問題だらけで草ァ!! 外伝 -Eternity in a moment- <通常版>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.本編のネタバレを彷彿とさせるであろう表現が多々含まれています。ご注意ください。

 14.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

 15.本編の重大なネタバレに関連する要素が含まれています(重要)
 16.本編の重大なネタバレに関連する要素が含まれています(重要)
 17.本編の重大なネタバレに関連する要素が含まれています(重要)


上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



「今日も平和です」「嘘をつけ!!」 -However, world is beautiful-
「それから、俺たちは――」 ※


 

『だから、示さなければならない』

 

『世界はこんなにも、簡単だと言うことを――!』

 

 

 戦争根絶を目指して戦い続けた女性は、此度の一件で“自分が生きていた意味”を掴めたのだろう。それを果たすために、ELSの故郷を救う旅路へと赴いた。

 

 それから少しばかりの時間が経過したものの、世界は未だ戦いで満ち溢れている。変革を迎えようとしている時期を『夜明け前』と称した偉人が居たそうだが、『夜明け前が1番暗い』という格言も存在しているらしい。件の偉人は夜明けを見る前に葬り去られたと聞いたが、彼のように志半ばで斃れる者――夜明け前の暗さに飲み込まれた者たちは幾らでもいたのだろう。

 『陽はまた昇る』という格言が成立しているように『沈まぬ太陽』など存在しない。実際、地球が夜明けを迎えた――宇宙に花が咲いた――とて、次の夜明けを迎えるための夜がやって来る。今の地球を例えるならば、『新しい朝を迎えるための夜』が相応しい有様だ。ELSとの対話が成功したとはいえ、地球圏で行われる争いや諍いが全て消えたわけではない。銃声の音は鳴りやむことなく響き渡っている。

 

 

 コツ、コツ、コツ、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 その音を無視したのは“敢えて”であった。

 

 

『……暫く、お前の誕生日を祝ってやれない』

 

『その代わりになるとは思っていないし、おこがましいことも分かっているんだ』

 

『それでも――あんたになら任せられる』

 

 

 自身が地球を離れることに関して、彼女は憂いを抱かなかったわけではない。彼女と彼女のガンダムは“ソレスタルビーイングにとっての最高戦力”。

 自分が抜けた穴――或いは、自分がいない間に発生するであろう戦争と、それに伴う組織の武力介入に齎すであろう影響――が大きいことは自覚していたようだ。

 

 当時、男は地球連邦軍に所属する軍人。故に、表面上の敵対勢力であったソレスタルビーイングの人事事情に関しての知識は一切持っていなかった。今ではある程度の人事権を把握しているが、男の場合は“先代マイスターからの直々の推挙”となるらしい。関係者曰く、『彼女がスカウトされた理由と一緒』とのことだ。閑話休題。

 

 

『“キミという存在がありながら、他の女からの要求に応じ、不貞と不義理を働いた男”だ。“世界に歪みを生み出す存在に与する者”でもある。どんな理由があれど、それは純然たる事実だ。……どのような沙汰も、糾弾も、甘んじて受けよう』

 

 

 一時期、男は女性の枷や障害物として存在するだけの傀儡に堕ちていた時期がある。当時の選択を後悔しているつもりではないが、“嘗ては()()()()()()()()()”という事実は黒歴史であった。

 守りたいものが沢山あった。『それらに害を成す』と豪語していた相手によって現実になったときの衝撃と絶望も、そのために飲み込むしかなかった条件も、当時の自分にすれば出来得る限りの最善手。

 それでも、女性に対して不貞と不義理を働いたのは事実だった。彼女や彼女の組織にとっての破壊対象――“世界に歪みを生み出す存在”に与する同じ穴の狢として、彼女たちを傷つけたのも。

 

 ――いっそ、世界の歪みとして破壊してくれても良かったのだ。戦争根絶という理想を阻む障害物として排除されても当然のことをした。

 

 あの頃の男は、いつだって女性を裏切ってばかりだった。困らせて、傷つけてばかりだった。

 人類に対する大きな愛を抱く彼女でも、男を見捨てる選択肢を選んだって問題なかったはずなのに。

 

 

『――いいんだ、グラハム』

 

 

 赦された瞬間(とき)のことは、今でもよく覚えている。

 

 

『託すなら、あんたが良いと思ったんだ』

 

『後を頼む』

 

 

