問題だらけで草ァ!! 外伝 -Eternity in a moment- <通常版>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
1.書き手はACⅥ勉強中のにわか。
2.あまり深く考えないで書いているため、世界観のすり合わせがふわっとしている。
3.ハーメルンに掲載している拙作『問題だらけで草ァ!!』シリーズ×スパロボシリーズ(00参戦作品のみ)×ACⅥのクロスオーバー。
4.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
5.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
6.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
7.『問題だらけで草ァ!!』はZシリーズ、OE、UX、BX、Vを下地にして混ぜたような架空の世界線となっている
8.オリキャラ多数。
9.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
10.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
11.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
12.原作および登場人物のキャラクター崩壊。
13.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替え
14.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味している

15.『トロフィーを獲得しました 【夜明けの鐘と花吹雪】』のネタバレに該当する情報が記載されている(重要)
16.『トロフィーを獲得しました 【夜明けの鐘と花吹雪】』のネタバレに該当する情報が記載されている(重要)
17.『トロフィーを獲得しました 【夜明けの鐘と花吹雪】』のネタバレに該当する情報が記載されている(重要)

18.胸糞悪い要素が含まれている(R-15相当)

このような作品でよろしければ、どうかよろしくお願いします。



現実:「逃げるな! 俺から逃げるな、グラハム・エーカーァァァァ!!」 ←()()へと至る物語

 

 ――手を離すのは、彼女の方だと思っていた。

 

 

『貴様、何者だ!?』

 

『私はグラハム・エーカー。キミの存在に、心奪われた男だ!』

 

 

 グラハムが少女に一目惚れをしたとき、グラハムは彼女についての情報を一切有していなかった。対して、当時の少女――現恋人である刹那は、この時点で既にこちらの情報を把握していたと聞く。

 当時はソレスタルビーイングが世間に姿を現す前であり、世界には銃声の音が絶えず響き渡っていた。人類同士の争いだけでなく、外宇宙より飛来した異種生命体が活発に動き始める寸前。

 細かな紛争から目を逸らし、見ないフリさえすれば『概ね平和な世界である』と言える時代だった。実際、あの頃の交流も、『少女の背景に対する疑問』に見えないふりをしていれば、平和な交流を築けていたから。

 

 それでも、世界の情勢は絶えず変化し続ける。気づきたくなかったこと、知らないふりをしていたかったことが突き付けられる瞬間が訪れたのは当然のことだった。

 

 

『この世界に、神なんていない』

 

『俺は、知っていたんだ。最初から。……こうなることも、わかっていた』

 

 

 あの日、刹那はそう言って、ワンピースの裾を握りしめながらグラハムを見つめた。当時の彼女は――グラハムにとっての刹那は、いつまでも少女なのだが――16歳。年頃の、うら若き乙女であった。そんな少女が背負う過去と目指す理想の重圧を、おぼろげながらに認識した瞬間のことは今でもはっきり覚えている。

 かすかに体を震わせながら、体の奥底から絞り出すようにして紡がれた言葉。赤銅色の瞳に揺れていた絶望も、歪んだ瞳から零れ落ちた涙に込められたアイも、自身を罰するかのように固く閉じられてしまった目も――ボロボロになりながらも尚、手放したくないと願い続けて、ひっそりと抱ええこんでいた想いが。己を破滅に導くと知っても尚、失いたくないと祈り続けていた想いが。

 

 信じる対象(もの)も祈る対象(もの)もないと言う少女が、文字通り『勇気を出して』、信じて祈ったもの。

 それは、少女に対して惜しみなく好意を手渡す男の心だった。愛していると、好きだと、真正面からぶつかってきた男の心だった。

 幸せになる資格がないと悩みながらも、それでも、自分に惜しみなく愛を手渡す相手を幸せにしたいと願った少女の心に触れたときのことを、覚えている。

 

 ――情けない話、どうしようもなく泣きたくなったのだ。

 

 

『やはり俺には、赦されるはずがなかったんだ。ありきたりの幸せなんて』

 

『結局この手は、何かを壊すことしかできない。……あんたを幸せにすることなんて、できるはずがなかった』

 

 

 刹那の過去を知ったのは、随分後のことだった。

 

