貞操逆転世界で俺はチョロ可愛いをしてるらしい 作:黒鉄48号
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「よっ、ほっ──おわー!?」
鬼月先輩の提案を受けてから2日後。架空の衝撃で間抜けな声を上げながら地面に落ちた俺の方に一夏が近づき、携帯の空間ディスプレイを読み上げる。
「……5分19秒。2秒だけ伸びたな」
「あれで5分ちょい!? 体感10分越えなんだけど!?」
──セシリア・オルコットの専用機である『ブルー・ティアーズ』はいわゆるビット機だ。本体と同名*1のレーザービット4基、そして高出力のビームライフルを装備した射撃全振りISである。
どう考えても弱いわけのない機体と戦う羽目になったと知った時は思わず天を仰いだが、後悔先に立たずである。
ひとまず対策としてビット攻撃の回避に特化した訓練プログラムを組んでみたのだが……ここに来て成績が頭打ちになりつつあったのだ。
「なんかここら辺で勝負決めに来てるんだよなオルコットさん……なんで上下左右の攻撃捌けてるんだよ山田先生」
「図書館でついでに調べたけど、千冬姉が国家代表やってた時の二番手だったみたいだな」
「マジ?」
思いもよらない副担任の過去に驚きながら入試試合の映像を見返す。長さは30分前後ぐらいで、最終的にリヴァイヴのシールド用アームをぶち抜かれて防御手段を失ったことで先生は敗北していた。
俺も同じ機体を利用する以上、その技を使われる可能性は高い……というか、十中八九初手でやってくるに違いない。
となれば、求められるのはそれを回避することであり────裏を返せば
「痛て……落ち方ミスったかな」
「気を付けろよ勇。試合前に怪我したら元も子もないんだぞ」
「わーってるって……」
一夏の言葉を聞き流しながら再び飛ぼうとしたその時、ふと観客席にいる女子たちが目に入る。
今後行うであろう実践訓練の参考という名目で野次馬をしている彼女たちの囁きを、ハイパーセンサーの優秀さは取りこぼすわけがなく。
「うわ、痛そう……」「頭から落ちてたよね今?」「というか1回でも食らったら即終了って……」「代表候補生に勝てるわけないのにねぇ」
──うるさい、口を出すな。戦おうともしないお前たちに何が分かる!?
そう叫びたくなる気持ちをぐっと飲み込み訓練を再開。最初の3分はもはや目を瞑ってでも避けられるようになってきたが、4分を過ぎるとヒヤッとするような攻撃が織り交ぜられるようになり……そして結局、再び地面に。
これを数回繰り返した頃だろうか。不意に全身をビキッと不快な感覚が駆け巡った。
「あ痛た……」
「……勇、一旦休もう。リフレッシュした方がいい」
「リフレッシュぅ? んな暇あるかよ。相手は1000時間以上ISを動かしてるってのに、こっちはせいぜい……昨日を含めて1日あたり理論上6時間だから……最大でたったの30時間だぞ?」
機械の指で数えたそれを伝えると、一夏は窘めるような口調で話しかけてきた。
「仮にだぞ、勇。その30時間をフルに訓練で使えたとして、結局は付け焼き刃だろ? だったら少しぐらい休憩をとっても問題はないさ」
「……まあ、お前ほどのやつがそこまで言うなら」
どこから湧いた噂かは知らないが、彼は今でも
俺なんかよりはよっぽどこういう鍛錬について詳しいのは言うまでもないだろう。
ISスーツの土埃を払いつつしゃがみ込み、リヴァイヴから降りる。最初の何回かは立ったままこれをしたせいで一夏におんぶしてもらう羽目になったが、2日目となればもはや慣れたものだ。
そして彼に預けておいた携帯の電源を入れるのを待っている間に周囲を見渡し、さっきまでいたはずの野次馬がいなくなっていることに気付く。携帯を確認すれば既に夕飯時で、きっと食堂に行ったのだろう。
「もうこんな時間か……一夏、飯は買ってあるよな?」
「もちろん。小倉マーガリンでいいか?」
「甘いやつか、ありがてえ」
彼の差し出した袋からパンと牛乳を取り出し食べ始める。スーパーで売られてるそれの倍近いサイズのコッペパンはとても柔らかく、飲み物で押し流す必要がほぼ無いのはありがたい限りだ。
