整備班たちが慌ただしく駆け回る。格納庫には発進する機体や帰ってきた機体で溢れており、その一角で、アルダの『ヘルファイア』も修理と補給を受けていた。
そして、当のアルダはというと
「ふむ……」
『ヘルファイア』のコクピットに座り、ディスプレイに表示された情報、現在の戦況と今後のバラージ要塞側の動きについて目を通していた。
「ベイラム側の急襲はほぼ成功。突然の降下作戦に対応できず多くの対空陣地を削られ、降下部隊の集結を許しつつある、か。そして部隊間同士の戦闘は、現在
戦況は、若干不利とアルダは見ている。しかし今の段階ではまだ巻き返しも可能だろうと彼は見ていた。そこで重要となるのは、AC部隊の戦力比である。
ACの戦力はパイロットに左右される部分が多く、大した腕のない者であれば10にも満たないMT部隊にもあっさりやられてしまう。しかし逆に言えば、腕の良い者であれば数十機にも上るMT部隊とでさえ単機で渡り合えるのもACと言えるのだ。
「ベイラム側で確認されたACは6機――内2機は猟犬どもで、他はベイラム直属のAC部隊。対してこちら側は、俺を入れて5機――俺の他はベイラムと同じく、アーキバス直属のAC部隊……質としては、互角と見ていいか。しかし」
一機の差は大きい。特に腕の立つ者が集まっている場では――そうアルダは考える。
アーキバスのAC部隊はベイラムのAC部隊と当たることとなるだろう。そうなれば猟犬たちと当たるのはアルダということになる。しかしアルダの腕では、二機同時に相手するのは難しい。となれば、MT部隊を同伴し、戦うことになるだろう。
「とはいえ、この状況でどれだけのMT部隊を俺に回してくれるか。流石にこれ以上逃げるのはまずかろうし、上に行くためにもやるしかないだろうが……」
少し先走ったかと、アルダは自嘲する。しかし希望がないでもなかった。アルダはあの後指揮官にある提案をしており、そろそろ連絡が来るはずなのだ。
『アルダ』
と、そこで指揮官から通信が入った。
「指揮官どの、結果はどうなりました?」
『……喜べ、貴様の望んだ通りの結果になった』
「ほう……それなら」
『そうだ。現在輸送機で向かってきている――独立傭兵、ルーザ・バレットがな』
「助かります。奴のメナムアリーナでのランクは10位……俺には多少劣りますが、十分優秀な傭兵です」
『誰がお前に劣るって?』
指揮官との通信に、誰かの声が混じる。指揮官は鼻を鳴らして画面から消えると、入れ替わるように一人の男が画面に映った。
腕がむき出しの改造軍服で均整の取れた肉体を包み、赤く焼けたその顔には短髪にした黒髪が生える。不敵な笑みを浮かべ、
「ルーザ、久しぶりだな。相変わらず元気そうで何よりだ」
『そっちも相変わらずの性格の悪さのようで何よりだ、クソジジイ』
「再会していきなりクソジジイ呼ばわりは酷いな。事実を言っただけなのに」
『そういうところがクソジジイって言ってるんだ! まったく……性格の悪さもそうだが、口の減らなさも相変わらずだな、本当に!』
「ククク……それが俺だからな。まあ何はともあれ、お前が来てくれて嬉しいよ。そうでなければ、苦戦したのは間違いないだろうからな」
『アンタがそこまで言うってことは、件の猟犬は……』
「強い。一対一なら互角の勝負に持っていけるだろうが、二対一ではまず勝てない。それだけの相手だ。だからこそ、お前の力が必要だと判断した」
『……口の減らないアンタがそういうなら、間違いはなさそうだな。分かった。輸送機が要塞に近づいたら、まずアンタとの合流を目指す。ポイントを指定してくれ』
「なら……そうだな」
ディスプレイに地図を表示するアルダ。しばらく画面を見ていた彼は、一つ頷く。
「……ルーザ、合流するのはもちろんだが、そのついでに一つやってほしいことがある」
『やってほしいこと?』
「現在、各地の戦線が膠着状態に陥っていてな。お互いにじりじりと消耗している状態だ。そこに一つ、変化を加えたい」
『……なるほど、俺の機体でかき回せってことか』
ルーザは後ろを振り返る。その視線の先には彼のAC、軽量二脚機の『バレットストーム』が鎮座していた。
「そうだ。幸いお前の機体ならそうそう捕まることもあるまい。ACが出張って来たら逃げればいいし、合流するまでの小遣い稼ぎと思ってやってもらえると助かる」
『そりゃあ、別に構わねえが……しかしそんなこと、アンタが勝手に決めていいのか?』
「問題ない。指揮官どのも納得して下さる。……そうでしょう?」
誰かに向かって言うアルダ。少しの時間の後、指揮官がディスプレイ上に現れ、不機嫌そうに鼻をならしながらも頷いた。
『……貴様の言う通りだ。今の段階で敵の勢いや数を削れれば、後々楽になる……詳細はこの後送るが、敵兵器を一機落とすごとに金を払おう。それでいいか、ルーザ・バレット』
『もちろん。金をもらえるなら文句もなし、それにACと当たらなくていいっていうなら儲けもんだ』
ニヤリとルーザは笑う。
『このジジイと合流するまでは、せいぜい小遣い稼ぎさせてもらうぜ。じゃあな』
そう言ってから、通信を切った。指揮官は唸りつつ、言う。
『なるほど……確かに、頼りにしてよさそうだ。貴様が認めるだけはあるということか』
「評価していただき光栄ですよ、指揮官どの。……さて、こちらも準備ができたようです」
外の作業員から、整備終了の合図が来ていた。
アルダはコンソールを操作し、自機の最終チェックを行う。
装甲――問題なし。
四肢の動作チェック――問題なし。
ブースター――問題なし。
武装――動作チェック及び弾薬の補給、すべて完了。
アルダは操縦桿を握り、作業員へ離れるよう呼びかける。
「俺は奴との合流地点へ向かいます。その後は主力MT部隊とともに敵の殲滅を行う――それでよろしいですね?」
『それでいい。……行け』
「了解」
『ヘルファイア』のクロラが、動き始めた。