花見をしてたら春告精 作:松雨
鈴音ちゃんのお母さんである鈴夏さんの手料理は、やろうと思えばお店を出して儲けることも視野に入るくらい、味も見た目も優れている。
今まで、娘の親友のよしみということで何度もありがたくご馳走してもらっていたけれど、その度に無料であることが申し訳なく思える程だ。
美味しく楽しんで食べてもらえて、おまけでお礼の言葉をかけてくれればそれで良いし、極論前者さえ達成されてれば構わない。
だから、金銭は勿論片付けの手伝いも必要ないけれど、その気持ち自体は嬉しいことだから、それだけはありがたく受け取っておく。
これが、初めてご馳走された時に言われたことであった。
「ん~! えっと……この焼き魚とお味噌汁と白いご飯……特に、卵焼きがとっても美味しいです! 私、好きになっちゃいました!」
「あらあら……ふふっ、気に入ってもらえて嬉しいわ。おかわりもあるから、好きなだけ食べてね」
「はい!」
リリーとなった今でも、人間だったつい昨日までの味覚とそう変わらないらしく、お箸を使って口に入れる朝食はまるで和食料理屋の一メニュー。
相場は分からないけれど、もし払えと言われたら1000円程度であれば迷いなく払う。
唯一、甘めの味付けの卵焼きが記憶よりもかなり美味しく感じていて、思わずおかわりを要求してしまったけど、どうやら
ということは、反対に苦味や渋みは好みではなくて、コーヒーとか濃いめの緑茶辺りを飲んでみたら、美味しくないと感じるようになっているかも。
でもまあ、前の『私』は好きだったから、相殺されてどちらでもないってことになりそうではあるけど。
「ふぅ、お腹いっぱい……ご馳走さまでしたっ! お片付けしますね!」
「ええ、お粗末様でした。片付けはやっておくから、家でのんびりしてて」
「えっ、良いんですか? お家に入れてもらって、ご飯も食べさせてもらえたのに……」
「勿論よ。だから、気にしないで良いわ~」
そして、何度食べても飽きない鈴夏さんの料理を食べ終えたら、返ってくる答えが予想できたとしても、片付けの申し出を今の私からしておくことを忘れない。
前の私だったらお礼の一言をかけておしまいで大丈夫だけど、リリーとしては鈴夏さんとは昨日が初対面。
この人の性格をいきなり知っていては少々おかしいし、何より初対面でそれは流石に失礼が過ぎるだろう。
ただし、陽野春花としての記憶や自我などが完全に消え去り、ほぼ完全なリリーホワイトとしてここに居たならば、話は別だ。
まあ、仮にそうだったら鈴音ちゃんの家に居るなんて、考えもしなかっただろうけど。
「じゃあ、よろしくお願いします! わたしは2階の鈴音のお部屋に居ますので!」
「はーい、ごゆっくり~」
朝食を済ませた後は、また庭で1人のんびり春を満喫するのも良いかなと思ったけど、流石の私でも1日中同じ場所で同じことを延々と続ける集中力は、維持できるかは不透明。
いや、春を満喫するのだったら大丈夫かもしれないが、今のテンション高めな私では、庭でうっかり高ぶる気分のままに「春ですよー!」とか、何か色々と叫びかねない。
鈴夏さんは家事やら何やらで忙しいだろうし、鈴音ちゃんには「私の部屋にある私のものは、壊したり汚したりしなければ自由に使って!」と言われているから、取り敢えず2階の部屋に上がってパソコンの電源を入れ、あったゲームを適当に開いてみることとする。
ゲームと言っても、大半が東方Projectの原作ないし二次創作で占められているのは、前に使わせてもらった時に見たから知っていた。あの子の性格を知っている人物なら、知らずとも容易に予想だって出来ると思う。
ただし、いつの間にか宇宙系のシミュレーションゲーム、それも1万円という高価格かつ必須データ容量も多いが、細かい数字や要素まで弄れるとして一時期話題になったメーカーのゲームまであったのは驚いた。
単に気付いてなかっただけで前からあった可能性、買ったばかりの可能性、果たしてどちらの可能性の方が高いのか。
(うーん……)
生活費などは例外として、東方関連以外の趣味やそれらを堪能するのに必要なもの以外には、滅多にお金を使わない鈴音ちゃん。
なのに、1万円を使う判断を下したということは、これに相当惹かれる何かを感じたと見て良い。
(プレイ時間は4時間。まだやり始めたばかりみたい)
気になったので開いてみると、少し長めのロード時間とパソコンの排熱機構の大きな音のボリュームアップと共に、デカデカと画面上で輝く恒星が映し出される。
右側には、恒星の質量・直径・温度などから、公転惑星の一覧や恒星寿命を表した欄のみならず、私が分からない単語がズラリと並んでいた。
上手く弄れば、現実には存在しないとんでも恒星や惑星だって作れそうだけど、維持できるかどうかは別問題っぽい。
ちなみに、開発陣営の拘りか技術的問題は知らないものの、作れる
ただ、フィールドは死ぬほど広い上に万能ではないものの、巻き戻し機能もあり、取り返しのつかない自体になることは少なそうだ。
加えて、追加パック第1段として生命体やら文明の要素も存在しているらしく、上手くやればSF作品の星間国家並みの国も作れるようだ。流石に、そこまで迫力のある感じではないみたいだけども。
(あっ、このデータ名……そういうことか)
少しやってみようかとも思ったけど、データ名に弟くんの本名である夕樹がそのまま使われているのを見て、どういうことかを察した。お姉ちゃんの超高性能パソコンを使わせてもらい、夕樹くんがこのゲームを買ったのだと。
だとしたら、このソフトに関しては鈴音ちゃんのものではなく、夕樹くんのもの。勝手に弄られてたら多分いい気はしないだろうし、やるにしても帰ってきた時に聞いてみて、頷いてくれたらにしよう。
という訳で、息抜きやるのは東方の原作……どうせなら、道中でリリーが登場する作品にしよう。幻想郷でも上位者に位置する
(えっと、ここをこうしたら……あーあ、駄目かぁ。素人が調子に乗ってもロクなことない)
なお、経験は鈴音ちゃんとの付き合いでしたことはある程度で、やり込んでいる上にルナティックを飄々とクリアする彼女に対して、私はノーマルですら苦戦して突破が難航してしまうほど、シューティングゲームに適性が低い。
現地で、実際に三次元的な弾幕ごっこをやった
まあ、サッカーのゲームをマスターしたからといって、現実のサッカーができるようにならないのと同じなのだろう。
強いていうなら、全く興味がない人に比べて知識が少し増え、話が分かるようになるくらいの優位性を持てるくらいか。
「よしっ、やっとわたしが……ん? 鈴音かな?」
そんな思考を頭全体で巡らせつつ、ようやく中ボスとして私が画面上に出てきたところまで進んだ刹那、鈴音ちゃんが置いていった2台目のスマホから、着信音が聞こえてきたことに気付く。
もしかしたら、様子を確認するために電話するかもと言っていたし、今の時間もお昼休みが始まった頃だから、その可能性はかなり高い。
(……??)
一旦ゲームを中断し、マウスの側に置いてあったスマホの画面に視線を移してみたのだけど、表示されていた相手の名前を見て、私は一瞬頭が真っ白になってしまうほどの衝撃を受けることとなった。
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