 卑劣なテロリストから洗脳を受け、手始めに家族を手にかけさせられた。そこからは転がるようにして少年兵へと仕立て上げられ、とある戦場の一角で仲間共々見殺しにされそうになる。最早これまでかと思ったとき、ソレスタルビーイングのMS――Oガンダムによって命を救われ、そのパイロットをしていたリボンズ・アルマークによってガンダムマイスターへと推挙された。

 刹那は元来責任感が強い性格らしく、テロリストの言いなりになって動いていた過去のことを“自分の罪である”と認識していた。彼女がグラハムに対して頑なな態度を貫いていたのも、時折何かを思い悩むような仕草を見せるのも――過去を思い出して思い悩むのは、今でもまだ続いていることだし、グラハムも刹那のことを言えないけれども――自身の過去が由来だった。

 けれどそれ以上に、刹那はグラハムを想ってくれていた。『グラハムのことを幸せにしたい』と願ってくれて、『自分のことを幸せにしてくれたグラハムのために、何かを返したい』と思ってくれて、そのために真剣に考えてくれた。その結果が、あの日の涙だったのだろう。あの日奮い立たせた勇気だったのだろう。

 

 あの日のグラハムも、今のグラハムも、それに応えることが出来ただろうか。今この瞬間も、出来ているだろうか。

 その答えは、未だ出ない。努力はしているけれど、ただそれだけだ。淡く微笑み頷き返す愛しい人に甘えている。

 

 

『……幸せだと、思ったんだ。キミに、こんなにも想ってもらえているとは』

 

 

 あの日も、あの日に至る前も、そうして今も。

 この気持ちは、この幸福は、何も変わらない。

 

 

『私は後悔していないよ。キミと出逢ったことにも、キミを好きになったことも、キミと戦うであろう運命も、すべてを受け入れる』

 

『誰が何を言おうとも、キミは確かに私の“運命の相手”だよ。……過去も、今も、そしてきっと――未来(これから)も』

 

 

 ――この答えも、変わらない。

 

 

 

 

 

 

「――グラハム……?」

 

 

 

 

 

 

『丁度、新しい人形(オモチャ)が欲しいなって思っていたの。元々、この子のことは邪魔だなって思ってたのよね。――さーて、どうしてやろうかしら』

 

『貴方の大事なものは、みーんなアタシの掌の上。アタシの意志1つで、自由に動かすことが出来る。貴方がアタシの不興を買ったら――貴方の大事な人たちは、一体どうなるのかしらねェ?』

 

 

 刃金蒼海の言葉がハッタリなどではないことは、否が応でも《理解し(わかっ)て》しまった。“彼女は既に、その言葉を実行するためのプロセスを組み終えているのだ”――と。

 それを突き付けられたときの悪寒や恐怖も、未だにずっとどこかにこびりついている。あの女の傀儡になることを選び、それが理由で歩むことになった地獄絵図も含んでだ。

 

 例えるならば、それは、鳥籠に閉じ込められた鳥。あるいは、磔にされた人間。自分の体中に鎖が巻かれているような状態だろうか。

 蒼海にとってのグラハムは、自身の望む『革新』を成すための駒であり、玩具に過ぎない。肉体関係/不貞を強要してきたのもその一環だろう。

 頭を弄られ、記憶を奪われ、思考プログラムという悍ましい技術を施され、どこにも行けない傀儡へと仕立て上げられていく。

 

 

『生きることをやめてしまったら、明日を掴むことなんてできないだろう』

 

『お前も、生きろ。――生きてくれ、グラハム・エーカー』

 

 

 ――それでも、どうにか踏み止まれたのは。

 

 ――自分に明日が来ないことを知っていても尚、終着点(おわり)願望(ねがい)を手放さずにいられたのは。

 

 

『キミは、私を忘れてしまうのだろう。きっとそうだ』

 

『……だが、私は存外諦めの悪い男でね。それが取り柄なんだよ、“少女”』

 

 

 運命なんて変えられない。未来なんかどこにもない。分かっているのに、止めることができなかった。

 

 第3者から見れば破滅への道程だろうが、構うものか。せめて――グラハム/ブシドーの存在が過去になっても、“少女”にとって、鮮烈なものとして残ってくれたなら。そうして、最期の瞬間に、“彼女”を見つめることができたなら。己すらままならずとも、自分がどう死ぬか/生きるかくらいは決めたい。破滅一直線の、馬鹿馬鹿しいくらいささやかな願いだった。

