花見をしてたら春告精 作:松雨
リリーホワイト。昨日から何故かおれの家にやって来て、姉ちゃんの部屋でくつろいでいる妖精の女の子の名前だ。で、姉ちゃんが昔からハマってるゲームにも登場する、最推しキャラそのものでもある。
空想上の
それに、こうしてリリーが現実に現れたということは、他の東方キャラも姿を見せないだけで、この町にも居るかもしれないということ。
おれは姉ちゃんみたいにハマってる訳じゃないけど、もし他の東方キャラに会えたら面白そうだと思った。特にチルノとか。
「えぇ……姉ちゃん、新年度早々そんなんで先生に怒られるとか、クラスメートも呆れてたでしょ」
「呆れてたというか、普通に笑われたよ。記録更新でも狙ってるのかとか、本当お前は変わらねえなとかって」
「やっぱり?」
「そうそう。反省して直さなきゃって思ってるのに、どうしてこうなるんだろ。私」
「うーん、分からないや。あんまりにも完璧過ぎるだとあれだから、神様がちょっと駄目なところを与えてみたとかじゃね?」
ちなみに、姉ちゃんには父ちゃんと母ちゃんも頭を抱えるくらいの、感情が高ぶり過ぎると出てくる悪癖がある。
例えば、誰かに声をかけられても聞き逃すか、もしくはとんちんかんな返答を返して怒らせるか、事態をややこしくする。たまに、聞こえてるはずの話が頭に入らなくなってたり、後になって別の記憶と混同して覚えてしまうこともあったりする。
稀にではあるものの、何か忘れたことを忘れるというのもある。結果、それを相手に指摘されても訳の分からない理由で難癖をつけられたと感じてしまい、殴り合いこそないものの変に言い争ったりする流れができてしまったのだ。
後は、無視できる程度の細かい癖がいくつかあるけれど、大きくて目立ってるのがこれら3つ。頭がよくて運動神経も悪くはない、おれにとって大好きな憧れの存在でもある姉ちゃんだけど、こればかりはちょっと憧れない。
でも、姉ちゃん自身その辺をちゃんと理解して、直そうと頑張っているのはおれもそうだけど、父ちゃんも母ちゃんも知っている。現に、何年か前と比べれば悪癖も出てきにくくなってるし、大人になる頃にはもう心配する必要もなくなるんじゃないかな。
「鈴音、怒られてたんだ……わたしとお昼にお話しした時、そんな素振りなかった気がする」
「リリーちゃんと一緒に過ごす時間が幸せ過ぎて、秒で怒られた時の気分が吹っ飛んだだけ! お昼休みの後の体育にも遅れて怒られたけど、反省はしてもリリーちゃんとお話ししたこと自体に後悔はないよ!」
「そっかー」
なお、今日学校で姉ちゃんがやらかした理由は、言わずもがな最推しのリリーに会えたことで浮かれていたから。
やらかしの内容は、夢中になり過ぎて国語の授業が始まったことすら気づかず、先生に2度声をかけられるまでリリーのイラストを自由帳に鉛筆で描き続けていたというもの。
後は、昼休みにリリーとの電話越しの会話に夢中になり、春花姉ちゃんを巻き込んで体育の授業にも遅れたというものだ。2回もやらかすなんて、よっぽど舞い上がっていたんだろう。
で、やらかし1回目の時に描かれたイラストは案の定かなり上手く、完成させれば普通にお金をとってもいいくらい。リリー本人から見ても同じみたいで、「わぁ上手。これなら鏡もいらないねー」と口にした。
結果、元々キラキラしていた瞳が更に輝きを増して話し声も見るからに大きくなり、身振り手振りも徐々に大げさな感じになっていったのだ。
ちなみに、没収する時にイラストを見たらしい先生も、「お前の絵にかける熱量と技量は凄いんだがな……」と、呆れつつもそこは評価してくれてたとのこと。
自分の趣味や友達に使うお金や、スマホの月額料金を普通に賄えるくらいなのだし、当然の評価だとおれは考えているんだけど、この悪癖さえなければ怒られることなんてないのにと、そんなことを思ってもいる。
