詩島霧子の事件簿   作:ドラ麦茶

3 / 4
3・詩島霧子の推理が犯人を追いつめる!

「――今、病院から連絡が入りました。女性は、なんとか命を取り留めたようです。詩島巡査の的確な対処のおかげだそうですよ」私は、詩島巡査に言った。

 

「そうですか。それは何よりです」詩島巡査は、ほっと安堵の息をついた。

 

 救急隊が女性を病院に運び、本部から応援が到着して1時間ほど経った。現在、捜査一課と鑑識が現場検証を進めている。その間、私と詩島巡査は店内にいたお客さんや店員さん1人1人に話を聞いて行った。しかし、店内で不審な人物を見かけたといった有力な情報を得ることはできなかった。我々も店内いる間は不審な人物がいないか目を光らせていたが(決して遊んでいたわけじゃないんだぞ)、そのような人物は見かけなかった。

 

「泊巡査、詩島巡査」鑑識果の人が声をかけてきた。「簡単な調査結果が出ました。まず、嘔吐物から、青酸カリと思われる物質が発見されました。被害者が毒を飲まされたというのは、恐らく間違いないでしょう」

 

「やはりそうですか。では、毒はハンバーガーとドリンクの、どちらに?」息を飲み、訊く。

 

「それが、今の所、ハンバーガーからもドリンクからも、毒物らしきものは発見できていません」

 

「何ですって? 確かですか?」

 

「本格的な調査は本部に戻ってからになりますが、ほぼ間違いないでしょう」

 

 ……どういうことだ? 被害者が毒を飲まされたことは間違いなさそうだが、ハンバーガーからも、ドリンクからも、毒物は検出されなかった。服毒されたのは青酸カリだ。即効性の毒の代表格である。このカフェに入る前に毒を飲まされた可能性はまず無い。毒を盛られたのは、間違いなくこのカフェの中だ。しかし、さっき複数の店員さんに確認したが、被害者が注文したのはハンバーガーとドリンクだけだ。いったい、犯人はどうやって被害者に毒を盛ったのか……。

 

 そして、もう1つ忘れてはならないことがある。あの、監視カメラに映った、謎の男だ。公園で山田さんを殺害し、その後、目的もなくこのショッピングモール内をうろついた人物。あの男の目的は何だったのか? そして、今回の事件との関連は? カフェ内にあの男はいなかった。しかし、あの男は、今回の事件にも関係しているはずだ。刑事の勘がそう告げている。

 

「被害者の女性に、ハンバーガーとドリンクを用意したのは誰でしょうか?」

 

 そう言ったのは詩島巡査だった。店員さんをぐるりと見渡す。

 

「あ、はい。あたし、です」恐る恐ると言う感じで手を挙げたのは、私や詩島巡査にもドリンクを用意してくれた、ツインテールのカワイイ女性店員さんだった。

 

「と、いうことは、お皿やカップを用意したのも、あなたですね?」詩島巡査が女性店員を見る。

 

「ええ、そうですが……」

 

「ふむ……ナルホド」詩島巡査は顎に手を当て、しばらく考える。「……もう1度確認しますが、被害者が注文したのは、あたしと同じ、『季節の野菜がたっぷりソースのチーズバーガー』と『クエイクンホイップキャラメル&エシュプレッソ』で、間違いないですね?」

 

「いえ、『季節の野菜のソースがたっぷりチーズバーガー』と『クエイクンホイップキャラメル&エスプレッソ』です」私は詩島巡査の後ろから言った。

 

「だからそう言ってるじゃないですか。おかしな人ですね」シラを切る詩島巡査。「ふむふむ……ナルホドナルホド。分かりました」

 

「え? 詩島巡査。分かったって、何がですか?」

 

「もちろん、トリックと、犯人が分かったんです」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「泊巡査。なんですか? その疑わしそうな目は」

 

「めいっぱい疑ってるんです。こんなに早く、謎が解けるモノでしょうか?」

 

「早いからって文句を言われることはないと思いますが……まあ、早いと言うなら、そこらじゅうに長い数式を書いたり、事件のキーワードを書いた半紙を破って放り投げたりしましょうか?」

 

「いえ、そんなムダな行動は必要ないですが……本当に分かったんでしょうね?」

 

「バッチリです。任せてください」

 