そんな食事を終えて一休み中のこと。少女たちの言葉が脳裏から取れず、俺は自然とつぶやいていた。
「……なあ、一夏。この訓練って意味あるよな? 今はちょっと壁にぶつかってるけど、そこさえ超えればきっとオルコットさんに勝て──」
「別に、
「──は?」
思いがけない親友の言葉に一瞬フリーズし、すぐさま掴みかかる。そんな俺を一夏は振り払おうとする素振りすら見せず、冷たい瞳で見つめてきた。
「今、なんつった一夏? 勝たなきゃ意味ねえだろ!」
「……相手は女だぞ? 象と戦う人間がいるかよ」
「で、でも俺にはISが──」
「ISが動かせる『男』ってだけだろ? そもそものスペックで勝ってる女性と競う必要はないじゃないか」
感情に任せて喋る俺とは対照的に一夏の言葉は常に冷静だ。しかしそれが却ってこちらの精神を追い詰め、口を動かすことを止められない。
「……かっこ悪いだろ、負けたら。俺を『可愛い』って言いやがったあいつらにアッと言わせてやる為に──」
「そこからなんだよ、勇。
「──ッ!」
反論の言葉を咄嗟に出すことはできなかった。彼の言うことは全くもって正論であり、俺の考えが異端であるのは紛れもない事実だ。
だけどそれを認められない……認めたくない。脳みそをフル回転させて言い訳をどうにかひりだす。
「……ゲームやらテストやら、なんであれ負けるってのはかっこ悪いんだよ。そりゃあ相手はエリート中のエリート──でも、それは『負けていい理由』にはならねえ!」
「でも『負けたって仕方ない』だけの理由は揃ってるだろ。国家代表候補生で、専用機持ちで、入試首席。この3つで十分過ぎるぐらいだ」
一夏は一切動いていないはずなのに、こちらへにじり寄ってきているような錯覚に駆られる。心臓が痛いほどに脈を打ち嫌な汗が全身を伝っていた。
「というか、勇。なんでお前は殊更『女』には負けたくないんだ?」
「……あいつらの目だ。愛らしいものを、儚いものを────なにより『かわいい』ものを見るあの目! もうウンザリだ、何をやっても変わりゃしなかった!」
そこまで叫んで一旦深呼吸。胡乱な目を向けてくる親友を無視して再び口を開く。
「でも、ここでオルコットさんに勝てれば? 代表候補生をチビの男がぶっ倒すんだ、間違っても『かわいい』と思われるわけがねえ!!」
「……それが分からないんだよ、勇。可愛いってだけでそこまでムキになる必要があるのか? その気持ちが俺に対してならまだ理解できるさ、同じ男として負けたくないって」
「…………デケえお前にゃ分からないさ。どいつもこいつも俺に対して二言目には『かわいい』だ! 男なら『かっこいい』だろ!? せめて1日1回そう呼ばれたいって思っちゃ──」
「別に、俺も可愛いって言われる事ぐらいあるぞ」
「────へっ?」
予想外の答えに思わず呆けた。170㎝オーバーの一夏が可愛いと言われるシチュエーションが全く思い浮かばない。そんな俺を見かねたのか彼はゆっくりと口を開く。
「そもそも俺だって、『男』としては高身長だけど大体女の方がタッパがデカいんだよ。エプロン着て料理作ってれば、千冬姉が何10回も『可愛い』って言ってくるし」
「そ、そうなのか……」
「まあ、とにかくだ。別に負けたっていいだろ。男な上に初心者なんだから上手いも下手も無いし」
「うぅ……」
全くもって正論だ。流石に言い返すのが無理だな──なんて思った矢先に一夏はこう言った。
「そんなに悔しいなら次勝てばいいんじゃないか?」
「…………次? それっていつだよ、一夏。決闘のすぐ後にクラス対抗戦、その後も個人トーナメントで合間にゃ
「……違うぞ、勇。トーナメントで当たる可能性は十二分にあるし、なんなら模擬戦でも申し込めばいいんだ」
「模擬戦だぁ? 既に倒した相手と? 俺がオルコットさんなら絶対に受け入れないな。一銭の価値すら無いし、もっと『戦うべき相手』がいるはずだろ」
「いいや、受け入れるメリットはある。だって俺ら『男』だぞ? その操縦データを得る為にこんな離島へ連れてこられたんだ。多分彼女だって『エリートたるもの~』つって拒みやしないさ」
「……データ、か」
──だったらどうして俺には専用機が、コアすらも渡されなかったんだ?
