花見をしてたら春告精   作:松雨

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親友同士

 もう少し、リリーちゃんに詳しく話をしてからの方がよかったかもしれない。

 

 愛用の手鏡を返す傍ら、話すこととなったリリーちゃんについて。1度話してみたいという春花ちゃんのお願いを聞き入れ、私の家用携帯を経由しての会話が終わった後に、そんなことを考えた。

 

 電話に出ないという選択肢がある中、出たのは確かにリリーちゃん本人の意思によるものではある。私自身、出ることを強制はしていない。

 

 とはいえ、携帯から漏れ出た声や春花ちゃんの様子から、聞く限り咄嗟に出てしまった可能性や、興味本意で出たはいいものの、やっぱり怖くなった可能性もあり得る。

 

 知らない世界の知らない人間と、姿が見えないのに話をするなんて、よく考えなくても警戒して緊張するものだ。私だってそうなのだから。

 

「1度姿を見てみたいなぁ。でも、昨日の今日で家に行ったら余計に怖がらせちゃうよね」

「それはそう。だけど、春花ちゃんと私は親友同士。否が応でも顔を合わせる機会はできるだろうし……この際、行ってみる?」

「うーん……鈴音ちゃんと、リリーちゃんが良いなら行ってみよっかな」

「決まりだね。取り敢えず、メールを送信してっと……」

 

 ちなみにだけど、春花ちゃんとの会話の声量は控えめで、場所は人の居ない寂れた公園のベンチである。

 まあ、学校で電話をした時はその辺に全然気を使えてなかったし、何を今更って話だけども一応だ。

 

(……)

 

 家族は私も含めて皆、リリーちゃんを受け入れた時点である程度、ネットなどに家が()()()()こととか、家の周りに野次馬が増える可能性は想定内。

 でなければ、私がいくら頼み込んできたとしても、家を訪ねてきたあの時点でお断りしていると、お母さんは言っていた。

 

 それに、家での振る舞いがほぼほぼ春花ちゃんである点が、想定内と言いつつも皆が抱いていた、受け入れに対する不安感を打ち消している。

 

 不思議と料理ができて気配りも上手、興味のある事柄には飛び付き、ニコニコして瞳を輝かせるところ。声はともかくとして、喋り方が本当にそっくりだから余計に。

 

「あっ、返信来た」

「おぉ、不慣れなはずなのに結構早い。それで、何て書いてあるの?」

「えっと……『直接お話、私もちょっとしたいかも。だからいいよ』だって。春花ちゃん、よかったね」

「うん。ゲーム(創作)の登場人物、しかもリリーホワイト……リリーちゃんと直接会って話せるだなんて、興味の有無に関わらずまたとない経験だもん。そもそも、興味引かれない人なんて居るの?」

「いや、普通に居るでしょ」

「あははっ。だよね」

 

 そんな時、会話と並行してリリーちゃんと直接話してみたいという、春花ちゃんのお願いをメールで当の本人に伝えてみたところ、送ってから10分後くらいに好意的な返信が来た。

 

 イタズラした相手だし、何となく無理だよねと思いながら送ったものだから、正直びっくりしている。春花ちゃんそっくりな性格とは言いつつも、元は幻想郷の妖精ちゃんだからその辺も色々と違うのかもしれない。

 

 まあ、ともかく了承してもらった訳だし、帰りに近くのコンビニで適当に何か買って帰るとしよう。リリーちゃんの気に入りそうな、甘くて美味しい菓子パンとかスナック菓子をいくつか買ってけば、少しはお礼になるだろうか。

 

「春花ちゃん。お金に余裕ってないよね?」

「あー……うん。まあ、あるかないかの2択になるなら、ないになるかな……?」

「やっぱりね。今年の春休みも、色んなところ」

「そりゃあ、行けるとこは全部行ったし、今年は1人で野宿――」

「1人!? ていうか、野宿!? ついにそこまで」

「鈴音ちゃん? 何か誤解してない?」

 

 ただし、そのためのお金はわざわざ言うまでもないし、春花ちゃんのコンビニ代も私が出すつもりだ。春休みに貯めたお金を9割方使い果たし、殆んど余裕のない期間が今だから。

 

 一方で、私は運良くここ1~2ヵ月に纏まった収入があった。

 某イラストサイトや各種SNSでのコミュニティを通じた、妖精ちゃんたちのイラストの納品依頼。

 私の趣味嗜好(可愛く元気)に忠実な、リリーちゃんを主軸に添えた同人誌の予想外のヒット。

 後は、誕生日プレゼントとして皆からいくらかもらったり、そんなのもあった。

 だから、今日明日のコンビニ代くらいであれば、2人分払うことなど余裕なのである。

 

 無論、2台分の月額スマホ代やイラストを描くのに必要な各種物品、リリーちゃんや他の妖精ちゃんなど東方関連のグッズの購入費用、その他生活に必要なお金のこととかを考えれば、余裕とはいえ羽目は外さない。

 

 いつもなら、精々350円前後で済ませていたところに150円足して、500円分のお菓子やお茶を買うくらいだ。簡単に言えば、プチ贅沢かな。

 

「……じゃあ、コンビニ代私出しかな」

「え? いや、流石にそこまでない訳じゃないって!?」

「そうなの? でもいいよ、私今月物凄く余裕あるから」

「うーん……私、鈴音ちゃんにお金もらってばかりだし……今日くらい、自分の分は自分で出すよ。むしろ、いつも無理させちゃってる鈴音ちゃんの分も含めて、今日のコンビニ代は私が出したいくらい!」

「そっか。じゃあ、今日はお願いね」

「はーい、任されよ!!」

 

 そしたら、流石にお金出してもらってばかりなのは気になるらしく、真剣な瞳をした春花ちゃんによって今日のコンビニ代は出してもらうことに決まった。

 

 まあ確かに、普通の感覚なら気になるだろう。ネットとかはともかく、校則とか家のルールとかで制限されていない限り、望むならバイトでお金を稼げるようになる高校生だから尚更。

 

 でも、私としては家族以外だと春花ちゃんに限ってなら、コンビニ代程度なら気にしてない。というか、本当なら返してもらうつもりなんてなくて、あげているつもりなのである。

 

 何故なら、私をいつも気にかけて助けてくれるから。今日に至るまでその、リリーちゃんのような元気さと底無しの優しさに、何度救われたことか。

 

 この前なんか、変な人に絡まれてた時に間に入って撃退してくれたのだ。自分がその人に絡まれて、殴られたりするかもしれないのに。

 

 いつもの笑顔のはずなのに瞳に光がなくて、怖がって走り去る変な人をその瞳でじっと見つめてたことなんて、後にも先にもこの時しかなかったから強く印象に残っている。

 

「さてと、そろそろしゅっぱーつ! ねえ、今日はちょっと贅沢しちゃおっか!」

「ふふっ。本当にいいの?」

「勿論っ! でなきゃ、こんなことは言わないよ、鈴音ちゃん!」

「……確かにね」

 

 そんな過去を思い起こしつつ、目の前で17歳の女の子というよりは、見る人が見ればもう少し下の年齢の子供を思い起こすであろう、いつもの仕草を見せる春花ちゃんを見ていて、私はとても微笑ましい気分になったのだった。

 

 一瞬、大きくなったリリーちゃんが目の前に居る感覚を覚えたけれど、まあそれは気のせいだろう。東方の妖精ちゃんが大人になるなんて話、聞いた覚えがないのだから。

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