問題だらけで草ァ!! 外伝 -Eternity in a moment- <通常版> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
13.本編のネタバレを彷彿とさせるであろう表現が多々含まれています。ご注意ください。
14.この小説は2023年の10月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
観客たちの大喝采が響き渡る。カイルスに所属するロボットたちが繰り広げるエキシビジョンマッチは、数多の危機を乗り越えた人類たちにとっては最高の娯楽であろう。同時に、カイルスに所属するパイロットたちにとって、同部隊の仲間たち以上に切磋琢磨できる対戦相手はいない。
誰も彼もが“地球に来襲する脅威を打ち倒してきた”実績のあるパイロットたちだ。あるいは、そんなカイルスと一戦交えながらも共に戦うことを選んだ元・敵パイロットもいる。それは、格納庫に集って試合映像を見つめるクーゴたちにも言えることであった。
「異世界のガンダム同士の戦いとは壮観だな。見ているだけでも心躍る」
「文字通りの一進一退、か。指揮官対決の“千日手による引き分け”並みに拮抗してるからな。このまま行くと、こっちもドローになる可能性が高い」
「それはどうかな?」
クーゴの言葉を聞いたグラハムが悪戯っぽく笑った。――いや、彼だけではない。この場に居合わせる全員が、不敵な光を宿したまま悪戯っぽく笑っている。
「それを覆すために我々がいるのだろう? あくまでもこれは“催し物”だからな。観客や対戦相手を盛り上げるための“道化”も必要だ」
「……申し訳ありません。自分、今一度“道化”の意味を辞書で引きたくなってきました」
シャアは茶目っ気たっぷりに言い放つ。彼の言葉の意味を充分吟味しつつ、クーゴはこの場にいる全員を見回した。この場にいる面々は、ガンダムと名のつく機体と『出会った』ことで運命を変えられた存在である。
シャア・アズナブル、ハマーン・カーン、ゼクス・マーキス、グラハム・エーカー、デカルト・ジャーマン――“道化”を自称するには、完全に役不足な顔ぶればかり。こんな道化と戦場で相対峙した場合、生きて帰れそうな気配がない。
前者3人は軍人としてだけでなく、指導者としての才覚を持ち合わせている。後者2名は軍人としての才能に特化気味ではあるが、連邦の中でも生え抜きのエース勢だ。クーゴはともかく、彼らを道化呼ばわりできる人間など一握り程度であろう。
クーゴ・ハガネは軍人としても凡俗である。この面々の中に所属させられるような功績など持っていない。
(俺のような奴が自称“道化”チームに組み込まれるってのはなぁ。……圧倒的に役として不足だし、場違いも甚だしい。今からでも――)
「貴様、『今からでも辞退できないだろうか』などと考えているようだが、そうはいかんぞ」
クーゴの心を目ざとく読み取ったハマーンが睨みつけてきた。煌びやかなジオンの軍服を身に纏っている彼女であるが、額とフェイスラインに沿った飾り兜(正直『兜』と表現していいのかどうかは分からないが、サークレットと称するのも難しいため、兜表記で統一する)が異質だ。この格好で道化を名乗るのは、やはり、些か難しいように思う。
どちらかと言えば“悪堕ち魔法少女”と言った方が分かりやすいかもしれない。あるいは、悪の組織2代目社長たるリボンズ・アルマークが零した『邪悪なミンキーモモ』だろう。あの後怒り狂ったハマーンは彼を追い回した挙句、捕まえた彼を一方的に叩きのめしていたか。閑話休題。
「お前もいい加減、あの女――イデアと決着をつけるべきだ」
「何をですか?」
「これだから男は」
クーゴは首を傾げる。ハマーンの眉間にしわが寄った。
怒りのボルテージを上げかけた彼女を制し、クーゴは話を続けた。
「カイルスに所属することになって以後は、イデアとは戦友として共に駆け抜けてきました。俺は彼女のことを“かけがえのない仲間”だと思っています。……今更、ガンダムパイロットとフラッグファイターに戻って決闘をしたいとは思いませんが……」
