貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい 作:黒鉄48号
「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱した運用を行った場合は刑法によって罰せられ──」
(……わっかんねぇ!)
すらすらと教科書を読んでいく山田先生の言葉をどうにか理解しようと脳みそをフル回転させるが、結局分かったのは『理解不能である』ということだけだった。
頭痛を紛らわせる為に周囲を見渡してみれば、どの生徒もこれぐらいは朝飯前だと言わんばかりに電子黒板の内容をノートに写していく。
これは一夏も同様……というか明らかに人一倍早かった。『天は二物を与えず』なんて言葉もあるが、本当にそれが正しいのか疑問に思えてしまう。
実際、藍越学園の模擬試験で一番成績が良かったのが彼で俺は合格出来るか五分五分程度の学力だったのだ。第三志望の吹けば飛ぶような学校に進学した前世と比べたら大分マシであるが、それでも決して頭がいいとは言えないだろう。
「な、なに?」
「……あ、ごめん」
色々と考えている内に横の女子を注視してしまっていたようだ。彼女はどこか緊張しているような、或いは何かを期待しているような笑顔を浮かべてこちらに話しかけてくる。
「の、ノート見る?」
「あー……うん、いいや。ごめんね」
「そ、そう」
俺の言葉を聞いた少女はがっかりした様子でノートに視線を戻した。すまない、俺の知力じゃ君のノートを理解できないんだ。
「あの、三上くん。何かわからない所がありますか?」
「あ、えっと……」
さっきのやり取りに気付いた山田先生がわざわざこちらに近づいて質問してきた。大人っぽくない幼げな人だが、流石は
「分からないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから!」
えっへんとでも言いたそうに彼女は胸を張る。その動きに合わせてたわわに実った二つの果実がぶるんと震え、俺は思わず目を反らした。
この世界の女性はあまり胸のサイズを気にしないようで、目の毒になるようなそれを平気で見せつけてくるのだからいつも困る。
ちなみにこれは余談だが、男性の胸の形状は前後に分厚く横に広いものが好まれるようだ。
…………なぜ知ってるかって?
閑話休題。山田先生の心遣いはとっても嬉しいが、だからといって素直に「なんにも分かりません」と答えるのは憚られる。俺が重度の馬鹿と思われるのは勿論嫌だが、何よりも彼女の自信を酷く傷つけてしまいそうなのだ。
生徒から返事が戻ってこないだけで涙目になるような人である、きっとこのことを言ったらメンタルがボロボロになるのは間違いないだろう。
どうやれば自分も彼女も悪い結果にならずに済むかと考えていると、不意に教室の後ろからカツカツと足音が近づいてきた。どうやら山田先生の授業を見守っていた織斑先生のようだ。
「三上、誰にでも得手不得手はあるものだ。それを知られることは恥ではない、直さぬことこそが恥なのだ」
「……」
諭すように彼女はそう言い放った。おぼろげな原作の記憶だとこうも優しいというか、あんまり人格者といった感じの人じゃなかったはず*1だが……。
ただ、その言葉を聞いて覚悟が決まった。俺は意を決して口を開く。
「そう、ですね……正直言って殆ど分からないです。特にアクティブなんたらとかの専門用語がいまいち理解できなくて……」
「あー、なるほど。確かに事前知識がないとこういう部分は分かりにくいですものね」
山田先生はうんうんと頷きながら「他に分からない部分がある人はどのくらいいますか?」と周囲に問いかけた。暫くはしーんとしていたものの、おずおずと一人の生徒が挙手をして口を開く。
「あの、先生。この直接的神経伝達システムって部分なんですけど……」
「あぁ、そこですね。まずISのハイパーセンサーは────」
彼女の質問に先生が答えたのを皮切りにちらほらと他の場所からも手が挙がってきた。最終的に10人近くまで行ったところで織斑先生が手を叩き、山田先生と代わるように教壇に立つ。
「さて、諸君。ISというのは既存の類似物が存在しない兵器であるがゆえ、先ほどのように難解で理解に苦しむ部分が多い。しかし、これらをきちんと深く知らねば必ず重大な事故に繋がる。ただ覚えるだけでなく、しっかりと理解しろ。その為に私たちがいるのだからな」
凛とした声で言い放つと彼女は教室の隅へと戻っていき、再び山田先生の授業が再開した。覚えるだけでなく理解しろ、か……。
