貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい   作:黒鉄48号

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 なんか想定の1.5倍ぐらいに文量が増えてる……(困惑)

 というわけで、対抗戦後のエピローグ回となります。無茶しまくった勇の運命やいかに──


第十六話 長く短い1日

「うぅ……?」

 

 全身の痛みに呼び起され、目を覚ます。状況が分からず周囲を見回してみれば、どうやら保健室のようだ。カーテンで仕切られた右隣にはもう1人誰かがいるようで、ゆっくりと寝息を立てているのがよく聞こえた。

 

 

(ええっと、どうなったんだ? 確か俺は自爆して、そのあと一夏たちが──)

「気が付いたか」

 

 

 シャっとカーテンが引かれると同時に凛とした声。その主が織斑先生であるのは、わざわざ顔を上げずとも自明だった。

 

 

「奇跡的に身体へ致命的な損傷はないが、内臓損傷と軽い全身打撲はある。数日は地獄を見るだろうな」

「はぁ……」

 

 

 色々と言われるが、頭が薄っすらとぼやけてるせいで右から左へ通り過ぎてるような気がしてならない。なんとなく視線を窓の外に向けてみると、あかね色に変わっていた。

 

 

「それと、残念なお知らせが1つある。お前を守ったメイルシュトローム(相棒)だが、ダメージレベルE──修復不可能と判断され、廃棄処分となった」

「……そう、ですか」

 

 

 彼女の言葉でようやく右手にミサンガ(待機形態)が付いてないことに気付く。「幸いにもISコアは無事だ」と続けられたものの、心にぽっかりと空いた喪失感がそれをぼやけさせているように思えた。

 

 

「──そういえば、一夏は?」

「…………ご覧の有り様だ」

 

 

 織斑先生……いや、千冬さんは悲し気な表情を浮かべながら右手側のカーテンを開く。するとそこには、全身を包帯だらけ(ニチアサ巻き)にされた親友が横たわっていた。顔には人工呼吸器も付けられており、心電図には35と表示されている。

 

 

「お前が意識を失った後、ゴーレム──敵ISが再起動してな。最後の一撃から身を挺して皆を守った結果がこれだ。しかも、ISの絶対防御をカットしてまでな」

「……」

「全く、一夏もお前も命知らずで実に困る。もしもこの事が表に出ようものなら、IS委員会は光の速さで解散させられるだろうな」

 

 

 そう呟く千冬さんの顔は普段の鬼教師のそれと真逆──世界にふたりだけの家族を(おもんばか)る、優しい人の表情だった。

 

 

「まあ、何にせよ無事でよかった。教え子に死なれては寝覚めが悪い」

「……ご迷惑をおかけしました」

「いや、謝る必要などないさ。一夏とてそう簡単には死なない──なにせ、私の自慢の弟だからな」

 

 

 彼女は照れ隠しのようにはにかむが、目元には化粧ですら隠し切れない濃いクマが浮かんでいる。仕事に追われているのは勿論のこと、恐らく一夏のことで相当心身に堪えたのだろう。

 

 

「では、私は後片付けがあるのでこれで。お前も、少し休んだら部屋に戻っていいぞ」

 

 

 それだけ言い残して千冬さんはすたすたと保健室を出ていった。相変わらずの生真面目な人だ。何だかんだ一夏が理想の大人だと事あるごとに言ってるのも納得できる。

 

 

 さて、そんなことを考えている内に入れ替わりで誰か入ってきたようだ。カツカツと妙に規則的なこの足音は──

 

 

「んー、ゴホン。調子はどうかしら、大馬鹿さん」

「……お久しぶりです、虚先輩」

 

 

 トレードマークの黄色いヘアバンドに丸眼鏡、泣く子も黙る整備課の女傑。布仏虚が仏頂面を浮かべて立っていた。これはたぶん説教2時間コース──

 

「──良かった」

「は、へっ?」

「本当にっ、生きてて、よかった……ッ!」

 

 

 ギュッと力強く抱きしめられ、俺のうなじに生暖かいモノが触れる。一瞬何が起きてるのか分からず戸惑うものの、応えるようにこちらからも強く抱き返した。彼女は胸元に顔を埋めたまま、ぽつぽつと喋り出す。

 

 

「あの時、下級生を避難させた中にあなたがいないと本音(ほんね)が言ってきて……気付いたら、何故かアリーナの中にいて…………」

「……ごめんなさい」

 

 