「そこまでおっしゃるなら、聞きましょう」

 

「はい。では、聞いてください」詩島巡査は、みんな方を向いた。「さて、みなさん。今回の事件は非常に難しいものでした。被害者が毒を飲まされたことは間違いない。しかし、食べた物から毒は一切検出されなかった。いったいどうやって被害者に毒を飲ませたのか? 犯人は、極めて巧妙なトリックを――」

 

「詩島巡査、そういうムダに長い前置きはいいので、早く本題に入ってください」

 

 話の腰を折られ、鋭い目で私を睨む詩島巡査。「……まったく。せっかちな男の人はモテませんよ」

 

「詩島巡査に心配していただかなくても大丈夫です。それで、犯人は、どうやって被害者に毒を飲ませたのですか?」

 

 詩島巡査は視線をみんなに戻し、咳払いをして続けた。「――犯人は、お皿に毒を塗っていたんです」

 

「ええっ!?」みんな、一斉に驚きの声を上げる。

 

 もちろん、それは「なるほど! そうだったのか!」という納得から出た声ではなく、「何言ってんだコイツ」という呆れから出た声であるが、詩島巡査はそんなこと微塵も気にした風もなく、ドヤ顔でみんなを見つめている。

 

「詩島巡査」

 

「はい」

 

「お皿に毒を塗っていた、ですか?」

 

「そうです」

 

「しかし、ハンバーガーからは毒は検出されていません。お皿に毒を塗ったのなら、ハンバーガーの底から、毒が検出されるのではないでしょうか?」

 

「それはもちろん、ハンバーガーを置く場所には毒を塗らず、ハンバーガーの周りにだけ塗ったのです」

 

「しかし、それでは被害者に毒を飲ますことができません。まさか、被害者がお皿を舐めたとでも言うのですか?」

 

「その通りです。被害者は、お皿の毒を舐めたんです」

 

「…………」

 

「…………」

 

「詩島巡査」

 

「はい」

 

「被害者が子供ならともかく、いい大人が、お皿を舐めるでしょうか?」

 

「普通は舐めません。しかし、被害者はある理由により、舐めざるを得なかったのです」

 

「その理由とは?」

 

 ゴクリ。その場にいる全員が、息を飲んだ。

 

 詩島巡査は、被害者が食べたハンバーガーを指さした。「それは――被害者が注文したのが、『季節の野菜のソースがたっぷりチーズバーガー』だったからです!」

 

 な……なんだって!? と、驚く人はいなかったが、詩島巡査は実に気分良さそうに続ける。「――犯人は、お皿に毒を塗り、その上に『季節の野菜のソースがたっぷりチーズバーガー』を置いて、被害者に渡した。ご存知の通り、『季節の野菜のソースがたっぷりチーズバーガー』は、ナスやズッキーニなどの季節の野菜を使った、とってもおいしいソースが使われています。このハンバーガーのメインは、パティやチーズよりも、このソースの方だと言っても過言ではありません。そんなおいしいソースが、ハンバーガーからはみ出さんばかりに入っている。このソースをこぼさずに食べるのは困難です。案の定、被害者はお皿にソースをこぼしてしまった。とってもとってもおいしい、具がたっぷりのソースを、こぼしてしまったのです。被害者は悩みます。このこぼれたソースを、このままにしておくのはあまりにももったいない。食べたい……絶対に食べたい……。誘惑に負けた被害者は、毒の塗られたお皿にこぼれたソースを、舐めてしまった――これが、この事件の真相です」

 

 その場にいる全員が、家に帰りたそうな表情になっているが、詩島巡査は全く気にした風もなく、さらに続ける。

 

「犯人は、恐らく無差別殺人を計画していたのでしょうね。今月の2日、霞ヶ原公園で山田さんを殺害した犯人は、次の獲物を求め、このショッピングモールにやって来た。しばらく店内をうろついた犯人は、このオシャレなカフェの、『季節の野菜のソースがたっぷりチーズバーガー』に目を付けた。そして、お皿に毒を塗るトリックを思いついたのです。しかし、その日はまだバーゲンセールが行われておらず、店内にお客さんは少なかった。どうせ無差別殺人を行うなら、人が多い方がいい。そう考えた犯人は、その日は何もせずショッピングモールを出た。そして今日、改めて犯行を行ったのです。しかし、犯人にとってとても計算外のことが起こってしまった。先日テレビで、ハンバーガーの具やソースをこぼさずキレイに食べる裏ワザというのを紹介していたのです。犯人は焦ったでしょうね。その裏ワザが知れ渡ったせいで、せっかく考えた無差別殺人計画が水の泡になる所だった。結局、毒を舐めさせることができたのは、テレビの放送を見ていない、あの女性1人だけだった……あたしも、あのテレビを見ていなければ、危ないところでしたよ」

