貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい   作:黒鉄48号

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 屋上回は初投稿です。


第二十三話 甘すぎる意思表示

「……どういうことだ」

 

 

 昼休み、俺たちは屋上にいた。普通ならアレコレ理由をつけて生徒は立ち入り禁止だろうが、何せここはIS学園である。各所に置かれた円テーブルとかは、晴れた日であれば女子でごった返すのが日常だ。

 しかし今日は皆シャルル目当てで食堂に向かったのか、顔見知りの面子(鈴とセシリアさん、あとシャルル)以外は誰もいなかった。そのせいか一夏の機嫌はやけによく、対照的に箒さんはわなわなと震えていた。

 

 

「天気がいいし、屋上だろ? なら、折角だし勇たちや鈴も呼んだ方がいいと思ってさ」

「一理あるが、そうではなくてなぁ……!」

 

 

 やけにポヤポヤした幼馴染の雰囲気に、流石の大和撫子も気持ちの矛先を向けられないようで。嚙み合わない2人の姿に、俺たちは苦笑いするしかない。

 

 

「んで、どうしてわざわざ屋上なんだ、箒?」

「っ……その、渡したいものがあって、だな」

「渡したいもの?」

「……弁当、だ」

 

 

 ぼそりと告げられた一言に、場の空気が一瞬で塗り替わる。鈴はニヤリと口角を吊り上げ、セシリアさんは目を丸くし、そしてシャルルについては……なんとも言えない、妙に複雑な表情であった。

 一応説明しておくと、IS学園は全寮制であるが故に生徒でも早朝とかならキッチンが使えるようになっている。この前一夏と一緒に覗いたが、五反田食堂にも引けを取らない機材ばかりで唖然としたものだ。

 そんなことを思い出しつつ、箒さんが掲げている妙に大きな包みを眺めれば流石に察しがつく。

 

 

「えーっと、つまり。幼馴染2人で屋上に来たかったと……?」

「そっ、そういうことだ。なのにこいつ(一夏)ときたら、いつの間にかあれこれ呼び込みおって……!」

「そのー、もしお邪魔でしたら、わたくしは今すぐここから立ち去りますが……」

「いや、お前は悪くないぞオルコット。問題はこっちの──」

 

 

 箒さんが更に視線を鋭くして一夏へと突き刺すが、当の本人はどこ吹く風。こういう時の空気の読めなさは今に始まったことではないと、皆でため息をつくしかなかった。

 

「ま、せっかくなら大勢で食べた方が美味しいですし。ついでにほら、シャルルさんとの親睦を深めるにもいい機会じゃないです!?」

「……それもそうだな」

 

 

 俺の言葉に気を取り直し、彼女はいそいそと包みを開き始めた。中からは大き目の弁当箱が2つに加え、それらを重ねたものよりでっかいタッパー。

全員が興味津々にそれを見つめる中で、箒さんはまずタッパーを開く。そこから現れたのは、こんもりと積み上がった黄金色のから揚げだ。しかも1つ1つがかなり大ぶりで、漂う匂いに思わず涎が垂れそうになった。

 

 

「「「おぉ……!」」」

「剣道部の連中に差し入れる時の分量で作ってしまってな……その、多すぎるか?」

「多いは多いけど、喜んで食うぞ俺は」

 

 

 いつの間にか見学組に紛れ込んでいた一夏が、一番乗りとばかりにてっぺんのそれをつまんで頬張る。親友の食い意地の張りっぷりに呆れつつも、それに倣ってこちらも割り箸を使って1つ取っていく。

 そのまま口に放り込めば、濃いめの醤油ダレがじゅわっと染み出してきて。しっかり揚がった衣は時間が経っててもサクサクで、中は程よくジューシーだ。悪くない、っつーか普通に美味い!

