貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい   作:黒鉄48号

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 なんだかんだ、こういう話の方が筆の進みも悪くないらしい……。
 前半はいつも通り勇視点、後半からは第三者視点となります。


第二十一話 疾風のように(コーム・ラファール)

「では、本日から格闘および射撃を含む実践訓練を開始する」

「「はいっ!!」」

 

 

 グラウンドに気合の入った返事が響き渡る。一組と二組の合同演習ということもあって、どの子もやる気満々で腕まくりしてる人までいる程だ。

 そしてそれは代表候補生らも例外ではなく……特に鈴とセシリアさんはしきりにアクセサリー(待機形態の専用機)を触っており、だいぶ浮足立っていた。

 

 

「さて、まずは戦闘の実演をしてもらおう。ちょうど活力溢れんばかりの十代女子もいることだしな。──(ファン)! オルコット!」

「待ってましたぁ!」「いつでも行けますわ」

 

 

 片やガッツポーズと獰猛な笑み、もう片方は慈母を思わせる上品なスマイル。そんな2人は千冬先生の元まで進んでいき、専用スーツに包まれた鍛え抜かれた肉体をこれでもかと晒す。

 それを見た多くの生徒が感嘆の声を漏らすなか、逆に俺は胸や尻へ目線が集中しないように意識するので精一杯だ。

 

 

「ふむ、思った以上にやる気だな。……アイツにいいところを見せられるからか?

「なっ、お、織斑先生!」

「そんな訳……いやまあそうでもあるけど、それが目的じゃないわよ!!」

 

 

 千冬先生が彼女らへ耳打ちしたかと思えば、顔を真っ赤にして慌てだす。ああ見えて人を茶化すことも厭わないタイプだし、何か変な事でも吹き込まれたのだろうか。

 

 

「と、ともかく! それで、対戦相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「ふふん、それはこっちの台詞。返り討ちにしてあげるわ」

「慌てるな色ボケども。対戦相手は──」

 

 ──キィィーィン。

 

 先生が口を開こうとしたその瞬間、耳へ妙な音が突き刺さる。ISに乗って加速をミスった時のものとよく似たそれに、思わず総毛立ち空を見上げた。

 そこに浮かぶ緑の粒を視認した瞬間、俺は整列から反射的に飛び出していた。

 

 

(この音と気温なら、距離は400mちょいだから……5秒ぐらいで落ちてくる!?)

「ちょっ、三上くん!? 勝手に出たら先生に怒られ──」

「……間に合えっ!」

「えっちょ、ISぅ!?」

「皆さんっ、出来るだけ周囲に散らばってください!!」

 

 

 そう言いながらリヴァイヴ──色々あってまだシュヴァルツは届いてないのだ──を展開したのを見て、クラスメイトたちもただ事ではないと気づいたらしく各々蜘蛛の子を散らすように動き始める。

 そんな中、ラウラさんだけは依然とその場にとどまって俺にあの視線を向けていた。

 

 

「ほら、早く貴方も!」

「いや、私はここでいい。()()がある」

 

 

 彼女はそう言いながら自身の右太ももに巻いた、赤い宝石の着いたレッグバンドを指差す。その時初めて気付いたのだが、ラウラさんも他とは異なる色と形のスーツを着ていて──って、そんなこと考えてる場合じゃねえ!

 

 

「ああもうっ、怪我はさせませんから!!」

「……ん?」

 

 

 会話を切り上げた俺はハイパーセンサーで少し遅くなった世界の中で宙を見上げる。緑はすでに輪郭がはっきりとするほどまで近づいており、エンジン音に紛れて涙声。

 

 

「ああああーっ! ど、どいてください~ッ!」

「どきませんよ──山田先生!」

 

 

 錐揉み回転しながら色付きの風になっているであろう哀れな副担任に声をかけ、覚悟を決めて空に飛ぶ。そして墜落中の彼女のリヴァイヴへとしがみつき、機体の制御へ全神経を集中させる。

 

 

(こっからじゃ落ちるのは避けられねえ、だったら軟着陸! 反重力力翼の角度を39度、両機体の力場干渉で回転を7割6分相殺っ、シールド!!)

