花見をしてたら春告精   作:松雨

12 / 18
幻想郷では

 最初はほんの少し、違和感を感じる程度だった。寒さの中にも暖かな春の訪れを感じるようになってきた頃、毎年春を告げ始めるリリーちゃんの姿を、未だに見かけなかったのだ。

 

 とはいえ、この時点だと季節の変わり目なのもあって、リリーちゃんは外に出たくなくなることが多い。だから、私も含めて誰もがまあそんなものかと思っていたっけ。

 

 それに、博麗神社とか紅魔館で宴会だったりパーティーをする時には、春ほど元気じゃなくても1回は来て一緒に楽しんでくれていた。

 この間、「春が待ち遠しいわー」ってぼやきながら、チルノちゃんがすり替えた激甘みそ汁を気づかずに飲んで、顔色が凄いことになってたのが記憶に新しい。

 

 ただ、そこから1ヵ月近くも過ぎていったのに春を告げに来ないともなると、感じる違和感も明らかに強くなってくる。

 ここへ来てようやく、冬の間にリリーちゃんがほぼ確実に居るところは勿論、そうでないところもチルノちゃんたちと満遍なく探してみても、その気配すら掴めない。

 

 並行して、リリーちゃんと親交のある人妖さんたちに聞いて回っても、申し訳なさそうに首を横に振るばかり。

 

 考えたくないけど、復活することができなくなるようなとんでもない事態が起きて、2度と会ってお話しができないかもという、不安と心配と焦りだけが今日まで私に募っている。

 

 だからなのか、ここ最近はあんまり調子がよくない。チルノちゃんたちにもかなり心配をかけてしまっているから、早く落ち着かせたいのはやまやまなんだけど。

 

「うぁぁぁん……リリーちゃん……お願いだから、また姿を見せてよぉ……」

「大ちゃん……」

「こういう時、何も力になってあげられない私たちがもどかしい」

「ううん、ぐすっ……すぅ……そんなことないよ。チルノちゃんも、ルナちゃんも、凄く力になってる。2人が居なきゃ、今頃私の心はボロボロだったと思うから」

 

 勿論、単に1回休みになっただけという可能性もなくはない。

 

 妖精は基本、どれだけ酷い怪我をしても少し時間が経てば、その時までの記憶を引き継いで復活するけど、それはいい記憶も悪い記憶もひっくるめての話なのだ。

 

 都合よく、永い時間トラウマになるような出来事のせいで1回休みになったとして、それだけをピンポイントに狙って忘れるなんてことは、私の知る限りではできない。

 

 そうなれば、戻ってこれたとしても年中トラウマに苦しめられる生活が決まってしまう。そんなのは嫌だけど、だったらもう2度と戻ってこない方がいいのかと聞かれれば、そうだとは決して言えないし思ってすらいない。

 

 一緒に遊んで、お話しして、イタズラして、楽しいと思った大切な友達の1人が、リリーちゃんだから。チルノちゃんたちにとっても、大切な友達の1人ってことも変わらないだろう。

 

「あたいたちが総力を結集しても、どこにもそこにいた痕跡すら見つからないなんて、これはいよいよお手上げだぞ。どうしたらいいんだ?」

「うーん、正直私も案が思い浮かばないわ! だから、えっと、霊夢とかレミリア、紫に協力を仰ぐ?」

「サニー。その2人は分かるけど、紫はちょっと不確実じゃない? ほら、普段どこに居るかも分からないし、そもそも冬眠してたらお手上げよ。まあ、流石に今は起きてるとは思うわー。春だしさ」

「うん。とにかく、目下1番お願いしやすいのはレミリアだけど……この間もお願いしたばかりだしなぁ」

 

 もしくは、幻想郷から外の世界に弾かれてしまったという可能性も考え得る。そう考えたのは、自分の意思で自由に出ていくなんてことができる個人が、現状紫さんくらいしか居ないからだ。

 

 というか、仮にリリーちゃんがそれをできるだけの能力とか魔法がある妖精さんだったとしても、実行する前に多分紫さんに止められる。

 

 知らない間に許可をもらっていたにしたって、誰にもそのことを言わずにお出かけするような性格の妖精さんではない。

 

 それならばと、紫さんが無理やり追い出したのかと一瞬考えたはいいものの、そうされるに値する何かがリリーちゃんにある訳がないから、これに関しては完全なる私の妄想だと断定してもいい。

 

