貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい   作:黒鉄48号

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 以前の話を読み直して色々と修正案が思いついたので差し替えます。要点整理しないと変な文章になることを痛感しました。中盤以降から大きく変わりますので、そこから読んでも大丈夫です。

 また、FNAFシリーズのネタバレ、独自解釈が含まれますのでご注意ください。


第五話 オカルト少女は機械人形に夢を見るか

「どうぞ入って」

「わー……い???」

 

 

 鬼月先輩の部屋に足を踏み入れた瞬間、俺の脳内には大量のハテナ()が浮かんだ。

 貼り紙や彼女の容姿からてっきり和風、あるいは整備課にありがちなジャンク山脈のお出迎えだと思っていたのだが──一言で表すならそこは()()()()()であった。

 壁や天井には常識を疑う量のポスターがベタベタと貼られ、自作らしきクソデカPCの周囲は謎のグッズが雑に置かれている。

 そして本棚にはよく分からない題名の本とPCゲーの箱、そして大量の薄い本が詰め込まれていた。

 

 

「はい、この椅子に座って。何か飲む? お茶とジュースと水よ」

「あ、えっと……ジュースの、あるならコーラで」

「わかったわ。はいこれ」

 

 

 テキパキと手際よく色々出してくる先輩のペースに流されてしまう。

 紙コップに注がれたコーラはよく冷えており、食べかけだった焼きそばパンを無意識に袋から取り出していた。

 

 

「あら、まだ夕飯の途中だったのね。どうしてここに?」

「えっと、その……散歩してたら、たまたま見つけて。それでもしかしたら、整備の終わったISが1つぐらいあるんじゃないかな、って……」

 

 

 鬼月先輩の真っ赤な瞳に見つめられているせいか、下心丸出しの事実をそのまま語ってしまう。しかし彼女は「そうなのね」の一言であっさりとそれを流し、ごてごてしたゲーミングチェアーに腰掛けると改めてこちらを向いてきた。

 

 

「意外と頭が回るわね。勉強は苦手な方と聞いていたのだけど」

「……もしかして、噂とかに?」

「当然なってるわ。女子のネットワークを舐めない方がいいわよ。特に三上くんはかわいいから、色々と情報が集まってきてるわね」

「ひえっ……」

 

 

 しれっと怖いことを言わないで欲しい。先輩はそのまま「食べ物や音楽の好みとか、あとは──」なんて話し続けようとしたがこの話題は続けたくない。

 どうにか変えようと周囲を見渡すと、ある1つのポスターが目に入った。

 

 

「あの、先輩」

「ん、どうかした?」

「あそこのポスターって確か……『フレディファズベアーズピザ』のやつですよね」

 

 

 以前思い出したロボットのいたピザ屋というのが、これである。ポスターでは店名にもなってるクマのフレディが舞台の真ん中に、左右はそれぞれウサギの『ボニー』とアヒルの『チカ』が立っていた。本当はもう一体アニマトロニクスがいるはずなのだが、この3人がメインだから省かれたのだろうか。

 そんな風に考察しているといきなり柔らかい感触と甘ったるい匂いに包まれた。その正体は鬼月先輩で、彼女はかなり興奮した様子で顔を近づけ喋り始める。

 

 

「三上くんも彼らのことを知っているの!? 共通の趣味ね!」

「あ、いや、その──」

「何から話す? フレディファズベアーの前身フレッドベアーズファミリーダイナ―時代? それともトイシリーズが導入された頃? 後はサーカス・ベイビーズ・ピザ・ワールドのワイヤー骨格式アニマトロニクスについて──」

「す、ストップ、ストップ!!」

 

 

 話し方が完璧にダメなオタクのそれじゃねえか! 隙を見つけたからといって早口で畳み掛けるのは逆効果なんだぞ!! 前世で何度沼へ初心者を引き込むのに失敗したことか……!

