報を受けたローガンは、すぐさま撤退。陣地まで移動して再度の補給を受ける。
作業MTの手により、銃弾がガトリングやライフルに装填されていき、ミサイルがランチャーに詰め込まれる。装甲が交換及び補修され、戦闘前の状態とまではいかずとも、頑強な威容を取り戻していた。
陣地では兵士やMTが忙しなく駆け回っている。それらからは強い緊張が感じられ、決戦が近いことを感じさせた。
『現在、敵主力はゆっくりと前進。我々を覆い被さるような形で動いています』
ベイラムのオペレーターが、スティック状の携帯食を頬張るローガンに戦況を告げる。
『同時に要塞からの砲撃も増加。集結し損ねた部隊を排除しつつ陣地に迫っているというのが今の状況です』
「……期待通りの流れになったとはいえ、アーキバスの抵抗は激しいみてえだな」
『はい。特に途中から割り込んできた、ルーザ・バレット。彼による撹乱によってアーキバスは勢いを盛り返し、五分の戦況に持ち込んでいます』
「おいおい……そいつ、随分好き放題してくれたみてえじゃねえか。リーナのヤツ、偉そうに言っといてこれかよ」
『リーナさんは良くやってくれましたよ。彼女がいなければ被害は更に大きくなっていたでしょう。最終的にルーザを撤退させたのも彼女の働きによるものですし』
「フン、そうかい。ならいいが、それで? その今後の作戦ってのは、予定通り実行できんのか?」
『既に実行しています。予定通りにいくかは、我々の働きにかかってくるでしょう。特に、貴方達AC乗りの働きに』
そこでオペレーターは、一度言葉を切る。
『現在敵AC部隊は敵主力の先頭に立ち、こちらのAC部隊と交戦しています。ローガン、貴方は補給の完了後、現地に急行。敵ACを排除、もしくは――』
「
携帯食を食べ終えたローガンは操縦桿を握る。補給は完了し、動作チェックも終わった。後は、行くだけだ。
「それじゃあ行ってくるぜ。精々、俺等の活躍でも祈っときな」
『むしろ絶対に活躍して下さい。そうしてもらわないと困るので』
「ハ、そうかい。なら、多少は気張るとするかね!」
軽口を言った後、ローガンはアサルトブーストを起動。陣地から『サンドストーム』が飛び出す。
高速で動く『サンドストーム』。コクピットからは景色がみるみる後ろへ流れていく様が映されている。その景色の中で、多数のMTや装甲車、戦車が前線へ向かう様も見られた。
大軍同士の決戦――それが今まさに、行われようとしている。
大軍が動いている独特な空気の重さと、それに満ち満ちている緊張感。前線から流れてくる多くの硝煙、爆煙が、否が応でもその気配を感じさせるのだ。
「いよいよ――ってわけかい」
ローガンは呟く。その声は若干震えていて、しかし、口の端を彼は吊り上げていた。
やがて『サンドストーム』は、小高い丘となっている所に出る。そこは要塞まで繋がる平野が一望できる場所で、そこでローガンは、見た。
凄まじい数のMTが、装甲車が、戦車が戦っている様。
空からは航空支援のミサイルが、要塞からの砲撃が降り注ぎ、銃弾の嵐が飛び交っている、巨大な戦場を。
未だ見たことのない戦場が眼前にはあった。そしてこの戦場でさえ未だ本隊同士はぶつかっていない、いわば序章でしかないことが、ローガンを更に戦慄させる。
しかし戦慄していながら、ローガンはそれに飲まれない。
一瞬硬直したかと思えばすぐに正気を取り戻し、戦場を俯瞰。望遠モードで戦場を見渡し、一際銃火の光芒が激しい一角を見つける。そこでは『ヘルファイア』や『シルベルヴィント』など、多くのACが戦っていた。
「――見つけた!」
戦意に満ち満ちた笑みを浮かべたローガンは、『サンドストーム』を丘から飛び立たせる。そして、一直線に戦場へ向かっていった。
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要塞の上空、対空砲も届かない高度の空域に、一機の輸送機が飛んでいる。『シルベルヴィント』や『サンドストーム』を投下した、ハンドラーの持つ輸送機だ。
その中の、とある一室。多くの機材が置かれた部屋で、ハンドラーは椅子に座り、眼前のコンソールに指を滑らせていた。
「アルダ・バートレイ……年齢は68。スッラと同じ、初期型の強化人間……」
モニタに映されている資料を見つつ、ハンドラーは独りごちる。
「元々の所属は技研直属の試作機運用部隊……『アイビスの火』以降メンバーの多くは消息不明ながら、確認されている人間は現在も傭兵や兵士、技術者として活躍している。そして……」
ハンドラーの指が、タン、とコンソールを叩く。モニタにアルダの愛機、『ヘルファイア』が映し出された。
「技研の遺産。その幾つかを再現、運用し、データを取っている」
再度、コンソールをハンドラーの指が叩く。モニタに更に幾つかの『ヘルファイア』の画像が映し出され、それらには戦闘中の動きから解析されたデータが添付されていた。
「ブースター噴射炎及び各種動作のデータは環流型ジェネレーターのもの……だが、これは偽装と推定。戦闘中のデータから、機体に搭載されているジェネレーターを推測――」
彼の周りにある機材が、静かな唸りを上げる。数回の電子音を響かせた後、ある物質を探るためのAIが、はじき出した答えを画面に表示する。
「――
ハンドラーの雰囲気が変わる。もはや殺気とすら言って良い剣呑な雰囲気を纏った彼は、秘匿通信用の回線を使用し、幾つかの連絡先に向けて通信を行った。
それを済ませたハンドラーは椅子から立ち上がり、輸送機の格納庫に向かう。そこの、奥まった区画。猟犬たちにも隠されている場所には、一機のACが鎮座していた。
「『サンセット』」
ハンドラーは、機体の名を呼ぶ。
続けて、かつての飼い主のように、言った。
「仕事の時間だ」