乃木園子。
四国において、その名を知らぬ者はいない。
旧大赦における名家であり、そして現在の"新生大赦"は彼女が表舞台に立った事で発足された。
そして、彼女は……最強の"勇者"だった。
…初の"お役目"は、それはかなりハードなものだった。
邪神教団の"十二星座の使徒(ゾディアック・アポストル)"という途轍もない戦闘能力を持った一柱「射手座」と交戦した。
あの楠先輩ですら、苦戦を強いられた相手だ。どうなるかと思ったが、なんとか3人の力を合わせて奴を撤退させることに成功した。
得られた情報はかなり多い…そして、この悪魔のような研究を新生大赦に共有・報告を行い、奴らの所業を世に公表せねばならない。
あいつらはただのカルト集団なんかじゃなかった。その理念を掲げるに相応しい程の戦力を持った"立派なテロリスト"だ。そんな奴らがこの四国に暗雲をもたらす…2年前にようやく終わった何世代にも渡って繋いできた戦いをまた引き起こす可能性だってある。
これは、神の粛清なんかじゃない……"人の悪意"がもたらす「人災」だ。
止めないといけない…平和のために。
………………………………………。
峻輝「お前、最近少し筋肉がついて来たんじゃないか?。」
昼休み。流星と峻輝は毎日ここ(屋上)で昼食を取っている。彼が言っている事は"防人"に入ってからの話だろう。確かに、毎日訓練を重ねているからその影響で力がついて来たのだろう。前に比べて、食事量もかなり増えた。でも、硬く口止めされてるから誤魔化すしかない。
流星「そうかな、まぁ…お前に言われて最近、少しずつ筋トレを始めたんだよ。もやしみてェな身体をしてなんて言われたら流石にな?。」
峻輝「おお、そうか!なら、お前も部活をやりゃあいいのに。楽しいぞ?。」
流星「はは、それはいいよ。それにもう3年だろ、今更入ったところで引退さ。」
峻輝「それもそうか。」
流星(こういう日常を守るためにも、あいつらをどうにかしないといけない。そう…峻輝達は知らないんだ。なら、知らないまま平和で過ごすこんな毎日でもいい。その為に…"俺たち(防人)"がいるんだから。)
その時、屋上の扉が開く。やって来たのは亜耶だった。
峻輝「うおお、亜耶ちゃん!いらっしゃい!。」
亜耶「はい、三上君。えっと…紫藤君、"先生"が呼んでますのですぐに来てください。私も呼ばれてますので。」
"先生"。
これは、隠語だ。そう…つまり、"お役目"に関する事かもしくは新生大赦に関すること。学校にいる間は、関係の無い者を巻き込まないためにこう言った隠語を使うという。それを理解した流星は、弁当箱を片付け始める。
峻輝「なんだ、"また"呼ばれたのか?。なんかしたのかお前?。」
流星「え…あ…いや…多分、進路相談の事じゃないかな。うん、この間オープンキャンパスの申請を出していたからさ。」
慌てて誤魔化す流星。亜耶はそんな言葉が出ると思わなかったのか慌て初めて。
亜耶「し…紫藤君もなんですね!?。わ…私もそうなんです!。新生大赦関連の学校をえ…選んでて…!。」
峻輝「なんだ、2人とももう進路を決めたのか?。にしても、流星がこんなに早く動いていたとは…お前、あんだけボンヤリとしてたのにな?。どこの高校だ?。」
流星「え…あぁ…さ、讃州高等学校だよ!ほら、"勇者部"の先輩方が行ってるだろ!?。」
峻輝「はは、お目が高いなお前!。あれ、俺もそこに決めてんだけど…なんで俺には話が無ェんだ?。」
流星「え!?。いや…俺はその…す…推薦入試を受けようと思っててさ!。ははは、あははは…!。」
峻輝「そっか!大変だな、まぁちゃんと話聞いてこいよ?。」
流星「ああ、すまないな!!。今度、埋め合わせはする!国土さん、行こうか!?。」
亜耶「は…はいっ!!。」
慌てながらも屋上を後にする2人。流星は何故か罪悪感に苛まれていた。
流星(すまん、峻輝…変な嘘をつく羽目になって…。)
亜耶「それにしても、びっくりしました…あんなことを言い出すものですから…。」
流星「ごめん、咄嗟だったんだ…その…今度からは隠語を変えた方が良さそうだな…。」
亜耶「そ…そうですね…。」
