貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい 作:黒鉄48号
追記:一部内容を改稿しました。
「おぉ……男の子だ……!」
「ちっさ、かっわ……」
「ご飯作ってもらって、出迎えてもらって、そんでもって時には……むふ」
がたり、ごとり──そんな擬音がつくような揺れは存在せず、代わりにモノレール車内を満たすのは女子の呟きと甘くて蕩けそうな匂い。頭上から注がれる彼女らの視線を避けるために目を瞑れば、却って音がよく聞こえてしまう。
「ん、眠いのかな……膝枕したいなぁ」
「あ、あんな線の出る服……
「ちょっとプルプルしてる……チワワか?」
……いい加減にしやがれお前ら! 何が可愛いだ! 俺は男だぞこの野郎! せめてかっこいいって言うべきだろうが畜生!
────なんてことを内心で叫びながらも、いつもの様に愛想笑い。呟きは少しだけ控えめになるものの、視線の方は倍近く増えてしまう。
そして問題は俺だけのものじゃない。目の前で吊革を持って女子からの集中砲火を食らっている男──俺の親友『
こっちは一見すると我関せずを貫いてる風だが、右手を閉じたり開いたりしているのは彼がキレる寸前によくやる癖である。
(一夏、もう少し、あと3分で着く。それまでの辛抱だ!)
(……分かったよ、
目線だけでそんなやり取りをするのも手慣れたもので、彼の纏う雰囲気はすぐさま落ち着いた。……だからといって女子の態度がまともになっちゃくれないのだが。
全く、どうしてこんなことになってしまったのやら。再び聞こえ始めたろくでもない声を意識しないために、俺は今までの出来事を思い返す────
これは男女の社会的・性的な振る舞いが入れ替わるというもので、ついでに多くの作品では女性側の性欲が強調されることが多い。
生まれ落ちたこの世界がそうであると気づいたのは大体4、5歳ぐらいの頃だっただろうか。
国会で言い争う熟女たち、乱立する大人数の男性アイドルグループ、定期的に報道される女性から男性への
そういった様々な前世との差異に違和感を覚えていたが、決定打となったのはとあるテレビ番組だ。
その時の題材は『少子化問題とどう向き合うか』というものであり、対策の一例としてとある男性が取り上げられていた。彼は某校長のように数多くの女性と関係を持ち、更には数え切れないほどの子供を設けたという。
俺はそれに対して何とも言えない嫌悪感を抱いたが、両親はそれをダシにしてイチャコラし続けていたのだ。どうやら、少なくともこの2人にとっては唾棄すべき出来事ではなかったらしい。
そうやって上記の結論に至ったものの、特に何が変わるということは無かった。
母親がバリバリ働きながら父が主夫として家事を担っているのには慣れ切っていたし、
そんな訳で俺は普通~に日常を過ごしていたわけだが────それは一瞬にして終わりを告げた。
空を覆いつくすようなミサイルの炎と、その間を搔い潜るように飛ぶ
そいつは虚空から光の剣を取り出してミサイルをバッサバッサと斬り飛ばし、遂には1つも地面に落とすことなく迎撃してみせた。
後に『白騎士事件』と呼ばれる一連の出来事を見て、俺はこの世界が『
ISの登場は世界に大きな衝撃を与えた。一個人が複数の戦闘機と渡り合えるような代物を扱えるというのは勿論のこと、何より重大だったのは『ISを動かせるのは女性だけ』ということである。
これによって各国で芽吹きつつあった男女平等思想は刈り取られ、女性が男性に対して明確に勝さる物を得たことによる権力の増大が始まったのだ。
そんな環境で小学校に入学した俺だったが、ここに来てさらなる差異に気づく。
──女が、デカいのである。
平均身長は勿論のこと筋肉量も女性が勝っており、スタミナに至っては男性の数倍に匹敵するほどだった。
それを痛感したのは小2の時にシャトルランで女子に張り合った際であり、途中で嘔吐してリタイアする羽目になったのは苦い思い出だ。
そうやって男女の格差を知った周囲の子供は段々と一般常識に馴染んでいったわけだが……俺はむしろ抗うようになっていた。
いつになっても背の順じゃ一番前、クラスの席順はど真ん中最前列。おまけにくせっ毛の茶髪と童顔も合わさってついたあだ名が『テディベアの擬人化』である。
そのため周囲からは事あるごとに『かわいい』と連呼されていたのだが、俺はどうにもこの言葉が前世から気に入らなかった。
男であるなら『かっこいい』と言われたい──子供っぽい考えなんて思われるかもしれないが、前世の俺がこの信条を胸に抱いていたことをまるで忘れられなかったのだ。
それ故に俺は自分が思い描く『かっこいい』を貫き通そうと意固地になっていた。何か問題が起きれば真っ先に動き、信念と筋を通す為には迷わず体を張る。
そしてなにより────困っている女子は必ず助ける! 言うなれば『自然と惚れられる、男の中の男』!!