「えっと……鈴音。わたしのこと、学校であんまり考えない方がいいよー。そのうち、慧音先生に頭突きされて怒られるチルノみたいになっちゃうかも……?」
「あはは……まさにリリーちゃんの言う通り。授業に支障をきたすくらい浮かれちゃうなら、あまり考えない方がいいよね」
「うん。でもね、正直ちょっぴり恥ずかしいけど、そこまで推してくれてるのは嬉しいわ! えへへっ」
「あっ、推しの満面の笑み……これだけで後5年は生きていられるよ!!」
「そりゃ無理だって。てか、姉ちゃん顔が凄いことになってる……」
「これ、先生に怒られても全然平気そう。鈴音、もし妖精になっても上手くやっていけるかも」
そんな風にしてるのを心配してか、リリーも友達の実体験を交えて忠告してくれたのはいいけれど、何やかんやで見せた笑顔で姉ちゃんが余計に興奮したため、実質意味がなくなってしまった。
でもまあ、おれとしても不安に押し潰されて苦しむ
姉ちゃんの方はまあ、リリーに比べたら心は大人なんだし、正直無理かもしれないけど頑張って自分で慣れて欲しい。
何せ、数日程度で帰るならまだしも、現状夏休みくらいの期間なら居そうな雰囲気。これで慣れないようでは、おれたち家族はともかく姉ちゃん自身が将来困るだろう。
とは言ったけど、姉ちゃんのテストの点数自体はクラスの中でも良い方みたいだし、春花姉ちゃん曰く、「何だかんだ、宿題とか忘れたことないんだよね。鈴音ちゃん」とのこと。だから、成績が悪すぎて留年するなんてことはないはず。
「私が妖精ちゃんになったら、どんな子になるんだろうね」
「うーん、名前とか見た目は確実にルナだし、性格とかは……本読むのは好き? 苦めなコーヒーとか食べ物とかはどう?」
「あー、割と好き。ただ、1番なのはご存知の通りイラストを描くことだし、食べ物も甘めのが好むかな」
「そっかー。じゃあ、やっぱりルナかなぁ。完全に同じって訳じゃなくて、身長少し高めなお姉さん体形の」
「私がルナちゃん?」
「うん。わたしだけじゃなくて、サニーにも性格がそっくりな春花とも仲良しなら尚更」
「なるほど。まあ確かに、髪型とかちょいちょいいじって格好もそれっぽくすれば、ルナちゃんのお姉さんみたいになれそうかも?」
それに、最悪高校を辞めたって生活自体はできそうな気がする。純粋な頭の良さや、お金儲けができるくらいのイラストの技術と熱量には全く関係ないんだし。
父ちゃんや母ちゃん、仲良しな春花姉ちゃんはともかく、周りの人や社会からの印象とかは下がるかもだけど、あの姉ちゃんがそんなことを気にする質とは思わないから余計に。
でも、おれの周りの大人たちの話を聞いてると、よほどのことがない限り、やっぱり高校には行っておいた方がよさそうとは思っている。
「鈴音、夕樹。ご飯できたわよ~。リリーちゃんも、食べたければ2人と一緒に下に来て~」
すると、廊下の方から足音が聞こえてきたと思ったら、部屋の扉越しに母ちゃんのおれたちを呼ぶ声が耳に入ってきた。時計の針は午後7時を差していて、いつの間に夕飯時になっていたのかと少しだけ驚く。
今みたいな楽しいことの時は早く過ぎるくせに、今日の授業みたいに面倒だったり嫌なことの時だと遅く過ぎていくように感じるのは、どうしてだろうか。
だったらせめて、両方等しく早く過ぎてくれればいいのに。
「もうそんな時間だったのか。姉ちゃん、早く下に行こう」
「そうだね。リリーちゃんはどうする?」
「食べるよ。だって、皆と一緒だと寂しさも紛れるもん」
なんてことを考えながら、おれたち3人は姉ちゃんの部屋を出て下に向かうのであった。
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