貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい 作:黒鉄48号
そして今回はようやくの学園パートです。シャルは言わずもがな、あの子もついに……?
月曜日の朝。普段より軽めの朝練と飯を終えたうえで、俺は教室でなんとなく出入口の方へと意識を向けていた。
昨日の一件にここまで思考を割いている理由を言葉にするのは難しい。ただ……あの時、IS学園への反応だけは建前だらけのあいつの数少ない本物の反応だったはずだ。
そのうえで、もし本当に来るとすれば今日か明日だろうという奇妙な確信が週末の間ずっと頭の隅っこに居座り続けていたのだ。
(ま、もし来なかったら間抜けにも程があるけどな俺)
そうやって自虐しつつISスーツのデザインで騒ぎ立てる女子の声を聞き流しているうちに、山田先生と一緒に織斑先生も教室へやって来た。この2人が朝からこうやって揃って来るのは、大抵何かが起こる日だ。この2ヶ月弱でそれだけは経験則として身についている。
「皆さん、おはようございます! 一応改めて連絡ですが、本日が皆さんのISスーツ申し込み開始日です。きちんと自分の適性や体格に合わせたものを選んでくださいね!」
「おー、さっすが山ちゃん!」
「一応先生ですから……って、山ちゃん?」
いきなり呼ばれたあだ名に戸惑っているが、さもありなん。いくら人徳に優れた人とはいえこの短い期間で8つも愛称がつくのは、ちょっと慕われているって次元ではないだろう。
そこから持ち直してISスーツの役割だなんだを彼女が説明してくれるが、俺は上の空でどうにも頭に入ってこない。操縦し易くなって、ついでに結構頑丈ってことぐらいしか結局理解出来なかった。
「……ふむ、そろそろいいか。諸君、おはよう」
「「お、おはようございます!」」
話題に一区切りついたタイミングで千冬さんが挨拶をすれば、先ほどまでのざわめきが嘘のように教室全体が整列する。いつの間にか夏用のスーツに着替えているが、おおかた一夏のやつが用意してあげたとかだろうか。
「今日から本格的な実践訓練を開始する。訓練機ではあるが、全員がISを使用できるようになるので各人気を引き締めるように」
「「はい!」」
「それと、各人のISスーツが届くまでは学園指定のものを利用するように。もし忘れた場合は……水着、或いは下着で構わんだろ」
(いや構うだろ!?)
周囲の表情を見るに俺以外も一夏や数多くの女子は心の中で突っ込んだと思う。男がいるのもまずそうだが、万が一操縦ミスが起きたら大惨事だ。
そうやってあれこれ考えている事もつゆ知らず、今度は山田先生が爆弾発言を放り込んできた。
「あー、最後に。実は……今日から
「……に?」
「「「えぇぇぇぇ────!?」」」
彼女の言葉にクラス全体がざわつく。窓ガラスが砕けそうな騒音の中で俺は机の上の水筒を手に取り、また置いた。目を白黒させている
「では、1人ずつ入って来てください」
「──失礼する」
ドアが開き、千冬さんや箒さんとよく似た凛とした声が聞こえてくる。イケメン系だろうか、なんて予想を立てるも……入ってきたその姿を見て、教室全体が静寂に包まれた。
白に近い銀色の長髪に、真っ赤な鋭い瞳と黒い眼帯。制服はかなり改造されており、ズボンの太もも部分がやたらに太い。また、腰に巻いたベルトには無骨なナイフが携帯されている。
そしてなにより──女性にしてはかなり小柄というか、IS学園という環境を基準にすればなおさらそうで。骨格こそ細くはないが…………要するに、
しかしその見た目とは裏腹に歩き方の無駄は一切なく、整備された機械かの正確さで電子黒板の真ん中まで進んでくる。足音の間隔、視線の動き方、重心の位置……それら全部が計算されているような印象だった。
「……
あちこちから囁きが漏れた。この学園で女性にそういう感想を持つのは、俺としてもほとんど初めてかもしれない。セシリアさんの優雅さとも、箒さんの侍っぽさとも違う……なんというか、銃とかの“兵器”のような雰囲気だ。
「………………」
当の本人は口を開くことなく、腕を後ろ手に組んで教室の女子たちを下らなそうに見ている。しかしそれもわずかのことで、今はもう視線をある一点……織斑先生へだけ向けていた。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