 少しずつだが意識を失う前の出来事を思い出してきた。ゴーレムを巻き込んで自爆したタイミングで、偶然にも遮断シールドが破壊されていたのだ。恐らく虚先輩は3年生としてまだ観客席に残っていて、偶然俺たちの姿を見てしまったのだろう。

 

 

「謝って済むことじゃないのよ! あのメイルシュトロームを見せられた時、私たちがどれだけ心配したと思ってるの!!」

「いやほんと、おっしゃる通りで……!」

「──あんなもの、見たことなかった。整備課にやってくるISなんて、酷くてもオーバーホール止まりで……直せない程のものなんて、1度も無かったの」

 

 

 彼女の言葉の意味を一瞬理解できず……少し遅れて、試合中に鈴が言ってた事をふと思い出した。確か、『ISはスポーツ用』とかだっただろうか。

 きっと虚先輩たちも殆ど似たような認識で──こんな、命をかけた戦いに駆り出される事態が来るなんて微塵も考えていなかったに違いない。

 

 

「ずっと、ずっと怖かったの……もしも三上()()が目覚めなくて、そのままだったらどうしようって」

「──優しいんですね、先輩は」

「そういうのじゃないわ…………自分達が作った物に責任を持つのは、技術者として大前提よ」

「ははは、違いないですね」

 

 

 ────さて、こうやって虚さんに抱き着かれていると1つ問題が生じる。彼女、普通にスタイル抜群の美女なのだ。若干ゃズボラでオタク気質のある鬼月先輩は気の置けない友人として接しやすい部類だったが、この人の場合はそうもいかない。

 その上で滅多に見られない女性の上目遣い──それもメガネ越しの涙目というおまけ付き──を真正面から食らえば、それはもう色々と辛抱たまらないわけで。

 

 

「……あっ、あー、そうだ! メイルシュトロームの次の専用機ってどうなります!?」

「いきなり話題変えるわね。元々はイタリアのテンペスタを予定してたのだけれど、今回の一件で三上くんは内蔵を負傷したから変更よ」

「……もしかして俺、かなり死にかけてた感じですか?」

「当たり前じゃない。奇跡的に出血してなかったら投薬だけで済んだけど、普通なら開腹手術してたらしいわ」

 

 

 先生から聞かなかったの、と続けられた言葉は耳に入ることもなく。俺はぞーっと青ざめていた。

 言われてみれば左腕の方には注射の痕がいくつも刻まれていて、相当に危険な状態へ陥っていたことを如実に示していた。

 

 

「……話を戻すわよ。とにかく、機動性の代償で肉体負荷の大きなテンペスタは後回し。先倒しでドイツのシュヴァルツ・シリーズを使うことになったわ」

「シュヴァルツっていうと──確か、重装甲・高火力でしたっけ」

「ええ、そうよ。しっかり覚えて偉いわね」

 

 

 虚先輩はニコニコと笑いながら頭を撫でまわしてきた。

 一応説明しておくと、ドイツ製ISはその大半が『高速で空をかっ飛ぶ重戦車』とでもいうべきコンセプトである。構造も比較的シンプルなものとなっており、世界第5位のシェアを誇っているとかなんとか。

 …………まあ、実を言うとドイツ語の機体名がめちゃくちゃカッコイイから記憶に残っていただけってのが実情なんだが。

 

 

「で、そのぉ……また新兵器とか抱き合わせになってるんですかね?」

「さぁね。何分、5月中旬まで機種変更しない筈だったのに予定が狂いまくってる訳だから────今度同じような無茶したら、承知しないわよ」

「ひぃーっ!?」

 

 

 ガチトーンで顔を近づけるのはやめてください先輩。一夏にさんざんやられたからそれ苦手なんですよ。

 そんな思いが伝わったのか、彼女はすっと離れていつも通りのキリっとしたバリキャリ感を漂わせる。

 

 

「ま、とにかく今は体を治すことが最優先ね。今日はもう遅いし、ここで一晩過ごすのも良いんじゃないかしら」

「わかりました~」

 

 

 そして虚先輩は部屋から出て行こうとして──ふと立ち止まったかと思えば、振り返ってこちらに語りかけてきた。

 

 

「あぁ、それと──かっこよかったわよ、三上くん」

「…………へっ?」

 

 

 唐突な賛辞に呆けている俺を置き去りに、彼女は今度こそ保健室から立ち去っていく。流石にカーテンは戻して欲しかったが……まあ、うん。今回は許してやってもいいだろう。

 口角がつり上がっているのをなんとなく感じながら、やることも特にないので俺はゆっくりとベッドに横たわるのだった。

 

 


 

 

 ────一体どれほど寝ていたのだろうか。凝り固まった体を解そうとした瞬間、妙な気配を感じて反射的に身動きを止める。

 

 

「…………」

(これは、人の気配?)