この考えのもと過ごした小学生時代は
とある事情でシングルファザーとなった父親と引っ越した先で、俺は織斑一夏と知り合ったのである。
原作では朴念仁を超えた朴念仁であり、ヒロインズを差し置いて家事上手という強特性を獲得していた彼だったが……この世界ではもっとやばかった。
貞操逆転しているということはつまり、前世で例えるならあいつは『黒髪長身飯ウマ美少女』なのだ。モテない訳が絶対にないキャラ付けであり、ラブレターを貰わない日はないとかいうとんでも状態だった。
正直言って羨ましかったしその人気の半分でもいいから分けて欲しいと思っていた。だから俺はあいつの人気にあやかる目的で交流を始め────気付いた時にはほぼ毎日一緒に行動するほどの仲になっていたのだ。
一夏はとにかくいい奴だった。親父を助ける為に新聞配りで身を粉にしていた俺を気遣い、友人の食堂にアルバイトとして賄い付きで働けるように取り持ってくれた。
休日にはゲーセンやカラオケに誘って遊んでもらったのはありがたい限りだ。
──とはいえ、全く問題がないわけではなかった。引っ越してきたこの町は片親家庭向けな格安家賃に見合う治安の悪さであり、不良が数多く存在したのだ。
そして俺は持ち前の信条で、彼女らが引き起こす事件に何度も首を突っ込んでしまったのである。
……肉体的に勝る女性と喧嘩して大丈夫なのかって? そんなことをしていたのには当然理由がある。
まず最初に、バ先の店長(筋肉モリモリマッチョマンの爺さん)から調理技術と一緒に仕込まれた護身術があったこと。
彼曰く『とある古武術の達人が生み出した』というそれに胡散臭さを感じながらも、ロマンに惹かれて教えてもらったのだ。
そしてこの護身術、基本は回避重点かつ筋力をそこまで必要としない技がちらほらあるといった感じであり、勝つことは到底不可能だが……
そしてもう1つの理由が──ある種の『危機察知能力』である。
攻撃の来る方向、種類、危険度などが直感的に分かるこれは原理が一切不明なのだが……恐らくは一度死んだ人間であることが原因なのだろう。
梅干しを想像するだけでつばが自然と出てくるような、いわゆる『パブロフの犬』みたいな物なのかもしれない。
まあとにかく、この2つの合わせ技のおかげで色々な問題に飛び込んでも何とかなったわけだ。
──ただ、助けた相手からは何故か悉くエッチなお礼を提案されてしまい、貞操の危機に陥ることが毎回だった。
そっち方面の耐性がいまいち足りなくてフリーズしているとそこに一夏がフラっと現れ、上手いこと相手を言いくるめるのが様式美となっていったのだ。
「まーたやらかしたのかよ勇。ちゃんと後先考えろっての」
「けどなぁ一夏、それじゃ助けるのが遅れちまうじゃねえか。間に合わないのは論外だろ?」
「だからってなぁ……女は全員獣なんだぞ?」
「それは……うん……」
ここで言い返せればいいのだが、脳裏に浮かぶのは助けた女性の態度の数々。抱きついてくる人、ほっぺにチューしてくる人、おっぱいを見せつけてくる人、その他もろもろetc……
「ま、まあなんだ。ああやって助けてあげりゃ、女の子が自然に惚れてくれるかもしれないだろ? 助けられるよきゃずっと上手くな!」
「…………男騎士かよ、お前は。アニメや漫画ならまだしも、現実でそんなこと言ってたらマキュリスト*1扱いされちまうぞ?」
