貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい 作:黒鉄48号
「──ということで、ISの防御システムはシステム根茎であり基本的に弄ることができなくなっています」
「ふむふむ」
放課後の教室。山田先生による俺たち男子二人への補講はとても分かりやすいものだった。
何故なら彼女がわざわざ教科書を分かりやすく嚙み砕いた資料を用意してくれたからで、特に複雑怪奇な専門用語の解説が注釈として随所に挿入されているのはありがたい。
「さて、本日はここまで。どうでしたか三上くん?」
「どうにか理解して行けそうです。本当にありがとうございます」
「い、いえいえ。副担任として生徒を支えるのは当然のことですから! あ、あと織斑くんは?」
「……分かりやすいとは思います。ただ、もうちょっと内容を少なくしてもいいかと。もう夕暮れですし」
一夏の言葉に釣られて外を見てみると太陽が真っ赤に染まっており、1周5kmの巨大グラウンドも人がまばらになりつつあった。
……というか腹減ってきたな。昼飯は女子に見られまくったから少なく済ましてさっさと退散したし、間食も用意してなかったからかなりきつい。そしてついに腹がグルグルと鳴ってしまった。
「あ……ご、ごめんなさい三上くん! 私が長い時間拘束したせいで……」
「いえいえ、そんなことありませんよ! すごいためになる内容でしたし」
「うぅ……」
相変わらず自分に自信がない人だなぁ、なんて思っていると教室のドアからエアーが抜ける音が聞こえ、織斑先生が書類片手に入ってきた。
「ああ、まだここにいたのか。既に夕食に行ったと思っていたよ」
「何の用ですか、織斑先生」
「おっと、そうだったな。お前たちの寮の部屋が決まったから知らせに来たんだ」
一夏の質問にさらっと答えた彼女は俺たちに部屋番号の書かれた紙とカードキーを渡してきた。
IS学園は全寮制であり、将来有望なIS操縦者をあの手この手で勧誘する不埒な輩から守るのが主目的らしい。
「……あれ? 確か、しばらくは実家から通学するって話じゃありませんでしたか?」
「そうなんだが、事情が事情なので一時的な処置として部屋割を無理矢理変更した形だ。全く、IS委員会の奴らは人使いが荒くて困る。だいたい──」
途中から愚痴り始めた織斑先生を他所に渡された物を見つめる。どうやら俺と一夏は同じ部屋となったらしく、原作であった部屋割り関連のあれこれが無くなると思うとどこか寂しい。
…………いや、親友の命や貞操が危険に晒されなくなったんだから普通にプラスか。
カードキーの方はホテルとかで使われている感じのサイズだが、手触りがプラスチックのそれとはどことなく違う気がする。こう、妙にしっとりしているというか指に張り付く感覚があるのだ。
「あのー、織斑先生の代わりに説明しますね。学生寮のカードキーはISスーツの技術が応用されていまして、登録された生体情報と合致しない人物では利用できなくなっています」
「へー! こんな小さな道具にそんな機能が! 技術の進歩ってすごいですね」
原作だとIS技術のフィードバックはそこまで無かったような気がするので、なんだか新鮮な気分だ。というかこの世界、地味な部分で前世より近未来的である。
某鉄男のホログラム的なのが携帯電話に当たり前のように搭載されているし、学食の提供も一部は専用のロボットが担当していた。
──ああ、後はそうだ。アメリカのどこかにロボットのいるピザ屋があったらしい。アニマトロニクスとかいう動物人形のロボットで、80年代の時点で自律稼働することが可能だったそうだ。
……最も、そこはとっくの昔に閉店しちまったのでそれを拝むことはできないのだが。
閑話休題。カードキーを受け取った俺たちは教室を後にし、途中で荷物を回収してから部屋へと向かった。そして中に入ってみると、そこはまるで高級ホテルの一室だったのだ。
「うひょー、こいつはすげえ! ベッドはフカフカだし、なんかディスプレイもいっぱいある!」
「テレビも大きいな……うわ、なんか映像がぬるぬるだ」
色々と呟きながら荷解きをしていく。
着替えと充電器は勿論あったし、少ないお小遣いを必死に貯めてどうにか買ったミドル級ヘッドホンとイヤホンもきちんと送られていた。ありがとう親父……!