 託された瞬間(とき)のことは、自分と言う魂が存在し続ける限り、未来永劫忘れることは無いだろう。

 

 

 どん、どん、どん、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 その音を無視したのは“敢えて”であった。

 

 

 戦後のゴタゴタで多忙という状況で『軍を辞す』という暴挙に走った男であるが、最終的に、その希望は受け入れられた。以後は女性のツテ――“後任として指名された”という事実や引継ぎもあって――ソレスタルビーイングに転属したのだ。その際、他にも色々()()()()()はあったが割愛する。

 

 人類の変革は始まったばかり。旅立った女性と同じように革新者(イノベイター)として目覚める者もいれば、先の大戦のような予期せぬ理由でELSと融合・共存することとなった者もいる。

 男やその友人知人と同じように、外宇宙由来の新人類(ミュウ)として目覚めるものもいた。しかし、人は急激な変化を容認できない生き物で、目覚めた者たちを排斥する動きが活発化していた。

 

 

『ELS反対! イノベイター反対!!』

 

『地球は我々人類のものだ!』

 

『外宇宙からやって来た化け物は出ていけ!』

 

『ELSもイノベイターもミュウも、みんな殲滅するんだ!!』

 

 

『――あんな化け物共が咲かせた花なんぞ、吹き飛ばしてしまえ!!』

 

 

 花が咲く前も、咲いた後も、世界から銃声が鳴りやまぬ日はない。己と異なる生き物を排除しようとするのは、命に備わっていた防衛本能でもある。理性では理解できていたとて、本能や実体験からくる恐怖や憤怒を抑え込めるとは限らないのだ。今の世の中は、それが膨れ上がって爆発する時期なのだろう。

 それは男だって同じころ。女性が掴んだはずの平和もまた、今までの平和と同じように、一時的なものでしかない。平和が儚いことは職業柄よく分かっているはずだった。――だからこそ、それを「儚い」ものにしてはいけないと思ったのだ。それ故、男は“女性の後任兼後釜”として、彼女から託された愛機と共に空を翔る。

 今日も明日も明後日も――いつか、彼女が旅を終えて地球へ帰って来るその瞬間まで、男は『戦い続けること』を選んだ。女性から託された理想と志を抱き、地球連邦軍ではなくソレスタルビーイングの人間として、彼女の背中を守り続けるのだと。

 

 そんな決意を抱いて戦い始めてから、そんなに長い時間は経過していない。

 

 それでも、男が彼女の仲間たちと打ち解けられたのは、彼女が根回ししてくれていただけではなかったのだろう。

 男と同じような理由で軍を辞した元・副官が、再び自分の副官として落ち着いてくれたのも理由の1つだったのかもしれない。

 

 

(――ああ。そろそろ、現実逃避も限界か)

 

 

 男は物思いに耽るのをやめ、現実に向き合うことにした。――否、せざるを得なかった。

 

 どんどんどん、どんどんどん、どんどんどん、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 ついに無視できなくなった4人は、ゆっくりと振り返った。

 

 

「■■■■■――――……」

 

 

 そこにいたのは、ついに得体の知れぬ言語を使い始めた化け物――自分たちと行動を共にする仲間の1人、クーゴ・ハガネ。

 

 閉じ込められたゾンビという西洋系ホラーゲームのギミックやシチュエーションに、日本産ホラーゲームに出てくるタイプの幽霊やクリーチャー――しかもラスボス――を配置したような光景が広がる。顔にはすでに生気はなく、虚ろな黒目は極限まで見開かれ、何かを訴えるような眼差しをこちらに向けてきた。彼は東洋人のはずなのに、顔も肌の病的なまでに真っ白になっている。

 車の扉を閉めているにも拘らず呻き声が漏れ出ているということは、扉を開けたらかなりの声量で呻いていることを意味していた。車の窓を叩き続けるその有様は、隔離されたゾンビと言っても過言ではない。尚、着物を着ていたせいで、彼の外見はジャパニーズホラー産の幽霊に成り果てていた。扉を開けた瞬間、アポカリプスレベルの災いでも起きそうである。

 

 日本文化の中には“オンリョウ”や“タタリガミ”なる概念があると聞いたが、肉眼で視認できるとしたら、丁度彼のような感じなのだろう。

 今は車内に閉じ込めるような形で封印されているが、帰投命令に従うためには車のドアを開けなければいけないワケで。

 

 