あそこまで気にかけてくれたのだ、応えなければ男が廃れるというものだろう。頬を軽くはたいて気合を入れ直し教科書と向き合うのだった。
2時限目が終わりこれまた2度目の休み時間。山田先生に放課後色々と教えてもらうと約束した*2ものの、それまでの間ずーっとあの複雑怪奇な用語共と戦わなければならないと考えると憂鬱になりそうだ。
一夏はトイレに行ってしまったので暇を持て余して机に突っ伏していると、不意になんだかいい匂いが漂ってきた。
「ちょっと、よろしくて?」
「ふぇ?」
いきなり声をかけられたせいで気の抜けた返事をしてしまう。目線の先にいたのは金髪縦ロールで高貴そうなオーラを醸し出す、いかにもなお嬢様だった*3。
なんかつい最近も見たような気がして記憶を洗っていると、業を煮やしたのか彼女は再び口を開く。
「訊いてますの? お返事は?」
「あ、ああ。失礼ですが……どのようなご用件で?」
とりあえず敬語の方がいいだろうという判断は功を奏したようで、目の前の少女はちょっとだけ機嫌をよくしながら喋り始めた。
「初めましてですわね、三上勇さん。わたくしセシリア・オルコットと申しますわ」
「おるこ──オルコット!? あのオルコットグループの!?」
「あら、ご存知で?」
「いやそりゃ当たり前ですよ!」
俺は思わず腰を抜かしそうになった。オルコットグループと言えば赤ちゃん以外なら誰もが知ってる超々有名企業であり、ありとあらゆる分野に携わっているとてつもない規模のグループだ。
特に衣服関連は高級ブランド路線と安価な庶民路線の二つが存在し、後者には俺もよくお世話になっている。これを知らない人間がいるのなら金を払ってでも見せてもらいたいものだ。
「そ、それでその、大企業の御令嬢がどうして自分なんかに……」
「そうですわね……こう見えてわたくし、イギリス代表候補生にして今年度の入試首席ですの」
「はえー。つまりエリートってことですか?」
もはや凄すぎて意味が分からないので適当な返しをしてしまう。しかし『エリート』と呼ばれたのが相当に嬉しかったのか、彼女は腰に手を当てながらぐいっと胸を張った。
「そう、エリートなのですわ! それでなのですが、もしISのことで分からないことがあれば……頼まれたら教えて差し上げますわ」
「え、いいんですか?」
「勿論。何せわたくし、入試で
「それなら、
オルコットさんのセリフに割り込んできたのはトイレから戻ってきた一夏だった。その雰囲気はどことなく剣呑としており、目付きも織斑先生のように鋭くなっている。
そんな彼の言葉に相当なショックを受けたのか、彼女は目を驚きに見開いていた。
「──なんですって?」
「入試って、あれだよな? ISを動かして戦うってやつ」
「え、えぇ……ですが、先生方はわたくしだけだと言っておりましたわ」
「女子ではってオチじゃないのか?」
一夏はぶっきらぼうに言い放つ。あからさまに喧嘩を売るようなその態度にオルコットさんも釣られて語気が荒くなっていく。
「ですが、わたくしがエリートであることは紛うことなき事実ですわ!」
「ほう。下心まる出しで男に言い寄るやつのことをそっちではエリートと呼ぶのか。流石は
「あ、あの、二人とも仲良く……」
バチバチと火花を散らす二人を仲裁しようと間に入った瞬間、3時限目開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
間が良いのか悪いのか判断に困るそれに対して眉をひそめると、オルコットさんは苛立たし気に席の方へと移動する。
「またあとで来ますわ! よくって!?」
「アッハイ」
あまりの気迫にそう答えることしかできなかった。にしても、一夏がこうも他人に対して失礼な態度を取るとは思わなかった。
どれだけ評判の悪い相手にも丁寧な振る舞いを欠かさないあの模範生はどこに行ってしまったのだろうか。
そんなことを思いながら着席すると同時、織斑先生が教室に入って来て黒板の前に立った。
「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
おお、なんだか面白そうな題材だ。ワクワクしながら教科書を開いてノートを準備していると、彼女は「ああ、その前に」と何かを思い出したように口を開く。
「来月に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな。クラス代表者はそのままの意味で、対抗戦以外にも生徒会会議や委員会への出席……まあクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力を測るものだ。現時点でたいした差はないだろうが、競争は向上心を生む。それと、代表者は一度決まると1年間変更はないからそのつもりで」