「さて、と……一夏、飯はどうする?」
「まだ時間の余裕があるし、もうちょっと待ってから行こうぜ。また昼みたいなのは嫌だし」
「あー……同感。流石の俺もあれはキツかったな」
十数時間ぶりのプライベートタイムに気が緩み、他愛のない雑談が始まった。
教室がやたらにハイテクなこと、学食がめちゃくちゃ美味かったこと、学園島内にコンビニやスーパーマーケットがあるらしいこと……とにかく色々なことを話し合う。
時たま一夏がクッソ寒い親父ギャグを入れてくるのを捌きながら、いつの間にか話題はクラス代表戦になっていた。
「オルコットの提案を蹴った時は本当にビビったからな? まさかそこまで馬鹿だったとは」
「馬鹿っつーな馬鹿って。というかそれ言ったら一夏も立候補してるじゃねえか。お前らしくないと思うんだがな」
「いや、ああしなきゃ勇は絶対に気負けした。理想の割にヘタレだもんなお前」
「だ、誰がヘタレじゃい!」
可愛い子と付き合いたいと思って色々スキンシップ取っていたら、いきなり肉食獣に大変身なんて普通にビビってなんも出来なくなるだろうが。
むしろ告白断りまくってるのに捕食者の制止をやれるこいつの方がおかしいと思う。
「というか、IS練習の目途とか立ってるのか? あの後調べたんだが、代表候補生ってのは最低でも300時間はISを操縦しないとなれないらしいぞ」
「さっ、300ぅ!? ……やっぱり駄目かもしれねえこれ」
「おいこらヘタレるな。そんなんじゃ勇の字が泣くぞ」
それを言われるとどうしようもない。この名前は親父と母親が一緒に考えてくれた大切な物だ。一夏はそれを知っているからか、こうして俺が物事に尻込みする度にそのことを持ちだしてくるのだ。
にしても300時間というのは驚異的である。山田先生曰く、IS操縦者というのは機体を動かす時間の倍以上を座学に費やすらしい。
それを鑑みればオルコットさんがISに関わった時間は合計で900……どころか1000時間は超えていると見積もるべきだろう。あれ、更に勝てる気がしなくなったぞ???
「あー……そうだな。腹が減っては戦はできぬって言うじゃねえか。とりあえず飯行こうぜ」
「露骨にはぐらかしたなおい。まあ、確かにそろそろいい時間だもんな」
そう言われて時計を見れば食事時間終わりの30分前だった。
遅すぎる気がしないでもないが、むしろこれぐらいの方が空いてていいのかもしれない。そんなことを考えながら、俺たちは食堂に移動するのだった。
「たっだいまー! いい湯だったねオルコットさん!」
「そうですわねキサラさん。あと、ファミリーネームではなくファーストネームで読んでくださいまし」
「わかったよー!」
学園生活初日ということで大浴場を利用してみましたが、とても素晴らしいものでした。
しかもあのお湯は日本各地の温泉をわざわざ運んできたものらしく、定期的に種類も切り替わるらしいとのこと。日本人が温泉好きとは聞いたこともありますが、まさかここまでとは。
「いやー、にしてもセシリアのベッド*1は大きいねぇ! 私の実家の部屋ぐらいあるじゃん!」
「そ、そんなにですの? 逆にこのサイズでどうやって生活を……」
疑問をそのまま口にすれば、同居人の
「うーんと、勉強机と本棚置いて……その間で寝袋生活! 山岳部の練習的な?」
「え、えぇ……」
「あ、そうだ! このベッドの端っこでいいから貸してくれない? 寝袋でいいしさ!」
「あ、その、えっと……キサラさん本人が良いのであれば」
「やったーありがとう! セシリア大好きー!」
彼女はそう言いながらわたくしに勢いよく抱きついてきました。はしたない行為に一瞬ぎょっとしましたが、こういうスキンシップにも慣れていかねばと思って抱き返します。
「……すっごいなぁ」
「ん、なんですの?」
「いやさ、実際に触れてみるとセシリアの体バッキバキだなーって。やっぱり代表候補生になるとしたらこんぐらいまで鍛えないと駄目なの?」
「そうですわね……確かに身体能力もある程度は要求されますが、結局一番重要視されるのはISの腕前でしてよ」
今までの経験を思い出しながら彼女に説明します。わたくしより運動成績が良かった者がISで結果を出せずに去ったこと、逆に運動面はかなり下なのにISの成績一つで代表候補生になれた者がいたこと……
それらをキサラさんはうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれました。