「……これ、本当に、封印(車の中)から解放し(出さ)なきゃダメなのかしら?」

 

 

 オッドアイの青年――アレルヤ・ハプティズムの背中に庇われていた銀髪の女性――マリー・パーファシーが、酷く怯えた調子で問いかけてきた。

 この場にいる全員は、彼女の問いに対する正しい答えを把握している。――把握は、している……のだが。

 『こんなやばいものを野に放つ真似ができるのか』と問われたら、みんな躊躇うだろう。

 

 

「……ダメみたいだな」

 

 

 紫の髪の青年――レティシア・アーデは諦めたように目を閉じた。“彼に記憶と経験を託した張本人”のティエリア・アーデだったらどのような反応をしたのだろうか――なんて考えたが、現実逃避にもなりはしない。

 

 

「「……ダメなんだろうなぁ」」

 

 

 双子の兄/ロックオンが天を仰ぎ、弟/ストラトスは額を押さえて俯く。<自分の愛する人たちが今この場に居合わせなくてよかった>という思念が流れてきたが、そこは自分も同意できた。

 クーゴが“こう”なってしまった原因の大部分を担っている身として、色々な方向に対して申し訳ない。

 

 

(――腹を括らなくては)

 

 

 男――グラハム・エーカーは大きく息を吐いた後、車のドアに手をかける。仲間たちに視線を向ければ、彼や彼女たちも腹を括ることにしたようで、鬼気迫る顔で頷き返した。

 ……いや、それしか道がなかったといった方が正しい。本当に悪かったと思っている。ジャパニーズホラーの恐ろしさを、自分が1番知っていたはずなのに。

 こんな形で一蓮托生になってしまうとは思わなかったが、致し方ない。ええい南無三――覚悟を決めて扉を開ける。

 

 

 

「■■■■■■■■■■――――!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛――――ッ!!」

 

 

 

 ――メイドインジャパンのホラーは、どの作品でも、何度目であっても、“夜明けを迎えても安心できない”と相場が決まっているのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 青い空、白い雲、青い海が眼前に広がる。太陽の照り返しもあって、白い砂浜が眩しい。

 天気は晴天。日本の夏より乾燥しているとは言え、暑さによる不快指数は同等だと思う。

 

 

「――あー……よく寝た」

 

 

 クーゴはあくびをしつつ、大きく背伸びした。体中の関節が小気味よく鳴るあたり、それ相応の疲労がたまっていたと思われる。

 

 

(ここ最近は強行軍だったからなァ。何徹したんだろ……)

 

 

 穏やかな波の音を聞きつつ、南国の砂浜をぼんやり眺めながら考える。

 

 ELSとの対話を成功させ、宇宙(そら)に花が咲いてから、それ相応の時間が経過した。世界は平和に向かっていくかと思ったのもつかの間、そうは問屋が下ろさなかった。国、人種、派閥、所属する団体の違い、持つ者と持たざる者――人類は未だ1つにまとまることが出来ずにいる。

 ここ数年で、ELSと融合したイノベイターや純粋種として覚醒したイノベイター、外宇宙の来訪者としての系譜を継ぐ新人類として覚醒したミュウ――要するに、純粋な人類ではない者――が急増。結果、それが新たな差別や嫌悪の対象へと繋がった。先に起きたELSとの大戦で多くの犠牲者が出たと言うのも関わっているのだろう。

 新人類や外宇宙生命体の力を脅威と判断し、排斥する団体が現れた。種族の持つ固有の力は、人類にとって脅威となり得ると判断されたらしい。結果、排斥行動も過激な手段を取られることも多くなった。元から争いを望んでいた者たちも奴らと合流したこともあり、争いの規模は日に日に大きくなっていく。

 

 そういうこともあって、私設武装組織ソレスタルビーイングが役割を終えるにはまだ時間がかかる。それぞれの事情から集い、創設者の遺志を継いで戦争根絶を目指すことにした面々の総意であった。

 ソレスタルビーイングの分類は未だテロリストのまま。先の大戦での活躍から、地球連邦軍とは互いに『表立ってやり合うつもりはない』というスタンスを取っているだけだ。閑話休題。

 

 

「…………」

 

 

 すでに生ぬるくなってしまったペットボトル飲料を飲み干して、前に向き直る。重なった足跡や走った形跡のせいか、周囲の砂浜は荒れ果てていた。

 眼前に転がるのは倒れ伏したガンダムマイスター一同。その他にも、十字架やらお札やらが砂に埋もれている。中には十字架やお札を手に持ったままの人もいた。

 

