猟犬はハンドラーの夢見るか   作:tomokon

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『サンドストーム』

 バズーカの弾頭が爆発する。だが、その付近に『シルベルヴィント』はいない。どうやらクイックブーストの方が僅かに早く発動し、爆発範囲から逃れたようだ。

 

「はあ……はあ……!」

 

 しかし当の本人は、コクピット内で荒い息を吐いていた。

 危なかった――心中でリーナは呟く。

 『シルベルヴィント』は軽量故に機動力が高い分装甲が薄く、同時に衝撃にも弱い。ACSも高い負荷には耐えきれず、バズーカなど喰らえば負荷限界を突破(スタッガー)していただろう。

 そうなれば身動きがとれなくなり、動的防弾制御も効かなくなる――『ヘルファイア』が背負う二基の三連装レーザーキャノン、あれの直撃を喰らうことになる。

 『シルベルヴィント』は、まず間違いなく大破するだろう。

 

「どれだけこちらが優位でいようと……一瞬で、(くつがえ)される……!」

 

 エネルギー切れを起こした自分への戒めも込め、リーナは呟いた。

 一方、アルダ。

 

「……躱されたか」

 

 『ヘルファイア』のコクピットの中で、年かさの男は静かに言う。

 多くの皺が顔には刻まれ、短い顎髭を生やした、小柄な男。しかしその瞳は鋭い光を宿しており、チャンスを逃したにもかかわらず、表情に焦りはなかった。

 

「まあ、いい。仕留める機会など、この先もある」

 

 操縦桿を握り直し、アルダは言った。

 

 再度、撃ち合いが始まる。

 展開としては先の繰り返しだ。『シルベルヴィント』はダメージレースを優位に進めた。しかし展開とは裏腹にレーナの顔には焦りがにじみ始め、時間が経つにつれて強くなる。

 『ヘルファイア』を、削り切れない……幾度も攻撃を当て、確実にダメージを蓄積させているはずなのに、それでも倒しきれないのだ。その上、

 

『警告。敵増援接近』

「ッ、来た……!」

 

 レーナは息を飲む。COMが報告した通り、レーダーには幾つもの光点が近づく様子が表示されていた――彼女が懸念していた通りに。

 このまま敵部隊が『ヘルファイア』と合流すれば、物量と火力で押し切られる。そう考えたレーナは、勝負に出た。

 

 一度距離を取り、COMに『ヘルファイア』のACS負荷を分析させる。度重なる攻撃によって負荷はかなり溜まっており、スタッガーまであと少しだ。

 それを確認したレーナは全ての武器をリロードし、アサルトブーストを発動。機体が一気に加速する。

 同時にミサイルを、アサルトライフルを発射。多くのミサイルが、加速が乗って威力を増した弾丸が、『ヘルファイア』に迫った。

 

 『ヘルファイア』はクイックブーストで先に飛んできたミサイルを避けるも、全ては躱しきれない。幾つかが直撃し、更にそこにライフル弾が突き刺さった。

 コクピットに警告音が鳴る。スタッガー。『ヘルファイア』の動きが止まって無防備な姿を晒し、そこで『シルベルヴィント』が接近。背部構造が展開し、閃光が迸った。

 アサルトアーマー。膨大なパルス波を放出し、周囲一帯を攻撃する武装だ。威力も高く、軽量級の『シルベルヴィント』が持つ武装の中で最大の攻撃力を持つ。

 それをスタッガー状態で喰らった『ヘルファイア』は、しかし、全身をボロボロにして尚動いていた。

 

「……焦ったな」

 

 コクピットの中で、アルダが笑う。アサルトアーマーを発動し、その余波で動けなくなった『シルベルヴィント』にバズーカを向け

 

「これで、終わりだ」

 

 容赦なく、発砲。直撃し、『シルベルヴィント』がスタッガー状態になる。

 更に二基の三連装レーザーキャノンを展開し、砲口を向け――

 

「!?」

 

 警告が、突然鳴る。クイックブーストで離脱すると、十以上のミサイルが『ヘルファイア』を掠めていった。

 

『なにやってやがる、ガキ』

 

 『シルベルヴィント』のコクピットに男の声が響く。

 

『任せろって言っておいてその体たらくかよ、ああ?』

『うるさい。……でも……助かった。ありがとう』

『ハッ、いつになくしおらしいじゃねえか。なら』

 

 一機のACが、アサルトブーストで戦場に突っ込んでくる。

 手に持つアサルトライフルとガトリングガンで『ヘルファイア』を攻撃しつつ、増援に現われたMT部隊にも照準を合わせる。

 

『更に貸しを作って、もっとしおらしくさせてやらあ!』

 

 ローガンのAC『サンドストーム』は、背負った十連装ミサイルと六連装プラズマミサイルを発射した。

 

【挿絵表示】

 

『調子に乗らないで。私だって、まだやれる……!』

 

 若干の苛立ちを声に滲ませたレーナは、ACSが回復した『シルベルヴィント』を操作。『ヘルファイア』から距離を離しつつ、戦闘を再開した。

 

 一帯は、乱戦状態に陥った。

 突入してきた敵MT部隊は『ヘルファイア』と連携すべく、『ヘルファイア』の周囲を固めつつ弾幕を展開する。高威力のキャノンやミサイルを持った機体は動き回り、『シルベルヴィント』と『サンドストーム』の足止めをすべくそれらを撃ってきた。

 『ヘルファイア』もその動きに合わせるべく、リニアライフルを連射。合間にバズーカも撃って、MT部隊を援護する。しかし当のアルダはというと

 

「……勝てんな、これは」

 

 あくまで冷静に、そう呟いていた。

 『ヘルファイア』の損傷が激しく、装甲を活かした圧す戦法がとれない。それにMT部隊の連携もかなりのものであったが、それ以上に二機のACの連携が巧みだった。

 『シルベルヴィント』が高い機動力で翻弄し、それでできた隙を突いて『サンドストーム』がミサイルとガトリングガンを撃ち込んでくる。かといって『サンドストーム』を狙えば、今度は頭上から『シルベルヴィント』が仕掛けてきてかき回されるのだ。

 このままでは全滅する――そう直感したアルダは、一つ頷く。

 

「ここで死ぬのも馬鹿らしい」

 

 クイックブーストでMT部隊から距離を取り、即座に反転。MT部隊から焦った声で通信が入るも、全て無視した。

 

「お前等はせいぜい、俺の盾になれ。……じゃあな」

 

 アサルトブーストを起動し、要塞へ向けて飛んでいった。

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