自薦他薦は問わない、という言葉を〆として唐突に投下された情報に教室が色めき立つ。俺としては妙に聞き覚えのある──そして色々と問題が起きたような──内容に頭を悩ませていると、不意に一人の少女が挙手して発言した。
「はいっ! 織斑君を推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
「イケメンな上に入試で先生倒したらしいもんね!」
続々と一夏への推薦が決まっていく。そりゃまあ代表候補生とあんなやり取りしてたしそうなるよなー……なんて他人事のように捉えていたのが悪かったのだろうか。
「じゃあ私は三上くんを推薦します!」
「確かに可愛い系もありだよね!」
「私たち一年一組が三上くんを支える……ある意味“最強”よ」
「……えっ、俺?」
──そこは普通に考えて既に実績のあるオルコットさんの枠だろ!? というかなんであの人自薦しないんだ、エリートなんだから文句出ないだろ多分。
思わず叫びそうになるのを抑えながら考える。委員会や部活で常に書記係という名の実質無職をやってきた俺にとって、この役割は荷が重すぎるのは間違いない。
しかしながら、ISで……超高速で空を駆ける超兵器で戦えるというのは実に魅力的だ。かっこいいのは言わずもがなだし、ロボゲーに前世でハマっていたのだから尚更である。ロボが嫌いなやつなんていないんだよ。*4
そうと決まれば立候補するしかない。戦う以外の仕事はまあ……最悪一夏や他の生徒に押しつkゲフンゲフン、助けて貰えば問題ないだろうし。
「はい、織斑先生!」
「なんだ三上」
「俺、クラス代表者に──」
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
甲高い声でこちらを遮ったのはオルコットさんだった。休み時間の一夏よりも機嫌が悪い感じの彼女は周囲を見渡すと、これまた大声で話始める。
「黙って聞いていれば織斑さんだの三上さんだの……貴女方には
「あ、いや、そのー」
「そこはほら、やっぱり男の子が代表者やった方が見栄えがいいし……」
「そういう考え方がいけないのですわ!!」
ガンガンと机を叩きながらオルコットさんは女子を睨み付けた。狙撃銃のようなそれに少女らは萎縮してしまい、ブレーキを失った彼女の言葉はどんどんとエスカレートしていく。
「わたくしを推薦しないのは問題ありません。男性の方々を推薦するのも、まあいいでしょう……ですが、誰一人として自薦しないのはどういうことですか!」
「…………」
「はぁ、はぁ……とにかく、女の役目を放棄してそれを男性に押し付けるなど愚の骨頂ということですわ。おわかりいただけましたか?」
オルコットさんはにっこりと微笑みながら優雅な所作で辺りを見渡す。しかしその目は全く笑っておらず、怒りが未だに収まっていないことを如実に表していた。
そんな中、彼女は俺の方に振り向くと最上級の笑顔を浮かべて言葉をかけてくる。
「さて、三上さん。わたくしがクラス代表者に立候補いたしますので、辞退してくださいますか?」
「……」
「イギリス代表候補生にして入試首席──そして専用機持ち。クラス代表としては申し分ない肩書きだと思うのですが」
柔らかい言葉遣いで彼女は語った。なるほど確かに一理ある……というか筋が通っている内容だ。きっと彼女が代表になるのが一番正しいのだろう。
…………なら、答えは一つしかない。
「わかったよ、オルコットさん」
「ふふ、ありがとうございま──」
「
「────は?」
オルコットさんから表情が抜け落ちると同時に教室全体が一気に凍りつく。誰もが俺のことを奇異の目で見る中、それを気にせず喋り始める。
「あなたの行動は模範的で、淑女的で、なにより正しい。きっと百人中百人が賛成するでしょう」
「…………でしたら、なぜ!」
「常識だとかなんだとか言って、
語っていく内に居ても立っても居られなくなり思わず席から離れてしまう。これ以上はまずいと制止する冷静な自分がいるものの、体はまるで制御を失ったロボットのように勝手に動いていく。
俺はずんずんとオルコットさんの席に近づき、持ってきた椅子に乗ぼりながら彼女を見下して口を開いた。
「俺は俺として、俺のための選択をする。誰にどう思われようが関係ない! 俺自身の意思で立候補する!」
「……」
(────っていややっぱりだめだろこれ! どんな口調で話してんだよ俺! 人のこと言えねえじゃん!?)