「……女には、男に言ってほしい言葉があるということだ。だが、それを女が求めることはできない。だからもどかしいんだ」
ハマーンは憂いに満ちた表情でため息をつく。しかし、<それを真正面から機関銃の如くぶつけられるというのも困るがな。相手の心臓が持たんだろう……>という《聲》を零してグラハムを見たあたり、彼女の語る内容には絶妙な匙加減が必要なのであろう。難しい問題だ。
「だが、逆もまた然りだと私は思う」
「!?」
「男にだって女に言ってほしい言葉があり、伝えてほしいことがあるということさ」
丁度そのタイミングに被るような形で、グラハムが声を上げた。
ハマーンは一瞬ぎょっとしたが、想定していた反応とは違うことを察したらしい。彼女は敢えて反論することなく、グラハムの言葉に耳を傾ける。
「私の場合になるが、刹那は何も語ってくれなくてな。言葉は惜しむべきだと思っているらしく、『迂闊に口に出して、それが持つ本来の価値を薄っぺらくしてしまうのが嫌だ』と言うんだ。そういう奥ゆかしく真摯なところも愛おしいのだが、時折、自分が矮小な存在なのだと痛感させられることも多くてね」
「成程な。貴様がアレな理由はよく分かった。だが、ベタベタするなら時と場所を選べ」
「いや、話はまだ途中で――」
「貴様がアレな理由はもう分かったと言っただろう。この話はこれで終わりだ」
何かを飲み下したかのような苦い表情を浮かべ、ハマーンはグラハムから目を逸らした。まだまだ語りたいことも多かったであろうグラハムの言葉を遮ったあたり、彼女はこの手の話題があまり好きではなかったのかもしれない。憂いに満ちた青の瞳がシャアを見ていたのは気のせいだろうか。
シャアとハマーンは訳アリだとは察していた。シャアがどうかは知らないが、ハマーンの方は確実に彼のことを気にしている。グラハムが刹那を構い倒す様子とシャアへのハマーンの態度は完全に別ベクトルだが、多分、根底にあるものは非常に似通っていた。
「ところで、貴方はどうするんですか? 貴方の妹君、ガンダムのパイロットと良い雰囲気なんでしょう?」
「ああ心配だ。リリーナはあんなに強く賢く美しいのだ! 2人きりでいて変な気を起こすはずがないのだ! この際それをはっきりさせなくては……」
デカルトの発言によってスイッチが入ったゼクスは、意気揚々と愛機に乗り込む。目のぎらつき方が若干おかしかったのは見間違いではない。デカルトが「あっ、やっちまった」と言いたげなしかめっ面を浮かべたあたり、不用意に地雷を踏みぬいたことは明らかである。
「多分、リリーナ嬢の恋愛が成就しようが頓挫しようが、あいつがすることは1つのように思うんだ」
「文字通り面倒くさいですね……」
元・ライトニングバロン、現・火消しのウィンドの背中を見送った後、クーゴとデカルトは顔を見合わせ肩をすくめた。今のゼクスに前者のような高貴な雰囲気は微塵もなく、後者の2つ名とは正反対に大炎上しかけている。そんな僚友との距離が遠い。
視界の端でシャアが愛機に乗り込む。ハマーンもいそいそと自機に乗り込んだ。そろそろ戦場もマンネリしてきた頃だと踏んだのであろう。クーゴたちも愛機に乗り込み、混迷する戦場へと躍り出た。
未だ、ガンダム同士のぶつかり合いは続いている。それに“
「周囲の騒ぎもなく、こちらへの通信もない……」
「お前たちの乱入は予定調和ということか」
シーブックの分析から、アムロが結論をはじき出す。シャアは大仰に頷き返した。
「観客を盛り上げるには道化も必要だということだ」
「あんたたち、どっからどう見たって道化で収まるような連中じゃないでしょうが!」
「……ごもっともで」
道化という名目で雁首並べたクーゴたちを見たジュドーが突っ込みを入れる。否定する要素が何もないので、クーゴはひっそり同意した。だが、茶目っ気たっぷりに笑ったハマーンが首を振った。
「いいや、道化だよ。分かっているだろう?」
「その通りですよ」
ハマーンの言葉を引き継いだデカルトが不適に笑う。