 そんな願いのために、刹那には沢山迷惑をかけてしまった。刃金蒼海の傀儡として何度も差し向けられたし、戦乱の半ばからは更に強力な思考プログラムを施されたことで障害や邪魔者として仕立て上げられてしまったし、最後は事実上の生体CPUに成り果てた上で刹那の元へ差し向けられた。故/特に、クロスアライズに合流する直前の記憶は曖昧である。

 刹那とクーゴが『グラハムを助けたい』と意思表示をし、そのために尽力していなかったら――グラハムはきっと、あの場で命を落としていただろう。恐らく、そちらの方が効率が良かっただろうし、同時期に活発化していた侵略者たちを倒すことに力を割けたはずなのに、刹那やクーゴ、及びクロスアライズの面々はそれをしなかった。

 

 彼女も彼も、蒼海の傀儡を()()()()()()()グラハムのことを案じてくれた。

 ……それがグラハムにとってどれ程の救いだったのか、きっと知らないのだろうが。

 

 

『“キミという存在がありながら、他の女からの要求に応じ、不貞と不義理を働いた男”だ。“世界に歪みを生み出す存在に与する者”とも言える。どんな理由があれど、それは純然たる事実だ。……どのような沙汰も、糾弾も、甘んじて受けよう』

 

 

 いつかと同じ、よく似た光景。

 だけれど違うのは、立場が逆転していることか。

 

 あの日、悲嘆に暮れていたのは刹那の方だった。平和だった――否、何も知らずにいられた頃には戻れないと、それでも抱き続けた想いに嘘偽りはないのだと叫んでいた少女の姿を。自身の立場を、覆せない過去の罪過を、積み重ねてきた日々を手放す覚悟を決めて。勇気を奮い立たせて、グラハムの前に立った刹那の姿を、今でも覚えている。

 断罪を受け入れるかのように自分の身を差し出してきた少女の心境は、きっと、刹那と真正面から向き合って己の罪を吐き出したグラハムとよく似ていたのだろう。……最も、グラハムの方が、刹那に対して相当な裏切りをしていたのだけれど。故に、彼女へ告げた言葉通り、どのような罵詈雑言も、糾弾も、沙汰も、甘んじて受け入れるつもりだった。

 

 ――それなのに。

 

 

『――いいんだ』

 

『――いいんだ、グラハム』

 

 

 彼女はそう言って、淡く笑った。背中に手を回して、力を込めて、抱きしめてくれた。

 あの日のグラハムが刹那にそうしたように、惜しみなく愛を手向けてくれた。

 ……グラハムはずっと“刹那を愛する者”として許されない行為を積み重ねてきたというのに。

 

 

 

 

 

 

「――グラハム……!」

 

 

 

 

 

 

『こいつ、ソレスタルナントカのパイロット――“クルジスのガキ”じゃねえか。しばらく見ないうちに、より一層色気づいたもんだな』

 

『全然だな。色々と()()()()部分が多すぎる。だが、()()()()()()()()で言えば、問題なく()()()範囲ではあるな』

 

 

 “今日の昼食を何にするか”という調子で顎に手を当てる男の姿を、覚えている。

 奴こそが、刹那を洗脳して少年兵に仕立て上げ、戦争の道具として使い潰そうとしていた首謀者にして実行犯。

 

 

『恋人ぉ? お前、“クルジスのガキ”の恋人(オトコ)か!?』

 

『堅物なミスター・ブシドーサマが、あんな痩せっぽっちのガリガリな女がお好みとはな! アンタも随分奇特な趣味を持ってンじゃねえか!!』

 

『“アイツ”は戦うことしか能のないガキだ。俺が知ってる限りじゃ、()()()の知識も皆無だったよ。年齢と発育の関係もあって、傭兵仲間でも“あのガキ”を呼び出すような物好きは1人もいなかったからなァ』

 

『女っ気のないガキをあそこまで色づかせたんだ。アンタの手練手管について、詳しい話を聞かせてくれよ? 今回の仕事と後学のために!』

 

 

 下卑たように笑う悪鬼外道の姿を、覚えている。

 時折、奴の言葉や姿が脳裏によぎることがある程度には。

 