 

 

 しかも千冬さんや虚先輩は勿論のこと、セシリアさん達とも違うように思えるものだ。ソイツはベッドの上にゆっくりと登り、そのまま俺の顔の方へ移動してくる。

 

 

「──勇」

「なんだ、鈴かよ」

「っ!?!?」

 

 

 布団をずらして目を開ければ、なんと鼻先3センチ程の場所に親友の顔があった。しかも暗闇に目が慣れてきたことで気づいたが、随分とラフな格好で来てやがる。

 

 

「……ナニしてんだ、お前」

「おっ、お、おっ、起きてたの!?」

「お前の声で起こされたんだよ。教師に見つかったらどう弁明するつもりだったんだ、えぇ?」

「ななっ、何言ってるのよあんた! そんなあたしはなんもやましいことなんて──」

 

 

 そこまで言って彼女は反射的に口を塞ぐ。こちらからは目的を殆ど聞いてないのに自分で言ってしまうとは。全く、自分から墓穴を掘りやがってからに。

 相変わらずどこかポンコツさの抜けない振る舞いに一周回って笑いがこみ上げてくるが、ぐっと飲み込んで鈴に語り掛ける。

 

 

「まあなんだ、もうしばらく飯も来ないだろうし少し雑談でもするか?」

「い、いいわねそれ!」

「……あと、一夏を起こさないように気を使ってやれよ」

 

 

 そう言いながら起き上がり、ベッドの縁へ腰掛ける状態に移動。その横にパパっと鈴も座ってきて、髪先が触れるかどうかの際どい距離感を保っていた。

 

 

「そういや、今日の試合ってどうなった?」

「無効よ、無効。なんなら対抗戦がぜーんぶ中止、フリーパスもパアよ」

「げっ、マジかよ……お詫びに1日だけ全生徒無料キャンペーンとかやってくんねえかな」

「残念だけどそういう情報はゼロね。全く、IS学園もあっち(大陸)と同じでケチなんだから」

 

 

 彼女は肘を付きながらグチグチと呟く。まあお前、結構な頻度でデザート頼んでたもんな……。

 

 

「あ、ついでになんだが。一夏との賭けってどうなるんかね」

「そうねぇ……あたしとしちゃ、一緒に無かったことにしてくれたらありがたい限りなんだけど。こいつってそこら辺厳しいでしょ?」

 

 

 夕方と全く同じ状態の親友を指差しながら鈴は言った。実際、一夏は重要書類で記載ミスをすると訂正をすることなくもう1枚それを貰い、一から書き直すタイプの人種なのだ。

 

 

「けどよ、頭下げれば案外許してくれるかもしれないぜ。特に実害あったわけでもないし」

「……勇がそう言ってくれるなら、まあ、いけるかもね」

 

 

 親しき中にも礼儀ありと言うが、彼の中の下限は想像以上に低めである。そうでもなきゃ、こうやって俺なんかが友達をやっていられるわけがないのだ。

 ──そしてふと、ずっと気になっていたことを思い出す。

 

 

「なあ、鈴。こっちに戻ってきたってことは、またお店やるのか? 親父さんの中華料理、すげえうまいもんな」

「……そ、の。お店は……しないんだ」

「え? なんで?」

「あたしの両親、離婚しちゃったから」

 

 

 ……まずい、地雷を踏みぬいたかもしれないぞこれ。近年稀に見るおしどり夫婦の離婚なんて、絶対ろくでもない理由だ。

 鈴の暗く沈んだ表情にどんな言葉をかけるべきか迷っていると、彼女の方から喋り始めた。

 

 

「きっかけは、父さんだった。いきなり書類を持って来て『離婚しよう』、なんて言ってきたの」

「もちろん母さんとあたしは猛反発したわ。離婚なんてしたくない、どうしてこんなものを持って来たのかって理由も何度も聞いた」

「けど、父さんは一切それに答えず『俺は離婚したいんだ!』の一点張りで……結局、母さんの方の親権になったわ。ほら、中国って昔から女の立場の方が上だし、待遇もいいじゃん?」

 

 

 一瞬だけ声のトーンが明るくなるも、すぐさま元通りに沈み込む。

 

 

「けど、やっぱり片親だと色々大変でさ。そんな時に偶然IS適性検査でA判定になって、そのまま操縦者になったの」

「──実は、中国のIS操縦者って他より権力が強いの。それこそクソババア(国家代表)とかは、気に入った男性をいつも侍らせたりしてたし」

「で、色々苦労しつつも代表候補生になって、あらゆる手を尽くして父さんのことを調べて──見つけたのが、大体3か月前かな」

 