 

「しかし、詩島巡査。その推理には、1つ、欠点があります」私は詩島巡査に言う。本当は1つどころではないが、それをいちいち指摘していては長くなるので、ここは1つだけに絞っておくことにする。

 

「欠点? なんでしょうか?」

 

「私たちは今日の午後3時からこのカフェで店内を見張っていました。しかし、あの監視カメラに映っていた、霞ヶ原公園で山田さんを殺害したと思われる男性は、現れませんでした。今回の毒殺未遂事件と、山田さん殺害の犯人が同一と考えるならば、この点は、どう説明するのでしょう?」

 

「それは簡単なトリックです。犯人は――自由に容姿を変える特殊能力を持っているのです!!」

 

 ばばーん! という効果音が聞こえてきそうな勢いで、高らかに宣言する詩島巡査。もはや私以外の人は全く聞いていなかったが。

 

「つまり――」詩島巡査は、ビシッ! っと、1人の人物を指さした。「犯人は、被害者の席にハンバーガーを持っていった人物――あなたです!!」

 

 不幸にも犯人に選ばれたのは、私たちにもドリンクとハンバーガーを用意してくれた、あのツインテールのカワイイ店員さんだった。

 

 まさか自分が犯人にされるなんて夢にも思っていなかったのだろう。ツインテールのウェイトレスさんは、きょとんとした顔で、詩島巡査を見つめている。

 

「詩島巡査」

 

「はい」

 

「気が済みましたか?」

 

「何のことでしょう?」

 

「名探偵に憧れる気持ちは分かりますが、これは遊びではないんです。マジメに捜査をしましょう」

 

「あたしはいつだってマジメですが」

 

「しかし、犯人は自由に容姿を変える特殊能力を持っていた、なんて、推理小説マニアが聞いたら、怒りますよ?」

 

「はい? 推理小説マニアですか?」

 

「あ、いえ。追田警部補や捜査一課の人たちが聞いたら、怒りますよ?」

 

「別に捜査一課の人たちのご機嫌を取るために推理しているわけではありません。この事件のトリックは、お皿に毒が塗られていたというもので、犯人はこのツインテールの女性店員さんです。真実は曲げようがありません」

 

「詩島巡査、いい加減にしてください」私は、語気を強めて言う。「私や捜査官のみんなに対してなら冗談で済みますが、一般の人に対しては、冗談では済みません。ヘタをすれば、冤罪で訴えられますよ?」

 

 すると、詩島巡査は真剣な顔で言う。「今回は、冗談ではありません」

 

「今回は……ということは、普段は、やっぱり冗談だったんですね」

 

「あ、いえ、そういうわけではありませんが……とにかく、この推理は、たぶん合ってます」

 

「たぶん、では困るんです」

 

「いいんですよ。昔の偉い人も言ってるじゃないですか。『捜査というのは決めつけてかかり、間違っていたらごめんなさいでいいんです』、と」詩島巡査はツインテールの女性店員さんの方を向いた。「さあ、あなたの悪事は暴かれました。観念しなさい」

 

 ダメだコイツ、早くなんとかしないと……。恐らく詩島巡査とはこれからもコンビを組まされるだろう。この先ずっとこんな感じのあてずっぽう推理をされたら、みんなが迷惑する。よし、今度こそガツンと言ってやろう。私だって怒る時は怒るんだ。コホン、と咳払いをし、ガツンと言おうとしたその時だった。

 

「フ……フフフ……フフフフフフ……フハハハハハ!!」

 

 低く、重い、不気味な笑い声。誰だ? こんな時に笑う不謹慎な人は? 見ると、詩島巡査に濡れ衣を着せられた、ツインテールの女性店員さんだった。

 

「――さすがは特状課の刑事、よくぞ見抜いた」ツインテールの女性店員さんは、その可愛らしい容姿には似つかわしくない、男のような声で言う。

 