 

 

「……うまいな、これ」

「そ、そうか! 実は昨日、3回ほど作り直したのでな」

「3回!?」

「うぬ。最初の2回は千冬さんに食べてもらったのだが、どうにも納得いかない出来になってしまってな」

 

 

 うーむ、恐るべし乙女の情熱……なんて思いながらついもう1個と手を伸ばす。ちなみに鈴は既に3個目を頬張っており、セシリアさんやシャルルも上品に食べている。あと、一夏も無言だが満足気に頷きながらタッパーからつまんでいた。

 箒さんはその様子を横目で確認してから、ふいっと花壇の方へ視線を逸らす。耳が真っ赤になっており、きっとその顔はもはや太陽よりも燃えているのだろう。

 

 

「んくっ……あ、そーだ。あたしも弁当作ってきたのよ。ま、大したもんじゃないけどね」

 

 

 4つ目を飲み込んだ鈴が取り出したのは、箒さんのよりは気持ち小振りな弁当箱だ。開けてみると春雨の炒め物と半熟卵焼きが整然と並んでいる。見た目はシンプルだが、匂いだけで食欲を刺激してきて堪らない。

 

 

「へー、ちゃんとしてるじゃねえの」

「当たり前でしょ。……ただ、卵は父さんのレシピじゃなくて自己流だから、ちょっと自信ないんだけど」

 

 

 そう言いながら一口食べた彼女は、少し間を置いてから「……まあ、悪くないか」と呟いた。

 少し気になったので眺めていると、鈴はさっと切れ端を弁当の蓋裏に乗せてこっちにそれを差し出してくる。

 

 

「料理屋の娘がケチっちゃ名折れでしょ、ほら」

「そんじゃ遠慮なく」

 

 そう言いながら胸を張る彼女に感謝を伝えつつ、卵焼きに箸を入れてみると断面からごま油の香りがじわっと滲んできた。そのまま口に運べば、ただ甘いだけでなく中に別のモノが紛れ込んでいるようで。何度か咀嚼するうちに、それが豆板醬であることに気付く。

 ほんのちょっとだけだから攻撃性はないが、鈴らしいと言えば鈴らしい味だ。

 

 

 そうやって俺が一夏の幼馴染ーズの料理を堪能している間にも、彼らの間で交流は続いているわけで。一夏は同じ男子(シャルル)をロックオンし、ニコニコしながら話しかけていた。

 

「んで、デュノアは? 何か持ってきたか?」

「あ、僕は……その、今日は食堂の惣菜パンで」

 

 

 やんわりと笑いながら紙袋を掲げるシャルルに、鈴が「手抜きじゃない」と軽口を叩く。本人は苦笑いで返しているが……その袋の持ち方が、妙に慣れた手つきに思えた。

 重さの分散の仕方というか、中身を傷めないように角度を保つ感覚というか。バイトで延々と食材を扱い続けた身にはどうにも引っ掛かるのだ。

 

 

(……まあ、今は関係ないか)

 

 

 そうやって思考を切り上げたタイミングで、今度は俺が昼食を見せる番といった流れになる。とは言っても、実は彼と同じで学食の出来合いなんだが。

 マイバッグからプラ容器を2つ取り出して膝の上へ置こうとしていると、なぜかシャルルとセシリアさんがじーっと見つめてくる。後者はそもそも未知の料理に困惑している感じなんだが、前者はこう……『そこにないはずのものがある』ということに対する訝しみだろうか。

 

 

「えーっと……勇さん? その料理は一体?」

「ご飯のうえに、キャベツと肉と……シュレッドチーズ?」

「ほう? もしやおふたり……ご存知、ないのですか!?」

 

 

 わざとらしい言い回しに青年だけが一瞬吹き出しかけるも、やはり料理自体には見当がつかないらしい。まあ実際、コ(・)レ(・)を初めて知った時は俺も困惑したものだ。

 

 

「御曹司と御令嬢なら、確かに縁はないかもしれないですね。これは『タコライス』ってやつで、タコスの具材を白米に乗っけた料理ですよ」

「タコスを、米に……!?」

「…………いやまぁ、同じ炭水化物だけどさ。合うのそれ?」

 

 

