貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい 作:黒鉄48号
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クラス対抗戦の翌朝。俺は痛む体を引きずりつつ登校してついつも通りに過ごせていた。そして、休み時間にはそこら中で女子生徒の嘆きが聞こえてくる。イベント中止はまだしも、肝心要のデザートフリーパス廃止ともなればこうもなろう。
しかしながら、俺と一夏が昨晩ぐっすり寝ている間に各国代表候補生が学園側とすったもんだの話し合いをしていたようで。なんとなんと、各学年1日ずつではあるが全生徒が無料でデザートにありつけることになったのだ!
「いやー、やっぱ食い物の恨みってのはやべえもんだなぁ~」
「……その癖、好き放題食った後に体重増えたら悲しむのはなんでなんだろうな」
「一夏お前、それ絶対他の人に言うなよ?」
午前の授業が無事に終了した昼休み。一夏を連れて食堂に一番乗りを果たした俺は牛丼セット並盛を注文し、彼は相変わらず日替わりランチを選んでいた。
本人曰く栄養バランスが一番まとまってるからこれがいいとのことだが、大体同じ傾向のメニューばかりでよくぞ飽きないものだ。
そんなことを考えてるうちにセシリアさんと箒さんも合流し、いつもの4人でテーブルに座って昼食を取ることにした。
「なあ一夏、本当に大丈夫なのか?」
「そんな心配するなよ箒。見ての通りピンピンしてるだろ」
「……見ていた限りですと、相当な無茶をしていた筈なのですが。あなたはサイボーグか何かで?」
(いやー、たぶんサイボーグの方が先に壊れてるんじゃねえかなあの感じだと……)
そんなことを考えている内に牛丼を食べ終えてしまったので、一足早くデザートに手を伸ばす。どこの誰が優勝してもいいように予め各国を代表するスイーツを用意していたらしいが、例のISのせいで結局全部お出しする羽目になったらしい。
ちなみに俺が選んだのはアップルパイで、セシリアさんと箒はそれぞれスポンジケーキと豆大福(どちらもかなり大きい)である。
「ん~、やっぱりここのお菓子は格別だな」
「なんでも勇さん、デザートだけは各国から呼び寄せた職人が監修し、1つ1つ手作りで仕上げているらしいですわ」
「ふむ、道理でこう……うん、何かが違うのだな!」
「そこは分かっとけよ箒」
舌鼓を打つ俺たちをジト目で見つめる一夏だが、彼のお盆にだけはデザートが乗っていなかった。そもそもあんまり甘い物を食べないタチというのもあるが、どうやら俺の自爆に対して負い目を感じているらしい。
アレはあくまでこちらの責任だと何度も言ったのだが、織斑一夏という人間はそういう物事に関してはとても頑固で。自罰的になり過ぎるのも困りものである。
「──ふぅ。ごちそうさまでした!」
「おいおい、もうかよ勇……ちゃんと噛んで食べたのか?」
「1口ごとにしっかり30回は嚙んでるっての。ったく、そういうのにはほんと厳しいよなお前」
「おう、健康に毎日毎時を気を使わないと長生きできないからな」
そう言いながらも彼は一切ペースを乱すことなく三角食べを続けていく。全く、まだまだ若いはずなのにどうしてこうも爺臭さいのだろうか。鈴や弾もしょっちゅう呆れてたんだぞお前。
──そうやって過去を振り返ったせいだろうか。俺はふと、クラス対抗戦だの試合の賭けだのでずっと忘れていた
「あ゛っ!? やっべ、完全にタイミング逃してたわ……すまん、先に失礼するぞ!」
「おや、珍しいですわね。お代わりはなさらないのですか?」
「もっと大事なことがあるんでね!」
慌てながら席を立ち、昼休みど真ん中でごった返した食堂の中を歩き回っていく。デザート無料ということでいつにもまして人が多く、立ち食いコーナーすらすし詰め状態になっていた。
このままでは埒が明かない──どうにか上手いことアイツを見つけ出せないかと頭を捻っている中、視界に入り込んだとある菓子に目を奪われる。
(……そうか! アイツなら間違いなくそれを注文してるはず!)