 

 

「──あら、ごめんなさい。やっぱり海外の、しかも数十年前のピザ屋のことなんてみんな興味ないから、君が初めてで……」

「な、なるほど……でも自分、このポスターの時代しか知らないんですよね。他の時期のこと教えてくれますか?」

「え、えぇ! 勿論いいわ!!」

 

 

 下心と興味が2:8な俺の申し出に鬼月先輩はパーッと笑顔になり、何やらPCを弄り始めた。

 暫くするとどこか聞き慣れた合成音声が流れ出す。先輩の後ろから頑張って覗いてみるとどうやら解説動画のようだ。

 

 

「春休みに息抜きで作ってみたの。動画サイトだとあんまり見られてないけど」

「へー……普通にちゃんとしてると思いますけどね。読み上げミスは無いし、機械感も薄いし」

「……ふふ、ありがとう。それじゃあ──」

 

 

 先輩はゲーミングチェアーを退かすと代わりに大きめの四角い椅子*1を取ってきてそこに座った。そして俺に対して両手を広げてくる。

 

 

「──一緒に見ない?」

「…………じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

 

 

 彼女の股の間に座ってみればスポッと収まってしまい、脇の下に手を通されてがっちり抱きしめられた。そのうえ後頭部に柔らかな胸部が押し当てられる。

 似た事をしてきた()()()より遥かにフワフワとした感触に悶々としていると、不意に違和感に気づく。

 

 

『──というわけで、旧FFP店舗は閉店したわ。新店舗へと移転し同時に新型アニマトロニクスのトイシリーズを導入。これらは日中での活動及び顔認証システムによる防犯能力を備えており──』

(……なんか、()()()()()()()?)

 

 

 目の前で流れる解説動画よりもそっちが気になってしまう。意識を向ければ甘ったるい匂いの中に汗臭さが紛れており、そして頭部へダイレクトに伝わってくる温かさ。これらから導かれる結論は────

 

 

下着を付けていない(ノーブラ)!?)

 

 

 一度そう認識してしまえば色々と妄想してしまう。

 気付かなかっただけで()()()()()のではないかとか、本来ならどういうものを着けていたのかとか……思いを馳せていると不意にぎゅっと抱きしめられた。

 

 

「三上くん、ちゃんと見てるの?」

「み、見てますよ勿論。あ、あはは……」

 

 

 そう言いながらPCの画面に視線を移すと、どうやら内容が切り替わる所だった。次は────

 

 

『ここからは、FFP及び関係施設に対する都市伝説について解説するわ。まず、児童行方不明事件について──』

「……行方不明?」

「知らないの? 旧店舗時代、5人の子供が行方不明になったの。当時の店長が犯人として逮捕されたのだけれど、お店の評判は回復せずに閉鎖。やり直しで1987年に新規店舗が開かれたわ」

 

 

 鬼月先輩はさも当然のようにすらすらと語るが、俺が昔ネットで調べた時はそんな話を聞きもしなかったはずだ。変だなぁと思っている間にも、動画は解説を続けていく。

 

 

『だけどここでも事故──俗に“噛みつき事件”と呼ばれる出来事が発生。詳しい資料は廃棄されているものの、アニマトロニクスの一体が人間に対して噛みつき。被害者は一命を取り留めたけど、()()()()()()するほどの大けがをしたわ』

「ひぇっ……!」

 

 

 自分の前髪辺りを思わず手で押さえてしまう。着ぐるみサイズの人形の口に頭を挟み込まれると想像すれば、嫌な汗が出てきて鳥肌が立ってしまいそうだ。

 

 

『その結果、新規店舗は業績が低迷して数年後に閉店。暫くして旧店舗を再利用して開店し、アニマトロニクスも旧型を改造したものを利用したとされるわ。最も、いくつもの事件のせいであまり客足が来なかったらしいけど』

(そ、そりゃそうだろ……またいつ嚙み砕かれるか分かったもんじゃないし……)

『そして案の定、改装したFNFも数年後に三度閉店。それから30年後に地元の遊園地でこれらの出来事を題材にしたホラーアトラクションが開業されるけど、1週間と経たずに全焼したわ。また、この際に焼け残った物品を利用していたというファズベアー・エンターテインメントのフランチャイズ店も同じく全焼。一部では“物品”を完璧に燃やすことが目的だったのでは、と噂されているわ』

