花見をしてたら春告精   作:松雨

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春告精の記憶

「うわっ……凄い……」

 

 鈴音ちゃんの本気のお願いのお陰もあって、彼女のお父さんやお母さんから無事に居候の許可を得られた私は、ひとまず2階にある彼女の自室へ足を運んでいた。

 

 自他共に認める東方好きかつリリーホワイト推しなだけあって、部屋の中には凄い量のリリー関連のグッズが置かれている。

 

 それに付随してか、チルノや大妖精を筆頭とした妖精さんたち関連の各種グッズも推し程ではないものの、かなりの数が所狭しと置かれていた。

 

 私も変化前は何度も遊びに来たことはあるけど、趣味全開の部屋に私がドン引きしないように配慮してか、いつもグッズは押し入れに押し込んだりしていたので、全て解放されている状態の部屋を見るのは初めてである。

 

 リリー推しが高じて、二次創作ゲームのイラストコンテストがあれば見境なく、現実の自分の名前をそのまま使ったペンネームで応募しまくり、これまたそこそこの確率で採用される運と実力を兼ね備えているのだ。

 

 リリー以外だと、殆んどが女の子の妖精さんのイラストばかりをSNSに投稿ないし応募しているため、とある界隈では重度の妖精中毒者とかいう、ちょっと不名誉なあだ名をつけられているらしい。本人は全然気にしていないようだけど。

 

「あはは、ごめんね。きっと居心地悪いだろうし、一旦押し入れに押し込むから待ってて」

「ううん。ビックリしただけで不快じゃないから、大丈夫。えっと、()()()()?」

「そうだ、自己紹介……私は月野 鈴音(つきのすずね)。呼び方は呼び捨てでも何でも構わないよ。まあその……見ての通り、リリーちゃんを推してるの」

「推し……?」

「そう。実は、こっちの現代世界だとリリーちゃんと、そのお友達を含めた皆のことがゲームとか本になってて……」

 

 当たり前だけど、リリーホワイトとなっている私が鈴音ちゃんのことを知ってたらおかしいし、現代の知識についても多少はともかくあまり知りすぎていても同様だから、この辺のやり取りではちょっとした芝居を打たせてもらう。

 

 結果、現代のことについて殆んど何も分かっていないと判断した鈴音ちゃんは、(リリーホワイト)でも分かるであろう言葉を使いつつ、緊張しながらも色々と説明を始めてくれた。

 

 パソコンやスマホがどんなものかの説明から始まり、実際にパソコンで東方の原作ゲームを起動して少しプレイしてくれたり、スマホで二次創作ゲームについても同じ感じでしてくれたりもする。

 

 それ以外にも、現代科学文明の結晶(家電製品など)の名称や使用方法、注意すべきこととかを口頭で伝えてくれた後、簡単な絵や言葉を交えた説明メモを手渡してくれたりもした。その心遣いに、ちょっと暖かな気持ちになる。

 

(うわっ、気合い入ってるなぁ)

 

 なお、超高速かつ雑に描いたと鈴音ちゃんは言っていたけど、それにしては電化製品はともかくとして、今の私のイラストのクオリティが高過ぎる気がしてならない。

 

 まあ、推しが故にあまりにも沢山描いているから、ある程度雑に描いても上手くなるのだろう。慣れというのは、実に凄いものである。

 

 ただし、リリーの中身が中身なので説明をされずとも、普通に生活することは可能なのだけど、勿論そんなことは言わない。

 

「じゃあ、幻想郷で誰かにやるようなイタズラは……駄目?」

「私たち家族以外にはやらない方が良いね。面倒なことになるよ」

「えっ? その、鈴音はイタズラされたいって変わった人間さんなの?」

「いやまあ、そういう訳じゃないけど……うーん……やっぱり、リリーちゃんにならされて良いかも」

「……」

「ごめん、リリーちゃん! 今の発言はなしにして! 自分で言ってておかしいって思ったから!」

「ふふっ。今の鈴音、慌ててるサニーみたい」

「あーあ、私の印象が……自分のせいで変な方向に……! でも、笑ってくれたから良しとするかぁ」

 