 同じ金髪であれど片方はあまりの暴挙に絶句し、もう片方は考えてみたけど疑心暗鬼といったところだろう。ふーむ、やはり日本に来て日が浅いとこうなるか。

 ま、そんなことはどうでも良くて。俺はいそいそと別容器にぎっちり詰められたワカモレを肉に乗せ、同じく別容器のカットトマトも散らしていく。これを下からかき混ぜて食うのが個人的な好みなんだが、これ以上2人を追い込むのは流石に良くない。

 特にセシリアさんは以前カレーをぐちゃまぜにしてたのほほ~~んとした子に対しても、我慢しきれず苦言を呈していたほどだ。なので俺は素直にプラスプーンでそのまま掬い、全ての具材を同時にばくっと大きく頬張った。

 

 

(……美味い!!)

 

 

 スパイスたっぷりのタコミートに、チェダーチーズの発酵臭。そこにキャベツのシャキッと感やトマトの酸味にアボカドのコクも合わさったうえで、全てが白米のでっけえ懐に包まれている。

 たまらずもう一口と無心に食べ進めていけば、流石の2人も興味が湧いてくるようで。箒さんの唐揚げに向けていたのと同じ目付きを、いつの間にかこちらに注いでいた。

 

 

「……っと。あー、もしよかったら食べます?」

「いっ、いいんですか!?」

「勿論。美味しい料理は分け合うのが最高の調味料ですから!」

 

 

 しゅばっと食いついてきたセシリアさんに笑みを向けつつ、俺は念のために貰っておいた追加のスプーンの包装を剝いていく。

 それを見た彼女は少し寂し気な顔になるが、流石にここは譲れない。間接キスがどうこう以上にね、衛生的なあれそれが気になっちまうんですよ職業柄……。

 

 

「ん……確かにこれは、なかなか行けますわね」

「意外とくどくないし、訓練の後でも食べやすいかも」

「えへへ、でしょ~」

 

 

 でれでれしてる俺に鈴が「作ったのあんたじゃないでしょ」とジト目で見つめてくるが、細かいことはこの際いいのだ。そんなやり取りが一段落したところで、セシリアさんがおもむろに包みを取り出した。

 

「実はわたくしも、腕によりをかけて作って参りましたの」

 

 そう自信満々に包みを開いた瞬間、思わず誰もが息をのんだ。薄くスライスされたバゲットに、こんがりとしたベーコン、みずみずしいレタス、輪切りのトマトが規則正しく重なっている。お手本のようにシンプルかつ美味そうなサンドイッチだ。

 全体の断面が見えるように斜めにカットされており、特にふんわりとした卵とかはまるで料理雑誌の表紙みたいな仕上がりである。彩りの配分も計算されている感じで、素人仕事にはとても見えない。

 

「……へぇ。見た目はかなり本格的ですね」

「ふふふ、当然ですわ! BLTサンドというのは、こう見えて奥深い料理ですもの」

 

 

 得意げに髪を払うセシリアさんに、鈴が「あんたが作ったの、それ?」と半信半疑の声を上げる。箒さんも興味深げに覗き込んでおり、シャルルだけが何故か一瞬だけ表情を強張らせたのを俺は見逃さなかった。

 とはいえ断らない理由もないので、俺は素直に受け取ろうとして──ふと、視界の端で一夏がこちらへにじり寄ってくるのに気付いた。

 

 

(……なあ勇。オルコットの料理の腕、どんなもんか知ってるか?)

(え? いや、どうなんだ?)

(イギリスだぞ? 貴族のお嬢様だぞ?)

