花見をしてたら春告精   作:松雨

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東方好きな2人組

 のんびり遊歩道散歩で疲れきった鈴音ちゃんたちと一旦別れ、鈴夏さんと一緒に車で洋服店へ向かった私。これといったことは何もなく、20分程度で到着した。

 

 で、それとなく鈴夏さんにこのお店について聞いてみたら、まさかのそれなりに有名なアパレル企業が運営しているところらしい。そう言えば、鈴音ちゃんの可愛い私服の半分くらいはここのものだったなと、恥ずかしながら今思い出す。

 

 言い訳にはなるけれど、私は趣味が趣味故に服は実用性を重視した某アウトドア用品企業の店に出向き、そこの衣類コーナーから大半を選んでいる。

 あまり数が多くない可愛い私服は、いとこか鈴音ちゃんのプレゼントであり、メーカーなど気にしてなかったのだ。

 

 とはいえ、今ではその無知が都合がいい。何ヵ月単位で居るならばまだしも、現状の短さでは幻想郷から迷い込んできた妖精リリーホワイトとして、かえって不自然であるのだから。

 

「ゆーちゃん。あれ、もしかして……」

「リリーホワイトっしょ。この上なく精巧なコスプレ少女って線も捨てきれないけど、うちは間違いなく本物って思ってる」

「やっぱり? わぁ、本当だったんだ……凄いっ!」

「おー。ほのっち、目がキラキラだぁ。まあ、東方好きとしてはそりゃね」

「そういうゆーちゃんも、キラキラ通り越して目がギラギラ……」

「クラピが最推しなだけで、リリーも推しだからね。うち」

 

 ひとしずくの駐車場に着いた時と、中に入ってからのお客さんたちの反応から、ある程度の注目を浴びるのは想定済み。

 なので、東方キャラのコスプレをした女の子だったり、店員さんを含めた色々な人たちから視線を向けられたり、話の種になることくらいなら大丈夫。

 

 何なら、そっちの方を向いて手を振ってあげたり、少しお話をするくらいだったらやってもいいというか、やるつもりだ。

 

「鈴夏さん。ちょっと、あのお姉さんたちに話しかけてきますね!」

「分かったわ~。じゃあ、私は遠目で見守りながら服を吟味してるわね」

 

 どのくらいここに居ることになるのかが全く分からない以上、人々からは好意的に見られた方が私自身はもとより、滞在中の鈴音ちゃん一家にも更なる迷惑をかけずに済むのだから、やっておいて損はない。

 

 ただし、その際はリリーホワイトのイメージをあまりにも逸脱するような振る舞いはしないよう、ある程度は注意しなければならない。多少逸れる程度であるならば、ゲームと本物は違ったんだとかって話で済むとは思うけど。

 

「えへっ。わたしは正真正銘の春告精、リリーホワイトですよー! 金髪のお姉さんは、クラピのことが好きなんですね!」

「そりゃあもう! でなきゃ、どう考えてもこんな目立つコスプレしないって」

「えっと、リリーちゃん。ゆーちゃんのコスプレ……格好とかをピースちゃんに似せてるんだけど、どう思ったかな……?」

「十分似てると思います! 大人になったクラピって感じかな?」

「だってよ、ゆーちゃん。服はともかく、身体はどうしようもないから、その、妥協しよ?」

「んー。まあ、本物のリリーが太鼓判押してくれたなら、それでいっか!」

 

 ちなみに今、なんか話しかけたくなって話しかけた、この場で私に1番興味ありそうな雰囲気を醸し出している、恐らく高校生であろう女の子2人組。

 

 ゆーちゃんと呼ばれていた、星模様のピエロ帽を被った元気な金髪の子の方は東方Projectの有名な妖精の1人、クラウンピースの根深いファンであるらしい。

 

 松明型のライトなどの小道具も持参するのみならず、仲良い友達と一緒にコスプレして普段出歩くなんて、鈴音ちゃんに勝るとも劣らないガチ勢だ。

 

 もしかしたら、近くで東方関連のイベントかアニメ・ゲームのコスプレイベント的なのがあって、ここにはついでに寄っただけかもしれないけど。

 

(本当、クラピ好きなんだなぁ)

 

