悪役令嬢、断罪後の物語   作:花河相

2 / 27
2

 フィスターニス公爵からの手紙を受け取り数日が経過した。  

 手紙にはいつ頃到着すると大まかに記載されていたため、出迎えるためにグレイと共に屋敷の出入り口で待機をしていた。

「この先……どうなることやら」

「予測できませんね」

 

 二人の表情は少し暗い。

 まず、公爵家のものが男爵の田舎に来る事例はない。

 

 フィスターニス公爵家は数千人規模の大きな街をいくつも治めている

 小規模な村を三つ治めているリーヴ男爵家は規模は比べ物にならない。

 

 しかも、来る令嬢は幼い頃から王太子妃になるため教育を受けてきた公爵令嬢。箱入り娘では過ごしづらい空間だろう。

 二人が懸念しているのはその部分。暮らしていけるのかということだ。

 突然の頼みとは言え、フィスターニス公爵家には返しきれないほどの恩があるシュバインはストリクトの頼み事をなるべく添いたい。

 だから、気合いを入れて準備した。屋敷の掃除から職員の身嗜み指導などなど。行った準備は多岐にわたる。

 

「旦那様、フィスターニス公爵令嬢はどのような方なのでしょう。確かご存じでしたよね?」

「知っているけど……あまり関わりはなかったから分からない。……少し横目で見たくらいだから人となりはわからないよ」

「左様ですか……事前情報では相当傲慢な方と認識しておりますが」

「そうかなぁ」

 

 シュバインはフィスターニス公爵令嬢がどういった経緯で婚約破棄を言い渡されたかを知っている。

 貴族学院で特待生の平民を虐めていたことが原因らしいが、あまり先入観を持つべきではない。

 

「だけど、彼女は昔から明るく誠実な人だった。笑顔が絶えない元気な子供だった。傲慢……ではないと思うけど……わからないな」

「社交界デビューして性格が変わる人もいますから」

「……確信のない過程の話はやめようか。マイナス思考になってしまうから」

 

 二人は思考がマイナス方面に進んでしまっている。

 シュバインは過程で話を進めるのは良くないと判断。それに、もう一つ心配なことがある。

 どちらかと言えばこちらの方が的中して欲しくないだろう。

 

「それにしても、ご令嬢が心配だな」

「どういうことですか?」

 

 疑問符をあげるグレン。シュバインが心配していることはご令嬢自身。

 

「婚約破棄されただけでなく、僻地に飛ばされる……だいぶ堪えるだろうね」

「……なるほど」

「今までエリート街道を通ってきた子が挫折。世間を知らない若干18歳の子供だ。……だから心配なんだよ」

 

 グレンはなるほど、納得するそぶりを見せる。

 

「はぁ……公爵閣下も粋な計らいをしてくる」

「……嫌味がお上手なことで」

 

 馬に乗った騎士を引き連れフィスターニス公爵家のシロタエギクの紋章の入った一回り大きい豪華な馬車が見えたことで二人の会話は途切れる。

 シュバインの嫌味も同意するグレンであった。

 

 

「リーヴ男爵様、お初にお目にかかります。フィスターニス公爵家息女、イザベル=フィスターニスと申します。これからお世話になります」

 

 馬車から降りてきたのは幼くも美しい少女であった。

 腰まで伸びた綺麗な銀髪に、整った顔立ち。

 

 ああ、やはり一番望んでいなかったことが現実になってしまったか。シュバインはイザベルの姿見で不安がさらに募る、

 

 5年前からは想像できぬほど綺麗になったイザベル。だが、その面影はない。

 

 真紅のドレスを身に包む目の前にいる彼女は濃い化粧でうまく誤魔化しているものの、不健康な体つき。

 平均的な女性よりも痩せている。奴れている。

 

 何より、目がうつろで覇気がない。

 もう自分がどうなってもいいと思っているようだ。

 シュバインは笑顔を作りこう告げた。

 

「……お初にお目にかかります。シュバイン=リーヴと申します。えんのはるばる王都からお越しいただきありがとうございます。疲れたでしょ?我が領は空気は常に新鮮で美味しい食べ物が自慢です。まずはお身体を休まれてはいかがでしょう!」