 

(昨日、どうしたんだっけ? ミッション終了直後から、今までの記憶がない……)

 

 

 クーゴは思わず首を傾げる。記憶を必死にたどってみるが、スメラギからのミッション終了宣言を聞いて以降の記憶が綺麗にすっぽ抜けていた。

 さもありなん。ここ暫くはずっと多忙だった。反新人類派や反外宇宙生命体派のテロリストや武力団体が暴れていたため、奴らを黙らせるために駆け回っていたのだ。

 一応、刃金一族のコネクションや同じ志を有する団体やミュウたちの手助けがあるとはいえ、限られた戦力を割いて武力介入を行うのは非常に手間がかかるワケで。

 

 あちこち出ずっぱりで戦い続けていたが、昨日になってようやくひと段落。主要団体は全て叩き潰したため、暫くは平穏になると思われる。その分が自分たちの休暇に繋がってくれればいいのだが――なんて考えたあたりで眠気が出てきたのは覚えている。

 

 

(……お腹すいたな。――って、もうこんな時間か。そりゃあお腹減って当然だな)

 

 

 空腹感を覚えてふと端末を見れば、時刻はもうすぐお昼。昨日の夜から記憶が途切れているとして、経過した時間はほぼ半日。その間何も飲まず食わずでいたことになる。

 クーゴがそれに思い至ったのと同時に、どこからか腹の虫が鳴く声がした。音を探れば、出所は倒れ伏しているマイスターたち。――成程。みんなもクーゴ同様、今まで何も食べていなかったらしい。

 

 

「もしもしグラハム」

 

「ッ!!?」

 

 

 一番近くに転がっている人間――グラハム・エーカーの元に歩み寄り、しゃがんで声をかけてみる。次の瞬間、奴は弾かれたように顔を上げた。大きく目をかっ開いて、鬼気迫った眼差しを向けてくる。

 

 状況が理解できず首を傾げるクーゴに対し、何かを確認しようと目を凝らすグラハム。奇妙な沈黙がこの場を包み込む。聞こえるのはさざ波の音色だけ。

 何が何だか理解できないままというのは、どうも居心地が悪い。そして何より、金色の瞳は異様な警戒を滲ませている。クーゴは思わず問いかける。

 

 

「どうした、そんな『怨霊か祟り神と相対峙して逃げ回った』みたいな顔して」

 

「あ、ああ……。ちょっとな……」

 

 

 歯切れの悪い返事と共に視線を逸らすグラハムは、英語圏――特にアメリカの出身である。お国柄と本人の性格的に、何があったかの詳細やそれに付随する感情もハッキリ主張するはずなのだ。

 だが、奴はクーゴが何度問いかけても返答を濁して煙に巻こうとしていた。クーゴが同じようなことをすると容赦なく追及してきたり、別方面からぶん回しにかかってきたりするのが恒例行事なのに。

 

 

(なんか珍しい反応だな)

 

「生きてる……。俺たち生きてるよ、兄さァん……!」

 

「もう駄目かと覚悟決めたけど……そっかぁ。俺たち助かったんだ、ライルぅぅ……!!」

 

「……し、死ぬかと思った……」

 

「朝が来るって幸せなことなのね、アレルヤ」

 

「……もうお昼だよマリー……」

 

 

 クーゴがそんなことを考えたとき、背後から弱弱しい声が響いた。振り向けば、フラフラとした様子でガンダムマイスターたちが起き上がる。何があったのかはみんなも何1つ語らなかったが、ミッション終了後から今に至るまで何も食べていないらしい。

 ロックオンとストラトス兄弟はお互いの無事を喜びながら抱擁し合っていたし、レティシアは力なく天を仰いでいたし、マリーは明るくなった景色を噛み締めていたし、アレルヤは伴侶の発言を訂正していた。みんなもここ最近は徹夜と出撃のデスマーチだ。疲れていて当然である。

 何の気なしに車へ視線を向ければ、多少の食料――日持ちする栄養食品やレーションの類だ――が積まれている。現在地点の気温は日本の夏と同程度のため、生もの系の食材を持ち運ぶのは余裕でアウトだ。昨日の夜から放置していたとするなら言わずもがな。

 