流星「…それよりも、今度は何だ?。まさか、あれから進展があったのか?。」
あれから。そう、「射手座」との交戦の後、あのロッジで起きた事の一部始終を新生大赦に報告していた。きっと、何か進展があったのかもしれない…そう思いつつ、校内の会議室へと向かう。そう、学校側はこの事情を知っている。まぁ…防人として戦っている事実は伏せられているが。あくまで、新生大赦の手伝い…そういうことで、流星と亜耶は度々抜けることを承諾してもらっているのだ。
亜耶「それが…私も分かりません。」
流星「え…?。」
亜耶でも分からない…何だ、一体…?。
そんな思いを抱きながら、2人は会議室の前までやってくる。そしてノックしたのは…流星だ。
流星「すみません、紫藤流星と国土亜耶2名とも来ました。中に入ってもよろしいでしょうか?。」
そう言うと、扉がゆっくりと開く。少し異質な感じに息を飲む2人。そして……。
「やーやー、後輩諸君。青春してるかな〜?。」
柔らかな少女の声。流星は小首をかしげるが、亜耶は驚いた表情で目を丸くする。
亜耶「ま…まさか…"宗主"様っ!?。」
宗主…その言葉に、流星もようやく理解した。そう、そこにいるのは……。
園子「あっはは、いいよ〜…そんなに畏まらなくても。」
乃木園子。
2年前に旧大赦の宗主を襲名。そしてそのまま、新体制の"新生大赦"へと名を変えた人物。
超名家と言われる「乃木家」の息女…そう、その本人が直々に2人を呼び出したのだ。その傍には、威厳のある1人の神官…仮面をつけてはいるが女性だ。そして、亜耶はその女性も知っていた。
亜耶「滅相もございません、宗主様!。」
何故か、深々と土下座をする亜耶。流星は理解が追いつかない。
園子「いいって、頭を上げて?私、そう言うの好きくないんよ?。」
亜耶「は…はい……。」
園子は2人に座るよう、笑顔で促す。何故か、逆らってはいけない…流星は直感でそう思い素直に従った。
彼女の事はよく知っている。今年、卒業した卒業生…そして、この学校では伝説とも言われている"勇者部"の元部員だ。
園子「うーん…やっぱりこの学校はいいね〜。卒業してまだそんなに経ってないのに凄く懐かしく感じるよ〜。」
間延びしたその口調。テレビで映るあの厳格さのようなものはまるで無かった。テレビで映る彼女の威厳は凄まじく、それこそ自身の先祖である"初代勇者・乃木若葉"を彷彿させる雰囲気を漂わせていた。しかし、今ここにいる彼女はそこらの高校生と変わりない「普通の少女」そのもので。
流星「その…宗主様。今回は何故……?。」
園子「"そのっち"でいいよ、後輩くん?。ま…以前から君の事が気になってたからね〜。時間を作って会いたいなって思ってたんよね。」
流星「…いや、変な呼び名では呼べませんよ…問題になります…。」
流星(そういえば…山伏先輩が言ってたな…"もっと上"の関係者が俺に会いに来るって……。)
園子「んもう、ノリが悪いな〜?。まぁいいや、先日はどうもありがとうね?お疲れだったでしょう?。」
流星「いえ……その…あいつらについて何か分かったんですか!?。」
園子「焦らない焦らない。その答えは自ずと分かるよ、今はもっと大事な話をしに来たの。」
"もっと大事な話"?。
その言葉に、流星は興味を示す。
園子「…君の纏う「戦衣」。何故、君が"選ばれた"のか…そして…何故、男の子なのに"勇者"の適性があるのか…これはね、まだ仮説なんだけど私なりに調べたことを君に伝えに来たんよ?。まだ誰も知らない事…口外はしないでね?もちろん…防人達にも。」
亜耶「え…なら私は…?。」
園子「貴女にも"関係"してることだよー?だから、ここに呼んだんだ〜?。さて…本題に移るとするね?。紫藤流星…讃州市に住む15歳の男の子。成績は普通、運動神経も普通。うん、良くも悪くも「普通の人」だね。」
ペラペラと、流星の個人情報を読み上げながら園子は淡々と語る。
流星「…それとどう、関係が?。」
園子「神世紀298年。君…何か"大きな事故"を経験したね?。」
流星「!!!。」
園子が語った"大きな事故"。流星はそれを思い出した。