 

『アンタも俺と同じ穴の狢だな! 何も知らないガキをだまくらかして手を出したって意味じゃ、俺もアンタも何も変わらないじゃねえか!』

 

 

 ――奴と同じ()()に成り果ててしまいそうになったことがあるから、猶更。

 

 

『――聞き分けの悪い玩具(オニンギョウ)さん。しょうがないわね』

 

 

 “幼い子どもの行動に呆れた”ような調子でため息をついた女の姿を、覚えている。

 奴こそが、グランドマザー『テラ』の準傑作。人間側の黒幕にして、アロウズを裏から支配していた実行犯。

 

 

『彼が抜けてしまった分は、貴方に働いてもらわないといけないわ』

 

『彼の代わりに、貴方がするの』

 

『――貴方が、貴方自身の手で、貴方の恋人を『壊す』のよ』

 

 

 愉悦を含んだ微笑を浮かべる女の悪意を、覚えている。

 思考プログラムに侵されていく恐怖を連想する程度には。

 

 

『あはは。傑作ね』

 

『貴方はずっと、仲間や恋人を守るために、私の玩具(オニンギョウ)になっていたのに』

 

玩具(オニンギョウ)になってまで守りたかった一番大事な相手を、貴方自身の手で『壊す』ことになるんだもの!』

 

 

 ――あの悍ましい悪鬼外道と同じ()()に仕立て上げられそうになったことがあるから、猶更。

 

 

 

 

 

 

「――グラハム……っ!」

 

 

 

 

 

 

 ――手を離すのは、彼女の方だと思っていた。

 

 それでもよかった。グラハムは刹那の手を離すつもりなんかなかったし、離れたいとも思ってはいなかったから。

 離別(わかれ)瞬間(とき)は、きっと刹那がグラハムの手を離す形で終わるのだと。

 その瞬間(とき)が来たら、グラハムが離別(わかれ)を受け入れればいい。――その覚悟はできていた。

 

 

『――私のお人形』

 

 

 だが、世の中は、思った通りにはいかないようにできていた。

 矜持も愛も穢され、踏み躙られた自分には、最早彼女の手を取る資格はない。

 

 

『アンタも俺と同じ穴の狢だな! 何も知らないガキをだまくらかして手を出したって意味じゃ、俺もアンタも何も変わらないじゃねえか!』

 

『――貴方が、貴方自身の手で、貴方の恋人を『壊す』のよ』

 

 

 彼女に悪意を向けた悪鬼外道と同じ()()に成り果てた自分には最早、彼女の手を取る資格は無い。

 

 奴らの傀儡から逃れ、刹那やクーゴたちに助け出され、クロスアライズに合流した――刹那が『いいんだ』とだけ言ってグラハムの手を取ってくれた――後も、世界から銃声が遠のいた後も、クロスアライズで戦った機動兵器たちが博物館の展示品として飾られる程の時間が経過した後も、クロスアライズが近代神話として語り継がれる程度の存在に成り果てた後も。

 自らの意志で闇へ堕ちた――他の女と不貞と不義理を働き刹那を裏切ってしまったこと、刃金蒼海の傀儡兼玩具として弄ばれ踏み躙られていたこと、刹那やクーゴたちを始めとしたクロスアライズ側に散々迷惑をかけたこと――という事実は消えない。今でもずっと、グラハムの中に残り続けている。……否、グラハム・エーカーという命が燃え尽きるまで、消えることはないのだろう。

 

 

『――いいんだ』

 

『――いいんだ、グラハム』

 

 

 その度に、甘えてしまう。

 淡く笑って、何もかもを許してしまう少女に。

 惜しみなく愛を手向けてくる刹那に。

 

 ――ずっと、救われているのだ。

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりとしていた意識が、急激にクリアになった。

 

 

「――え」

 

 

 だが、意識や視界が鮮明になっても、頭の働きは全くもって鮮明にならなかった。覚醒したての脳には、眼前に広がる光景の情報量を処理しきれずにいるらしい。

 

 薄暗い部屋の中でグラハムの視線を釘付けにしたのは、荒れ果てたベッドとその周辺――特に、ベッドの上で力なく体を横たえている刹那の姿だった。彼女の横顔には苦痛と疲労が色濃く滲んでおり、か細く弱弱しい呼吸を繰り返している。