 

 

 やけに神妙な顔でそれだけ告げると、一夏はすっと元の位置へ戻っていく。付き合いも長いので言いたいことは分かる、分かるが……もう受け取っちまったんだよなぁ。

 今更突き返すのも失礼だし、何より目の前でキラキラした期待の眼差しを向けられている以上逃げ道なんて残されちゃいない。そう思いながら、俺は近づけた鼻先でふと違和感を覚える。

 ベーコンの香ばしさに混ざって、なんだか妙に鼻を突く刺激臭が漂っているのだ。しかも胡椒のスパイシーな感じでもなくて……早々に嫌な予感がしてきたぞ。

 

 

「……い、いただきます」

 

 

 意外と食ってみたらなんとかなるーーそんな幻想は、たったの一口で砕け散った。

 まずもって口全体に広がったのは猛烈な“甘さ”。どうやら断面から見えない部分にフルーツサンドの如くクリームが仕込まれていたようで、それが塩胡椒の効いた卵焼きと真正面からぶつかり合っている。

 それでいてレタスの瑞々しさやベーコンの脂の旨味はしっかりとそこにあるので、甘味と塩味の大喧嘩を更に引き立てやがるのだ。ゲッソリとする感覚を舌はおろか全身で味わいつつ、俺はなんとかそれを喉奥に押しやる。

 

 

「ん゙っ、あぁ゙っ……!」

「あ、あら。勇さん、どうかされまして?」

「っぅぶ……セシリア、さん。もしかして、フルーツサンド、食べました?」

「? まぁ確かに、チートデイにはよく食べますが」

 

 

 紅茶に合うので、なんて付け加えている彼女の言葉に耳を傾けつつ今度は心を殺してもう一口。その断面を直視することで味から必死に意識を逸らしていると、卵が妙に発色のいいことに気付いた。

 確か中学生の時、鈴が自由研究とかで食紅を使いまくった卵焼きを出して来た時にこんなのがあったような……。そうやって過去にすがりつつやっとのことで一切れを食べ終える。

 周りを見れば鈴と箒さんは苦笑いを浮かべたまま固まっており、シャルルに至っては青ざめた表情で俺を見つめていた。そんな中で一夏だけがもう一切れを掴んで一口に頬張り、表情筋を殺しつつも目だけで「言った通りだろ?」と伝えてくる。

 

 

「……セシリアさん、1つ聞きたいんですけど」

「な、なんでしょう?」

「これ、味見しました?」

 

 

 そう問いかけると彼女は一瞬ポカンとなりーーそしてすぐさま、訓練中のビットもびっくりなレベルで視線を泳がし始めた。

 

 

「あ、その、えー…………お恥ずかしながら、はい。無駄なカロリーを摂取すると予定に狂いが生じてしまいますので、あまりその工程はしておらず」

「——してないんですね」

「ヒッ」

 

 

 セシリアさんの怯えた顔を見てから、妙に静かな声を出してしまったことに気付く。いかんいかん、これじゃ尋問だ。

 俺は水筒のお茶を一気に呷って口内をリセットし、ついでに頭をバイトモードへと切り替える。怒るのは後でも出来るが、まずはこの不味さの理由を突き止めなきゃなんにも解決しない。

 

 

「あー……すみません、別に怒ってるわけじゃなくてですね。ちょっとだけ確認させてもらっていいですか?」

「は、はい……」

 

 

 縮こまるセシリアさんに頷きを返してから、俺はもう一切れを手に取って改めて観察する。

 どう見たって主犯であろう生クリームはさておき、まずは卵焼きだ。やけにふっくらとしているうえに、指で軽く押すだけでしゅわっと沈み込む柔らかさ。その質感には覚えがあり、さっきまで口内を蹂躙していたクリームの甘さを重ねた瞬間、頭の中でビビッと来た。

 

 

「セシリアさん。もしかして卵液に生クリームを入れるやり方を、どっかで見ましたかね?」

「な、何故それを!?」

「やーっぱりかぁ……」

 

 

 五反田食堂のまかないで、大将がよくやっていた小技の1つだ。溶き卵に無糖生クリームち*1をほんの少し足すと、火の通りが遅くなってふわとろ系に仕上がる。

 料理番組なんかでもたまに紹介される定番のテクニックだが──言わずもがなそれはほ(・)ん(・)の(・)少(・)し(・)だった場合の話な訳で。

 

 