 最も、徹夜でご飯抜きという空腹状態を満たすには、量質共にイマイチである。小腹を埋める程度が関の山だろう。

 これから買い出ししてから調理することを考えると、やっぱり補給は必要になる。その間飲まず食わずで待つのもしんどい。

 

 とりあえず、クーゴは面々に栄養食品やレーションを手渡す。ガンダムマイスター一同は頭の上に沢山の疑問符を浮かべていた。

 

 

「これから買い出しに行って、それからご飯作るからさ。その間何も飲まず食わずでいるのは辛いと思って」

 

「その旨を良しとする!」

 

 

 クーゴが問えば、グラハムを筆頭としたガンダムマイスターたちがぱああと表情を輝かせた。

 

 

 

***

 

 

 

 クーゴたちが拠点としている場所は、クーゴの親戚が所有するプライベートビーチである。詳細を伏せた上で『拠点として貸し出して貰えないか』と頼んだ結果、2つ返事で了承を得て滞在していた。

 ()()()2()()()()()()()()()()()姿に思うところはあれど、クーゴもイデアから後を託された身。使えるものは最大限に使わなくては。それはそれ、これはこれというヤツである。

 件の親戚は海外で日系スーパーを営業しており、この地域にも出店している。その他にも現地の屋台や市場等で材料を揃えることが出来た。後は手早く調理し、仲間たちへ振舞うのみ。

 

 まずは真っ先に、購入した米を研いで水に浸しておく。米が水を吸う間、クーゴは前菜に着手した。

 

 屋台や市場で購入した旬の野菜を一口大に切り分けて、塩コショウとオリーブオイルを振って味付け。ついでにホイルに包んで網の上に載せて焼いておく。

 半分に切ったパプリカにツナ缶とマヨネーズを和えたものを詰め込み、チーズを載せて網の上へ。こちらは焦げないようにしっかり見張らなくては。

 

 

「網の上に載ってるヤツ、焼き具合見張っとくか?」

 

「ありがとう。凄く助かる」

 

「任せろ。美味いキャンプ飯にありつくためには必要なミッションだからな」

 

「出来上がったら食べていいよ。但し、俺の分は残しておいてね」

 

「分かってるって」

 

 

 キャンプ用具――主に食事をするためテーブルや椅子などの準備を終えたロックオンが声をかけてきた。渡りに船とはこのことである。申し出に甘えることにしたクーゴは、次の品作りに精を出した。

 

 アボガドも同様、真っ二つにして中身をくりぬく。種を除いてフォークで潰し、出汁醤油やチーズと和えたら皮に戻す。その際、いい感じのくぼみを作っておくのも忘れない。何せ次の工程で、“その中へ卵を割り入れる”必要があるためだ。

 勿論、卵はすべて問題なく、皮の器の中に納まった。こちらもアルミホイルで包み、車に積まれていたキャンプ用具に備え付けられていたスキレットの上へ。蓋をした後、これも網の上へ。ついでに、今か今かと待ちわびる面々に声をかけておく。

 

 

「こっちは10分くらい蒸し焼きにするヤツなんだけど、時間が来たらすぐ食べていいからね」

 

「ありがとうございます。――あ、勿論、クーゴさんの分は残しておきますから」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 アレルヤの返事を確認し、クーゴは次の作業に取り掛かった。玉ねぎ、人参、ジャガイモ、トマト等を筆頭とした野菜や肉を一口大に切り分け、無水調理が可能な鍋の中に放り込んでいく。鍋を煮込みつつ、クーゴは土鍋で米を炊く準備に取り掛かった。

 キャンプ飯の本命は焚き火の上で作る無水カレーだが、米共々、出来上がるまで手間と時間がかかる。だが、昨日の夜から今に至るまでまともに食べていない面々にとっては、待ち時間は苦行でしかない。故に、本命が出来るまでの間は、軽い食事をして貰うことにしたのだ。

 カレーを煮ている鍋を見てソワソワするグラハムに視線を向ければ、奴はこちらが何かを言う前に大仰に頷いた。火加減の調整を買って出てくれたらしい。「弱火でじっくり煮込むこと」と何度か言い含め、クーゴは土鍋の火加減調整や米を炊く作業に集中する。

 

 沸騰して湯気が出てきたのを確認後、炊きムラが出ないよう――けれど、鍋の温度が下がらないよう――素早く米を混ぜる。

 全体を混ぜ終えたら、火力を出来る限り弱火にして更にじっくり炊き上げるのだ。熱の入りを均等にするため、時折土鍋を回すことも忘れない。

 

