こうして、メチャクチャだが的確だった詩島巡査の推理と、カットされたが私の華麗な戦闘により、『霞ヶ原公園殺人事件アンド霞ヶ原ショッピングモール無差別毒殺未遂事件』は解決となった。翌朝、警視庁に出勤すると、課長を始め、特状課のメンバー全員大喜びだった。
しかし、1人だけ、何故かものすごく落ち込んでいる人がいた。私の隣の席。机の上に突っ伏して、この世の終わりを迎えたかのような顔をしている。詩島巡査だ。
「おはようございます、詩島巡査。どうしたんですか? 暗い顔して」
「おはようございます、泊巡査。聞いてくれますか」机に突っ伏したまま言う詩島巡査。
「いえ、どうせまたしょーもないことでしょうから、聞きません」そのまま席に座る私。
しかし、私の言うことなど無視して続ける詩島巡査。「実はあたし、刑事としてやって行く自信を無くしてしまいました」
「今まで自信があったのがオドロキですが、何かあったのですか?」
「昨日の事件です。あたし、あり得ないミスを犯してしまいました。こんなんじゃ、刑事失格です」
「あり得ないミスですか? どのミスです?」
「……どのミスって、まるであたしがたくさんミスをしてたみたいな言い方ですね」
「詩島巡査、まさか、自覚してなかったんですか?」
「泊巡査」むくりと身体を起こす詩島巡査。「さっきから、言葉の端々に小さなトゲがあるんですが」
「すみません。根が正直なもので」
「何なんですか。言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってください」
「え!? 言ってもいいんですか!?」思わず目を輝かせる。
「……いえ、やっぱり、いいです。これ以上、落ち込みたくありません」
詩島巡査は再び机に突っ伏してしまった。元気だけが取り柄と言ってもいい詩島巡査が、ここまで落ち込むのは珍しい。
まあ、気持ちは分からないではない。
昨日の霞ヶ原ショッピングモールでの事件。死者こそ出なかったものの、1人の一般市民が毒を飲まされてしまった。幸い命に別状はなく、現在順調に回復に向かっているが、我々警察の目の前で毒を盛られたというのは、やはり大きな失敗である。即座に犯人を逮捕してなんとか面目は保ったものの、詩島巡査が落ち込むのも無理はない。
「まあ、そう落ち込まないでください」私は詩島巡査を元気づけるために言う。「確かに我々の目の前で犯行が行われたのは不覚でしたが、毒を飲まされたあの女性が命を取り留めたのは、詩島巡査の対応が早かったからです。私、詩島巡査のこと、結構見直したんですよ? 誰よりも早く店内の異変に気づき、誰よりも的確に行動した。詩島巡査がいなかったら、私、どうしていいか分からず、オロオロしていただけかもしれません」
詩島巡査は机に突っ伏したまま、首だけ私の方に向け、大きくため息をついた。「……泊巡査に慰められているようじゃ、やっぱりあたし、刑事には向いてないのかもしれませんね」
……どういう意味だよ。まったく。せっかく珍しく褒めてあげたのに。
「それに――」詩島巡査は再び向こうを向いた。「私が落ち込んでいる理由は、それじゃありません。タマゴです」
「はい? タマゴ、ですか?」
「そうです。昨日の夕方5時からのタイムセール。あたし、事件の謎解きに集中しすぎて、すっかり忘れていたんです。ああ。1パック10個入り85円1人2パックまで……泊巡査と2人で4パックまで買えたのに。せっかく870円も使ってカフェで時間を潰したのに、これじゃあ意味がありません」
……そんなことで落ち込んでたのか。セコい人だな。やっぱり、聞くんじゃなった。
その時、オフィス内に緊急出動を告げる放送が鳴り響いた。
《捜査一課より特状課へ出動要請。霞ヶ村にて、特殊状況下の殺人事件が発生。捜査官は、至急現場に向かってください。繰り返します。捜査一課より特状課へ出動要請。霞ヶ村にて――》
それを聞いた詩島巡査、ガバっと立ち上がる。その顔は、さっきまでとは打って変わって、使命感に溢れていた。「事件です! 泊巡査、行きますよ!」
「落ち込んでたのは、もういいのですか?」
「何を言ってるんですか? 事件は待ってくれません。あたしたちに、落ち込んでるヒマなんてないんですよ」
まあ、この人の悩みなんて、その程度のものだろう。
それに。
「――悩むよりまず行動するのは、詩島巡査のいいところだと思いますよ」私は笑顔で言った。
詩島巡査は首を傾ける。「それは、褒められてるんでしょうか? バカにされてるんでしょうか?」
「両方です。さあ、行きましょう」
私たちは課長たちに敬礼し、現場へと向かった。
「――こうして、今回も難事件を見事な推理で解決した美人女刑事・詩島霧子と、ズッコケ刑事・泊進ノ介。しかし、この世に悪がはびこる限り、彼女たちの戦いは続く。ガンバレ、詩島霧子、負けるな、詩島霧子。変身せよ、仮面ライダードライブ!」
「詩島巡査」
「はい」
「テンションを上げるためだかなんだか知りませんが、そのナレーション、やめてもらえませんか? 何なんですか? ズッコケ刑事って。こっちのテンションが下がってしまいます」
「見たまんまですよ、泊巡査」小悪魔のように笑う詩島巡査。「さあ、バカなこと言ってないで、現場に急ぎましょう」
そう言って。スタスタ言ってしまう詩島巡査。バカなことを言ってるのはそっちだろう。はぁ。私は大きくため息をつき、重い足取りで詩島巡査の後を追った。ガンバレ、泊進ノ介、負けるな、泊進ノ介。変身せよ、仮面ライダードライブ!
(詩島霧子の事件簿~仮面ライダードライブの想像ストーリー作りました!~ 終わり)