 ……なんてことだ。この女性店員さん、詩島巡査のあてずっぽうで適当な推理に対し、渾身のノリツッコミを返すつもりだ。たぶん、大阪の人なのだろう。これは厄介なことになった。早く止めないと、推理が当たったと思った詩島巡査が、調子に乗ってしまう。

 

「あ、店員さん。せっかくノッていただいたのに申し訳ないのですが、話がややこしくなるので、普通にしていただけると、ありがたいです」

 

 と、遠慮がちに言うと。

 

「――泊巡査! 危ない!!」詩島巡査が叫ぶ。

 

 次の瞬間、女性店員さんが右手を振り上げ襲い掛かって来た!

 

 ブン! 上体を反らし、なんとか女性店員さんの攻撃をかわす。こら! いくらこちらから振ったボケに対するノリツッコミとは言え、警察官相手に暴力を振るうのはまずいぞ。公務執行妨害の現行犯だ。

 

「泊巡査! バカなこと言ってないで、マジメにやってください!」と、詩島巡査。コイツにだけは言われたくないんだがな。というか、何をマジメにやれと言うんだ?

 

 と――。

 

 ツインテールの女性店員さんの身体が、バリバリバリ、と音を立てて2つに破れた! そしてその中から、体長2メートル、顔の周りに無精ヒゲを生やし、手足が7本ある、ウサギのような怪人が現れたのである!!

 

 ……って、え!? コイツ、霞ヶ原公園で詩島巡査が書いた落書きの怪人じゃないか!! あれ、冗談じゃなくてマジだったのか!

 

「ついに正体を現したわね、怪人無精ヒゲ7本足ウサギモドキ!!」怪人を指さす詩島巡査。

 

「フフフ。まさかオレ様の完全犯罪トリックを見破るヤツがいたとはな。こんなことなら、公園で会った時、殺しておくべきだった」

 

 ……確かに。こんなトリック、詩島巡査でないと解き明かせなかっただろうな。

 

「残念だったわね。さあ、怪人無精ヒゲ7本足ウサギモドキ。もう逃げられないわよ。おとなしく捕まりなさい!」

 

「フン、どうかな?」怪人は不敵に笑う。「トリックを見破られたのは不覚だったが、まだ捕まるわけにはいかない。貴様らを殺して、どこまでも逃げてやる」

 

「あたしたちを殺す? 怪人無精ヒゲ7本足ウサギモドキ、そんなこと不可能ね」詩島巡査も不敵に笑う。どうでもいいが、その長い名前は何とかならんのか。

 

「たかが人間が、調子に乗るなよ!」怪人が前足を振り上げた。くそ! こうなったら戦うしかない!!

 

 腰のベルトに手を当てる。詩島巡査のハチャメチャな行動ですっかり説明を忘れていたが、このベルトはバックルの部分が風車になっていて、ここが風を受けて回転することにより、私は正義のヒーロー・仮面ライダードライブに変身することができるのだ!!

 

「――では、泊巡査。後は任せました」ぽん、と私の肩に手を置く詩島巡査。

 

「は? 任せました、とは?」

 

「仮面ライダードライブに変身して、怪人無精ヒゲ7本足ウサギモドキを倒してください」

 

「え? 詩島巡査、一緒に戦うのではないのですか?」

 

「あたしの見せ場は、もう終わりました。ここからは、泊巡査の見せ場です」

 

「見せ場、ですか?」

 

「はい。難事件を見事な推理で解き明かすのがあたしの見せ場。怪人を倒すのは泊巡査の見せ場です。あたしは皆さんを避難させますので、後はよろしくお願いします」

 

 詩島巡査は敬礼をすると、そのままみんなを連れてお店を出た。うーむ。なんとなく納得いかない所もあるけど、まあ、仕方ないか。怪人との戦いにあの詩島巡査がいたところで、何の役にも立たないし、逆にまたしょーもないこと言い始めたりしたら、調子がくるって思うように戦えなくなるかもしれないからな。よし! じゃあ、行くか!

 

 

 

 

 

 

 その後、私は仮面ライダードライブに変身し、激闘の末、見事、怪人無精ヒゲ7本足ウサギモドキを倒したのであった。

 

 

 

 ……って、私の見せ場はカットかよ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。