天啓が降りてくるとはまさにこの事だろう。俺は嗅覚に意識を集中させ、目的のモノらしき匂いをゆっくりと辿っていく。
そしてその考えは正解だったようで──
「よっ、1人とは珍しいな」
「……勇?」
尋ね人──凰鈴音は普段と違い、他の生徒とつるむことなく黙々と食事を取っていた。俺は彼女の横に腰を下ろし、手元の菓子に目線を向ける。
「いやぁ、懐かしいよなそれ……
「
鈴はしみじみとした雰囲気でそう呟き、皿に残っていたもう1つのそれを俺に差し出してきた。彼女らしからぬ行為に一瞬戸惑うも、更に強く突き出してきたので慌てて受け取って頬張る。
「……まさか、これって」
「
薄茶色の餡に真ん中の黄色が映える断面……中学時代、彼女の
「実は、食堂の料理人の1人が偶然父さんの知り合いでさ。料理学校時代の同級生なんだって」
「へぇ……そういや確か、日本の名門校で学ぶ為に留学してきたんだっけ」
「そうそう! で、卒業した後に大陸から母さんを呼んで──そのあと2人で立ち上げたのがあのお店なの」
「はは、耳にタコができるぐらい聞かされたなぁそれ」
こうして語っていると、在りし日の思い出で記憶の底からぞろぞろと湧き上がってくる。
五反田食堂の厳さんに負けず劣らずの剛腕で料理を作り上げ、小規模ながらも根強い人気を誇っていた料理店。こちらと客を奪い合うこともなく、何ならお互いに助け合うこともザラにあったのだ。
「思い返すと、包丁裁きとかの細かい技術は大体あの人から教わってたんだな……最初の時とか速すぎて全く目で追えなかったけど」
「ほんとにねぇ~。それこそ、料理学校じゃ『神速の
「なるほど、道理で……」
相槌を打ちながら残りの月餅もパクっと食べる。蓮の実の上品な甘さにほんのり混ざるナツメの酸味は、貧血に悩む奥さんの為なんだとか言ってたなぁ。
…………そんな優しい人が、妻子を残して先立つことになるなんて。
「ちょっと勇、眉間に皺寄ってるじゃない」
「おっと、すまん。……ついつい
「──そっか。でも、父さんのレシピはしっかり例の同級生に見せることが出来た。だからきっと、天国で喜んでくれるんじゃないかな」
こちらに釣られて鈴もしんみりとした雰囲気になってしまう。……全く、こうならない為にここまでやって来たというのに。気合いを入れ直すために俺は頬を軽くたたき、改めて彼女と向かい合った。
「鈴。放課後って暇か?」
「ん~? まぁ、甲龍がメンテ中なんで用事はないけど……」
「じゃあさ、俺の部屋に来てくれよ。渡したいものがあるんだ」
「──ほ、ほんと!?」
よっぽど嬉しかったのだろうか、彼女は感極まった声を上げながらぎゅ~っと抱きついてくる。不思議と悪い感じはしなかったものの、直後に織斑先生のどやしが始まってしまった。
そして食べ終わった食器を一夏たちのテーブルに置いたままであることを思い出した俺は、鈴に軽く断りを入れつつ大慌てでそちらに向かうのだった。
時は流れて放課後のこと。一夏はISの損傷が意外と軽度だったようでいつも通り女子2人と一緒に特訓に行っており、部屋には俺しかいなかった。時刻は既に6時を回っており、暇を持て余したので久しぶりに音楽を聴く準備をしていた。
携帯
──俺がオーディオ沼に嵌ったのは、ちょうどアルバイトを始めた頃だっただろうか。ある日のバイト終わりのこと、大将の厳さんが褒美とやらで十数万円はするヘッドホンで古い曲を聞かせてきたのだ。
それまではせいぜい『音が流れればいい』ぐらいの感覚で百均のイヤホンを使っていたのだが……文字通り、世界観が変わるような体験だったことをはっきりと覚えている。
ギターの残響、ドラマーの風切り音、ボーカルの吐息……そして何より、全てが一体となった音の空間。曲が始まった瞬間にその中へ引きずり込まれ、終わる頃には最高級の音色を知ってしまった金欠のガキが増えたわけだ。
(存外、耳が良いからいつも最高の火入れが出来てるのかもなあの人は……)
めくるめくメロディーによって、更に記憶が引き出されていく。
安物のDACで何かが違うと悩んだ日、初めて小遣いで有線イヤホンを買った日……そして、今使っている
──結局何万円を溶かしたかなんて考えるだけで末恐ろしいものの、そこに後悔は微塵もないと言い切れる。
(……お、これは?)