 

 

 今までの訓練で学んだ機能を脳内で並べ、自分自身に若干驚きつつも意識は冷静に保って。先生を庇うようぐっと抱き寄せ、近づく地面を瞑らず見つめる。

 ────音を聞いてからおよそ7秒後、ついに俺たちは2人合わせて轟音を立てながら墜落した。互いの2枚の物理シールドをランディングギアのように大地へ押し付け、激しい衝撃に世界が上下左右へぐわんぐわんと揺れ動く。

 

 

「……ぃ、……くん、三上くん! 大丈夫ですか!?」

「…………へへ、まあなんとか」

 

 

 ようやくそれが治まった時に見えたのは、雲ひとつない青空と涙目の童顔。肩を掴んで揺らす手は、山田先生の気持ち小さめな体躯とは裏腹にかなり強く感じた。

 そんな場違いな感想を抱いているうちに、今度は地鳴りのような足音が近づいてくる。避難させていた生徒たちが今度はこっちを心配してきたらしく、案の定先頭には一夏がいた。

 

 

「勇、お前大丈夫か!?」

「あー……ちょーっとだけ腕とか痛いが、それ以外は平気だよ。というか、怪我人はいないよな」

「あの警告のお陰でな。──というかお前、()()()()()()()()()()

「……ノーコメント」

 

 

 親友の咎めるような視線をさっと避けるも、悲しいかなハイパーセンサーはしっかりと捉えてしまう。そりゃシールドあるし女性の方がタフだってのは分かるが、だからって下敷きにするのはかっこよくないだろ。

 ……あと、こっちの方が色々眼福だなんて思ってないぞ、本当に。決して抱き着いた時の山田先生のおっぱいの感触が忘れられないとか、プリンとゴムボールのいいとこどりだとかなんて一切考えてないぞ!!

 そんな言い訳を内心でしながら立ち上がってISを仕舞うと、力強い拍手が3回響く。皆がその方向へ目をやる中で、織斑先生はゆっくりと話し始めた。

 

 

「…………まずは、そうだな。三上、早期の警告と被害の最小化は見事だった。ただ、お前自身が一緒に落ちるよりかは盾で流すか受け止めるかが好ましい」

「はい、分かりました」

「そしてだ、山田くん。君の実力は買っているが──慣れない訓練機に加え、いつも以上の人数。不安になるのも当然とはいえ、そのあがり症はどうにかすべきだ」

「うぅ、申し訳ございません……」

 

 

 ISに乗ったまま土下座という意外に器用なことをしつつ「穴があったら入りたいです……」と黄昏る彼女に対し、何とも言えない雰囲気が広がる。

 なんならさっきまで代表候補生たちに憧れを見せていた子の一部など、ひそひそと何かを話し合っている始末だ。

 

 

「……さて、少しトラブルもあったわけなのだが。この様に、如何なパイロットといえど些細なミスで惨事を起こしかねないのがISだ。くれぐれも安全重点でな」

「…………」

 

 

 千冬さんはいつもの調子で授業に意識を戻そうとするも、流石に今回ばかりは上手くいかない。普段からドジっ子な印象のある山田先生が、よりにもよって授業中にやらかしたのだ。

 なにぶん一組担任(ブリュンヒルデ)が鬼の如く厳しい分、その副担任たる彼女の緩さを多くの1年生は却って強く意識しているわけで。そりゃもう舐めてるというか、敬意みたいなのが薄れつつあるのが雰囲気で分かってしまうのだ。

 

 

「で、織斑先生。結局試合はどうするんです?」

「おっと、すまなかったな凰──実を言えば、むしろ今が丁度いい状況でな」

「それは、どういう意味ですの?」

 

 

 鈴とセシリアさんの訝しげな声色に対し千冬先生は……なんとニッコリと笑ってみせ、絶賛落ち込み中の合法ロリ教師*1を指差したのだ。

 

 

「…………織斑先生。申し訳ないですが、今は冗談を言う時ではないかと」

「ふ、冗談ではなく本気だ。確かに山田くんはドジでおっちょこちょいでポンのコツだが──」

「お、織斑先生~~!?」

「────かつて代表候補生であり、()()()()()()()()()()だぞ」

 

 

 言い放たれた言葉によって、再び空気が塗り替えられる。ある生徒はポカンと大口を開け、またある生徒は一夏のつまらんジョークを聞いた時みたいな表情を浮かべて困惑していた。

 ただ2人……箒さんとラウラさんだけは、千冬さんの言葉が真実であると確信しているかのような目をしている。

 

 

「む、昔のことですよ。それに、結局候補生止まりでしたし……」

「あぁ、そうだな。モンドグロッソでヴァルキリー(部門優勝者)に輝いた、数少ない候補生の1人だ」

「あっいや、確かにどっち(第1回と第2回)も勝ちましたけどね!?」

 

 