「やっぱり私たちとは、スタートラインから違うのかねぇ」
「キサラさんは代表候補生になりたくて?」
「あー、そういうわけじゃないけどさ。やっぱりその道のプロの話って気になるじゃん? そんでどういう練習すればいいのかの指標にはなりそうじゃない?」
「なるほど……」
向上心がある方と一緒になれたのは嬉しいことですわ。IS学園ではあり得ないこととは思いますが、もしも怠惰な人でしたら部屋替えを申し出ていたことでしょう。
「あ、それとなんだけどさ。セシリアは勇くんのこと、どう思った?」
「どう、とは……」
「いやー、あの子めっちゃ可愛いじゃん? 自己紹介の時なんか危うく鼻血出そうだったもん!」
興奮気味に三上さんについて語るキサラさんを見て、わたくしも彼の容姿を脳裏に浮かべます。
フワフワと柔らかそうな髪型、簡単に抱きしめられる小柄な体、そして何よりアニメかマンガから飛び出してきたような可愛い顔付き。おまけで、一部の女子が餌付けを試みたのも納得せざるを得ないほどに可愛らしい言動。
────なにより、己の信念を貫こうとする姿勢。在りし日の
『男だから』という理由で仕事や危険から遠ざけられながらも、反発するだけでなくしっかりと業績を残して周囲を納得させた彼のやり方。
三上さんならあるいは……と、少し物思いに耽てしまいましたわ。わたくしは意識を切り替え、言葉を選んでキサラさんに返します。
「……正直に言えば、好ましい、ですわね」
「だよねーだよねー! そんでもって『かわいい』って言われると怒るんだよ!! はー、膝に乗っけて甘やかしたいな~」
そう言い残して妄想の世界に飛んでいった彼女を尻目に、わたくしはもう一人の男性操縦者のことを考え始めます。
織斑一夏、あの
男らしからぬ背の高さと鍛え抜かれた肢体。基本的に女性と関わろうとはしないものの、三上さんが絡むと途端に介入してくる性質。
──そして、一般人とは思えないあの
「……ーい、セシリアー?」
「っ、すみません……なんですの?」
「いや、なんか険しい表情してたからさ。悩みあんの?」
「そう、ですわね…………男子二人との勝負について、少し」
はぐらかしの言葉であると同時に事実でもあります。わたくしの専用機『ブルー・ティアーズ』はその性質上、相手によっては一方的な封殺が可能なIS。
ましてや今回はISについて全く知らない初心者の方々。ともすれば彼ら……特に三上さんのプライドを酷く傷つけてしまうかもしれないのです。
「わたくしは淑女でありたい────いえ、そうあらねばいけません。ですがその振る舞いで人を傷つけるのは意図するところではありません」
「うーん、難しいねぇ……でもさ、クラス代表になったらその後の対抗戦やトーナメントでも戦うわけじゃん? いつかは負けるわけで、それがちょっと早まるだけだと私は思うよ」
「キサラさん……」
「要するに、セシリアは特に手加減とかしなくていいんじゃないかな? ……つっても、あんまりえぐい戦法は取らない方がいいかもだけど」
そこまで言うと彼女は大きく欠伸をしました。時計を見てみると既に就寝時間すれすれだったので、わたくしたちは慌ててベッドにもぐりこみます。
直後に消灯し、どちらともない「おやすみ」の言葉を最後にわたくしは眠りに落ちるのでした。
「んー、とりあえず、日替わり定食大盛りで」
「じゃあ俺は和食セットで」
翌朝の食堂。2回の利用で人混みに耐性が出来た俺と一夏は食券機からメニューを選んでいた。
この機械が意外とハイテクで、メニューの画像や栄養バランスに加えてカロリーが表示される上、銭湯みたいに紙が出てくるのではなくスマホのアプリに注文内容が飛ばされるのだ。
ちなみにこのアプリというのも優れもので生体データを元におすすめのメニューを教えてくれたり、売り切れ情報や食堂の込み具合も知ることができる。ここまで多機能なのに処理がかなり軽いのも地味にうれしい。
「ナニニシマスカ?」
(なんか聞き覚えあるんだよなぁ、これ)
近未来的なIS学園の雰囲気に逆行したレトロな人工音声にそんな感想を抱きながらスマホをかざすと注文が受け取られ、アクリル越しの機械群が料理を運び始めた。
あの多目的ホールのようにデザイナーの自慢が多分に含まれているであろうそれは、しかし見ていてどこか心地いいものだ。
そんなことを考えていればあっという間に料理が届いたので受け取り、背の高い一夏が見つけた席の方についていく。