「ぜ、ぜぜ、全焼!?」

 

 

 いやどうなってんだよ!? 事故起こりすぎだろFFP周り! これじゃまるで──

 

 

「呪われているみたい、でしょ?」

「……ふぇ?」

 

 

 そう語りかけてきた先輩は、俺の顔をちょっと持ち上げてじーっと見つめてきた。真っ赤な瞳はまるで全てを見透かすような輝きを灯していて、何故か不安を煽ってくる。

 

 

「この動画では省いたのだけれど、FFPではこんな噂があったの。夜間警備の時だけ、()()()()()()()()()()()()()()っていうね」

「……も、元々動くものじゃないんですか? 特にその、トイシリーズ? とかは」

「ええ、そうよ。だけど普段のそれとは全く違う挙動。彼らは各々の経路で警備室にやってきて、たどり着いたらそこにいる人間をバックヤードまで連れていく。そして無理矢理にガワを着せる」

「…………そしたら、どうなるんですか?」

 

 

 嫌な予感を覚えながら恐る恐る質問すると、彼女はどこか遠まわしにそれに答えた。

 

 

「アニマトロニクスは内骨格(エンドスケルトン)と着ぐるみ部分から成るのだけれど、実はガワにも沢山の機械部品が存在するの。そこにメカの怪力で押し込まれようものなら──」

「そ、そこまででいいです! ……なんで、その、彼らはそんなことを?」

「知りたいかしら?」

 

 

 わざわざ確認を取られたことから相当ろくでもない理由だと察しつつも、俺はゆっくりと首を縦に振る。鬼月先輩は少しだけ虚空を見つめたあと、いきなりとんでもないことを話し始めた。

 

 

「まず、児童行方不明事件だけれど…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……えっ?」

「そして、殺された子供たちはアニマトロニクスのガワに隠された。ワイヤーと歯車だらけの狭い狭いそこに」

「ひ、ひでぇ……!」

 

 

 およそ人間がやるべきでは無い鬼畜の所業に怒りを覚える。そして同時にあることに気づいた。アニマトロニクスの着ぐるみに人間が入れられる、それはまるで────

 

 

「警備員は、子供たちと同じことをされた?」

「正解よ。事件の真犯人は当時の夜間警備員だから、後続の人間も狙われたということね」

「……狙われた? ちょっと待ってくださいよ先輩、それじゃあまるでアニマトロニクスが自我を持っているような──」

 

 

 そこまで言って俺は思わず固まった。アニマトロニクスは広義の意味で人形であり、そこに子供がねじ込まれる。そして彼らは勝手に動き出す……似たような出来事は、映画やアニメで山ほど出てくるじゃないか。

 

 

「アニマトロニクスたちには子供たちの魂が宿ったのよ。そして生前の恨みを果たすために動き出した」

「…………魂って、そんな。非現実的すぎますよ。それじゃあオカルトじゃないですか!」

 

 

 恐怖を紛らわす為に先輩へ向かってそう叫んだ時のことであった。彼女は突然俺の顔を両手で掴み、真っ赤な瞳を妖しく光らせてこちらを見つめてくる。そして──

 

 

「おかしなことを言うのね、三上勇くん。()()()()()()()()()()()()()()()

「────え?」

「三魂七魄って知ってる? あなたの認識する『意識』は3割の(コン)で、肉体に宿るものは(ハク)といって残りの7割。普通はそれぞれ同じものなのに、あなたのそれは別。まるで元々あった肉体に別の魂が宿ったようにね」

 

 

 鬼月先輩の言葉は荒唐無稽にもほどがある内容────しかし事実であった。俺は彼女に恐怖を抱きながらも好奇心を抑えきれず、ゆっくりと口を開いてしまう。

 

 