「んで、どのくらい入れたんです?」

「ええと、拝見した記事には特に量の指示がありまんでしたので。その……合わせられるだけ?」

「……大さじとかそういうレベルじゃなさそうっすね」

「それとせっかくなので、余ったクリームは泡立ててパンの間に挟んでおきましたの。もちろん砂糖もたっぷりで!」

「そこで勿体無い精神使っちゃいましたかぁ……!」

 

 

 そんでもって思い返せば、そもそも卵焼き部分もほんのり甘かった気がしてきた。そこに恐らくレシピ通りの塩胡椒をぶち込んだわけだから、大喧嘩するのも当たり前なわけだ。

 

 

「あとついでに。この卵、やけに発色がいいのは?」

「……しょ、食紅を、少々」

「嘘でしょあんた!?」

 

 

 素っ頓狂な声を上げたのは鈴だった。お前が言うな、と喉元まで出かかったものをもう一度お茶で吞み込んでおく。ここでアイツの暴挙を掘り返すとややこしいどころの話じゃなくなるからな。

 

 

「だ、だって仕方ないじゃありませんの! クリームを入れてみたら白っぽくなってしまって、参考にしたお写真はもっとこう、黄金色の……!」

「見た目が違ったからあれこれ足した、と」

「…………はい」

 

 

 うむ、ようやっと見えてきた。セシリアさんはどうやら、レシピ通りの見(・)た(・)目(・)を最優先にして料理をしてしまうタチなようだ。手順も概ね守っちゃいるのだが“なぜそれを行うのか”を理解せず、他のやり方を安易に混ぜちゃうのは良くないなぁ。

 ……ただ、これだけは絶対に聞かないと納得がいかないものが1つあるわけで。

 

 

「あと、そもそもなんですけど──BLTサンドに甘いクリームって、何を思ってこの組み合わせを?」

 

 

 ずっと気になっていたことを尋ねた途端、彼女の頬にさっと朱が差した。指先をもじもじと絡ませながら、ちらちらとこちらを窺ってくる。

 

 

「……勇さんがさっき言っていた、フルーツサンドは日本が発祥でしょう? パンと甘いクリームなどの組み合わせは、こちらでは一般的みたいでしたので。それに、その……」

 

 

 普段のエリートだ貴族だという自信満々の声色はどこへやら。どんどんと尻すぼみに消えていくそれに、ついつい顔を近づけて聞いていれば。

 

 

「……勇さんは、訓練の後とかにいつも購買でとっても甘いパンを買ってらっしゃるじゃありませんか。あんことマーガリンの……ですから、甘い物が好きなはずの勇さんなら、きっと喜んでくださると思って……」

 

 

 もはや蚊の鳴くような声量で絞りだされたその言葉を耳にした瞬間。たっぷり数秒ほど呆けたあと……今度は俺の顔が燃えることになった。

 

 

「……は? ちょっと待ちなさいよセシリア。あんたそれ、偶々作ってあったとかじゃなくて勇のためだったわけ?」

「ほう……?」

「ち、違いますわ! いえ、違わなくはないのですけれど、決してそういう意味では……!」

 

 

 鈴がずいっと身を乗り出し、箒さんまでもが意味深に目を細める。この世界で、幼馴染とかそういうのじゃない女子が男子の為に手料理を用意するってのは、まあ要するに意(・)思(・)表(・)示(・)みたいなわけで。そりゃ食いつかれて当然である。

 んで、当の俺はというと……正直言ってちょっと、いやだいぶ嬉しかった。訓練後の買い食いまで勘定に入れて料理を作ってくれたなんざ、チョロいとか色々言われようとも感謝以外の何者でもないだろう。

 とはいえ、言わなきゃいかん事を伏せる理由にゃならんわけで。

 

 

「セシリアさん。俺のことを思って作ってくれたのは本当に、めっちゃくちゃ嬉しいんです。ただそのうえで……フルーツサンドの生クリームは、どっちかと言えばパンに水分が移るのを防止するための物なんです」