本来交わることのない道を進んでいた者たち、表舞台から降りた者たちが、ガンダムパイロットたちと戦うためだけに、
「再び俺たちと戦うというのか?」
問いをぶつけてきたのはヒイロだ。クーゴを除いて、仲間たち全員が「是」と答える。仲間たちの気持ちを代弁するが如く、グラハムが言葉を続けた。
「己の間違いを認め、友となり、幾度の修羅場も共に超えた。……だからこそ、我々は望んでいる! 今この瞬間、ガンダムとの真剣勝負を!」
彼の宣言を皮切りにして、仲間たちがみな一斉にガンダムへと挑みかかる。自分が場違いだと自覚していたクーゴが取り残されるような形になった。
「戦争じゃないからって、みんな好き勝手やって……!」
「あはははっ。それだけ平和になったと考えればいいんじゃないんですか? 発想の転換ってヤツですよ」
「平和だから何をしてもいいってワケじゃないだろ!? まったく、アンタたちは!」
苦言を呈したシンと暢気に笑うノブレスの背後で、アムロとシャアがぶつかり合う。ハマーンはジュドーに挑みかかり、ゼクスはヒイロに突っ込んでいった。後者は妹の名前を呟きながらだったので、なかなか嫌な予感しかしない。
因みに、刹那はグラハムとデカルトを同時に相手取っている。2人はチームメイトのはずなのに、刹那の争奪戦をしているように見えるのは何故だろう。クーゴの目には、2人の連携はフレンドリーファイヤと紙一重のように思えてしまう。
戦い始めた戦場の中でぽつねんと残されたのは、クーゴのブレイヴとイデアのガンダムだけだ。自分たちは空中で向かい合ったまま静止している。周りが盛り上がっているのとは対照的である。……沈黙が痛い。
「……あー、その……」
クーゴは何とも言い難い気分になった。パイロットスーツを着ていなければ、今頃頭を搔いていただろう。
通信機越しから対峙したイデアもまた、何かを思案しているかのようだった。普段のようなのほほんとしたマイペースな笑顔はなく、いつになく真剣な面持ちである。
どうしたのだろうとクーゴが首を傾げたのと、イデアが顔を上げたのはほぼ同時だった。
「クーゴさん、乗り気じゃありませんね?」
鋭い読みに、クーゴは閉口して視線を逸らす。途端に、くすくす笑う声が通信から響いた。
「折角のお祭りなんだから、楽しまなきゃ損ですよ。エキシビジョンは催し物なんですから」
「いや、でもな……。グラハムたちと違って俺は役として士気不足だし、今更キミと白黒つけるような必要は皆無だし、俺個人としてはキミと肩を並べて戦う方が性に合ってるし。どうせ催し物をするなら、俺はキミと肩を並べて戦いたかったかな。だから正直な話、今回のコレはちょっと残念なんだ」
「ん゛ん゛ん゛ッ」
クーゴの話を遮るようにして、イデアが咳ばらいした。通信画面越しから見るイデアの顔は真っ赤に染まっている。しかし、彼女はすぐに取り繕った。
胸元を抑えるようなジェスチャーをした後、深呼吸したイデアが言葉を続ける。
「でしたら、ちょっと賭け事でもしましょうか? 負けた方が勝った方の言うことを聞くというルールで。その方が、多少はモチベーション上がりますよね」
「賭け事か。俺はあまり好きじゃないんだが……キミ、随分とやる気に満ちてるな」
「そりゃあもう! 賭けることはもう決まってますからね!」
「なら、聞かせてもらおうか? レディ。キミは俺に何をしてほしいんだ?」
子どものようにはしゃぐイデアの様子に、クーゴはついつい茶化すような物言いをしていた。彼女は怯むことなく、堂々とその問いに答える。
「――私が勝ったら、クーゴさんには、私のお婿さんになってもらいます!!」
――世界が、止まった。
後頭部を背後から思い切りぶん殴られたような感覚に見舞われる。咄嗟のことに対応できない。自分の周囲だけ、時間の流れが非常に緩やかになったように思った。
今、彼女は何を言った。自分が勝ったら、クーゴに「婿になってもらう」とか言わなかったか。婿になるということは結婚するということか。
(――あれ? これってもしかしてプロポーズ? プロポーズ、だよ、な? プロポーズ……プロポーズ!?)