先ほどまでの冷徹な雰囲気はどこへやら、親に窘められた子供のような素直な返事をする転校生──ラウラさんに俺たちは呆気にとられる。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官でないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう答えた彼女はぴっと伸ばした手を体の真横につけ、かかとを合わせて背筋を伸ばしている。その姿をまじまじと見つめるうちに、昔のことを思い出す。一夏が同級生から姉の居場所について聞かれた時、『ドイツにいる』と答えたことが何度かあったのだ。
ということは、
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの国家代表候補生だ」
一礼なし、笑顔なし。名前と所属と身分だけを告げて、それで終わった。ドイツ人の自己紹介というのはそういうものらしい。少し遠くで箒さんが何かを考えるような顔をしていたが、それ以上の反応は見せなかった。
クラスメイトの沈黙に山田先生がオロオロしている中、件の転入生は再び教室全体をその赤い瞳で一巡し……俺とぴったり目が合った所で止まる。
「男性操縦者がいると聞いた」
酷く静かな声だった。怒りでも蔑みでもなく、ただ事実を確認するような温度でありどこかロボットじみた風にすら感じるものだ。
「ドイツでは、男性は前線に立つべきではない。
クラス全体が再びざわめく中、俺はその言葉を頭の中でしばらく転がす。彼女の目には悪意も善意もなく、間違っても喧嘩を売っているわけじゃないのだけは確かである。何より、似たような視線はこれまで散々浴びてきたので慣れているつもりだ。
「……諸事情あって、ということで」
「諸事情」
「はい、諸事情です」
お馴染みのアイドルスマイルを貼り付けていると、ラウラさんは鼻から短く息を吐いた。納得したわけでも、引き下がったわけでもないことは分かる。今の段階では確認が済んだ、という感じの反応だった。
念のために後ろを見ると、一夏は無表情のまま前方を見つめていた。とはいえ右手をゆっくりと開閉するあの癖が出ているということは、色々と思うところがあるらしい。
彼と目を合わせぬようにしながら前を向いた瞬間、2人目が教室に入ってきた。
金髪、アメジスト色の瞳。すらっとした体躯で、歩き方に迷いがない────ああ、やっぱりそうか。
(落ち着け
いつの間にか緩んでいた水筒の飲み口を締め直し、なんでもない顔を作ることに意識を割いた。周囲の空気はラウラの時とまったく別の方向に動いていた。
「き、きれい……」「な、なんかかっこよくない?」「外国の人ってみんなこんな感じなの?」
「……シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
丁寧な礼、過不足のない日本語。発音に癖がなく、かなり練習を積んだことが伺えた。クラスの反応は上々で、何人かはメモを取るような仕草まで見せている。本気で人気者になりそうだ。
そして──シャルルの目が、何気なさを装いながら一度だけ俺のあたりを通過した。そう、止まらなかったのだ。
(……気づいているのか、いないのか)
どうにも判断がつかなかった。ただ、あの「よく言われます」という準備された返答を持っている人間が、俺のことを完全に見ていないとも思えない。
色々と思考を巡らせる最中、呆気に取られていた生徒の1人がゆっくりと口を開く。
「お、男……?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を──」
「きゃっ……」
「はい?」
「「「きゃあああああああぁぁぁ────ッ!!」」」
用意された台本を読み上げるようなそのセリフは、教室全体を揺るがす歓喜のソニックウェーブによってかき消された。予想外の事にシャルルが戸惑っている間にも、その興奮はあっという間に伝播する。
「男子! 3人目の男子!」「しかもうちのクラス! ありがとう神様ぁー!!」「美形の貴公子! 守って抱きしめてあげたくなる系の!」「顔が良すぎて脳が処理を諦めてる」
「かっこいい織斑くん、可愛い三上くん、そしてかっこかわいいデュノアくんッ!! この中から好きな男の子を選んでいいんですか?!」
「あの子がシャルル……シャルル……」「フランス語っぽく発音すると更にやばくない?」「シャルル……」「やばい」
「地球に生まれてよかった~~~~~!!」
…………すまんな、シャルル。残念ながらこいつら元気と欲望が有り余ってるタイプのエリートなんだ。なんなら一夏や千冬さん、あと箒さん辺りにシバかれてもめげない・しょげない・へこたれないを貫く化け物だぞ。
