花見をしてたら春告精 作:松雨
春休みの終わり際、大体の学生さんは学校が始まる時期になると、もっと休日が長くなればと思う。
いや、春休みに限らず夏休みや冬休み、ゴールデンウィークなどの長期休暇後に関しても、これに当てはまるだろう。
1日でも行ってしまえば休み気分はリセットされ、大したことなんてなくなるのだけど、それまでが辛い。前日の夜なんか、特にそう。
かくいう私も、次の日から高校生活が始まることに対して憂鬱になり、休みがもっと続けば良いのにと考えている人間の1人なのだ。
「今年もこれも終わりか。長いようで、短かったなぁ」
やるべきことは初日に全部死ぬ気で済ませ、休日の朝から夕方かつ晴天もしくは曇りの日に外出し、近所の公園から電車で行く距離にある桜の名所を巡る旅も、今日で終わりなのは残念で仕方ない。
1年に少しの間しか訪れない春に桜の名所を巡り、美味しいものを食べ歩き、花見をするために無駄遣いを極力減らし、付き合いよりもバイトでお金を貯めることを優先する女子高生など、日本中探しても私くらいのものではないか。
いやまあ、学校が始まっても土日祝日なら名所巡りは出来なくもないけど、それだと休みがあっても最大で3連休。
従姉にお願いして一緒にホテルに宿泊してもらうとか、時間を考えずただひたすら花見を楽しむとか、とてもじゃないけど出来ない。
交通機関が遅れたり運休したり、何らかのトラブルに巻き込まれたらとかを考えたら、落ち着いて楽しめないからだ。そもそも、バイトがあるから殆んどの休日で無理である。
(日本に妖精さんとか居たら、きっと楽しいんだろうなぁ)
正直、学校なんていかずに春は花見と名所巡りをひたすら楽しみ、後の季節は別のことをしてのんびり楽しく生きたいところ。
だけど、
何かこう、学校とか行かずに仕事をしなくても怒られないような、そんな存在にでもならない限りは。
「ふぁぁぁ……ぺっ、ぺっ! あー……」
ブルーシートを敷き、人様の邪魔にならない隅の方で寝転がりながらあくびをした時、口の中に何かが入ってきたのを感じた。状況からして、花びらである可能性が高い。
吐き出そうとしても出てこないから、もう飲み込んでしまったようだ。まあ、猛毒の植物の花びらだとか土や泥、変な虫やゴミとかでなければあまり気にしてもしょうがないや。
(えっ……なんで……?)
なんて思っていたのだけど、数秒も経たない内に凄まじい眠気と頭痛が襲ってきたから、内心で凄まじく焦る。こんな近所に、少し口にする程度で眠気や頭痛を催す毒物の類いがあるなどとは、夢にも思わない。
この公園には少なからず人は居るのだけど、よりによって私の居る場所は周囲から見えづらい隅の方。声も掠れ声程度しか出せなくなってる都合上、助けを求めようにも恐らく誰にも聞こえないだろう。
防犯カメラはあるし、全く人が通らない場所ではないから、いずれは発見してもらえる。その頃にはきっと、もう手遅れにはなってそうだけど。
(……もう無理ぃ)
30秒にも満たない短時間の抵抗の後、私に対して呼び掛ける不思議な声と、自分の身体が桜色に光り始めている光景を最後に、私の意識はそのまま闇に沈んでいった。
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「んぅぅ……」
どうやら、私は無事に生きていたらしい。この目ではっきりと、意識が沈む前に見た時と同じ光景を、見ることが出来たからだ。
視覚以外の感覚もしっかりと働いているらしく、記憶と寸分違わない。
ただ、相当長く眠っていたか気絶していたようで、雲1つない青空だった先ほどとは違い、今の空は綺麗なオレンジ色をしている。大して寒くなかったのは幸いだったといえよう。
(はっ?)
しかし、全く違和感を感じなかったかというと、そうではない。
背中に感じる圧迫感が妙に強くなっていて、私の手がまるで小学校高学年の女の子くらいに、小さくなっていた。しかも、日焼けしてない白い肌だ。
加えて、喉から発せられる私の声が明らかに違う。ただ、性別自体は変わっていないのか、これに関してはそれほど違和感が強い訳ではないけど。
(うわぁ……これ、私……?)
起き上がり、リュックを探って手鏡を使って自分の姿を確認したら、服装も容姿ももはや自分の面影すらなくて、驚きのあまり声すら出てこない。
金髪の長髪で青い瞳になっていたのも、赤い線が走っている白系ワンピースにをいつの間にか着ていたのも相当なのに、背中に明らかに羽らしきものがあるのだ。
当たり前だと言わんばかりに、私の意思でパタパタと動かすことは出来たし、強くつねってみたら相応な痛みを感じたので、十中八九本物の羽である。
まさかと思って飛ぼうと力を入れてみたら、身体が数cm宙に浮いた。
例えるなら、何らかの物語で登場するような妖精さんだろうか。それにしては、サイズが妙に大きいような気はするが。
「おいおいマジかよ。本当に居たぜ」
「嘘だろ、実在してたなんて信じられん……」
「凄い、こんなことがあるだなんて驚きよ……!」
「なるほど、これが現代入りって奴かぁ。てか、撮影は止めた方が良くねえか、お前ら。見に来た俺が言うのもなんだがさ」
ちなみに、今まで見てみぬふりをしてきたけど、私を見にそれなりの人数の人々が周りに集まってきている。
まあ、これはこんな見た目だから仕方ない。背中に羽の生えた女の子なんて日本どころか、世界中どこを探しても存在する訳がないから、注目を浴びるのは分かる。
だけど、実在してたのかとか現代入りだとか、人々の会話から妙な言葉が飛び出しているのはかなり気になった。
(どういうこと? もしかして私の姿、何かしらのアニメとかゲームとかのキャラそのものとか……でも、この姿って確か……)
ここから推測するに、最低でも日本国内でそれなりの知名度を誇るアニメやゲーム、小説や漫画の妖精キャラである可能性が高い。というか、どこかで見たことがあったような気がしている。
「いやぁ……にしても、まさかな。
「……あ」
なんて考えていた時、1人の若いスーツを着た会社員の男の人が口に出した固有名詞を聞いた瞬間、私の姿がとあるゲームのキャラそのものであることに思い至る。
東方project。あまり知識のない私でもある程度は分かるくらいに有名な、パソコンでプレイ出来るシューティングゲームのこと。
唯一無二の親友が確かルナシューターって奴で、数居る妖精キャラの中でも特にリリーホワイトを推していたっけ。このままあの子の家に突撃してあげれば、発狂レベルで喜んでくれそうだ。
(……)
取り敢えず、この場を早く立ち去る必要があるのはそうなんだけど、家から持ってきた荷物を持ち帰れない。
ただでさえ今、
防犯カメラはあるから、最終的には何だかんだで解決しそうな気はするけど、それまでが大変そうだ。
いや、それよりもこれからどうしよう。家に帰ろうにもこんな姿じゃ入れてもらうのは多分無理だし、日本人としての一般的感覚が不法侵入や窃盗をしながら生活することを許さない。
それならば、同じ目で見られるのならこの荷物を持っていった方が、元々私の物だっただけに幾分かは気が楽になる。
「ひゃっ……!」
しかし、そんな考えはパトロール中の
何も考えず、ただ歩いたり走ったりする感覚で空を飛べたのには驚いたけど、さて今後は一体どうしようか。
(よし、突撃しよう)
空を飛びながら考えに考えた結果、私はこのままリリーホワイト推しの親友の家に突撃、あわよくば元に戻るまで居候することを決意したのだった。