こんな感じで一夏は何度も俺に対して説教をしてきたのだが、当時の俺はひねくれものだった。
あいつに助けられまくった負い目があったからかもしれないが、どれだけ痛い目に遭おうとあいつの忠告に耳を貸すことはなかったのだ。
…………とはいえ、金に目がくらんで
剣道の試合以外は虫も殺さないような優しいあいつが激昂して殴ってきたのは、あれが最初で最後だった。
バ先の息子である五反田
そんなこんなでひと悶着ありつつも無事に迎えた受験シーズン。俺たち三人は全員が
最寄りの学校かつ私立にしては学費が安いというのもあったが、この学校は社会で働く為の技術を徹底的に教えてくれるとして評判が良かったのだ。
俺と一夏はそれぞれ一人しかいない家族を支えるために、弾は実家の食堂を更に賑わせるために。
よく受験は個人戦なんて言われるが、俺たちは三人で組んでそれ以外を全員蹴落としてやるぐらいの意気込みでいた。
……今にして思うと、あの頃には前世の記憶はおろか原作知識も欠けつつあったので、その埋め合わせも兼ねていたのかもしれない。
しかしながら、受験までの道のりは決して順風満帆とは言えないものだった。
前年度に起きた大規模なカンニング事件への対応として受験会場が知らされたのが2日前、しかもそこが悪名高い多目的ホールだったのだ。
地元出身のデザイナーが関わったそれはまるで利用者のことを考えていないもので、他の施設が使えない時に渋々選ばれるような扱いだった。
そのうえ藍越学園よりはるか遠くにある建物で、わざわざ4駅も乗る必要があったのも最悪だ。
そんなこんなで愚痴りながら会場に向かった受験当日。多目的ホールは異様なほどに混んでいた。
しかもやたらに女性が多く、俺たちの中で一番背の高い一夏よりも更にデカいやつが当たり前なレベルだった。
最初は人混みが収まるまで待っておこうと考えたものの、いつまで経っても人が減りやしない。痺れを切らした俺が動き始めた矢先、彼女らも一斉に歩き出してしまった。
「やべっ、流される!?」
「勇!? 待て、そっちには──」
慌てるように差し出された一夏の手を掴み損ねた俺は、そのままデカ女どもの津波に飲み込まれた。
必死に流れに逆らおうにも体格差は覆せず、おまけに全身に触れてくる柔らかいモノのせいでいまいち力を入れることができない。そしてついに、俺の存在は女子たちにばれてしまう。
「あれ、なんかいる?」
「えっ、男の子!? しかもめっちゃ可愛いし!」
「誰が可愛らしいって!?」
──そこで反射的に言い返したのがまずかった。大声に目ざとく反応したやつらの視線が一斉に集まり、先ほどとは比にならないほどにもみくちゃにされたのだ。
自分より一回り……いや、三回りぐらい大きい動物がたくさん近寄ってくるのを想像してみて欲しい。興奮を上回ってもはや恐怖を感じるだろう。
それは俺も同じで、前世でいうところの男の夢みたいな状況なのに微塵も喜べなかった。
「そうだ! ねぇ
「いいねいいね! もし着れたら絶対可愛いもん!」
「あ、いや、ちょっ!?」
IS、転生、男子──俺の脳細胞はフルスピードでこれらのキーワードを繋ぎ合わせ、一瞬にして原作知識を呼び起こす。
その間にも少女たちは俺をどんぶらこと流していき、ついに視界へISが入ってきた。
「あれが、IS……」
「
(確かにかっこいい──じゃねえ!)