そう聞いてやりたかったが心に留める。一夏はそのせいで
……でも、俺は口を止めることができなかった。
「つまり、一夏。お前
「っ! 待て勇、決してそういうことじゃ──」
「じゃあどういうことだよ! こうやって訓練に付き合って、そのうえ飯まで買ってきてくれたのに! どうしてそんな言葉を!?」
「それ、は……」
彼は何かを言おうとしては止まってを繰り返し始める。それを見る俺の心は何故だかどんどんと冷たくなっていき、気付けばISに乗っていた。
「先に帰る」
「ま、待ってくれ勇! 俺は──」
「うるせえ! 聞いてやるわけねえだろ馬鹿!」
言い捨てた勢いのままにピットへ飛んでいき、制服をISスーツの上から羽織って第3アリーナの外に出る。
腹の中のむかむかに突き動かされるがままに走っていると、ぽつぽつと空から雨が降ってきた。慌てて携帯を確認するも天気予報は朝と同じく曇りで、傘なんて持っていないからどんどん濡れてしまう。
「うぅ、さっぶ……!」
春の雨特有の冷たさにブルブルと身を震わせながら雨宿りの出来る場所を探していると、まだ明かりの付いているアリーナがあった。慌ててそこに入ってから制服を脱ぎ捨て、絞ってみると濡らしたての雑巾のように水が零れるほどだった。
ホッとするのも束の間、ISスーツ単体だと寒さを耐え難いことに気付く。しかも男性用のスーツは着易さ重視とかで腰回りが露出しているから尚更だ。どこか温まれる場所はないかと冷たい廊下を歩いている内にピットへとたどり着いた。
「ふう、あったか──」
「み、三上さん!? どうしてここへ!?」
「……やっべ」
部屋へ入った瞬間目に入ってきたのは、豊満な肢体をぴっちりとしたISスーツで包んだセシリア・オルコット。どうやらここは彼女の訓練所だったようだ。
流石に邪魔するのはまずいなと思って回れ右をして──一歩踏み出すより先に彼女の手が俺を引っ張った。
「うおっと!?」
「こんなに濡れてしまって……今すぐ上着を用意しますわ!」
「あ、えっと……」
俺が戸惑っている間にもオルコットさんは手際よく動いていき、最終的に彼女の制服を羽織らされついでに暖かい紅茶まで渡されていた。
どこぞの高級茶葉を使ったのであろうそれは癖が無くて飲みやすく、体の芯から温められる感覚もあった。
「ぷはぁ……ありがとうございます、オルコットさん」
「いえいえ、これぐらい淑女として当然のことですわ。ところで、何故ここに?」
「ええっと、かくかくしかじかで」
「なるほど……」
ピット内の椅子に並んで座りながら言葉を交わす。透明な魔法瓶から紅茶を飲んでいる彼女の姿はISスーツながら優雅さがあり、思わず見惚れてしまいそうだ。
「織斑さんの気持ちもよく分かりますわ。こんなに小さくて可愛らしい殿方なら、同性でも大切にしたいと考えるのは当然ですから」
「……そうですか」
一瞬嫌味を言ってやろうかと思ったが、ここまで良くしてくれたのだから恩を仇で返すことはできない。
それに、毛布のように俺を包み込む制服とそこから香る心地良い匂いのおかげで気分が落ち着いてくる。
「ところで三上さん。あなた一体どのような訓練を?」
「入試の時のオルコットさんの攻撃を全弾回避する感じですね」
「──今、なんと??」
目をかっぴらいてこちらを見つめてきた彼女に「だから、全弾回避ですよ」と説明すると、オルコットさんは眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「…………はっきりと言わせてもらいますわ。そんなの
「え、いやでもそうしなきゃアームぶち抜かれて……」
「アレは単なる
「…………へ?」
予想だにしていない真実の暴露に思わずフリーズする。あの終わり方が事故? だとしたら、俺がこの2日間続けてきた訓練の意味は?