 そうやって織斑先生──ブリュンヒルデ(世界最強)が山田先生の武勇伝を口にする度に、どんどんざわめきが大きくなっていく。これが普通の教師ならでまかせと思われるかもしれないが、なにせ彼の大会で総合優勝した御仁の言葉だ。

 次第に生徒たちのざわめきは色を変えていき、本当はこの人も敬うべき存在ではなかろうかという流れが出来上がる。よくよく見れば、特にシャルルとラウラさんが率先して話をそっちに持っていこうとしてるのが遠目に見えた。

 その変化に山田先生も気付いてはいるのだろうが……肝心の本人はますます動揺して、胸だ眼鏡だを情けなく揺らすばかりだ。

 これじゃあまたさっきの空気に逆戻りしかねない……そう思った俺は意を決して山田先生の元へと足を運び、膝をついて視線を合わせる。

 

 

「ほら、元気出してくださいよ山田先生。織斑先生の言ってることに、噓が混ざってたりするんですか?」

「いや、確かに全部本当ですけど、私はっ──」

「おっと、弱音はそこまでで!」

 

 

 いつも通り俯こうとした頭にそっと手を宛い、正面を向かせて見つめ合う形に。熟したスイカよりも真っ赤に顔を染めるその姿にちょっぴりクスッときながら、気持~ち距離を近づける。

 

 

「みゅ、ミヒャミヒュン!? そ、そのですねそこまで顔を近づけられると困るといいますか……。わわっ、私と君はあくまで生徒と教師でですねっ! いやほんとマジで顔が良すぎてちょっと意識ががっ──」

「……俺は信じてますよ、山田先生のこと」

「……へっ?」

「セシリアさんと戦う前も、放課後の練習の合間にも。先生の試合映像、そりゃもう瞼に焼き付くぐらい見てますから」

 

 

 こうして語りかける間にだって、脳裏へ鮮明に思い出すことが出来る。名立たる国家代表と鎬を削り合い、英国淑女と弾同士がかち合いまくる激戦を繰り広げ、ともすれば千冬さん以上に戦場を支配せしめたあの姿を。

 そして、何より記憶に残ってるのは────

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ、た、確かにそうですけど! あの時は君もまだ初心者で、打鉄で、初期装備のっ……」

「あの試合、先生に負けてから気づいたんですよ。俺は避けることしか考えてなかったって。……それが分かったから、セシリアさんとの試合で少しだけ違う戦い方ができました」

「そ、それは……」

「入試の時の先生と、今の先生は同じ人ですよね。あの時容赦なく俺を叩き落としたのに、今はあれだけ落ち込んでる……だったら、また元に戻れるんじゃないですか?」

 

 

 兎に角一気に畳み掛ける。クラス代表就任パーティーを抜け出した時の一夏の話と照らし合わせれば、俺が先生と戦ったのは彼との試合でやらかしたすぐ後なのだ。

 きっと、山田先生はその失敗を酷く恥じたのだろう。ゆえに俺と戦った時は、ちょっと容赦ないレベルで弾を()()()()してきたに違いないのだ。

 

 そうやって必死に元気付ける途中で、ちらりと周囲に視線をやってみる。何故か多くの女子は羨ましげに先生を見つめていて、織斑姉弟は何だか呆れ気味。そんでもって待ちぼうけな代表候補生2人といえば──

 

 

「ゆ、勇とガチ恋距離で甘やかしっ……!」

「……いくら淑女とて、これは我慢なりませんわね」

 

 

 なんか変な方向に気力が高まっており、ISを展開しようとしては千冬さんから睨まれるのを繰り返していた。なーにやってんだあいつら……。

 さて、そうやって数分が過ぎた頃だろうか。山田先生は不意に俺の手を顔から離させると、周囲に聞こえるぐらい深く強く一呼吸した。

 

 

「──お待たせしました、織斑先生。試合はお二人と個々に行う感じですか?」

「……いや、今の君なら2人がかりでも大丈夫だろう」

「ふーん?」「……本気ですか」

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

 

 その言葉が引き金となったのか、セシリアさんと鈴はほぼ同時にISを展開し戦闘態勢に入る。それを見守るように周囲の生徒が位置を変えていく中、3人は宙に浮かんで向かい合う形に。

 山田先生は普段のバタバタした子犬のような雰囲気はどこへやら、年相応に落ち着き払った状態だ。1年生の2人はそれを見て若干驚きつつも、すぐさま各々の得物(ライフルと青龍刀)を取り出す。

 

 

「では、始めッ!!」

 

 