織斑一夏が受験会場でうっかりISに触れてしまうあのイベント。その際に彼が装着したのがこの打鉄という機体だ。果たしてテンプレがどこまで通用するかは分からないものの、触らぬ神に祟りなしだ。
何せIS学園に行くということは、その場所に入るために青春を犠牲にしてきた女子集団に放り込まれるということ。飢えた狼の群れに子羊を入れればどうなるかなんて、言わずもがなだろう。
「やめっ、離せ! 俺はあいつらと一緒の場所に──」
「きゃあっ!」
もにゅん、とでも形容すべきだろうか。
マシュマロのように柔らかく、メロンのように大きい……そんなものに触れたような擬音。
何度も掴まされたことはあれど、掴んだことはなかったその感触。
「わっ、だいたーん♡」
おっぱいを揉んでいた。乳房に指先が飲み込まれていた。それはほんの一瞬暖かったが、すぐに消え去る。
指先からどんどん血の気が引いていき、水風呂に叩き込まれたような冷たさが全身を覆いつくした。
「ぁっ……わっ……わぁアア──!?」
「うわ、悲鳴すっごい」
「ちょっ、誰か黙らせて!」
「任された!」
「うぼぁっ!?」
側頭部を掴まれ、そのまま勢いよくブラウスの柔らかい生地に顔が埋まる。
空いてる手で慌てて押し返そうとするも、空中で捕らえられ恋人繋ぎをさせられた。
「むーっ! む──っ!!」
「うわっ、手ちっちゃ……」
「あーやっべ、興奮して汗出てきた」
完全に弄ばれている。乳房で顔面を防がれたせいで息が出来ず、だんだん視界がぼやけてきた。
必死に体をよじって逃れたとしても、次の瞬間には別の女子にまた囚われる。メス臭い。どうすれば、どうすればこのデッケぇクソ女どもから逃げられる?
……ふと、一際デカい女子に抱き上げられた拍子だった。部屋の奥に鎮座する鎧武者のようなそれが、誰かを待っているように見えた。
──ああ、そうか。
ISに乗って、飛んで逃げればいいんだ。
そう気づけば行動は早かった。
他の女子が俺をかっさらおうとするタイミングを待ち、拘束が緩んだ瞬間に全力で暴れて抜け出す。
地面に落ちながら前転して一気に走り出してISに近づく。追いかけてくる女どもの足音が聞こえなくなってくる。
そして、肩が外れそうなほどに手を伸ばして打鉄の装甲へ触れた瞬間。キンッと金属質な音が響いて────
そこから先のあれやこれやはまあ言わずもがなだろう。前世で山ほど読んだ二次創作のテンプレの如く全国一斉適性検査が行われ、案の定一夏もISを動かせることが判明したわけだ。
とはいえ、まさか俺が最初の男性操縦者になるとは思わなかった。てっきりあいつが原作通りのポカをやらかして、俺は2番目とかそういう感じだと考えていたのだ。
弾やその他男子たちからは憐憫すら向けられたが、逆に俺は意気込みを感じていた。
例の女子たちはIS学園*2の受験者だったのだが、その全てが美少女──ちょっと下がっても可愛い子ちゃん──だったからである。人間で一番重要なのは中身だが、それが同じなら外見が優れているやつと過ごす方を俺は選ぶ質である。
……それに、『かわいい』と言われたのがとにかく引っかかっていた。上手いこと学園で成り上がっていき、彼女ら全員にかっこいいと言わせてやるのだ!
なお、ホテルの一室で一緒に軟禁されてた一夏にこのことを語ったら、狂人を見るような目を向けられた上に「可愛いのは事実だろ」と言い放たれた。
全くこのクソ強家事上手イケメン野郎め、親友じゃなかったら全力でぶん殴ってたぞおめー。
そんな思いを胸に秘め、先述の夢を凶悪極厚参考書に粉砕されかけながら数週間を過ごしたのだった。
「全員揃ってますねー。それじゃあ
────そんなこんなで時は流れて入学式当日。1年1組の教室では副担任の『
しかしそれに対する返事はなく、男子二人をじっと見つめて呟くばかり。
「一夏くんでっか……」
「お父さんよりおっきいんだけど……」
「もしかしてアソコも大きかったりして……」
相変わらず微妙に声が大きい。俺の五感が人一倍鋭いのも勿論あるのだろうが、彼女らが浮かれポンチになってるのが一番の理由に違いない。
──というか視線が露骨なんだよお前ら! 胸と股間ばっかり見てんじゃねえ! コミュニケーションの時は目と目を合わせろって教わらなかったのか!!