考えを巡らせていくにつれてどんどんと冷や汗が湧き出てきて、空調の効いた部屋にいるはずなのに体が震え始める。
バクバクと暴れ出す心臓を抑え込むように体を縮こませていると、不意に温もりと優しい香りに包まれた。
「オルコット、さん……?」
「落ち着きなさいな、三上さん。大丈夫、ゆっくりと深呼吸をして──」
彼女の囁き声と共に背中をさわさわと撫でられる。そのテンポに合わせて深呼吸をすると少しずつ体が楽になっていくように思えた。そしてオルコットさんはそのまま俺に語りかけてくる。
「わたくしも似たようなことは何度もありましたわ。前提条件が間違っていたり、或いは事実を誤認していたり……とにかく、沢山の間違いを経験してきました」
「……」
「ですが、それは当然のこと。人間である以上、大小問わず一切のミスをしないなど不可能ですわ。織斑先生だって時たま教科書を読み間違えていらっしゃるでしょう?」
「…………そう、ですね」
甘い声色に小さく頷く。……こうやって誰かに抱きしめて慰められるのはいつぶりだろうか。ましてや相手は代表候補生であり、日々の訓練で鍛え抜かれた逞しくも女性らしい肢体は心地よさも段違いだ。
そこに数時間の無茶な練習による疲れが合わされば眠気が湧き出るのも当然で、俺はうつらうつらと船を漕ぎ始めてしまう。
「三上さん? 大丈夫ですか?」
「うぅ……」
「…………もはや同意ですわよねこれ」
ボーっとする意識の中でオルコットさんのよく分からない言葉が聞こえてくるが、どうにも意識を保てそうにない。そのまま前へ倒れ込みそうになった瞬間──
「勇、だいじょ……オルコットさん?」
「あ、あら! これは織斑さん……」
ピットの巨大扉が開くと同時に飛び込んできたのは俺の親友だった。瞼が落ちかけの顔をそちらに向けてみれば、彼は全く濡れておらず左手には大きめの折り畳み傘が握られていた。
相変わらずしっかりものだなー、なんて思っていると一夏はこっちにずんずんと近づいてくる。そして彼女の腕の中から俺を引っこ抜いて俵のように背負ったのだ。
「んにゃ……?」
「勇を匿ってくれてありがとうございました。それじゃあこれで」
早口でそうまくし立てた彼はそそくさと出口の方に歩き始めた。
ぼやけて揺れる視界で床に写る俺の姿をぼけーっと眺めていると、「待ってくださいまし!」という言葉によって揺れがピタリと収まる。
「三上さん、最後に一言だけ!」
「…………ぬぁに?」
「全ての弾を避けるのでなく、当たってはいけない物を避けるのですわ!」
「………………?」
なんだか小難しい事を言ってるなーと考えている内に扉が開き、オルコットさんの姿が見えなくなるより前に俺の意識は途切れるのだった。
翌日の放課後。昨日と同じように空を飛びながら弾幕をくぐり抜けていたのだが、視界の隅に映る『20:14』の数字が明確な違いを示している。
(これはカス弾、これはブラフ、そんでこっちが……本命!)
ハイパーセンサーによって拡張された全方向に見えるレーザーをそれぞれ判別し、出力の低い弾に敢えて当たりながら高威力のそれを盾で受け流す。
そんな動きを30秒の間に何度も繰り返していれば、観客席の少女たちは驚嘆の声とともにパチパチと手を叩いてくれた。
そのお礼にウィンクをしながら地面にフワッと降りて、相変わらず渋い──だけどこの前よりは柔らかめ──表情の一夏に声をかける。
「一夏ー、残り何パー?」
「35%……悪くない数値じゃないか?」
「へへへ。いやー、やっぱ練習方法って大事だな!」
──今日の昼頃、鬼月先輩に昨日のあれこれを伝えた際に教えられたのがこの『試合が終わるまでエネルギーを出来るだけ残す』訓練だ。
そして実践してみればご覧の通り、以前の苦戦が嘘のような手応えの良さ! 飛べば飛ぶほど成績も伸びる喜び! おまけに女子の目もキッラキラ!!
そんなこの上ない心地よさにふふんと鼻を鳴らしつつリヴァイヴを脱ぎ、スキップしながら一夏に近寄る。
「なあなあ一夏、これやっぱりワンチャンあるんじゃない?」
「……調子に乗ると足元掬われるぞ。というかフラグになるだろそれ」
「フラグぅ? なーに言ってんだ、自信持ってなきゃ本番でミスるっての! それにー、お前も結構いい感じなんだろー?」
「……まあ、それなりに」
彼はそっけなく答えるが、左手をにぎにぎしている辺り満更でもないようで。
何せ剣道部の先輩たち*2とやり合ってほぼ勝てるぐらいに半月のホテル軟禁で鈍ってしまった剣の腕を取り戻しつつあるのだ。
しかも一夏は昔、悪ふざけの一環で俺や弾たち複数人が竹刀を持って襲い掛かった時には1分足らずで全員しばき挙げたことすらある。ともすればオルコットさんといい勝負をするかも、なんて思ってしまうのは当然のことだろう。
「こうなりゃ負けてらんねえな。一夏、飯くれ飯!」
「……ったく、はいよ」
差し出されたピザトーストをバクバク食らいながらISを見つめる。訓練機ということで『
昨日よりも汚れていない緑色に喜びを覚えながら、再びその中へと飛び込むのだった。
貞操逆転の価値観の相違に悩むお話でした。
ちなみに余談ですが、どうやら現実にはお茶用のタンブラーなんてものがあることをこの話を書いてるときに知りました。しかも意外とホットもいける……!
感想が来たら飛び上がるほど喜びます。
ムフフなif、読みたいですか?
-
いる
-
いらない
-
そんな物より本編優先して♪