 

 そこまで一気に語ったものの、途端に鈴は言いよどんだ。明らかに普通ではない姿を見て止めようとしたものの、彼女は無理やり喋った。()()()()()()()()()

 

 

「────父さんは、癌だったの。それもかなり進行してて、最先端の治療法でしか治せないようなレベル」

「けど、それを受けるには莫大なお金……それこそ、お店があった土地や他のアレコレを売り払っても到底足りないぐらいの金額が必要だった」

「……だから、父さんは離婚した。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ぽたりぽたりと、シーツにいくつも染みが出来る。真下を向いて嗚咽を漏らす鈴の姿を見て、俺は何も言わずにそっと抱きしめた。

 そうすることで緊張の糸が切れたのか、彼女はますます大きな声をあげながら泣き散らし始める。

 

 

「なんでっ、なんでぇ……! 言っでぐれだら、ずっどざざえであげだのにぃ……!!」

「……」

「いなぐなんないでよっ、がっでに、ぎえないでよぉ……」

 

 

 涙と鼻水で服をぐしゃぐしゃにされるのも構わず、ただひたすら鈴の頭と背中を撫でる。そんなことしか出来ない自分が、悔しくてしょうがなかった。────そして、もう店を開けないとはつまり、()()()()()()なのだろう。

 酷く自分勝手ではあるが、俺は親父さんの気持ちも痛い程に理解できた。いくら本人たちが受け入れてくれるとはいえ、愛する妻子をどん底に付き合わせることを彼は許容できなかったのだ。

 

 

 そうやって何分も泣き続けた後。ようやく気持の整理が落ち着いたのか、鈴は実に穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「────ありがとう、勇。少しだけ楽になったわ」

「そっか……ほんと、大変だったな」

「うん。──だけど、1つだけいい事があったのよね」

 

 

 そう言って彼女はスマホを取り出すと何度か画面をタップし、それをこちらに見せてくる。いきなりの眩しさで一瞬目を閉じ、ゆっくりとそれを観察すると──

 

 

「……レシピか、これ?」

「そう。一番やっすい治療を続けながら、父さんはこれを書き続けたの……あたしに託す為に」

「なるほどな」

 

 

 基本的な部分は勿論のこと、一部手順にはかなり詳しい注釈が加えられた理路整然とした内容。そんな代物がざっと数十枚はここに揃っていた。

 画像なんて1つもないのにどんな料理が作れるかをありありと想像でき……思わずぐぅ、と腹の虫が鳴いてしまうほどだ。

 

 

「ははは! 相変わらず食いしん坊よねえあんた」

「しょ、しょうがねえだろ! 今日、まだ夕飯食ってねえんだから……」

「それじゃあ作ってあげる──って言えたらいいんだけど。実は今、ちょうど食材切らしてるのよね~」

「おいおい、それでも料理人の娘かー?」

 

 

 先程までの暗い雰囲気が嘘かのような和気藹々。やはり、この底抜けに明るくてどこかポンコツな部分があってこそ凰鈴音なのだと再確認する。

 そんな風に考えている最中、唐突に鈴が俺の両肩を軽く掴んできた。何をするつもりかと見上げてみたら、ほんのり赤面して目もグルグルとしている。

 

 

「あのさ、勇? あたしの身の上話したし、なんなら敵ISとドンパチやったじゃん? だからその、なんか……ご褒美とかさ!?」

「お前なぁ、ほんとそういうところだぞ……ま、この際だ。過激なこと以外ならやってやる」

「い、いぃっ、いいの!? じゃ、じゃあさ──」

 

 

 そう言うと彼女は目をつむり、顔を突き出して少しばかり唇を突き出した。露骨なキス待ち状態である。全く、そこら辺の加減が下手くそだから未だに恋人の1人も出来ないんだぞ。

 ……とはいえ、一度了承してしまったのだからしょうがない。鈴の顔にそっと手を添えると、もはや火を噴き出しそうな程に赤く熱くなっていく。

 

 

(……ほんと、美人ではあるんだよなぁ)

「は、早くしてぇ……」

 

 

 生まれたての子猫のようにプルプルと震えているのが指先から伝わってきたのに気付き、覚悟を決める。

 唇……は流石に色々とまずいので少しだけ彼女の顔を反らし、頬っぺたへ軽く口付けした。きめ細かな質感を直に感じ、改めて目の前の相手が女性なのだと思わざるをえなかった。

