花見をしてたら春告精   作:松雨

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強火なファン

 春告精のリリーホワイトになってから、正確には記憶の想起が始まって以降、私は自覚したことがある。女の子らしい、可愛い洋服とかアクセサリーに対する興味関心が、明確に強くなってきたことに。

 

 勿論、春に対するそれに比べれば微々たるもので、意思の力で容易にコントロールできる程度ではあるものの、完全に無視するのは少々難しい。

 

 どうやら、リリーホワイト(今の私)は見た目相応の女の子らしく、可愛いものが好きらしかった。

 他人事みたいに言うのも変だけど、『私』としてつい先日まで過ごしてきた記憶もある以上、ある程度は仕方ないだろう。

 

「よし、じゃあこの洋服も買っちゃおう。お金? 資金に余裕はあるから大丈夫よ。2着だけじゃどのみち不安だし、ちょうどいいわ~」

「このリボンとか帽子とかリリーに似合いそうだけど、ほのっちはどう思う?」

「私的にはバッチリだと思う。でも、こういうのってリリーちゃんの好みに合ってるか否かが重要……実際どう? 好み?」

「はい! 外の世界って、可愛い洋服とかが沢山あるんですね!」

「ならばよし! 後は羽織る物も買って……あっ、すみません。余所者がでしゃばって」

「お気になさらず。楽しめれば万々歳よ~」

 

 仮に、今も私が『私』のままだったならば、その場の流れで買い物同行することになった女子高生2人組と鈴夏さんの3人から、着せ替え人形みたくされていたとしたならば、恐らく心の中で面倒だとか嫌だと思ってしまっていたことだろう。

 

 余程非常識に見えたり、場の状況に合わないみたいなことがなければ、洋服も下着も機能性完全重視。誰かからもらうなどでもない限り、その他の要素とかは二の次というのが、前までの私のスタイルだったから。

 

 なのに、リリーになった途端にこうなるなんて。他者の記憶の影響力とは、こんなにも強いものなんだなぁ。

 

(私って、もしかしたら……ううん、まさかね)

 

 でもまあ、不思議と悪い気はしない。違うところは多々あれど、春に関する事柄では本当に他人とは思えない程度に合致しているんだから。

 

「あっ。リリー、スマホ持ってたんだ」

「しかも、結構使いこなせてるっぽい。こっちに来て、意外と長いのかも?」

「だとしたら……寂しいだろうなぁ」

 

 そんなことを考えながらふとスマホを取り出し、端に寄って鈴音ちゃんからのメールとか電話が来ていないか確認していた時、立ち止まった私に後から気づいた2人に驚かれた。

 

 まあ、気持ちは分かる。現代文明に馴染みのないはずな空想の存在だった私、リリーホワイトがスマホを何気なく使ってたら目を引くだろう。

 

 勿論、これは私が買ったりプレゼントされた訳ではなく、万が一の連絡用として一時的に借りているだけで、あげると言われた訳ではない。ちょうだいってお願いしたら、二つ返事で了承されそうな気はしてるけど、言わずもがなそんなことはしないけど。

 

 そして、電波がないであろう幻想郷に持っていって役に立つ機能は、精々カメラとか時計、メモ帳とか計算機くらいなもの。いや、ライト機能もあった。

 

 しかし、それらもスマホのバッテリーが切れるまでの間。日帰りとかならともかく、暮らすとなったら無用の長物になる訳なんだから、どう考えても一時的に借りるだけで十分だろう。

 

 あっ、でも妖怪の山にあの『河城にとり』が居るってことを考えたら、もしかしたら通信は出来なくても、使用自体ならどうにかなるかもしれない。

 

「えっと……わたしをお家に入れてくれた鈴音(お姉さん)の、2つ目を借りてるんです! うーん……あれ? あった、この人!」

「マジか。この子が……てか、めっちゃニヤニヤしてんじゃん」

「わたしが最推しだから、だそうですよー! えへへ」

「あー……その気持ち、痛い程よく分かる」

「あはっ。ゆーちゃんだったら、絶対発狂してただろうからね」

「推しと同じ屋根の下で過ごすんだよ? ほのっちだって、正気で居ろだなんて不可能っしょ」

「……うん。絶対に無理。何なら、外で狂喜乱舞して盛大に恥をかく自信がある」

 