 ぐちゃぐちゃになったシーツや散乱した衣服は一部が破損しており、無理矢理強い力がかかった様子が伺えた。布は破けて引き裂かれ、装飾品の一部が千切れている。それらは――シーツの海に体を沈ませてぐったりしている刹那諸共――例外なく穢されていた。

 どこからどう見ても婦女暴行の現場だ。だが、この部屋を出入りできる――今この部屋にいる人間はたった2人だけだ。悍ましい暴力に晒されて疲労困憊になっている刹那と、そんな彼女を見つめて愕然としているだけのグラハム。

 

 

(これ、は――)

 

 

 愛する人が悍ましい目に合わされたのだと理解した直後、別の方向から強襲してきた情報によって頭を殴られる。

 一歩遅れて流れ込んできた情報(ソレ)に、グラハムは思わず目を見開いた。

 

 

『――グラハム……?』

 

 

 困惑する刹那を組み敷いていたのは、他ならぬグラハム・エーカーその人であった。

 

 

『――グラハム……!』

 

 

 抵抗しようとする刹那を押さえつけて無体を強いていたのは、他ならぬグラハム・エーカーであった。

 

 

『――グラハム……っ!』

 

 

 愛する人へ悍ましい仕打ちをしていたのは、他ならぬ――

 

 

「……私、が、キミを……?」

 

 

 ぽろりと零れたその言葉が、断片的だった情報を綺麗に纏めてしまった。ぶつ切りに浮かんでいた光景を、鮮明に、時系列順に再生していく。何故。どうして。最愛の人を――刹那を、グラハムがこんな目に合わせなければいけないのか。こんな悍ましい暴力に晒していたのか、全くもって理解できない。

 そりゃあ恋人と身体を重ねた回数は多々あるし、愛する人と身も心も繋がりたいと考えることは沢山ある。『刹那に自分を求めて欲しい』と悪戯心を働かせ、刹那から苦言を呈されたことだって一度や二度ではない。だが、でも、こんな。こんな一方的な――暴力じみた真似をしたいと思ったことは一度もなかったのに。

 

 

『おーおーおーおー。こりゃあ(ひで)ェな』

 

 

 狼狽するグラハムの耳元で、声が聞こえた。もう二度と聞くこともないと思っていた人間のものだった。

 幼少期の刹那を洗脳し、少年兵へと仕立て上げ、戦争のための駒として使い潰そうと画策した悪鬼外道。

 視線を動かせば、奴が楽しそうに嗤っているのが見えた。思わず奴の名を呼ぼうと口を開くが、声が出ない。

 

 『さすがの俺でもここまではしねーな。ちょっと引くわ』と語る戦争屋だが、その横顔は非常に愉快そうであった。

 

 

『あーあ。壊しちゃった』

 

 

 背後から聞こえてきた声に振り返れば、もう二度と会うこともないと思っていた人間がそこにいた。

 グラハムにとって縁深い人々を人質にとり、闇へと足を踏み入れるしかなくなるように暗躍していた機械の申し子。

 

 『あの子、何度も貴方の名前を呼んで訴えていたのに』と咎める東洋美人であったが、口元は歪んだ弧を描いている。

 

 

『でもこれ、貴方に責任はないわ。グランドマザー『テラ』に施された思考プログラムが、貴方に()()()()()んだもの!』

 

『だよなぁ。仕方ないことだよな。何せ事故みたいなもんだ! アンタと乳繰り合うような関係になったあのガキなら、笑って許してくれるだろうよ!』

 

 

 笑い声が煩い。下卑たような、蔑むような笑い声がわんわんと響いてくる。この2人はクロスアライズとの戦いによって命を落としたはずなのに、まるでグラハムのすぐ隣で元気に生きているような鮮明さを宿していた。

 

 

『しっかし、アンタも俺たちのことを咎められるような人間じゃあなくなったなァ。嫌がるオンナを一方的に、なんざ』

 

『そうね。貴方に玩具にされていたときのあの子の顔、アタシの玩具として飼ってた頃の貴方と一緒だったわ!』

 

 

 2人は親し気にグラハムの肩を叩き、弱弱しく呼吸を繰り返し続ける刹那の方を指さした。――その言葉の悍ましさに、悪寒が走る。

 