「仮に……仮にです。俺があなたの言う通りの状態だとしましょう。それと事件に、なんの関係が?」

「そうね……さっきは魂って言ったけど、彼らに宿ったモノには別の名称が与えられているの。『レムナント(残滓)』といって、それについて研究した科学者曰く『金属に宿る感情や記憶』のこと」

「は、はぁ……」

 

 

 どんどん話が胡散臭い方向に行っている気がするが、先輩の表情は真面目もいいところだ。とりあえずまだ聞く価値はありそうである。

 

 

「だけど、実際のところレムナントは金属以外にも宿るの。付喪神なんかはその典型例と言えるわ。長く使われたことで、記憶と感情が流れ込んで霊魂を得た存在」

「……まるで見たことがあるような言い方ですね」

「ええ、見たことがあるもの」「へっ?」

 

 

 予想外の返事に困惑しているこちらをよそに、彼女は淡々と説明を続けていく。

 

 

「私の実家は霊媒家……俗な言い方をすれば拝み屋ってやつかしら。とにかくそれをやっていて、恨みの籠った道具とかがしょっちゅう持ち込まれていたの。そして、私はそれに宿る残滓を見ることができた」

「……だから、俺の正体も?」

「そういうことよ」

 

 

 さも当たり前のように先輩は語るが、俺としては驚き以外の何ものでもない。SF全盛な世界なのにその手のオカルトが存在しているなんて、全く想像していなかったからだ。

 ──だが、よくよく考えてみれば納得できなくもない。某機動戦士なロボットアニメでもそういうオカルト存在はよく出てきたのだから、IS世界も同じようなことが起きてもおかしくないだろう。

 

 

「……それに、レムナントはISとも無関係じゃないの。コアに意識のようなものが宿っていることはもう習ったかしら?」

「え、はい。俺としてはこう、ロボット物に出てくるサポートAIみたいなやつだと思ってたんですけど」

「いいえ、違うわ。以前、どうにかISコアの成分分析の許可を得て実施したのだけれど──アニマトロニクスの稼働部品に使われているのと同じ金属が検出されたのよ」

「つまり…………どういうことですか?」

 

 

 全く話が理解できないのでそう聞けば、彼女は一瞬呆けたもののすぐさま気を取り直して説明を再開した。

 

 

「この金属はレムナントを宿しやすい性質を持っているの。だから、ISコアには恐らくレムナントが宿っている可能性が高いのよ」

「なる、ほど……?」

「ついでにだけど、レムナントの元となる強力な感情や記憶というのは女性の方が多量に有している傾向があるわ。だから、もしかしたらこれがISを女性だけが使える理由……かもしれないわ」

「はー……」

 

 

 先輩が語ったことを鈍い頭でなんとか整理してみる。

 まず、魂≒レムナントでありそれは金属や道具に宿ることがある。次に、レムナントを宿しやすい金属というものがあってISコアにも含まれている。

 そして最後に、レムナントの量がISを使える要因であるかもしれないということ。

 

 

 ──うーむ、納得できるようなできないような。

 そもそもレムナントとやらをこの人生で今さっき初めて耳にしたから信じ難いというのもあるが、それの存在を証明できるのが(転生者)と先輩の経験ぐらいしかないのが問題だ。

 彼女もレムナントとISの関係性について断言をしない辺りそこを気にしているのだろう。

 

 

「……三上くんは、信じてくれる?」

「……難しいけど、信じます。俺の正体を見破ったのは先輩が初めてですし」

「正体、ね──実を言うと、気づいたのは君が整備室に来た時なの。私は肉眼でしかレムナントを認識できないし、殆どのISコアのそれは微弱すぎて本当に宿っているのか判別が難しいしで」

「あ、そうなんですか?」

 

 

 ぽつぽつと語る鬼月先輩の表情は先ほどと別物で、自分が見たものを嘘と笑われることに怯える子供のようだ。

 最初に抱きついてきた時の興奮具合が嘘に思えるその姿を見て、俺は意を決した。

 

 

「……ちょっといいですか、先輩」

「み、三上くん!?」

 

 