本当の意味で状況を把握し、受け止められたのだろう。途端に、体中が沸騰するが如く熱くなる。勢い余って「ん゛ん゛ん゛ッ!?」と些か奇妙な唸り声を上げてしまう程、イデアの発言は衝撃的であった。
冗談にしては悪質な話ではあるが、残念なことに、堂々と宣言したイデアの様子からしてそれはあり得ない。不敵に微笑む彼女の表情が、光を宿さぬ紫苑の瞳が、彼女の思念が、本気であると訴えている。
この場に響き渡っているはずの音――観客のざわめきも、MS同士が繰り広げる剣載も、砲撃音も聞こえない。水を打ったかのように静まり返っている。切り離された世界の中で、クーゴただ1人がパニックに陥っていた。
(いきなりそんなことを言われても……! むしろ、イデアが俺のことをそんな風に思ってたなんて知らないぞ!? そりゃあ、俺と一緒にいるときはやけに楽しそうだなとは思ったけど……)
軍人としての思考回路は使い物にならない。それだったら、クーゴ・ハガネ一個人としての思考回路の方がまだまともに動かせる。だから、精一杯働かせた。
(イデアのことは嫌いじゃない。むしろ、魅力的な女性だとは思ってる。俺にとって、彼女はかけがえのない大切な人だ。最高の
そこまで考えて、クーゴは思わず口元を覆おうとした。だが、ヘルメットのバイザーに邪魔される。歪に緩んだ口元を隠せないというのは、何とも居心地悪い。
クーゴは通信画面越しからイデアを見つめた。彼女は笑っている。ただ、光を宿さぬ天色の瞳には、一抹の不安が滲んでいた。イデアはずっと、クーゴの答えを待っているのだ。
答えは決まってる。ただ、それを語るに相応しい言葉が見つからないだけだ。グラハムのような気障な台詞など、そうそう出てくるはずがない。メンタルと語彙力が貧弱すぎた。
(……腹を、括ろう)
クーゴは深呼吸し、イデアに向き直った。
「分かった。その賭け、受けて立とう」
「本当ですか!? よーし、全力で頑張っちゃいます!」
イデアはぱああと表情を輝かせる。
……折角なので、意趣返しもしておこうか。
言われっぱなしというのは、些か癪に障る。日本男児のプライド的な問題で。大人げないとは自覚しているのだが。
「その前に1つ確認したい。負けた方が勝った方の言うことを聞くというルールは、俺にも適応されているんだよな?」
「はい! それで、クーゴさんが勝った場合、私は何をすればいいでしょう?」
「そうだな。――キミには、俺の恋人になってもらおう。結婚を前提としての、おつき合いというヤツで」
クーゴがそう言った途端、イデアが凍り付いた。
嫌な沈黙がこの場を支配する。一歩遅れて、収まりかけていた熱が再沸騰した。
薄らとではあるが、嫌な汗が滲む。
(……あ、やばいすごく恥ずかしい)
一度出した言葉をひっこめることは不可能だ。むしろ、これをなかったことにしたいとは思いたくない。今後の展開ではそう強く願うことになるかもしれないが。
クーゴが挙動不審になりかけたとき、イデアの顔が真っ赤に染まった。己の中に湧き上がった衝動を押し殺そうとしているのか、小さく背を丸めて胸を抑える。やはり、「ん゛ん゛ん゛ッ」という奇妙な呻き声を上げて悶絶していた。こちらも悶絶した。
2人して悶絶し合った後、もう一度顔を見合わせる。照れくさい。非常に照れくさい。「ああ」だの「うう」だのと意味のない言葉を零した後、クーゴは覚悟を決めて顔を上げた。向かい合うイデアも同じ気持ちらしい。2人同時に噴き出した。