 

「ホイル焼きいい感じだぞー!」

 

「パプリカもアボカドも美味しそうだ」

 

「見てるだけでお腹が減って来るわね」

 

「よーし、皿に分けるか!」

 

 

 クーゴが米炊きをしている間にも、前菜は完成していたらしい。視界の端で、レティシアマリー、やストラトスが料理を皿に取り分けている姿が見えた。

 

 少しするとあちこちから「美味しい」という声が聞こえてくる。そのタイミングに呼応するかのように、土鍋からはご飯の、無水鍋からはカレーの匂いが漂ってきた。時間的にもそろそろだろう。

 クーゴはまず土鍋の蓋を開けた。中身はつやつやの白ご飯。へらで切るようにしてかき混ぜてみたが、中身は均等に炊かれている様子だ。少々つまんでみたものも美味しい。

 

 

「グラハム」

 

「熟知しているとも」

 

 

 隣でカレーの番をしている相棒に声をかければ、彼は二つ返事で鍋を開けた。煮込む前には一切汁が無かった鍋の中身は、この1時間弱で見違えていた。野菜の水分だけで鍋いっぱいに満たされている。後は調味料で味を調えれば完成だ。

 前菜を楽しんでいた面々も、無水カレーや白米の匂いにつられたらしい。背後から感嘆の声が聞こえた。「皿!」と叫んで駆けだしたのは誰だろう。それは後回しにして、クーゴはカレーの味を確認した。――満足いく味わいに小さく頷いた。

 振り返れば、カレーを待ちわびていたガンダムマイスターたちが行儀よく並んでいる。彼や彼女の分を分けてやれば、みんな嬉しそうな様子でテーブルに戻ってカレーを食べ始めた。案の定、あちこちから「美味しい」という声が聞こえてくる。勿論、その中にはグラハムのものもあった。

 

 

『『美味しいごはんは心と体を元気にしてくれる』んだって!』

 

 

 ――今はもういない、大事な人の言葉を思い返す。

 

 彼女の言葉は、クーゴにとっての座右の銘として残っている。

 他にも沢山、彼女はクーゴに色々なものを残してくれた。

 

 

「――『愛は死なない』、だっけ」

 

「どうした?」

 

「何でもないよ。……ただ、あおちゃんのこと思い出してただけ」

 

 

 クーゴは何事もなかったかのように席について、「いただきます」と手を合わせて料理を食べる。

 グラハムは暫しこちらを見つめていたけれど、最後は小さく肩を竦めるだけに留めた。

 何も言わないというのが彼なりの善意や気遣いなのだろう。……正直、ありがたい。

 

 賑やかな食事風景を見守りながら、作った料理に舌鼓を打つ。

 

 世界も人類も未だ1つになりきれない。こうしている間にも、今日も何処かで争いが起きている。折角ELSとの誤解も解けて共存への道が開かれたと言うのに、それが散らされるというのは虚しいではないか。

 新しい仲間たちとこうして過ごす和気藹々とした時間も、薄氷の上で成り立つ平穏でしかないのだろう。だとしても、こうしていられる時間を守りたいと願う。――平和とは、そういうものだろう? ……なんて。

 

 

(……イデアたちが帰って来る頃には、終わらせておきたいなぁ)

 

 

 難しい話だと言うことは理解している。そこまで辿り着けなかったとしても、せめて、2人が返って来た時に見る地球の景色が廃墟だらけの地獄絵図にならないように頑張らねば。

 

 戦いは続く。いつまで続くかも分からないし、いつ終わるかの目途も立っていないけど。

 それと同じように、人生と言う旅も続くのだ。――今はまだ、旅の途中。

 

 




【参考及び参照】
『コールマン|Coleman』の『キャンプ飯 レシピ集』より、『夏野菜のホイル焼き』
『hinata〜もっとそとが好きになる〜 | キャンプ・アウトドア情報メディアhinata』の『簡単・絶品キャンプ飯39選!楽しておいしい手抜きテクも紹介【保存版】』より『パプリカマヨチーズ焼き』
『キッコーマン株式会社』の『【アウトドアごはんにも】のレシピ・つくり方』より『とろとろアボカドエッグ』
『【CAMP HACK】日本最大級のキャンプ・アウトドア・ニュースマガジン - キャンプハック』より『野菜たっぷり無水カレー』
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