 

 

「……へっ、うぇへへへ~~!? ほほっ、ほんとにやったの?」

「なんだよ。逆側にもするか?」

「いやけっこ、ううんして──いややっぱり無理ッ! これ以上はあたしが死ぬ!!!」

「ちょっ、おま、あんま暴れ────」

 

 

 ジタバタと悶える鈴を宥めようとしたものの、体格で優る彼女を御せる訳もなく一緒にベッドへ倒れ込んでしまう。しかも最悪なことに、傍目から見たら鈴が俺を押し倒しているような姿勢になっていた。

 

 

「はっ、はぁ……!」

「あー、鈴。一旦落ち着けよ、な?」

「ふふ、ふふふ……今のあたし、すっごい落ち着いてるわよ?」

 

 

 暗闇のせいでまともに彼女の表情を見ることは出来ないが、切れ長の瞳に肉食獣を思わせる光が宿っていることだけは確かで。そのまま両手首をがっしりと掴まれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

 

「おいおいおい、洒落になんないぞお前!」

「安心してよ勇──()()()は取っておいてあげるから」

「どこにも安心できる要素がないんですけどー!?」

 

 

 ああ、もはやこれまでか。「天井の染みを数えておくのよ」と呟く鈴の言葉に抵抗を放棄しようとして──ふと、視界の隅に映った心電図に違和感を覚えた。それが示す数字は80──即ち、おおよそ安静時のもので。

 それに気付いた次の瞬間、バチッという音と共に蛍光灯が明るくなった。俺と彼女は一緒に硬直し……ゆっくりと、右を振り向いてみれば……

 

 

「──病人の横でナニやろうとしてんだ、馬鹿」

「「一夏!?」」

 

 

 ベッドの縁に座り込んでこちらを睨みつける、上裸に包帯だけというある種の悩殺フォルムの親友がそこにいた。電極が外れたことでアラームを鳴らす心電図を他所に、彼は怪我人と思えぬほどの殺気を向けてくる。

 

 

「いっ、いつの間に起きてたのよあんた!」

「……『ナニしてんだ、お前』のタイミング」

「ほぼ最初から!?」

 

 

 うーむ、なんという感覚の鋭さ。姉弟揃って実に人間離れしてやがるぜほんと。

 

 

「っていうかじゃあ、あたしの両親のことも?」

「……また食いたかったんだけどな、あの人の肉まん」

「~~~~~ッッッ!」

 

 

 鈴は顔を隠してゴロゴロと悶えているものの、一夏に両親のアレコレを知られたとてそう問題はないはずだ。そうやって訝しんでいると、彼は徐に口を開いた。

 

 

「鈴」

「ん、何よ?」

「俺は──『親』ってもんが、よく分からない。家族は千冬姉1人だけだ。だから、お前の辛さも悲しみも、理解しきれないと思う」

「……」

「──だから。今度、どっか遊びに行こうぜ」

 

 

 その言葉に俺たちはぎょっとして一夏の顔を凝視する。そこに浮かんでいたのは大怪我を負った病人とも、不埒な輩に憤る正義漢でもない、等身大の子供の表情とでも言うべきものだった。

 

 

「弾のやつも呼んでさ、久しぶりに4人で集まるんだ。どう思う?」

「いい考えだな、一夏。まずは五反田食堂で腹ごしらえだろ?」

「……うん、そうね。またあのクッソ甘いカボチャ煮を食べるのも、偶にはいいものだし」

 

 

 俺の言葉に釣られて鈴も喋り出し、そのままの勢いで3人の言葉が入り乱れるいつもの雑談が始まった。

 ついこの前まで存在した俺たちのわだかまりは完璧に消え去り、保健室の先生がすっ飛んでくるまで姦しく語り合うのであった。






 草木も眠る丑三つ時。2人分の寝息だけが聞こえる保健室の扉がゆっくりと開かれ、音もなく忍び込む人影があった。


「──」


 ソレは織斑一夏の枕元に立ち、懐から手のひらの薄いシートのような物を取り出す。幾何学模様の刻まれたそれを青年の胸元に置き、そのままブツブツと呟き始めた。

「……。……、…………!」


 二本指を口元に当てながらしばらく呪文を唱え続けると、次第にシート全体が薄れていき──遂には肉眼で識別不可能な状態となった。それを見届けた人影は満足そうに頷き、部屋を後にする。

 カツカツと廊下を歩いていく最中、不意に月光がソレを照らし……真白な肌と深紅の瞳がぼう、と浮かび上がるのだった。








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