 後は、幻想郷と現代社会の常識の違いから、変なトラブルに巻き込まれないようにと、食い違うと致命的になりかねない各種決まりごと(法律や条例)についてと色々と説明を受けたりもした。

 

 こっちに関しても、中身がバリバリ現代人な私にとっては全て分かっていることではあるけれど、言わずもがな大人しく座って聞いている。

 

 緊張感が徐々に溶けていってるからか、実在していたリリーホワイトと話せる嬉しさと幸せを、しっかり噛み締めれるようになっている鈴音ちゃん。

 

 見ているだけで、こっちまで幸せな気持ちになれる程の喜び様だ。

 

(……)

 

 しかし、慌てふためく鈴音ちゃんを見ていて、何の違和感もなく1人の妖精さんに関わる記憶が、私の頭の中で落ち着く前に浮かんだ大妖精よりもはっきりと、情景までも浮かんでくるのには驚いた。

 

 何だったら、大妖精の方の記憶もつい先程よりはっきりと浮かび始めている。その時に自分が抱いていた喜怒哀楽の感情ですらも、少しずつ思い出せるようにもなっていた。

 

 私がリリーホワイトになったことで、恐らく彼女が幻想郷で過ごした日々の記憶が、徐々に引き継がれているということだろう。

 

 でも、その対価として今のところではあるものの、現代日本で『陽野 春花』として過ごした記憶が完璧に失われたり、別物に改変されたりといったことはない。

 

 ただし、その記憶に付随した喜怒哀楽の感情の影響は受けにくくなっていて、現実感も薄れているように感じていた。今のところ、9対1くらいの割合だろうか。

 

 あれから大して時間は経っていないのにこれ程の影響があるなら、もしかすれば1ヵ月もしない内に割合が逆転し、最悪現代の記憶が封じられるなんてことがある可能性だって否定できない。

 

『ちょ……違うって……リリー!』

『えへっ……春のわたしは……サニー!』

 

 天高くそびえ立つ大樹の根元、何があったかはまだ分からないけど、慌てて記憶の中で私を追いかけてくるサニーミルク(陽の光の妖精さん)、もといサニー。

 

 学校とか仕事とかを考えず、仲の良い友達とひたすらにはしゃぎ回る日々は、さぞかし楽しいのだろう。

 

 もし、このまま私がリリーホワイトのまま戻らず、幻想郷へ行くことになったら、天気さえ良ければ春の間は無料で好きなだけ花見し放題になる。

 

 正直、それはそれで良いのかもしれないと私は思い始めていた。

 

「早く、お友達のところに戻れると良いね。幻想郷とは色々勝手が違う場所だからあれだけど、私ができることはするから」

「ありがとう、鈴音。やっぱり、わたしが推しキャラってやつだから、こんなに真剣に向き合ってくれてるのー?」

「うん。そうでなきゃ、こんなに真剣に動こうなんて思わない。興味が全くなければ関わろうなんてしなかっただろうし、コスプレ云々ってことにして無視してた。だから、お礼なんてされる程のことじゃないよ。そもそも、リリーちゃんとお話できた時点でもう、とんでもない対価だしさ」

「そっかー……」

 

 でも、私の家族や目の前の親友のことを考えるのであれば、間違いなく戻れた方がいい。ありがたいことに、変わり者の私でも変わらず接してくれる数少ない人物なのだ。

 

 だからきっと、明日明後日と時間が経っていくにつれて、事態は大きくなっていってしまう。

 

「じゃあ、もっとお話したら喜んでくれるかな?」

「……勿論!」

 

 ただまあ、こんな超常現象は一個人にどうにかできるとは思えないから、ひとまず今は鈴音ちゃんと話でもして気を紛らわせることにしよう。

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