隣のクラスや他学年から覗きが来るのももはや時間の問題だし、なんなら教員と思しき人たちの怒声が微かだが既に聞こえてきてる。
「あー、騒ぐな。嬉しいのは理解出来るが、怖がらせると第一印象が悪化するぞ」
「ご、ごめんなさいねデュノアさん! みんな悪い子じゃないんです、いや本当にちょっとあまり信じられないかもしれないですけどね?」
「あ、あはは……」
ペコペコしている山田先生に、困り顔のシャルル。そして残りのラウラさんはといえば……全身から軽蔑のオーラを発しており、俺の後ろの一夏と全く同じ表情を浮かべていた。なんなら気配までそっくりなんですげえ居心地が悪い。
さて、こうして自己紹介が終わったことで2人はそれぞれ割り振られた席の方へ移動していく。シャルルは俺の隣の最前列で、周囲の生徒に対してさっそく笑顔を振り撒いている。
対してラウラさんといえば、移動の間にあちこち見ているが視線が合いそうになる度にクラスメイトが全力で頭部を反らしている。ちょっぴり可哀想に思えた中、指定された席──箒さんの前で後ろから2列目だ──にたどり着いた。
そこでも視線が合うのだが……意外なことに、この2人は一瞬とはいえ見つめ合っていた。やはり箒さんから目を反らしたものの、ラウラさんはどこか感心している風だった。
「あー……ゴホンゴホン! これにてSHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行うが、くれぐれもトラブルを起こさぬように」
「「「はーい!!」」」
「では、解散!」
パンパンと妙に力強い音で織斑先生は行動を促す。それを耳にした女子が徐に服へ手を掛けたのを目視すると同時に、俺と一夏は全速力でドアの方へ突っ走る。一緒に着替えるのは困るというか、たぶん一夏の堪忍袋が緒以外も千切れかねないからだ。
「おい、織斑に三上。デュノアの面倒を見てやれ、同じ男子だろ?」
「っとと、すみません。慌ててたもんでつい」
「君が織斑君? 初めまして、僕は──」
「さっきので十分だ。とにかく男子更衣室まで移動するぞ」
早口で説明しつつ彼は転入生の手を取ると教室を飛び出し、そのままギリギリ両足が地面から離れない速度で移動を始めた。一歩一歩がデカいので俺は小走りでそれを追いかけ、シャルルに対して語りかける。
「とりま、今後はこんな感じで実習の度に移動って感じ。面倒だけど、早めに慣れとくといいぜ」
「う、うん……」
俺たちの言葉に対して、彼は妙に落ち着きがないように思えた。色々と理由を考えている最中、不意打ち気味に小声で一夏がこちらへ聞いてくる。
「……デュノアって、知り合いか?」
「っ、なんで?」
「ま、なんとなく」
移動に意識を割いているからか、それ以上は聞いてこなかった。俺も彼からの問いかけには答えなかったし、どっちかといえば親友の妙な勘の鋭さに内心舌を巻くばかりだ。
そういうちょっとした沈黙の裏で、シャルルは廊下にある様々な案内板を見上げているのが目の端に映った。グラウンドとかへの行き方が分からないのかと思い、声をかけようとして────
「「「「デュノアくーん!!!」」」」
目的地とは真逆の方向から、地鳴りの如き歓声が響いてくる。名前を呼ばれた本人は振り返ろうとしたが、それを一夏が制止しつつこっちに目配せ。
(ちっ、マジで数分で広まりやがったか……)
「なあ、一夏。ここで走ったら千冬さんに怒られると思うか?」
「かもな。けど、そうしなかったらもっとひどいことになるぜありゃ」
「な、なに? 何でみんなすごい顔してるの?」
状況を飲み込めないシャルルがこちらに訊いてくるが、ちょっとそれに答えている暇はない。俺は構内用スニーカーの紐を締めつつ、一息ついてから口を開く。
「突っ走るぞ」
「そうするか」
「……どゆこと?」
HRと一限目の狭間の廊下に、混沌と狂乱を煮詰めた歓声とそれから遠ざかる足音が響き渡る。言わずもがな、後者が俺たち3人だ。
さて、一旦問題を整理しておこう。俺と一夏という男性操縦者コンビについては既に周知の事実だが、そこへ今日シャルルという3人目が加わった。
そしてデュノアは知らなかったようだが、IS学園の女子というのは基本的に、欲望と行動力が一般人の数割増しで済んだら御の字レベル。つまり今、追いかけてくる集団というのは────
「ちょっと待って! 名前だけでも紹介させてぇ!」「三上くーん! 後で話しませんかー!!」「デュノアくん、フランス語で何か言ってえええー!!」
(今それどころじゃねえんだが?!)