流星「…はい……突然、大きな竜巻に飲み込まれて身体が空高くに舞い上がったところまでは覚えてます。そこからどうなったかは知りませんが……生きていると言うことは、運良く……。」
園子「ううん、君は生きるか死ぬかの瀬戸際までいったよ?。そう…そのまま地面に叩きつけられてね?。」
流星「は…そんなバカなっ!!。あんな高さから落ちて生きてる人間なんて…!!。」
園子「でも君は生きている。"奇跡"が起こらない限り、生きることなんて出来ないほどの大事故…でも、起きたんよ。その"奇跡"が。」
流星("奇跡"が起きた?何を言ってるんだ…そんな事……。)
園子「…君、一度、神樹様と"会ってるね"。」
亜耶「ええ…ッ!?。」
園子「…君を飛ばしたその大きな竜巻はね?"樹海化"の中で大暴れした"バーテックス"の影響なんだよ。"樹海化"での周辺のダメージは現実世界では「災害」として影響する。そして、君はその「災害」に巻き込まれた。」
流星「……そんな……事が………。」
園子「でも、運良く君は神樹様の目の前に落ちた。神樹様は神様…1人の人間を助けるなんてしない。君の"犠牲"は仕方ない事だと…そう思ったのかもしれないね。でもね、君はそれでも"生きたい"って願ったんじゃないかな?。」
流星「……それは……わかりません……。」
園子「ごめんね、私の仮説をそのまま語らせてもらうから。それでね、神樹様は君の事を放っておけなかったんだと思う。そして神樹様はその力で君の身体の一部を「作り直した」。」
流星「「作りなおした」って…じゃあ俺は死んでるって言いたいんですか!?。」
園子「ううん、間違いなく生きてるし君はちゃんとした"人間"だよ?でも、感じたこと無い?。"普通"じゃない"何か"を。」
園子のその言葉に、流星は心当たりがあった。
そう…"大事故"があった6ヶ月後、ほんのたまにだが夢を見るようになった。それは、"光り輝く大樹"が自分の目の前に現れる夢。そして、そこから……"人の心"とその"悪意"が鮮明に理解できるようになった事。
"普通"じゃない何かが自分の中で芽生えている…それを、彼は自覚していた。だから、現実志向となってしまったのだ。自分が自分でいられなくなるかもしれないその恐怖心で。
ようやく、理解したかもしれない…園子のその仮説が本物なら、自分は…神樹によって「救われている」存在。そして、その力が色濃く残っているのならそれが"異例"の’’勇者の適性"に繋がっていること。
流星「……だったら…俺は一体、何なんだ……。」
園子「落ち着いて、大丈夫。それでも君はちゃんと"人"だって言ったでしょ?。"異例"なその力を得ても、君は自分でちゃんと選択した。そう…「心に従って」ね?。」
流星「ぁ………。」
流星(あの時、楠先輩が「射手座」に"呑まれる"と感じたのは…俺のその感性だったと言うことか……でも、それなら……人を救えたと言うこと…だよな…。)
園子「でも、この事実を邪神教団に知られるわけには行かない。君は間違いなく、狙われることになる。だから私達が全力で君を守るよ。この、乃木の名にかけてね。」
流星「…それは…ありがたいですが、自分の身は自分で守ります。俺、わかった気がするんです…楠先輩に言われた「この力を得た意味」を。上手くやれるかわかりません…けど、やってみせます。あいつらを止めるために…"心に従います"。」
園子「そっか…強いんだね……でも、忘れないで?君の後ろには"私達"が居るって事を。」
流星「はい。えっと…それじゃあ次は、国土さんがここに呼ばれた理由なんですけど…。」
キョトンとする亜耶。園子は亜耶の顔を見て、少しだけ険しい顔をする。そして……。
園子「亜耶ちゃん、君のその"力"は以前とは比べ物にならないほどにまで強くなってる…未だに"神託"を聞けるその能力は……"邪神"の声ですら拾ってしまうかもしれない…つまり、邪神は君を…凄く欲している…。」
……………………………………end。
…"巫女"の少女は無垢なる少女。
その無垢は、神が最も好むもの。
純粋さ故に、邪なる神ですら彼女を欲する。
その時、少年は………。
次回
第9話 神に好かれた"第二の少女"。