そうやって心の中で叫ぶ俺のことなどつゆ知らず、山田先生は再び教室へと呼びかけを行う。
「そ、それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね!」
「……」
「…………うぅ」
二度も無視されたのが堪えたのか彼女は涙目になってしまった。俺だけでも反応すべきかと思ったもののそれをしようものなら寧ろ泣きっ面に蜂というか、山田先生は針の筵に置かれてしまうことになる。
どうにかすべきと思って後ろの一夏にそれとなく目配せするが、彼は小さく首を横に振るだけだ。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席順で」
流石にこれには生徒たちも反応して廊下側最前席のやつから立ち上がって話始める。しかし流石はIS学園、どの子も部活で全国大会に出たり実家が太かったりと個性的な人ばかりだ。
原作でも何人かは目立っていたような気がするも、やっぱりいまいち思い出せない。
「……次、織斑一夏くん!」
「はい」
(お、ついにか)
聞き慣れた名前によって過去へ向けられていた意識が現実へと引き戻される。クラスでもトップクラスに背が高い彼は席から立つだけで目立ち、整った顔つきとデザイナーが腐心した男性用制服によってその魅力は倍増。教室全体が奇妙な静寂に包まれる。
「初めまして、織斑一夏です。趣味は家事全般で、特に料理は得意な方です。一年間よろしくお願いします」
極めてシンプルな自己紹介を終えると彼は礼をした。クラスメイトはもっと根掘り葉掘り聞きたそうだが、一夏のあまりに精悍な佇まいに中々言い出せない。
そうこうしているうちに教室の扉が開き、黒いスーツを着た長身の女性が入ってきた。
「いい声量だ、一夏。流石は私の弟だな」
「……こういう場所では私語を慎むべきですよ、織斑先生」
「──ふ、そうだな」
目を合わせずにそう言われた彼女は壇上に立ってこちらをしっかり見てくる。一夏にそっくりの黒髪と痩躯、二割増しぐらい鋭い切れ長の目は只者ではないことをにおわせていた。
「さて諸君、私が織斑
とてつもない暴力宣言が放たれる。もう少し言葉を選んだ方がいいと思うも束の間、困惑のざわめきではなく黄色い声援が響いた。
「きゃ────! 千冬様、本物の千冬様よー!」
「ずっとファンでした! 後でサインください!」
「
「いぃぃやったぁ──!」
窓ガラスがブルブルと震えるほどの大歓声。しかしそれも当然のことで、彼女はモンドグロッソ*3の総合優勝者でありいわば世界一有名なスポーツ選手のような存在だ。
そんな人物がわざわざ自分たちを教え導いてくれるとなれば、実質男子高校生な彼女らの興奮はもっともだろう。
「……はぁ。毎年、よくもまあこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それともなんだ? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
「あ、あの、織斑先生……流石に言い過ぎではないですか?」
「しかしだね、山田君。こうも毎回騒がれると私も困るんだ。去年なんて声だけでガラスが割れたんだぞ?」
(アニメかよ……いや、アニメになってたわそういや。まずいな、やっぱり色々と忘れてる)
そうして思考を続けている間にも自己紹介は進んでいき、ついに自分の番となった。
「次、
「はい!」
名前を呼ばれた瞬間にすっと立ち上がり周囲を見渡す。一夏の時よりもクラスメイトの視線は熱を帯びており、情報量の多い会話をいまかいまかと望んでいるのは明らかだ。
ならばその思いに応えてやろう。一度深呼吸をしてから俺は口を開いた。
「皆さん初めまして! 名前は三上勇で一夏君と同じ中学校の出身です! 趣味は音楽鑑賞と歌うことで、アニソンとかも結構聞きます! あと、好物はピザです!」
話しながらくるくると回り、生徒一人一人にそれとなく視線を合わせていく。背がちょっとだけ──具体的には小学生と間違われるぐらい──低いせいで苦労するのはしょうがない。
一夏は渋い顔をしているが、ここまで来たのだから行くとこまで行くしかない。俺はさらに説明を重ねる。
「女性との交流は人並みぐらいですけど、皆さんとは是非とも仲良くなりたいです! ISの事とかもあんまり詳しくないので一杯質問するかもしれませんが、出来れば答えてくれると嬉しいです! 1年間、どうかよろしくお願いします!!」
そこまで言い終えて礼をしてからダメ押しに満面の笑みを彼女らに向けた。深夜テンションでアイドルの仕草を真似た付け焼き刃の物だったが、どうやら効果抜群らしい。
赤面する者、悶える者、少女がしてはいけない表情になっている者など十人十色だが、そのどれもが好意的な反応だった。
……『かっこいい』からかけ離れているだろって? むしろ第一印象を『可愛い』にすることで後々かっこよくなった時により強く実感させるための布石────になるはずなんだ、多分。
「……三上、そういう言動は控えるように。不純異性交遊への対処マニュアルは無いからな」
「わーかりましたよ、織斑
釘を刺してきた彼女に対しても笑顔で対応しながら着席する。
未だに周囲のざわめきは収まっていなかったものの、織斑先生の鶴の一声でまとめ上げてチャイム前に自己紹介を完了させたのだった。
「助けて一夏ぁ~!」
「なんで俺なんだよ……」
1限目終了後の休み時間、俺は親友に泣きついていた。授業内容はIS基礎理論だったのだが……これがまあなーんにも分からなかったのだ。例の極厚参考書とそれに引けを取らない教科書をパラパラと見ていたがこっちも全く理解できない。
というか一ヶ月未満で数年間努力し続けてきた他の生徒に追いつける訳がないだろ、いい加減にしろ!