「ふ、ふふ、ふふふっ」
「はは、ははははっ」
ひとしきり笑い終えて、イデアは不敵な笑みを湛える。
「……それ、本当にいいんですか? その条件のおかげで、私、俄然やる気出ちゃいましたけど」
「望むところだ。悪いが、こっちこそ勝ちを譲る気はないね」
不敵に笑って操縦桿を握り締める。今、クーゴの人生の中で一番「心躍っている」ような気がした。そのせいか、自然と口元が緩む。恐らくは、相手も同じ気持ちだ。
だから、だろう。クーゴのブレイブとイデアのガンダムが動いたのはほぼ同時。ガンダムの自立兵器とブレイヴの射撃がぶつかり合う。そのコンマ数秒で距離を縮めて可変したブレイヴの斬り払い攻撃を、ガンダムはステップを踏むようにして回避した。
エキシビジョンという戦場が、クーゴ/ブレイヴとイデア/ガンダムの舞台。その片隅で、ひっそりと――けれども激しく、自分たちは踊る。世界にたった2人だけ。そんな錯覚に足を踏み入れながら、クーゴ/ブレイヴとイデア/ガンダムは剣載を繰り広げた。
◆◆◆
「なあにこれぇ」
そう呟いたのは、ジュドー・アーシタだった。彼の呟きは、即ちクーゴ/ブレイヴとイデア/ガンダムのやり取りを見ていた者――宙継以外――全員の総意である。中には<つまらない茶番を見せつけられている>等と零す輩もいた。
クーゴがイデアに賭けの報酬を提示した時点で、ギャラリー全体がかなりざわめいている。ガンダムのパイロットや彼らのライバルとなっている面々に至っては、戦いの手を止めて2人/2機を凝視していた。しかしながら、フィールドの隅で剣載を繰り広げる当事者2人はそんなこと気づいていない。完全に、自分たちだけの世界で戦っている。
「あの2人、勝手に始めちゃったけど?」
「あれが俗にいう“リア充”ってヤツか……」
「これ、何と言えばいいのかな? 祝電を入れた方がいいのかなぁ?」
「いや、やめておいた方がいい。馬に蹴られて死ぬわけにはいかないだろう?」
「くっ、俗物め。ベタベタしたのは嫌だって言っただろうが!」
「……いつか、リリーナもこんな風に……」
「おいどうした? 目が死んでるぞ」
「……なあ、どうする?」
「どうする、って……ご両人の邪魔をするわけにはいかんだろう。我々は我々で、全力勝負と洒落こもうか」
暫し顔を見合わせていたエキシビジョン参加者たちであるが、クーゴ/ブレイヴとイデア/ガンダムに生温かい視線を向けた後、すぐに戦いを再開した。但し、彼/彼女たちは意図的に、クーゴとイデアの機体を視界に入れぬ位置を陣取っている。相当『居たたまれない』ようだ。
「あの2人の賭け事って、賭け事って言えるのか? どちらが勝っても、結果は変わらないような……?」
「う、うーん……。大人の事情ってヤツじゃないかな?」
首をひねった銀河の問いに、北斗が苦笑いしつつフォローを入れる。“勘のいいガキ”は碌な目に合わないと察しているためか、北斗の濁し方はぎこちなかった。銀河は紙一重で“勘のいいガキ”ではなかったらしい。その話題を早々に打ち切って、エキシビジョンマッチに話を戻す。
“勘のいいガキ”でなくとも、この状況を冷静に分析できる境界人――中学生の後半~高校生程度――の中には、この状況を指摘せずにはいられない面々もいた。その代表格――シンジと浩一がハラハラしている。
「ね、ねえ。刃金くん」
「何でしょう?」
「あの2人が恋人同士になるとして、その……キミは大丈夫なの?」
