」

 

 

左手から放たれた膨大なエネルギー弾を弾く雀。その盾は光り輝いていて、傷の入った盾が修復されていく。

 

 

虚神ジェミニ『なッ……!?。』

 

雀「…きっと、あなたも臆病なんだよね。私と同じで誰よりも"勇気"がないんだよね…分かるよ、その気持ち。」

 

 

 

――彼女もきっと、臆病なんだ。

攻撃を受け止めて、心の声を聞いてそう思った。"独り"でいいって言っているけど、それは気持ちの裏返し。

本当は、誰よりも孤独でいることを怖がっている。けど、力が手に入ればその孤独だって怖くなくなると思っているんだ。

 

この人にどんな過去があって、どんな人生を歩んできたかなんて分からない。

けど、私と同じで一歩踏み出す"勇気"が無いんだ。

それが正解か間違いかなんてわからない。けど、どこか放っておけない気がして…―――――

 

 

 

虚神ジェミニ『分かったように言うなぁああああッ!!。』

 

 

激昂した虚神ジェミニは、両腕を大砲の形に変形させてエネルギーを込める。空気を振動させるほどの力に、二人は息を飲むと同時、この一撃が彼女の最大の一手だと確信した。

 

これで終わらせる気…ならば、真っ向から対立して今度こそ、対話へ持ち掛ける。

これが、"高崎美咲"という少女が抱えている闇だと思えば、向き合わなければならない…そう思って、こちらも最後の攻勢に入る。

 

 

しずく(シズク、加賀城。これを凌いで高崎を助けよう!。)

 

雀「うんっ!!。」

 

 

雀はシズクの前に出て、盾を前方に構える。

 

 

シズク「撃ってこいよ高崎!。これはお前とオレ達の"喧嘩"だッ!!。」

 

虚神ジェミニ『死ねェええええええええええッ!。』

 

 

最大出力のエネルギー弾を一気に射出。眼前に迫るその光球は視界の殆どを覆うほど、巨大で。

 

 

雀「今日は…逃げないィイイイイッ!!。」

 

 

半泣き状態でその光球を真っ向から受け止めた雀。

だが、圧倒的な質量に押されて飲み込まれそうになる。盾がボロボロと崩れては修復を繰り返し、漏れ出たエネルギーが彼女の身体に突き刺さる。それでも、気持ちは折れなかった。

 

 

虚神ジェミニ『どうして…どうして倒せないっ!?。力は私が勝ってるのにッ!。』

 

シズク「力"は"…だろ?。」

 

 

エネルギー弾の中を突き抜けながら、ボロボロとなったシズクが眼前に現れた。

 

 

虚神ジェミニ『や、山伏…!?。』

 

シズク「力は所詮、"力"だ。それだけじゃあ、何も変わらねェ。"心"が弱けりゃ、"力"だって本領を発揮出来ねェんだよォおおおおおッ!。」

 

 

手に持つのは欠けた銃剣の切っ先。強く握り締め、刃が食い込むも気にしない。

この一手が…最後の一撃だから。

 

 

しずく(今ッ!。胸の"疑似御霊"を貫いて!!。)

 

シズク「うおおおおおおおッ!!。」

 

 

突き立てた刃が、赤い疑似御霊に食い込んでいく。本来ならば蚊が刺したような一撃。しかし、疑似御霊にヒビが入り、どんどん広がっていく。

 

その様子に、虚神ジェミニは……高崎美咲は感じた――――。

 

 

――これが…"絆"――――――

 

 

…………

………………

 

 

 

――ここ…は……?。

 

 

うっすらと意識が戻り、ぼやけた視界が鮮明に戻っていく。

最初に映ったのは、その場に倒れる山伏シズクと加賀城雀。周囲は荒れ果てており、静寂がこだまする。

 

すると、自分に気が付いたのか、倒れたままシズクが視線を向けてくる。

 

 

シズク「……よォ……生きてたようだな。」

 

美咲「山……伏………。」

 

 

自分の手のひらを見る。それは、捨てたはずの"人"の手。嫌悪していたはずの姿。

 

 

美咲「……負けた…のか…。」

 

 

もう、心の中は空っぽだった。あれほど固執していた力が無くなり、無力な自分へと戻ってしまった。

もう一度、手にしようとも思わない。これが完全な"敗北"だと、確信した。

 

 

美咲「……トドメを刺しなさいよ。私は…敵でしょ…。」

 

シズク「…確かにな。生殺与奪の権利はオレ達にある。煮ようが焼こうが、好きに出来るってわけだ。」

 

美咲「――だったら。」

 

シズク「諦めてんじゃねェよ。」

 

美咲「……!?。」

 

シズク「言ったろ、お前を助けるって。虚神になった奴を元に戻す術なんて知らなかったから賭けだったけど、見事に打ち勝った。それはオレ達が起こした奇跡なんかじゃねェ。お前自身が起こした"奇跡"なんだよ。」

 

美咲「…私…が…?。」

 

雀「私達は呼び掛けただけ。でも、最後に思ったんじゃないの?。"生きたい"って。」

 

 

そう言われて、美咲は自分の手のひらをもう一度見る。

――震えていた。この震えが何なのかは分からない。力を使い果たした後の限界なのか、それとも……。

 

 

美咲「……"安心"…している……?。」

 

シズク「…お前が本当に"力"を欲したのは、孤独を乗り越えたいからじゃなくて単に…"生きたい"からなんじゃねェのか…?。」

 

雀「…ねェ…死ぬなんてもったいないよ?。せっかく生き残ったんだからさ……もう一回、生きてみれば?。そうすれば、何かが変わるかもしれない。それに…その奇跡を起こせたってことは貴女も"勇者"の素質があるからなんだと思う。」

 

シズク「…仮にも"防人"だったんだろうが。"勇者"の代わりってだけでそう簡単になれるほど防人は甘くねェ。オレ達だって"勇者候補"だったんだぜ?。なら、防人になれたお前もその素質を持っててもおかしくねェだろうが。」

 

 

――その言葉を聞いた美咲は…一筋の涙を落とした。

そうか…ずっと、背を向けていたんだ。力が無かったんじゃなく、正しく使う方法を知らなかっただけ。自分だけが不幸だと思っていた。神様は味方なんてしてくれないと思っていた。誰も、目を向けてくれないと思っていた。けど…目をそらしていたのはずっと自分だった。たった…それだけだった。

 

こんなにも…気にしてくれる人たちがいたんだと、今になって気付いた。遅かった、何もかも…―――

 

 

しずく「……高崎。一緒に帰ろう?。全部終わったら、罪を償えばいい。全部受け入れればきっと楽になれるから。ずっと重かった荷物をここに置いて、また一からやり直そう?。」

 

 

美咲「――――うん…。」

 

 

しずく(…ごめんみんな。しばらく、動けない…あとは、頼んだよ…?。)

 

 

 

……………………………end。

 

 

 




本音をぶつけ合い、それぞれの思いが奇跡を起こした。
力を求めた少女は大切なものに気付き、その呪縛からやっと解放された。


そして、少女達の戦いは…さらに激化する…――――


次回 
第83話 神を信じた者。
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