 鈴夏さんに連れられている私に劣らず、店に居る人たちの注目を浴びているんだけど、慣れているのか全然気にしている様子はなかった。むしろ、今でも十分いいと思えるコスプレの出来の方が、本人的には気になっているみたい。

 

 もし仮に、お互いに推しの好きなところとかを鈴音ちゃんと会わせて語り合わせたら、それだけで1日が終わりそうな熱量である。

 

 しかし、鈴音ちゃんはリリーが最推しなだけで、クラピを含めた妖精キャラ全般も相当推しているかつ、いわゆる同担大歓迎側のオタク。

 万が一……いや、億が一クラピ好きの子が同担拒否側のオタクだった場合、その程度によっては大分悲惨なことになりかねないかもなぁ。

 

「ところで、こっちの黒髪のお姉さんは見た感じ、小悪魔さん好き?」

「は、はいっ! えっと、その……私のコスプレは、どう? 似てる?」

「似てるか似てないかで言うなら、似てると思います! 髪の色を変えれば、妖精メイドくらいなら騙せるかも?」

「いいなぁ。ほのっち、推しとそっくりだってさ。正真正銘、幻想郷に生きる妖精からの評価、これ程信頼できる言葉は他にないよ」

「うん、嬉しいっ!」

 

 で、黒髪ショートボブの眼鏡をかけた、ほのっちと呼ばれていた方の子は、まさしく大人しい子のイメージそのもの。

 持っている同じような鞄には中世のお城か屋敷を彷彿とさせる、小さなアクリルキーホルダーが1つだけ付いている程度で、これだけ見れば控え目に思える。

 

 ただし、肩掛け鞄の横から見えてる蝙蝠のイラストが書かれてる魔導書みたいな本数冊、小悪魔風な服に月と悪魔の羽飾りと、鞄以外のところで色々とコスプレを楽しんでいるのは分かるだろう。

 

 活発か大人しめかの違いだけで、根底にある東方愛はクラピ好きの子に負けず劣らず強いし、何だったら上回っている可能性すらありそうだ。

 

(リリーじゃなかったら、この子たちとの縁なんてなかった。鈴音ちゃん経由であったかもだけど……まあね)

 

 何だかんだで、この2人との会話は鈴音ちゃん一家や私の家族を除けば、結構楽しい。リリーの記憶があるから、親交のあるクラピを含めたネームド妖精たちのことを「可愛い」とか褒めてくれる言葉に、嬉しさを感じるようになったのかも。

 

 まあ、それはよく考えなくても分かることだ。鈴音ちゃんがネットで評価され褒められる度に、自分のことのように誇らしいし、嬉しく思えているんだもの。

 

「ちなみに、お姉さんたちは春は好きですか? わたしは勿論、春はとっても大好きですよー! お花見、桜餅……色々ありますから!」

「春かぁ。うちは夏が1番だけど、春も好きかな」

「私は……ごめん、分からない。季節の好き嫌い、あまり意識したことなくて」

「謝らないで! でも、それなら……ほんの少しだけ、春を意識してみてくれませんか? それでもし、ほんの少しでも好きになってくれたら嬉しいです!」

 

 後はそう。ある程度素を出して大好きな春を推しても、変な子とかヤバい奴とかじゃなくて、微笑ましく思われやすいところもいい。ゲームのキャラって要素を無視しても、日本在住で欧州出身の女の子として見られるだろうし。

 

 とはいえ、今私が話しているのがコスプレをして出歩くくらいの東方好きな女の子2人組だから、ある程度素を出しても春を推せてるんでしょと問われれば、やはり完全に否定することはできない。

 

 普通の人相手に同じかそれ以上な感じで行けば、いくら見た目がリリーのような可愛らしい女の子にしたって……そう自分で言うのもなんだけど、まあまあな確率で引くか距離を置きたくなるだろうし、下手したら春嫌いを増やすことにもなりかねない。

 

 勿論、問題なく推せる可能性もあるにはあるけど、そこはまあ希望的観測。素を出すにしても、出し方と勢いにはちゃんと気を使おう。

 

「でさ、リリー。話し変わるんだけど――」

「あっ……鈴夏さん」

 

 そんな決意を固めつつ、東方好きな2人組の女の子と夢中になって話をしていた最中、若干桜色が入った白色ワンピースと麦わら帽子という、春というよりは夏みたいな雰囲気の服を持ってきた鈴夏さんの姿が視界に入ってきた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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