盛大に突っ込みながらも足は止めない。ハイパーセンサーなしでも後ろから迫る足音の数はざっと二十……いや、廊下の向こうからも音がしてきた。挟み撃ちにするつもりらしい。
「一夏、左!」
「分かってるさ」
間一髪で角を曲がり回避。流石っつーかなんというか、俺が言い切るよりも一夏は先に動いて数歩先に移動していた。こういう時の連携だけは無駄に洗練されつつある。
そして、問題は3人目だ。振り返るとシャルルが俺たちの2歩後ろをついてきていた。しかし表情は涼しく、息も乱れていない。走り慣れているのは見て分かる。
ただ、どうにも視線が妙である。後ろを確認する頻度が俺より明らかに多いうえに確認の仕方が……なんというか、追手を気にしているというより自分の状態を確認しているような間隔なのだ。服の乱れか何かを異様なまでに恐れている、とでも言うべきだろうか。
「織斑君っ、彼女たちっていつもこうなの!?」
「普段は少しだけ自制心が……雀の涙に含まれる塩ぐらいはある」
「小指の爪にも乗せられないじゃん!」
一夏の場違いなボケと咄嗟につっこむシャルルという即興漫才を聞き流しつつ、俺は次の曲がり角を探す。
「とりあえず、このまま一階まで降りるぞ。踊り場で待ち伏せとかはないだろ」
「ん、なんで分かんだ」
「あいつら、正面突破しか考えてないし統制取れてないからな。あと、待ち伏せした奴らが他から袋叩きにされそうだし」
親友からの質問へ顔も向けずにささっと応え、乳酸が溜まりつつある足を必死に動かし続けていく。幸いなことに俺の予想は当たっており、そっちからは歓声どころか足音1つ聞こえない。
そして階段を降りながらちらっと後ろを確認すると、シャルルがまだちゃんとついてきていた。廊下の案内板を一瞥して自分の位置を把握しているのか、迷う様子がない。
(勘がいいのか、事前に地図を叩き込んできたか……どっちにせよこういう要領はいいタイプか)
渡り廊下にて息を整えつつ、そんなことを考えてみる。一夏ですら若干疲労が滲んでいるのに対し、彼の青年については汗が数滴額を伝っている程度だ。
とはいえ既に目的地間近、このまま渡り廊下を通り抜けりゃ完全勝利……なーんて、思ったからだろうか。
「っ、マジかよ……」
1階に着いた直後、更衣室への道に数名の女子が待ち構えているのが偶然にも見えた。彼女らの顔は青白い光に照らされており、連絡を取り合っていることが見て取れる。
「……どうする勇。上から回るか?」
「それじゃ時間切れだ。手加減ありでも出席簿はクソ痛いんだぞ?」
「つっても、あそこ封じられたら──」
「こっち」
話し合いの最中、静かな声が横から割り込んだ。その主たるシャルルは渡り廊下とは逆方向……資材搬入用らしい目立たない通路を顎で示している。
「さっき案内図で確認したんだ。他の更衣室に続いてるはずだよ」
「……よく覚えてたな、お前」
「何かあった時のためにね」
何か……わざわざ人目に付きにくい場所へ行かねばならない時のことを、今も考えていると。どうにもきな臭い言葉だと一瞬訝しむが、即座に頭から振り払う。安全地帯は多いに越したことないし、近道も兼ねてるなら尚更だ。
そうして進入した資材通路は、普段の廊下よりも薄暗く天井が低かった。一夏は背が高い分だけ少し屈みながら進んでいるが、俺はこういう場所だと逆に身軽だ。シャルルはちょうど中間で、問題なく歩けているようだった。
「へー、こりゃいいな。静かになったし、マジで撒けたか?」
「まだ油断すんなよ、勇。出口で待ち構えてるかもしれん」
「だとしても、これなら入ってこないし大丈夫だろ」
そんな会話を交わす最中、それを聞いているシャルルは小さく息をついていた。人心地ついたというよりかは、何かを確認したかのようなものに思えた。
そうして暫く進んだのち、通路の扉を一夏が押し開けると本当に更衣室があった。位置的には第二グラウンドよりだいぶ遠めだが、背に腹は代えられない。
アリーナ特有の圧縮空気が抜ける音を耳にしつつ、俺と一夏は手早く制服のボタンを外し始める。
「わあっ、ちょ!?」
「ん、どうしたデュノア。忘れ物でもあったか? それでも着替えないと遅れるし、俺らの担任は問答無用な人なもんで──」
「せせっ、せめて入ってから脱がない? なんなら三上くんとかもうっ、う、うえ全部……?!」
赤面して両手を覆うシャルルを横目に、俺たちは黙々と着替えを続けていく。まあ実際、忙しくなけりゃ更衣室の中で始めるのが一番ではあるのだが、千冬さんのことを考えるとそんな余裕はないのである。
……だがしかし、少しだけひっかかるところがあった。シャルルが顔を覆った時の手の動き、あれがどうにも……自分の顔を隠すより先に、胸のあたりを一度だけ押さえるような仕草だったのだ。反射的な、恐らく無自覚の動作だろう。
(……ま、気のせいかもな。ここじゃ男も胸は隠すこと多いし)