 思考プログラムが何だ。そんなもの、何の言い訳にもなりはしない。免罪符なんて以ての外。ぐったりとしたまま弱弱しい呼吸を繰り返し続ける刹那へ手を伸ばしたグラハムであったが、反射的にそれを引っ込めた。

 刹那を悍ましい目に合わせた己に、手を差し伸べる資格なんてあるのだろうか。そんなの考えるまでもないことだ。触れてはいけない。触れていいはずがない。苦痛と疲労を滲ませている横顔が、頬に残る涙の痕が、彼女が味わう羽目になった地獄の断片を見せつける。

 離れなければ。守らなければ。こんな悍ましい存在へと成り下がってしまったグラハム・エーカーという人間から、愛する人を守らなければ。そんな資格は最早無いと理解していたとしても、刹那をこのまま放置するような真似はしたくない。

 

 思考回路が延々と循環し続けるだけ。茫然と佇むことしかできない。そんなグラハムを嘲笑うのは、遠い昔に散った悪鬼外道たちだ。

 嗤い声によって頭の中が塗りつぶされていく。喉の奥から引きつった音が漏れて、視界がぐにゃりと歪んだ。

 

 

「――グラハム……?」

 

「刹那……!」

 

 

 丁度その時、声が聞こえた。か細く弱弱しい声だったけれど、その声が響いた刹那、悪鬼外道どもの嗤い声が途切れた。

 思わず声の出どころへ視線を向ければ、刹那がぼんやりとこちらを見つめている所だった。

 グラハムは思わず刹那を抱き起そうと近寄ったが、咄嗟に手を止めて距離を取ろうと後ずさる。――けれど、それは阻まれた。

 

 刹那の手が伸びてきて、グラハムの手を取る。あまりにも弱弱しく頼りない力だったけれど、絡められた指先から伝わって来たのは、グラハムの身を案じる感情ばかりだった。

 言葉にすることすら悍ましい目に合ったのに、彼女をそんな目に合わせた張本人であるグラハムを糾弾することをしない――それに戸惑うグラハムへ、刹那は静かに目を細める。

 

 

「……いいんだ」

 

「っ」

 

「……いいんだ、グラハム」

 

 

 くすんだ金色の瞳が、グラハムを映す。何もかもを許容してしまうかのような眼差しが向けられる。……胸が、痛い。

 

 

「俺は、大丈夫」

 

「ッ、大丈夫なものか! いいわけがないだろう、こんなこと! なのに、どうして――」

 

「――……俺は、あんたに犯されてなんかいない」

 

 

 刹那の言葉を否定して距離を取ろうとするグラハムに対し、刹那はハッキリと言い切った。あまりのことに息を飲めば、彼女は真っすぐグラハムを見つめ返す。

 しかし、彼女はどこか照れ臭そうに視線を彷徨わせた。最も、それもほんのわずかの間でしかなかったけれど。

 

 

「……俺は、あんたに抱かれたんだ」

 

「刹那……」

 

「俺自身の意志で、抱かれたんだ。……だから、そんな顔、しないでくれ……」

 

 

 多分、きっと、こういうときは文句や苦情を言うべきなのだ。言わなければならないはずなのだ。

 

 刹那の器の広さも、愛の大きさや深さも、グラハムは良く知っている。始まりは確かに一目惚れではあったけど、共に過ごすうちに、刹那の()()()()()()()を好きになった。

 だけれどグラハムは知っている。刹那の()()()()()()()は美徳ではあるけれど、彼女自身を破滅へと追い込んでしまう最大の短所に成り得てしまうことも。

 現に今、刹那はそう言ってグラハムの狼藉を許して、受け止めて、大丈夫だと微笑んでみせるのだ。そこに嘘偽りはなく、グラハムへ手向けた愛だけがあった。

 

 いつものグラハムだったら、刹那の優しさに甘えてしまっただろう。でももう、そんなことは許されない。許されていいはずがないのだ。

 手を振り払って離れなければならないと理解しているのに、この手を離すことができないでいる。挙句の果てには、刹那の手に指を絡めて握り返してしまっていた。

 

 

(――あのときも、同じことをしていた)

 

 