「別に気にしなくてもいいわよ、そのくらい」

「「うわ!?」」

「ふふっ。うちのメイド妖精と仲良しなリリーが行方不明というのは、こちらとしても望ましくないの」

「えっと、そうなんですね」

「なにより、私自身がそんな運命を認めたくないもの。大切な何かを失う経験は、もうこりごりだから」

 

 とまあ、さっきよりは何とか落ち着けたかなといったところで、居るとは思わなかった人……吸血鬼のレミリアさんが、私の後ろからひょいっと顔を出してきたからびっくりした。

 

 声をかけられるまで全く気づけなかったのは、それほど周りに注意が向いていなかったことの表れだ。

 

(……)

 

 レミリアさんは、メイドとして優先的に館に迎え入れ、手厚い待遇を約束するくらいには、妖精という種族を気に入ってることでも幻想郷で有名な妖怪さん。

 

 例えば、リリーちゃんが紅魔館にも顔が利く妖精さんというのもあるだろうけど、私たちの一緒に探して欲しいとのお願いも二つ返事で聞いてくれたのに、見返りを求めてこないのだ。

 

 強いて言うなら、「館の子(メイド妖精)たちと、これからも仲良く遊んであげて欲しいわ」くらい。でも、言われなくても最初からそのつもりだったから、実質無償かな。

 

「レミリアさん。私、リリーちゃんにまた会えるかな……? ぐすっ」

「ええ、きっと会えるわよ。私の存在を賭けて確約してもいいわ。だから……」

「だから……?」

「少しでいいから元気を出しましょう。こんな状況でそんな無茶を言うなと、この辛く苦しい気持ちがあなたに分かるのかと思うだろうけど、いつか戻ってきた時に不安と恐怖に苛まれているであろうリリーを、安心させるためにもね」

 

 そして、不安のあまり再び涙が出かかっていた私を見たレミリアさんは、すぐに慰めの言葉をかけてくれた。

 

 その瞳からは、自分の家族(館の皆)や大切な友達が泣いているのを見た時によく見せる癖……悲しそうでありながらも、とっても優しくて穏やかな感情をひしひしと感じる。

 

(……そうだよね。リリーちゃんも同じか、それ以上に辛いだろうし)

 

 幻想郷に来る遥か前、美鈴さんたちがまだ居なかった頃。死を選びかけたくらいに圧倒的な絶望に苛まれ、精神的に参っていたというレミリアさん。

 

 その時、不思議といつも以上に邪険に扱っても、何かに取り憑かれたみたいにずっと側に寄り添い、互いに嫌悪感を抱いていた妹であるフランさんとの仲を取り成し、更に美鈴さんたちを含めた今の紅魔館の住人との縁を繋いでくれたのが、たった1人の妖精さん。

 

 当時は抱いていたという、弱くてメイドとしてもあまり役に立たない種族という認識を深く反省し、改めるきっかけとなるには十分だったらしい。

 

 ちなみに、その子は今も元気に紅魔館でメイドをやっている。回復と防御魔法が大得意なのと、レミリアさんに特にべったりなのを除けば、いたって普通の妖精さんである。

 

 そう考えると、お出かけの時に側に居ないのはかなり珍しい。お昼寝でもしているのだろうか。

 

「そうだぞ! それに、あたいたちだってリリーが居なくて寂しいし、影じゃ大ちゃんみたいに泣くことだってあるけど、レミリアが言ったみたいなことを思ってな!」

「リリー、今頃どうしてるんだろうねー。外の世界に行っちゃったであろうリリー、多分ひとりぼっちだから」

「……察するに余りある。変な人間とかに、痛いこととかされてなければいいけど」

「ルナの言う通りね! でもまあ、外が春なら霊夢とか魔理沙みたいな人間が相手でもない限り、リリーなら逃げるくらい容易いと思うわ!」

 

 レミリアさんがひととおり話を終えると、チルノちゃんはもとより交代で一緒に側に寄り添ってくれていたサニーちゃんたちも、元気を出してと言わんばかりの気遣いをし始める。

 

 そう。何も、リリーちゃんが行方不明になって寂しく辛い思いをするのは、私だけではない。

 

 チルノちゃんが言うように、リリーちゃんと友達である皆も寂しくて辛い思いをしている。その上で、こうして明るく振る舞っているのだ。

 

「うん……よし! 私、元気に頑張ってみるよ。気遣ってくれてありがとう。えへへっ」

 

 だったら、私も皆にこれ以上心配をかけないようにという意味でも、少しは元気にならなきゃね。そう思いながら私は、気持ちを切り替えるために頬を両手で強めに叩いた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。