30分ほど聴いた後に流れてきたのは、俺が1番最初に好きになった曲。ネットで色々言われていたのを興味本位で聴いてみて、そのままドハマりした代物だった。
懐かしさと心地良さが耳から全身に広がっていき、無意識のうちにリズムを刻みだす。そのままの勢いでベッドから立ち上がり、ノリノリのまま部屋の中をゆっくりと歩き回る。
「『約束したあの場所を、諦めないように追いかけて。転んでも何度も起き上がるだけさ~!』──ふぅ。ほんと、いい歌詞してるよなぁ」
ついつい口に出してしまったものの、そこまで大声じゃないしきっと大丈夫だろう。そうやって言い訳しながら次の曲へ……といったタイミングで、ついにドアがノックされた。
イヤホンを耳から外して机の上にDAPごと置きつつ、折り畳み式の踏み台に乗りながら覗き口で相手を確認。そこにいたのはもちろん鈴で、急いで来たのかほんのり汗ばんでいるように見えた。
『勇、来たわよー。開けてちょうだ~い!』
「あいよー」
カードキーをドアノブにさっとかざせばロックが解除され、待ってましたとばかりに彼女は部屋へ飛び込んできた。それにしてもだいぶ興奮しているのか、キョロキョロと落ち着きがない。
「おっ、お邪魔しまーす……」
「まあなんだ、適当に座ってくれ。お菓子は出せないけどいいか?」
「え、マジで? セシリアの時は出してくれたって聞いたんだけど」
「……この前、ベッドの上で盛大にポテチをぶちまけてな。一夏がブチギレてまあー、その、没収というか」
そう言って俺は衣装棚の上を指さす。そこは一夏ですら脚立を使っても届くか怪しい高さとなっており、言わずもがな俺の背丈では絶対に触れられない領域であった。
「全くドジなんだから……ま、そんなことどうでもいいか。渡したいものって?」
「おう、ちょっと待っててくれ」
ベッドの下に上半身をぐいっと突っ込み、隠しておいた箱をどうにか取り出す。学園の少し外にあるスーパーでラッピングしてもらったそれを、俺は鈴に差し出した。
「ほら、これだ」
「おぉ……なんか凄そうじゃない。ここで開けてもいい?」
「勿論。というかお願いしようと思ってたぐらいさ」
彼女はウキウキとした表情でそれを受け取り、普段のガサツっぷりからは想像もつかないほど丁寧に包装を開けていく。そのままたっぷり数分かけ、ついに箱の中身を取り出した。
「えっと──ぬいぐるみ、よね?」
「それ以外の何に見える?」
「いや……なんというか、その。思った以上に凄くて」
鈴の手に握られていたのは、かなり小さめなデフォルメ調の虎のぬいぐるみ。彼女はそれを持ち上げて様々な角度から確認し、その度に感嘆の声を漏らしている。
「…………もしかしてだけど、勇。これ、あんたが作ったの?」
「おう、そうだぞ! いいデザインしてるだろ?」
ぐっと胸を張って自慢する。昔から俺は手先が器用な方で、特に裁縫は大の得意分野なのだ。特にこういったぬいぐるみは比較的安い材料費かつ、そこまで時間をかけずに楽しみながら作り上げることが出来るので正に一石二鳥だ。
「本当にありがとうね。一生────いや、末代まで受け継がせる宝物にするわ!」
「いやそれは長すぎるだろ」
ガンギマった目でとんでもないことを言いやがって。それに何故だか、ぬいぐるみが撫でまわされたり抱きしめられる度に妙な悪寒がする。
鬼月先輩に相談するべきだろうか……なんて考えているのも束の間。気が付けば鈴は俺のすぐ近くまで距離を詰めていたのだ。
「……ねえ、勇。ぬいぐるみを異性にプレゼントするのは、『生涯沿い遂げる』って意味があるらしいわよ」
「え゛っ」
「──なーんて、流石に勘違いするわけないじゃない! あんたはそういうこと知らなそうだし」
「しれっと馬鹿にしてないかお前?」
一瞬はっ倒してやろうかと思ったが、彼女の実に嬉しそうな笑顔を見ればそんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。
そしてふと──あの日、不格好な
「──元気にしてりゃ、いいんだけどな」
「ん、なんか言った?」
「……単なる独り言さ」
「ふーん? ま、どうでもいいか。それよりもさ──」
懐かしい記憶から一瞬で現実に引き戻され、そのままの流れで雑談が始まる。
鈴がクラスメイトにからまれて遅れたことやら、専用機の修理が終わったら俺と一夏たちの特訓に参加するつもりなこと──等々、とにかくダラダラと適当に話し続けたのだった。
…………そういえば、結構遅い時間なのに織斑先生の見回りが来ないな。
IS学園の地下50メートル。レベル4権限を持つ関係者しか入れない秘密の空間にて、織斑千冬は黙々とディスプレイを眺めていた。
「………………」
そこに流れているのは先日のアリーナで記録された戦闘映像で、彼女は2時間近くそれを繰り返しながら見ているのだ。
ゴーレム──世界中で開発が進むISにおいて未だ完成していない
愛弟の最後の攻撃によって機能中枢が焼き切れたことで修復は不可能になってしまったが……それでもなお、学園関係者はこぞってソレを調べようとした。最も、その行為は千冬や学園長によって止められたのだが。
「……っ」
ディスプレイの表示が切り替えられ、ゴーレムに使われていたISコア──
現在世界中にたった467個しか存在しない代物を作れる人間……その条件を唯一満たす幼馴染のにやけ顔は容易に想像でき、ますます千冬の眉間に皺が寄った。
「──なぁ、
誰にとも向けず零れたその声はがらんどうの部屋にただただ霧散していくのみ。そして彼女の視界の端には……金髪と銀髪の人物の写真がそれぞれ載った、『転入生』と記入された書類が映っているのだった。
途中で出てきた鈴の父親の名前ですが、実は原作の方で出たものなんですよね。拙作とはまた違った人生を歩んでいるので、もしよろしければオーバーラップ版12巻を手に取ってみてください。
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ムフフなif、読みたいですか?
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そんな物より本編優先して♪