「あら、そうなんですの?」

「まあフルーツの酸味とクリームの甘味を合わせるって目的も無いわけじゃないですけど……そこを雑にベーコンと塩胡椒に置き換えたから、今回はちょっと大変なことになったわけで」

 

 

 拙い講釈のすぐ横で、シャルルが小さく「うん」と頷くのが聞こえる。なんだかんだ彼も料理には一家言ある口っぽいなこりゃ。

 

 

「ま、要するに。写真通りの見た目とか、話題の小技とか、国ごとの流行りとか。そういうのを取り入れるのはいいんですが、組み合わせたらどうなるかを確かめてないのが一番の問題っすね」

「……」

 

 

 ぐうの音も出ない、といった顔で彼女はうなだれる。というかよくよく考えると、サンドイッチの味見ってだいぶ難しそうだな……わざわざ1個多く作って食うのも面倒だし。

 そんなことを考えながら一夏の方を見れば、驚くべきことに彼はバスケットに入っていたサンドを全て平らげ、無言のまま俺に親指を立てて来た。よく言った、とかそういう意味でいいんだよな?

 

 ……しかし、ここからどうしたものか。このまま「次は味見しましょうね」で済ませるのは簡単だけど、きっとまた同じトラブルを起こしそうな気配がプンプンしている。

 何より、わざわざ俺のためにと言ってくれたセシリアさんが“メシマズ”のままってのは——色々と勿(・)体(・)無(・)い(・)と思うわけだ。

 

 

「……セシリアさん。今日の放課後って、何か特別な用事とか入ってます?」

「い、いえ。普段通りIS訓練ですが」

「なら、折角ですし。エリートとして、料理出来るようになってみませんか」

「へっ?」

 

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべたのち、彼女はじっと俯いてあれこれぼそぼそと喋り始める。即座に断りを入れないあたり、少なからず魅力的な選択肢に見えているのだろう。ならばこのまま一気に畳み掛けていくしかない!

 

 

「例えば、ティアーズの偏光制御射撃(フレキシブル)ってなんで曲がるのか分かってるから、ああやって狙われたくない場所に曲げられるんですよね?」

「え、えぇ……」

「料理も理屈は同じで、手順とその意味さえ分かれば狙った仕上がりに出来ます。まさしくセシリアさんの得意分野じゃないですか!」

「言われて、みれば? ですがその、やはり——」

「カロリーが気になるなら味見は俺が引き受けますよ。食堂でもしょっちゅうやってましたし」

 

 

 最後の言葉と一緒にニコっと微笑みかければ、流石の英国淑女も白旗のようで。「お願い致しますわ」と差し出されてきた綺麗な手を、ぎゅっと握り返すのであった。

 さて、そんな中。こちらのやり取りをジッと見つめていた一夏が、ようやく血の気が戻ってきた顔でゆっくりと口を開く。

 

「……ところで、勇。その最後の一切れはどうするんだ?」

「──あっ」

 

 

 完璧に失念していた左手のサンドをじっと見つめるも、先ほどの惨状を思い出すせいで涎すら出ない。たぶんあいつは自分が食うつもりで指摘したんだろうが、どんな飯でも食うことで評判のある男とはいえ全部を押し付けるのは気が引ける。

 

 

「……すわ」

「ん、どうしたオルコット?」

「わ、わたくしが責任を持っていただきますわ!

「いやちょっ、まぁ!?」

 

 

 俺の制止を振り切ってセシリアさんはソレをひったくると、勢い良く半分近くを食いちぎり──

 その後の惨状は、まあ。結果的に料理特訓の必要性の再確認になったとだけ、言っておこうか。

*1:
なみに牛乳でもいい




 たぶん原作でも一夏はあのあとBLTサンドを全部食べていると思った(小並感)

 それはそれとして、お久しぶりでございます。卒論研究で色々と忙しかったり、バイト漬けになったりでなかなか執筆時間が確保出来ませんでした。近日中に料理回も出しますので、よければそちらも読んでくださるとありがたいです。
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