 膝の間でぐるっと反転し、目一杯体を伸ばして彼女の背中に腕を回す。そしておっぱいの上に頭を乗っければ、彼女の紅潮した顔が間近にくる。

 

 

「色々教えてくれてありがとうございます。お返しになるかは微妙ですけど、俺の前世の話……聞きますか?」

「ほ、本当に!?」

「ええ、勿論。まずは────」

 

 

 俺は覚えている限りのことを話した。この世界は前世で読んでたラノベであること、前世の貞操観念のこと、あんまり技術が進歩してなかったこと、他にも色んなことを。

 あとは今世では『かっこいい』と思われたいこととかも伝えただろうか。

 

 

 手当たり次第に語っていくにつれて興奮していく先輩をよそに、俺は何とも言えない虚無感を覚えつつあった。

 前世の両親も、きっといたであろう友人も、好きだったはずのアニメのことすら思い出せなくなっている。ともすれば俺が転生した事実なんて無くて、ただ変な妄想をしているのではと思うほどに。

 

 

「……あ、あの。三上くん」

「──なんですか、先輩」

 

 

 そんな風に冷めていく思考が、続く彼女の言葉によって現実に引き戻された。

 

 

「その、言いにくいのだけれど……()()()()()()()

「……あっ」

 

 

 そう言われて気づく、今の状態に。体を伸ばしたせいで下半身が密着し、とくに股間部は彼女の腹との境目が分からないほどにピッタリで。つまり男のアレが布二枚を隔てて…………

 

 

「ご、ごご、ごめんなさい! 今すぐ離れ──」

「ちょっと待って!」

「むぎゅっ!?」

 

 

 立ち上がるよりも早く鬼月先輩に抱きしめられ、その勢いのまま胸部に顔が埋もれてしまう。

 柔らかい肉の塊が形を変えて顔にくっついてきて、息ができない苦しさと男の夢そのもののシチュエーションに対する興奮で頭がこんがらがりそうだ。

 

 

「て、提案なんだけど! 私が君に色々とアドバイスをしてあげるから、代わりにデータを貰えないかしら!?」

「むーっ、むーっ!!」

「ぐ、具体的には3サイズとか体脂肪率とか、後はお肌の滑らかさとか──」

いらないでしょ最後(むぅむむぅむーっ)!?」

 

 

 おっぱいをベシベシと叩いても彼女は全く離してくれず、むしろ腕の力がどんどん高まっていく。

 同年代と比べてもかなり大柄な先輩のパワーに俺が敵うはずもなく、もはや窒息死するしかないのかとあきらめかけたその時。

 

 

「──あ゛っ!?」

「ぷはぁっ!?」

 

 

 乙女にあるまじき奇声を発した瞬間に腕の力が緩み、それに合わせて全身の筋肉を総動員してどうにか抜け出す。

 文句を言ってやろうと鬼月先輩の方を見ると、彼女は山ほど汗をかいていた。

 

 

「も、もう8時過ぎじゃない! 早くしないとお風呂が混んじゃうわ!」

「あー、風呂……しょうがないですね、片付け手伝います!」

 

 

 大慌てでジュースを飲み干し椅子を元の場所に戻し、大急ぎで部屋を飛び出す。その勢いのまま整備室を駆け抜けてドアが開くのを待っていると──

 

 

「──ここにいたのか、勇」

「げっ、一夏ぁ!?」

 

 

 よりによって最悪のタイミングで遭遇してしまった。俺たち2人の肌は火照っており、先輩に至ってはノーブラである。

 故に一夏の纏う雰囲気はすさまじく剣吞で、ハイライトの消えた瞳だけで鳥肌が立ってしまいそうだ。

 

 

「鬼月いのりさん、でしたっけ。かなり勇と一緒にいたみたいですね」

「え、ええそうよ。織斑くんだったかしら、私は特に何も──」

「そんな恰好で言われて信じられるとでも?」

「へっ?」

 

 

 彼にそう言われて先輩は自分の服を見る──そして一瞬で顔全体が真っ赤にそまった。

 

 

