花見をしてたら春告精 作:松雨
「ただいま、リリーちゃん……ちょっ!? えっ、大丈夫!?」
高校での授業が終わり、コンビニに寄ってから帰って来たであろう鈴音ちゃん。彼女は部屋に居る
『私』が私と話したがってるという、2台目のスマホに届いたメールに了承する旨のメールを送り返した時は、まさに寝起き。
それも、幻想郷で私が大ちゃんとイタズラをして、神社の巫女さん……博麗霊夢に正座させられ、お説教を受けるという夢を見た後のそれだったから、余計に目覚めが悪いのだ。
お説教を受けつつも、夢の中の私と大ちゃんは何かと楽しくて幸せそうだった。それを、心が不安定な状態かつ現実感も増した状態で見てしまえば、悪夢でなくとも目覚めが良い訳などない。
期せずしてリリーとなってしまった以上、早急に幻想郷へと
だとしても、紫が見つけてくれない限り、こちらからはどうすることもできないけど。
「お帰り、鈴音。気分は……うん、大丈夫じゃないかも」
「やっぱり。今、春花ちゃんには下で待っててもらってるけど……仕方ないし、帰ってもら――」
「ううん。このまま、少しお話させて欲しいの」
「そっか。私に気を遣ってるって訳じゃ、ないんだよね」
「うん。私自身の意思だから、気にしなくて良いよ。鈴音」
「……了解。じゃあ、呼んでくる」
で、こんな状態の私を見た鈴音ちゃんは一切迷わず、下で待っている『私』を帰らせようと部屋を出ようとするので、服の裾を掴んで止める。調子はいまいちだけど、それ以上にこの世界の『私』がどんな存在なのかが気になるのだ。
声や話し方は昼間の電話で私そのものと分かっていても、姿形は本当に私そのものかは分からない。超常現象による記憶の改竄とか、認識の齟齬が発生している可能性もある。
性格も、電話で会話をした限りでは大きな差異はなさそうだけど、これも実際に会ってみないと判断がつかない。本当に、訳の分からない事態に巻き込まれたものだとつくづく思う。
「うわっ、本当に調子悪そうだよ。鈴音ちゃん、大丈夫なの?」
「うん。リリーちゃんが、春花ちゃんのことがどうしても気になるっていうから、お話ししてあげて欲しいな」
そして、1階に下りていった鈴音ちゃんはすぐ、1分も経たない内に待っていた『私』を連れて2階に戻ってきた。
なお、その『私』の姿は紛れもなく陽野春花そのもの。何から何まで、明らかに違うと実感できる要素はなさそう。
鈴音ちゃんとの会話も、今の私が向こう側の立場だったらまあそう言うだろうなと、仕草だって私がしそうな感じだなと、色々考えるまでもなくその現実を突きつけられた。
このまま、リリーホワイトとして生きていくことになるだろうという、直感も添えて。
だけど、何故だろうか。そうなったらなったで、きっと幸せなんだろうなとの根拠のない思いが芽生えたお陰で、取り乱したりはしなかった。
私が人間にしてはえらく春が好きだったから、リリーホワイトとしての記憶が脳を占める割合が増えてきたから、妖精という種族の特性が影響しているから、はたまた想像もつかないような訳があるからか、何にせよありがたくはあったけど。
いちいち辛い思いをしていたら、精神的に持たないのだから。
「ならしょうがないね。えっと……改めてこんにちは! 今日は、私とお話ししてくれてありがとう!」
「うん……うん、どういたしまして」
「その、どうかしたの? やっぱり、調子が悪くてお話気分じゃないのに無理してる? それとも、手鏡の件でまだ気まずく思ってるの?」
「後者、かな。春花の大切なものだって聞いて……」
「なら、気にしなくて大丈夫。無傷で戻ってきてたし、何より鈴音ちゃんの推しだもん。泣かせるなんて真似できないよ」
それから、鈴音ちゃん同伴の下『私』との会話をしていくのだけど、直接だと違和感がなさすぎて他人と会話をしている気がしない。例えるなら、自分と瓜二つのイマジナリーフレンドとやり取りを交わしているかのよう。