羞恥心を表に出さないよう必死に心の中へ押しとどめている間に、少しずつ教室の静けさが薄れていく。
女子が数人ずつ固まってひそひそと話し始め、その流れが全体に広まるのに時間はかからなかった。
「なんか三上くん、すごいこと言ってたね」「男の子っぽくないなー」「いや、そこがいいんだ」「織斑くんより応援したいな」「というか織斑くんはどうするのかな?」
彼女らの矛先はいつの間にか一夏へと向き、視線もそれに合わせて彼へ一点集中する。一夏は忌々し気にため息をつきながら立ち上がり、こちらに近づいてくるといきなり頭を鷲掴みにした。
「いだだだだ!?」
「勇が失礼をしたな、オルコットさん。ただ、こいつも悪気があるわけじゃないんだ」
「……どういうことですの?」
「まあ、何というか。こいつは『女勝りな男騎士』になりたいやつなんだ。もっと言えば、女みたいなことをやりながら女を好きになりたい……ってことでいいんだよな?」
「ア゛ッ゛テ゛ル゛カ゛ラ゛サ゛ッ゛サ゛ト゛テ゛ヲ゛ハ゛ナ゛セ゛ー゛‼」
「おっと、すまん」
一夏がパッと手を離した瞬間に思わず倒れ込みそうになる。この野郎、危うく頭がザクロになるところだったぞ……。
恨めし気な視線を彼に向ける俺を他所に、オルコットさんはこちらに話しかけてきた。
「……三上さん、あなたの考えは一先ず理解できました。立候補の件、了承します」
「あ、ありがとうござい──」
「ただし、わたくしとISで戦う──即ち、決闘をすることが条件ですわ」
「…………あー」
決闘、クラス代表戦、セシリア・オルコット──やっと思い出した。本来一夏がやるイベントじゃねえかこれ!? しかも結局負けるやつ!!
いやどうすりゃいいんだよほんと。入試は相手に一発も当てられずに負けたし、多分オルコットさんはあの人よりも強いし。無理ゲーでは?
(負けたくねー! ゲームならまだしも
「……それで、どうしますの?」
「あ、その、えっと…………」
まずい、答えが見つからない。ここで諦めて前言撤回するのは論外だが、とはいえ勝てない戦いにわざわざ挑むのもよくないだろう。
どうにか上手いことこの状況を打破する答えがないものかと必死に悩んでいると、再び一夏が口を開いた。
「オルコット。勇とあんたの戦いに、俺も加えてくれないか?」
「……それはつまり、あなたも代表に立候補するという意味でよろしいかしら?」
「その解釈でいい。ただし、
「……了承しますわ。男性同士の戦いなんて、見世物でしかありませんもの」
ついさっきまでのグダグダが噓のように話が進んでいく。……なんかオルコットさんが凄い失礼なこと言った気もするが問題ないだろう。
「それで万が一……万が一、あなたか三上さんがわたくしに勝った場合、その人がクラス代表になるということでよろしくて?」
「ああ。ただ、勇が勝った場合は補佐役を付けたい。こいつ馬鹿なんだ」
「一夏、いくら親友でも言っていいこと悪いことがあるんだぞ!?」
「……特に書類仕事はド下手だ。提出書類の印鑑忘れとかな?」
「うっ」
確かに親のハンコ云々を見落として書類突き返されるのは何度か……両手の指+αぐらいあったけど、そこまでの謂れはないぞ。
まあここで突っぱねると補佐役いなくなるし、黙って受け入れるしかないよな。
そんなこんなで色々と話し合っていると、不意に織斑先生がパンパンと手を叩いた。
「さて、話はまとまったようだな。ちょうど一週間後の月曜日に第三アリーナが空いているので、勝負はそこで行ってもらう。織斑と三上とオルコットはそれぞれ準備をしておくように」
「……あ、そうだ! 織斑先生、そのー、学校のISの貸し出しっていうのは──」
「残念ながら暫くは年度切り替えに合わせた一斉メンテナンスで利用不可だ。まあ、なんだ。運動でもしておけばそれなりに役立つぞ」
「…………分かりました」
────やっぱりこれ、詰みかもしれない。
自分史上最高の伸びを見せていてワクワクが止まらない。
感想もらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
ムフフなif、読みたいですか?
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そんな物より本編優先して♪