「……お気遣い感謝致します」

 

 イザベルに冷めた視線を向けられ、逆効果だったかもな……。シュバインは内心苦笑い。

 視線の先は自分の膨よかなお腹だからだ。

 少しでも安心させるために声をかけてみたものの、返ってきたのは力のない言葉。

 

 世捨て人になりかねない、そんな危ない彼女にどうするべきかと頭を悩ませるシュバインであった。

 

 また、これは痩せなきゃまずいな。初めて本気でダイエットを決意した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 イザベルは屋敷に入り、書類上の婚約の手続きをしたあとは部屋に閉じこもり静かに過ごしていた。

 イザベルを送った騎士たちは王都へ引き返した。

 侍女一人も連れてこないのは何事かと思ったが、それは事前に手紙で記載されていた。

 もともと、国外追放を受けていてストリクトが代案で出したのが、田舎追放。

 デブが統治する男爵領、娯楽もなく何もない田舎に連れて行かれたほうが罰になると進言したとか。

 その時、王太子から知り合いを遣すことを禁止された。

 

 ストリクトとシュバインが知り合いであること、昔働いていたことは伏せてある。

 

 王太子はまんまとストリクトの思惑にハマったのだった。

 

 だが、一番大変なのはシュバインなわけで。

 どうにか彼女と話ができないものかと悩んだものの、無理強いは良くないと思いやめた。

 ただ、定期的に鍵穴から覗き込み、異変がないかだけ確認するように伝えた。

 

 今のところ異変は見られず、そのまま夕食の時間が近くなる。

 

「グレイ、ちょっと頼みがある」

「なんでしょう?」

 

 明らかに参ってしまっているイザベルを気遣い、シュバインは一声かけた。

 

「……料理長にこれを作っておくように伝えておいてくれないか?」

「……まさかまた……いや、承りました」

 

 また夜食ですか、と文句を言おうとするが、渡された内容を見て納得した。

 

 書かれていたものは料理のメニュー。

 

「必要になるかと思ってね。……僕の予想が正しければ彼女は……今夜の食事は食べれないと思うんだ」

 

 グレンだったが正午に見たイザベルの容体を思い出し、納得したのだった。

 

 明らかに不健康な体。しっかりとした食事を取れているか怪しい。

 だから、もしものことに備えた。

 

 その予想は正しかった。

 時が流れ、夕食の時間の、時間になった時シュバインはイザベルを夕食に招待した。

 乗り気でない彼女だが、断るのも憚られたらしく同席をした。

 だが……。

 

「……申し訳ありません。ここの食事は高貴なわたくしの舌に合わないようです。お下げいただいても結構」

 

 彼女は料理を一口含むが、飲み込むことができず果実水で無理やり飲み込んだ。

 傲慢な口調は彼女なりの気遣いなのだろう。

 

 栄養が取れてない。このままじゃいつ倒れてもおかしくない。シュバインは頭を抱えたのだった。

 

 ちなみに食堂にはグレイと料理長もいた。

 料理長は現在放心状態。食事が不味かったと思われたのが相当ショックだったようだ。

 

 その誤解は後ほど、グレイが解くことになっている。

 

「リーヴ男爵様、お先に失礼致します」

 

 イザベルは断りを入れ、退室した。

 その一言を聞くとシュバインは危機感を感じた。今の彼女は危うい。メンタルケアが必要だと。

 なら、今夜にでも部屋に行ってみよう。善は急げだ。

 警戒を解くための服装でいけば問題ないだろう。

 

 今は無理矢理にでも話す時間が必要。様子を見て話をしに行こうと考えたが、やめる。

 今は少しでも寄り添える人間が必要。おそらくそれができるのはリーヴ男爵邸ではシュバインだけだ。昔からストリクトと関係があり、受け取った手紙がある。

 考えを改め彼女の部屋を訪ねた。

 

「……その醜態でわたくしに近づいたら、わたくしは自ら命を断ちます」

「……えぇぇ」

 

 ……どうすんだよこの状況。

 

 戸惑うシュバインが出くわした状況、涙目でベッドの前で両手で万年筆を構えるイザベルの姿だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。