急いでいるというのにそんな細かいことを考えている自分に呆れつつ、ISスーツのファスナーを引き上げる。思えば、最初にこれを着た時はだいぶ手間取ったものだ。
何せ女性基準で設計されたISスーツというのは、男が着ると妙なところが余って妙なところが足りない。腰回りの露出は今でも若干気になるが、いちいち意識していたら仕事にならないので脳みそが勝手に慣れることにした。
ちなみに一夏の方は体格がいい分だけ最初からある程度サイズが合っていたらしく、着るのに手間取っている様子は入学当初からほとんどなかった。
「よっ、と……ってもう着替え終わってんのか。すげえなデュノアさん」
「あっ、そ、そうかなぁ? 2人も十分早いよ!」
言いながらシャルルの着ているスーツをちらっと確認する。恐らくはデュノア社製のものであり、体のラインへの沿い方が既製品とは明らかに違う。よく体に合っている……というか、合わせてある。
(……男物にしては、随分と丁寧に作ってあるな)
どういう意図で発注したのか、という疑問が一瞬浮かんですぐに打ち消した。今考えることじゃない。
そんなこんなで着替え終わって更衣室からグラウンドに向かう最中、俺たちは言葉をいくつか交わす。悲しいかな、時間的にもはや出席簿は避けられないことがほぼ確定しているからだ。
「つーか、着やすそうだなそのスーツ。どこのやつ?」
「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」
「ひぇー、流石だなぁ御曹司様は。俺たちは……何だっけ?」
「イングリット社製ストレートアームモデルをベースにした改造品」
「そうそうそれ……って、よく覚えてんな一夏」
相変わらずの記憶力の高さに感心しつつ、せめて痛みが減る事を願って駆け足で先頭へ動く。だがその瞬間、愛想笑いを浮かべていたはずのシャルルが一瞬だけ真顔になり──コンマ一桁にも満たないだろうが、こっちの方をじっと見つめた気がした。
(……何か地雷でも踏んだか?)
頭の片隅にそんな疑問を浮かべつつも、俺らはようやく第二グラウンドにたどり着いた。既に他の生徒は勢揃いしているうえに、織斑先生は腕組みして仁王立ち状態。背後に鬼神が浮かんでいるように錯覚するほどの威圧感を放っている。
「ほう、随分と遅かったな貴様ら。男同士の語り合いで時間を浪費したか?」
「……それならどれだけ良かったことか」
「いえ、織斑先生。実はかくかくしかじかで──」
出席簿を片手に持っていた彼女に対し、なんとシャルルは臆することなく一歩前に出た。そしてすらすらとさっきまでのトラブル──一部はぼかしている──を冷静に伝えてみせた。
最初こそ先生はまだまだ俺たちを罰するつもりだったんだろうが、待ち伏せパート辺りでは明らかに矛先が別の方へ向きつつあるのが見て取れた。
「…………すまんな、デュノア。転入初日だというのに」
「いえ、先生が悪いわけではないですから」
「だが、トラブルが起きたのは確かだ。後で会議に挙げておく」
そこで彼女は一区切りつけ、「さぁ、改めて全員整列だ」の号令で俺らも一組整列の端へと加わった。箒さんやセシリアさんが憐みとも心配ともつかぬ視線を向けてくるのに対し、目配せで返事をする。
……そんな中、真っ赤な瞳と自然に視線がかち合う。その主たるラウラさんは奇しくも俺の真後ろであり、穴が空く程にじーっとこちらを見つめてくるのだ。
反射的に目を反らしたものの、彼女の凍りつくような視線は俺をてっぺんから爪先までじっくりとなぞるように向けられ続ける。しかしながら、世の女性が持つ下卑た感情は一切感じ取れない。見下し、威圧、或いは…………うーむ、どうにもいまいちピンとこない。
何とも言えぬ感覚を覚えつつも、俺は深くため息を吐く。この1時間にも満たない中で、よもやクラス対抗戦と量的には同じぐらい疲弊する羽目になるとは。
(ほんと、朝っぱらからどったんばったんだ。後は何も起きないでくれよ、マジで)
静かに深く息を吐いて、気晴らしに周囲をぐるりと見渡す。2クラス合同ということもあり、生徒数は圧巻だ。
────ところで、山田先生はどこにいるのだろうか?
というわけで、ここに来て原作通り小っちゃい側としてラウラが参戦です。見た目はそのまんまですが、果たして中身はいかに……。
そして、彼女に合わせてあらすじを一部変更しました。
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ムフフなif、読みたいですか?
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いらない
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そんな物より本編優先して♪