「な、ななな!? 無い、無いわ! いつの間に……」

()()()()で浮かれて着け忘れましたか?」

「ちち、違うぞ一夏! 先輩はたぶん整備作業で汗をかいたからそれで──」

「言わないで!?」「あだぁ!?」

 

 

 彼女を擁護しようとしたら思いっきり頭をはたかれた、解せぬ。しかもそのせいで一夏の目から一層感情が抜け落ちるのだから最悪だ。

 開け閉めを繰り返す右手にはうっすらと血管が浮かんでおり、もはやいつ怒りが爆発してもおかしくない。

 

 

「まあ聞いてくれよ一夏! 先輩はいい人でさ、決闘前に訓練機使っていいって許可くれたんだ」

「その為になにかしたか?」

「ナニもしてねえって! いやまあちょっと一緒の部屋に──」

「OK分かった」「いや待て待て待て!!」

 

 

 拳を握るな拳を! お前のそれめっちゃ速いしクッッッソ強いじゃねえか! 俺でも避けれねえレベルで! というかダメだろイケメンが女の子殴ったら!

 どうにか最悪の事態を防ごうとわちゃわちゃしていると、不意にパンパンと大きな音が鳴った。3人そろって聞こえてきた方向に振り向けば、そこには織斑先生が立っていた。

 

 

「何をしている貴様ら。いくら自由時間とはいえ喧嘩はご法度だぞ」

「あ、その、織斑先生! 三上くんとお話をしていたらこんな時間になって、それで織斑くんがちょっと誤解をしてしまって……」

 

 

 先輩は急いで彼女に事情を説明する。一夏は相変わらずハイライトが行方不明だが、先生のおかげで少しだけ冷静さを取り戻したようだ。

 

 

「──ふむ、そうだな。安心しろ()()。鬼月はこう見えて整備課トップ、一夜の過ちなど起こしはしないさ」

「……分かったよ、()()()

「まあノーブラは擁護できんが」「先生!?」

 

 

 一夏を窘めるついでに鬼月先輩にグサッと釘を刺す織斑先生。うーむ、実に教師。

 ……というか、ここに来て初めて聞いたな千冬姉呼び。原作だと事あるごとにそう呼んで叩かれてた気がするんだが。

 

 

「それと三上。今回はよかったが今後はこういうことを控えるように。男が女の部屋に入るなど、鴨がネギどころか鍋と具材を全て背負ってやって来るようなものだからな」

「そこまでですか……?」

「おそらく真耶なら間違いなく飛びついてたな。がっつき過ぎで()から評判が悪いと聞くし」

(山田先生ェ……)

 

 

 知りたくなかったそんな裏事情……!

 いやまあ確かにクラスメイトに負けず劣らず視線が露骨だったけどさー、まさかそうだとは思わないじゃん! これからどんな顔して補講受ければいいんですか!?

 

 

「……さて、これで全員誤解は解けたな? 私は寮長室に戻る、3人とも問題を起こさないように」

「「分かりました」」「了解!」

 

 

 そう言い残して去っていく織斑先生を見送り、俺は鬼月先輩に「それじゃあまた明日!」と言い残して部屋へと向かう。

 一夏も少し遅れてついてきて、ハイライトも元に戻っていた。

 

 

「……まあ、なんだ。訓練機のあてがついたなら良かった。ところで練習内容は?」

「うーん、ひとまず教科書に載ってる基礎動作からだな。そこをおざなりにしてたら真っ先に負けるタイプだろうしな、オルコットさんは」

「違いないな。あと、先輩たちから聞いたが図書室で歴代入試首席の試験映像を観れるらしい。それも多分参考になる」

「まじか! サンキュー一夏! よーし、そんじゃあ今日はさっさと眠って備えるか!」

 

 

 勝負ができる目途が少しずつ立ってきたことを実感し、俺は思わず鼻歌とスキップをし始めるのだった。

*1
古い理科室とかにあるアレ




 鬼月先輩は某セミナーの生徒会長を2割増しぐらい色白にした感じです。

 感想もらえたら駆け回って喜びます。

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