「自己紹介通りに他の生徒頼ればいいじゃねえか」
「……拗ねてる?」
「拗ねてない」
「いや絶対拗ね──あっやめアイアンクローはアガーッ⁉」
ギチギチと人体から鳴るはずのない音を出しながら一夏の手がこちらの顔面を鷲掴みにする。中学生時代も何度か食らった攻撃だが明らかに普段よりパワーが高い。
まあうん、思春期JK集団の中へ放り込まれた上にもう一人の男子がこれじゃあ怒りもするよな。しかも彼女らの視線を今も集中して受け続けているのわけで、これでは変にならない方が異常だろう。
どこか他人事のように状況判断していると不意に彼の手が離れた。机に額をぶつけて悶絶しているのも束の間、こちらに近づいてきた足音に反応してその方向を向く。
「…………ちょっといいか」
「え、誰?」
「……お前に用はない」
いきなり失礼な物言いをしてきたのは艶やかな黒髪を腰に届くほどの長いポニーテールにした、妙に顔つきが険し気でしかもめっちゃデカい少女だった。*4なんだか見覚えのある姿に首を捻っていると一夏が口を開いた。
「……箒か?」
「っ!? お、覚えているのか!?」
その言葉を聞いた彼女はまるで別人のように表情を明るくする。ホウキ、どこかで聞いたことがあるような…………
「そ、その、なんだ。ここは人が多いし廊下にでも────」
「ごめん、今は無理。こいつの面倒見ないといけないから」
「…………そうか、うん。また、後でな」
断られるとは思っていなかったであろう少女はとぼとぼと元の場所に行こうとするが「ああ、それと」という一夏の言葉に引き留められた。
「去年、剣道で全国優勝したってな。おめでとう」
「…………な、なななっ!? なんでそんなことを知っているんだ!?」
「なんでって、新聞だよ。いい笑顔だったな」
そう言いながら微笑まれるとホウキ……さんはかーっと顔を赤く染めてしまった。
今までもこういう反応をする女子は沢山見てきたが、どうにも彼女は毛色が違う気がする。そう思った俺は意を決して一夏に質問してみた。
「なあ一夏。この子って知り合いなのか?」
「あ、そういや勇は知らなかったか。箒は小学校の頃の幼馴染で、こうやって会うのは……6年ぶりかな」
「6ぅ!? よ、よくそんな昔のことを覚えてるな……」
「お前が忘れっぽいだけだろ。キャリーケースの暗証番号を忘れた時とか先生まで巻き込んで大事になったし」
「そのことは引っ張り出すなっつーの!」
恥ずかしい思い出を暴露されかけてわーぎゃーしていると不意にチャイム音が鳴った。
いつの間にか俺たちを取り囲むように集まっていた女子たち*5が蜘蛛の子を散らすように移動し始める。
ホウキさんはまだまだ一夏と話したかったようだが渋々と元の席へと戻っていった。……なんか大事なことを忘れている気がしなくもないが、今は授業の方が重要だろう。俺は意識を切り替えて再び教科書を開くのだった。
最近のIS二次の賑わいに惹かれて書いてみました。
感想もらえたら嬉しいです。
ムフフなif、読みたいですか?
-
いる
-
いらない
-
そんな物より本編優先して♪