当然周囲から女子たちの声が聞こえてくるものの昨日よりは音量控え目でありがたい。
「それじゃ、いただきます!」
「いただきます」
手を合わせてそう言ってから食べ始める。今日は生姜焼き定食だったようで、固くなりすぎないように絶妙な火入れをされた豚肉と玉葱がたまらない。ご飯もふんわりホカホカの素晴らしい食感である。
本土に帰る時は
「み、三上くん! 隣いいかなっ!?」
「んみゅ?」
見ると、朝食のトレーを持った女子3名が俺の反応を待ちわびるが如く立っていた。口の中の料理を飲み込みついでに味噌汁をすすってから、彼女らの質問に答える。
「ああ、俺はいいですよ。一夏は?」
「…………勇がいいなら、まあ」
渋々といった感じで彼が了承すると3人のうち声をかけてきた女子が安堵のため息を漏らし、後ろの2人は小さくガッツポーズをしていた。ついでに周囲から妙なざわめきも聞こえた。
「ああ~っ、私も早く声かけとけばよかった……」
「まだ、まだ2日目よ。まだ慌てるような時間じゃないわ」
「あの感じ、三上くんから攻めるのが定跡になりそうね……」
……やっぱり声でけえよ。そうやって俺が呆れている間に3人組はしれっと席についていた。
6人掛けのテーブルで窓側に俺と一夏。俺の方に2人座って残りは反対側といった感じだ。
「……ねえ、三上くん? なんかご飯多くない?」
「一夏くんの倍くらいあるんだけど??」
「寝てる間に腹が減るタイプなんですよ俺。朝はガッツリ取らないときつくて」
とはいえ、彼女らの言葉はもっともだ。一番デカい丼に白米が山盛りな上、生姜焼きの肉は一枚一枚が小さめのカツぐらいのサイズ。言わずもがなキャベツもドドンと大盛りである。
ちなみにだが一夏のメニューは小さめの焼き鮭に納豆とご飯と味噌汁で、ついでに浅漬けといった感じだ。
「というか、それ言ったら女子はそんなに食べるのかって感じですけど」
「「「えへへ……」」」
彼女らのトレーの上はそれぞれメニューこそ違うものの、某逆写真詐欺で有名な珈琲屋レベルで大量の料理が、しかも平気で2つ3つも乗っていた。見ているだけで胃もたれしそうである。
「しかもそこにおやつ付きでしょう? 大丈夫なんですか?」
「……勇。女性は基礎代謝量が男性より多いって習っただろ。そういうもんだ」
「いや、だとしても……」
「も、もしかして三上くん、小食の方が好き……?」
女子の1人がウルウルとした目でこちらを見つめてきた。うーむまずい、女性を泣かせるのは俺の中のかっこよくない行為ランキング上位常連なのだ。どうにかフォローしなければ。
「ああいや、そこは全然気にしないですよ。むしろどんな女性だって──アガーッ!?」
「勇?」
ばっちこい、と言おうとしたら一夏のアイアンクローで阻止されてしまった。周り引いてるし飯の最中なんだから大目に見てくれよ!
手首をぺちぺちしてギブアップの意を示していると、不意に大きく手を叩く音が聞こえた。
「いつまでダラダラ食べているつもりだ貴様ら! 食事は迅速に効率よく取れ! もし遅刻したらグラウンドを10周させるぞ!!」
きた織斑先生の声が響き渡った途端、食堂にいた全員が慌てて朝食の続きに戻っていく。そりゃ飯食った後にフルマラソンより長い距離なんて走らされたくないよな……。
「……すまんな勇。食い終わるか?」
「お前がキャベツ半分くらい食ってくれたら、かな」
「それなら、まあ……いいぞ」
一夏の皿に緑の山を移してから大急ぎで料理を口に運び、タイミングを見て味噌汁やお冷で胃の中へと流し込んでいく。そして最終的には3人娘よりも早く食べ終わることができた。
「ごちそうさま! じゃあまた後で!」
「えっちょ、三上くん!?」
女子たちの悲痛な叫びに後ろ髪を引かれながらも、俺と一夏は大急ぎで教室へと向かうのだった。
…………ちなみに、あの3人もどうにか間に合ったのでグラウンドを走らされる人は結局誰一人いなかったことをここに記しておく。
日常回は書きたいし、それはそれとしてテンポよく話を進めたい……心が二つある~!
ムフフなif、読みたいですか?
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いらない
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そんな物より本編優先して♪