当然、瓜二つなので意識的にも無意識的にも自分が望まない答えは帰ってこないし、予想外の問いかけや返答もその数は極めて少ないと言える。
明確に違う点を挙げるとするなら、この世に実在しているところだろう。鈴音ちゃん他不特定多数の人々にも見えるし、触れようと思えば実際に触れることもできるのだ。
「あったかい……ねえ、
「わわっ、なあに? 急にどうかしたの?」
「あなたって、何者? 姿形以外、私みたいでビックリ」
「何者かって? うーん……めっちゃ子供っぽい女子高生かな? たまたま妖精……リリーに似ちゃっただけだと思う!」
「あははっ。春花ちゃん、リリーちゃん公認でそっくりさん認定されてるね」
「だね、鈴音ちゃん!」
ちなみにだけど、ちょっとしたリスクを背負って投げ掛けた質問にも、目の前の『私』は何ら動じることもなければ、悪意の類いを向けることもなく、普通の人のように受け答えしている。
それどころか、私が春という概念そのものの妖精であることを喜び、どんな花が好きなのかとか、幻想郷の春はどんな感じなのかとか、とにかく遠慮なしにグイグイ来るようになってしまう。
ただし、不思議と嫌とは感じなかった。むしろ、何だか楽しくなってきたくらい。
無論、花の好みなども含めて全てが私とほぼ同じであるため、正直に答えてしまうと話が合う合わないの次元ではない。
なので、違和感がない程度に誇張したりわざと答えなかったりして、ある程度の違いを演出するように気を遣う。
(……ふぅ)
とはいえ、それでもかなりの部分で
「ふふっ! こんなにも春のことで話が合ったの、リリーが初めてだよ! これで、リリーが自由に行き来できるなら大手を振って喜べたんだけどなぁ」
「心ゆくままに喜んでくれたって、別にいいよー。こんなにも春好きの人間さんが外の世界に居るなんて、凄く嬉しいわー」
「そう? じゃあ遠慮なく……ほんっとうにありがとう! リリーがここに来てくれて、私とっても嬉しいっ!!」
「わぁ、振り切っちゃった……」
「リリーちゃん、私からもありがとう。こんなにもニッコニコな春花ちゃん、久しぶりに見たから」
「あはは……どういたしましてー」
それにしても、春のことで高ぶる私を客観的に見たら、こんな風に見えるんだなぁ。そりゃあ、この時期になると皆がうっわぁって感じの反応を見せる訳だ。
でも、高校のクラスメートは私の振る舞いに引きこそすれ、爪弾きにすることは決してなかったどころか、色々と話を振ってくれる優しい人たち。私は、本当に最後まで恵まれていたのである。
(春ですよー……か)
なお、人前で同じ高ぶり方をしたとしても、女の子かつ子供の体躯と見た目をした私の方がダメージは少ない。注目を集めやすくなることには変わりないけど、そういう意味ではリリーホワイトだと楽かな。
まあ、だからといって人前で高ぶる気分のままに飛び回る……いや、もしかしたらリリーらしく「心地のよい春ですよー!」と、大声を出しながら空を飛び回ったりするかも。一応、許可を取ってからにはなるだろうけど。
「さてと! 楽しく春についての話もしたところで……コンビニの菓子パンでも食べよっか! リリー、色々と買ってきたからどれでも興味を引いたやつ選んでも良いよ!」
「じゃあ、私はこのメロンパンってやつを1つもらおうかなー」
「おおっ、王道なやつを選んだね! なら私は、こっちのクリームサンドの方にしよっと!」
「うーん、私もひとまず今はメロンパンかな。4個あるし、リリーちゃんは1つあれば良さそうだもんね……あっ」
2人がコンビニに寄って買った、沢山の美味しそうな菓子パンを見て食欲をそそられながら、私はそんなことを考えていた。
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