 で、東方好きな女の子2人とこんな話をし始めたら当然、話題は幻想郷に関連した方向へと向かい、服選びどころではなくなる。鈴音ちゃんの名前と顔を出してから、ゆーちゃんの方がちょっと様子がおかしい気がするし。

 

 フードコートとかならまだしも、洋服とかを買いに来るお店で井戸端会議になっちゃうと傍迷惑なので、服選びはひとまずこの辺にしておこう。いいやつを見つけられたし。

 

 リリーになってから私の気持ちに変化が芽生えているとはいえ、ファッションに対する興味は未だそこまで強くはなく、帰ろうかと思い始めてたからちょうどいい。

 

(また会えるか……か。どうなんだろう? 取り敢えず、鈴音にメールで相談しなきゃだね。勝手に写真を見せたことも謝らなきゃ)

 

 とはいえ、初対面の2人との会話は楽しかった方だ。また会いたいかもう会いたくないかの2択を掲示されたならば、私は前者の方を選ぶ。

 

 推しに対してかける情熱量も、同担を歓迎するところも一緒だから、鈴音ちゃんとも相性は良さそうだから余計にね。もしかしたら、その情熱が掛け算されて凄いことになる可能性だってあるのだ。

 

(うわ、返信早っ! えっと……「いいよー! あっ、今から電話かけるから、最初にその子とお話させて!」か。信頼できる相手か否か、実際に確かめようとしてるのかな?)

 

 しかし、これには最大の欠点がある。通っている高校は違うのはいいとして、2人の住む家が鈴音ちゃん家どころか、ここからすらもそこそこ遠いところにあるという、物理的に気軽に遊びに来れない行けないって欠点が。

 

 私1人に限った話にはなるけど、目立つとかで周りに与える影響云々を無視し、場所さえ分かれば空を飛んで楽々だったろうなぁ。

 

 でも、ここは現代日本。わざわざ出向かずとも、スマホやパソコンなどの機器を持ってさえいれば、電話やメールなどでお互いにやり取りができる時代なのだ。

 

「その子と電話? おっけー! じゃあ、店内は皆に迷惑かかるし、うちら3人で一旦外に出よ!」

「うん、東方好き仲間なら大歓迎。話を聞いた感じ、私やゆーちゃんと相性良さそう」

「ありがとうございます! あの、鈴夏さん。後はお任せしても、いいですか……?」

「いいわよ~。こっちは気にせず楽しんできなさいな」

 

 ということで、鈴音ちゃんからこのスマホの電話番号を教える許可をもらえた訳だけど、それはそれとして話はしておきたいとも返ってきたので、一旦お店の外に出ることになった。

 

(もしかして……?)

 

 それにしても、鈴音ちゃんとお話しができるってなってからの、ゆーちゃんのテンションが明らかに高い。ほのっちの方は比較的落ち着いてはいるけれど、明確にさっきよりも表情が柔らかくなっている。

 

 もしかしなくても、これは妖精のイラスト関連で鈴音ちゃんのファンだという、状況証拠に他ならない。

 主に、リリーのイラストを投稿している鈴音ちゃんだけど、ゆーちゃんの最推しであるクラウンピースのイラストも、結構な頻度で投稿している。

 

 そういえば、昔スッゴい熱心なピースのファンに激アツな長文の応援コメントもらったって、鈴音ちゃんが私にそれを見せに来たことがあったけど、ゆーちゃんがそのコメントの送り主だったのだろうか。

 

 ちなみにだけど、その応援コメントの長さは合計でおよそ1000文字。同等の熱量を持つ相手にも理解のある鈴音ちゃんだからよかったけど、他の東方絵師さん相手にもゆーちゃんが同じ文量で送っているとしたら……いや、それはないか。

 

 そもそも、ゆーちゃんが長文コメントの送り主だって確たる証拠は、どこにもないしね。

 

『あっ、もしも――』

「こんにちは! あのっ……えっと……」

「「……わぁ」」

 

 と思ったんだけど、鈴音ちゃんから電話がかかってくるや否や、一旦渡したスマホに向かって叫ぶゆーちゃんを見て、私は自分の考えに自信が持てなくなってしまっていた。




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