 こうして戦いの火蓋は切って落とされ────我ら1年生にとって最も記憶に刻まれることとなる戦いの1つが、ここに行われることとなった。

 

 


 

 

 蒼の光線と不可視の空気弾が飛び交う最中、山田真耶はその苛烈な攻撃を踊るかのように避けてみせる。ビームの間をくぐり抜け、亜音速の衝撃には自らの銃弾を撃ち込んで無力化。

 その間も動きが止まることはなく、スペックで劣るはずの量産機が文字通りの“ラファール(疾風)”として自在に空を舞っていく。生徒二人は更に攻勢を強めるものの、その表情はどこか苦しげだ。

 

 

「うわっ(はや)ッ……つーか素早い!」「目がっ、目が追い付かない~!!」「なんでその場で錐揉み回転しながら後ろに移動出来るのあの人!?」

(……相も変わらず、惚れ惚れする動きだ)

 

 

 教え子たちの驚愕を肴に、織斑千冬は眼前で繰り広げられる試合とそれを先導する自慢の後輩へ思いを馳せる。

 あれだけ苛烈にやり合っていながらも、()()()()()()()()()()()()()()()()。自分であれば相手を瞬きの間にKOすることで結果的に同じことは可能だろうが、こと機動戦と射撃に関しては真耶の方がプロだと言えるのだ。

 

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい、デュノア。山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

「あっ、はい」

 

 

 金髪の転入生は一瞬だけ戸惑いを見せるも、空中での戦闘を見ながらしっかりした声で説明を始めた。機体の世代、汎用性の高さ、換装装備の豊富さ……青年のトークはプロの営業マンにも並ぶ程で、時たま試合の動きを先読みせしめることで多くの生徒たちを感嘆させる。

 

 

(……まるで、自分がそうしたことがあるような口ぶりだ)

 

 

 シャルルの解説を横で聞きながら、三上勇は密かに眉を寄せていた。機体性能の説明だけならともかく、山田先生の次の動きを「おそらくここで速度を落とします」と言い当てる精度が高すぎるのだ。

 形式的な代表候補生と本人は言っていたが、実際にはかなりの時間をISと共に過ごしてきたのではないか。

 そんな疑念を飲み込んで、少年は空中へと意識を向ける。戦闘はそろそろ終盤戦といったところで、セシリアさんと鈴は露骨なまでに焦りを見せていた。

 山田先生の実力が予想以上だったのもあるだろうが……恐らくより問題となっているのは、両者の機体の相性問題だ。

 

 

偏向射撃(フレキシブル)さえ使えれば、せめて当てられるんですがッ……!)

 

 

 ブルー・ティアーズの奥の手たる“曲がるビーム”、それはエネルギー兵器特有の異常な弾速を保ったままほぼ確実な命中を可能とするもの。

 だがしかし、現在は青龍刀でリヴァイヴへ斬りかかる鈴のせいで不用意には使えない状況だ。

 

 

(このデカパイめ……ちょこまか動く癖して、こっちの隙は敢えて見逃してるっての!?)

 

 

 そして凰鈴音と甲龍(シェンロン)もまた、山田先生を前に攻めあぐねていた。

 高速低火力の衝撃砲は盾で防がれ、本命の高威力砲撃は射出直後に弾丸を撃ち込まれるせいであらぬ方向へ逸れる。虎の子たる激龍拳(ジーロンチェン)も、放つためには至近距離かつ動きをある程度止めないといけない。

 

 つまるところ、だ。2機の第三世代ISは確かに強力無比なれど……即興試合で肩を並べるには、どうにもかみ合いが悪いのである。

 両者がその事実に歯嚙みしつつも緑の疾風を追いかけ、狙い続け──がごん、と鈍い音が響き渡る。

 

 

「ちょっとセシリアぁ!?」「しっ、しまっ……」

「……終わりだな」

 

 

 2つのISがぶつかり完全に止まった瞬間、山田先生がグレネードを両手で2つずつ投擲。織斑千冬の呟きと重なるように大爆発がおき、煙の中から影がどしゃりと落下した。

 

 

「く、うぅ……。まさかこのわたくしが……」

「あ、アンタねぇ……何面白いように攻撃も回避も読まれてんのよ……」

「り、鈴さんこそ! むざむざ接近戦を挑まなくてもいいでしょうに!」

「こっちの台詞よ! ビットは邪魔だしすぐにエネルギー切れるし、舐めプで撃ち落とされなかっただけじゃない!」

「ぐぐぐぐっ……!」「ぎぎぎぎっ……!」

 

 