 今だって、手を離したくないと、愛する人と離れたくないと、刹那を愛し続けていたいと叫んでいた。

 害を成すだけの存在だと理解していたのに、手を離すことが最善だと確信していたのに。……覚悟だって、決めていたのに。

 

 

「――すまない」

 

 

 謝ったところで、何も変わるわけがないことは重々承知。

 けれど今のグラハムには、刹那に謝ることしかできなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 地球を離れたのは、一種の家出のようなものだった。刹那には何も告げることなく、嘗ての相棒やその息子夫婦には『暫くは旅行へ行ってくる』とだけ告げて。行き先は何も考えていなかった。持ち物は僅かな旅支度。クロスアライズやソレスタルビーイングがまだ健在だった頃、刹那から託されたガンダムエクシアを船代わりに。

 風が吹くまま気が向くまま旅をして――けれども結局、刹那を愛していることを突き付けられて、痛感して、それを彼女へ伝えるために帰ることにした。刹那から離れるための旅は、刹那の元へ帰るための旅路へと変わる。行きとは違う経路で帰還ルートを進んでいたグラハムとエクシアがルビコン3という惑星に立ち寄ったのは、単なる偶然だった。

 

 自分と同じ第◆番銀河の地球を故郷に持つ外宇宙探査部隊と、それを率いる義息子(むすこ)・ミライと再会したのも、単なる偶然であった。

 ミライやその部下たちと関わったことのある現地民と意気投合し、暫くこの惑星に滞在することを選んだのも、単なる偶然であった。

 

 ――けれど。

 

 

「――グラハム・エーカーはいるか」

 

 

 今、ルビコン3の空から舞い降りてきたELSクアンタ/刹那が、平坦な声/怒気を纏ったような調子でグラハムの名前を呼んでいるのは、きっと幻だろう。

 

 何せグラハムは刹那に狼藉を働いた悪鬼外道の同類である。思考プログラムの後遺症など何の免罪符にもなりはしない。何も言わずに飛び出したのも、『刹那がグラハムに愛想を尽かしてしまえば、それが彼女のためになるのではないか』と思案した結果の行動であった。

 放浪期間は“人間換算で2桁を過ぎる程度”。人ならざる者へと至ったグラハムや刹那にとっては、最早瞬き程度の時間でしかない。でも、刹那がグラハムを忘れて新しい一歩を踏み出すには充分な時間だったろう。

 例え関係が恋人同士や伴侶と呼ばれるものであっても、グラハムの狼藉は暴力と同義である。例え当人同士――或いは片割れが『離れたくない』と願っても、相手から受けた暴力が深い心的外傷になっているケースだってあるわけで。

 

 

「――グラハム・エーカーはいるか」

 

 

<……あの機体のパイロットが呼んでいるのは、間違いなく彼だな>

 

<なんで応えようとしないんだ、コイツ>

 

 

 ELSクアンタから響き渡る声は、相変わらずグラハムを名指ししている。この場に居合わせていた若者たち――ラスティとイグアスの視線がザクザク突き刺さってきていた。

 彼らはグラハムと刹那の事情など知りもしないだろう。刹那に求められている――勿論、嬉しいことだ。だが、それに応える資格は無い。

 

 もしも地球へ帰ったら――刹那と再会したら、『キミを愛している』と告げるだけの心づもりでいた。それだけで充分だったのだ。……なのに、どうしてこんなことになっているのだろう?

 

 刹那の呼びかけから逃げるようにして身を縮こませる。情けないとは百も承知。女々しいことも自覚済みだ。それでも、彼女と顔を会わせる資格は存在しない。

 こんな都合のいい幻、あるわけがないのだ。“グラハムに置いていかれてしびれを切らした刹那が、愛機のクアンタを駆ってグラハムを迎えにくる”だなんて。

 視界の端で、イグアスとラスティが顔を見合わせ肩を竦めた。そんな2人の様子に気づいたのか、義息子(むすこ)のミライが怪訝そうな顔で問いかける。

 

 

「ねーねー親父殿ォ。今度は何やらかしたんスか?」

 

 

 「お袋殿ハチャメチャに怒ってるって相当じゃないスか。ホワイトデーに靴贈ったときよかヤベェッスよ?」――ミライからの問いかけに、グラハムは観念したように肩を竦めたのだった。

 

 

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