 互いに縦ロールとツインテールを逆立てながらのいがみ合いを、出席簿でぱしりと制して千冬が口を開く。

 

「そこまでだ。結果は見ての通りだが……凰、オルコット。お前たちが苦戦した理由は分かるか」

「……連携が取れていなかったこと、ですわ」

「そうだ。それと、相手に主導権を渡しすぎた。真耶は()()()()()()()のではなく、()()()()()()()()タイプだ。お前たちが攻めているつもりの間、ずっと真耶のペースだったぞ」

 

 

 淡々と告げられた短評に代表候補生2人は押し黙る。その沈黙のなかで、不意に静かな足音が前へ出た。

 

 

「……1つ、加えてもいいか」

 

 

 その主はラウラ・ボーデヴィッヒだった。全員の視線が集まるなか、彼女は山田先生へと真っ直ぐに向き直る。

 

 

「先ほどの戦闘。実に実戦的だった」

 

 

 それだけだった。感嘆でも賛辞でもなく、事実の確認のような口調で言い切る。山田先生は一瞬きょとんとした表情を浮かべ……それから、ゆっくりとその意味を飲み込んだようだった。

 

 

「……ふふ、ありがとうございます」

 

 

 こちらも短い返事だったが、さっきまでの消え入りそうな声とは明らかに違う。それを確かめたかのようにラウラは小さく頷いてそのまま踵を返そうとし──千冬に静かに止められた。

 

 

「せっかくだ、ボーデヴィッヒ。そのまま続けろ」

「了解しました」

 

 

 むちゃぶりに近いそれを素直に受け止めると、一拍置いて彼女は再び口を開く。

 

 

「兎にも角にも、エネルギーの配分が一貫していた。攻撃に使った量は最小限で、常に離脱と回避の余力を残している。練度の低い相手に囲まれた際の鉄則だ。……あの2機がもし実戦での敵であれば、とうに墜ちていた」

 

 

 締め一言に、セシリアと鈴が揃って顔をしかめる。しかしながらそれは覆しようのない事実でもあり、反論の余地などなかった。

 そんなやり取りを、勇は少し離れた場所から見ていて物思いに耽る。

 

 

(なるほど……あいつにとっての褒め言葉は、そういう種類のものか)

 

 

 もう1人の転入生の価値基準が少しだけ輪郭を持った気がして、静かに一息つく。

 敵意でも親しみやすさでもなく、ただただ純粋に戦闘を評価する目。それはそれできちんと筋が通っており、ともすれば好感が持てないこともない。

 と、そこで千冬が「よし」と短く言って場を締めた。

 

 

「これにて実演は以上だ。ここから改めて、諸君のIS訓練へと移る。代表候補生及び専用機持ちを軸にグループを組み、彼らをリーダーとすること。いいな?」

「「「はーい!」」」

 

 

 どのグループに入るかのざわめきが広がる中で、勇はふと空を仰ぐ。

 午前だけで随分と詰め込んだものだ。転入生2人、山田先生の一件、そして実演戦闘。ここからまだまだ訓練やら何やらをすると考えれば、ため息の1つも付きたくなる。

 そうしながら周囲を見渡してみれば、いつの間にか一夏とシャルルの元に山ほど人だかりが出来ていた。

 

 

「織斑君、一緒にがんばろ!」「手取り足取り教えて~」「デュノア君の操縦技術見たいなぁー!!」

「──この、馬鹿者共が……」

(…………こりゃ、暫く疲れまくるな)

 

 

 好き勝手に振る舞う彼女らへ向けた千冬先生の怒鳴り声を耳にしながら、少年はふぅと肩を落とすしかないのであった。

*1
それでも俺よりは頭1つ分ぐらいはデカい、解せぬ!




 書いているうちに山田先生の戦績がちょっと分かりにくそうだなと思ったので、補足しておきます。

 VSセシリア:正規の入試試験での戦闘で、当時先生が乗ってたリヴァイヴの整備不良をきっかけに形勢が傾き結果的に敗北。女子の試験ではこれが唯一の黒星。
 VS一夏:相手がイケメン男子な上に憧れの先輩の弟ということもあり、めちゃくちゃテンパってた。知っての通り壁に激突してそのまま気絶し、実質戦わずして負けた。
 VS勇:一夏戦の直後であり、失態を恥じて気合いを入れ直したうえでの戦いに。置きエイムや盾を用いた跳弾攻撃など、プロ時代の戦術を使うほどに大人げなかった。
 …………なお、勇はなんだかんだ避けられるようになっていき最終的にエネルギー切れで負けた模様。


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