シンジが心配しているのは、クーゴと宙継の関係性を知っているためだろう。話題を小耳に挟んだらしく、エキシビジョン終わりで休憩していたエイサップとリュクスが何か言いたげに視線を向けていた。この2名には“親が再婚した”という共通点がある。このままいくと、“宙継も似たような境遇になる”と察しているのだ。
シンジも似たような気持ちなのだろう。碇親子はシングルファーザーだ――但し父親のゲンドウは調放任主義者で、やや過保護気味のクーゴとは正反対である――から、クーゴと宙継の関係を自分の親子関係と重ねている節があった。それ故に、彼は「父親の再婚」という可能性に思うところがあるようだ。宙継も複雑な気持ちではないかという答えに辿り着いたらしい。
宙継は、隣に座っていたハーメスに視線を向ける。
「大丈夫ですよ。むしろ、『ああ、やっとか』という気持ちの方が強いですね」
「『やっと』!? ってことは、刃金お前……」
「早瀬先輩の予想通りです。ずっと2人を応援してましたが、何か?」
「今までだって、色々お膳立てしてたんですよ」と零せば、中学生軍団が唖然としていた。
「ちょっと心配だったんですよね。『
「俺としてはどちらでも構わないんだが、小隊長く――宙継くんが気にしているようだったのでな」
笑っている自分たちを見て何を思ったのか、シズナとイズナが天を仰ぐ。
「ウチらより年下の子どもが、年齢に見合わんこと考えとった……」
「保護者の幸せなんて、一般的な子どもが考えることじゃないよ……」
「僕にとって、あの人は命の大恩人ですからね。あの人の幸福を願うのは当然じゃないですか」
クーゴが宙継に対して筋金入りの過保護であるように、宙継もまた、クーゴのことに関しては筋金入りの過保護であった。彼が自分の幸せを祈るように、自分もまた、彼の幸せを祈っているのだ。いつだって、どんなときでも。
「正直な話、僕、人類のために地球を救おうと考えている訳じゃないんですよ」
「はぁ!? あんた何言ってるの!?」
「僕を助けてくれた恩人であるあの人や、一緒に戦ってきたカイルスのみんなが幸せに暮らせる場所として、地球が必要だから戦うんです。あの人や、カイルスのみんなが大好きだから、その力になるために戦うんですよ」
宙継の言葉を聞いて、身を乗り出しかけていたアスカがぴたりと動きを止めた。いや、この場に居合わせた中高生と大人の一部が凍り付いている。
どうしてこんなことになっているのか分からなくて、宙継はきょとんと首を傾げた。どうかしたのかと問う前に、矢島が目頭を覆ってため息をつく。
「刃金さんが過保護になる理由が分かった気がする……!」
「おい刃金。やめろよ。間違っても、その大天使スマイルで『そのためだったら死んでもいい』とか続けるなよ!?」
「早瀬先輩、どうして僕の考えていること分かったんですか!?」
「うわああああああああガチだったあああああああああ!!」
この場にいた面々が天を仰ぎ、頭を抱え、嘆きを叫び、狼狽する。狼狽したいのは宙継の方だ。
どうして周りからそんなことを言われなければならないのか分からない。
助けを求めてハーメスに視線を送れば、相棒は赤眼鏡のブリッジを抑えて深々とため息をついている所だった。
「……そこがキミの悪い癖だぞ、小隊長くん」
「ハーメス! コイツのこと、ちゃんと見張ってろよ!?」
「誰に言われずとも、そのつもりだ。俺がそう望んだのだから」
「いや待って。
宙継の話題から何故かハーメスの方に飛び火していくという周囲の喧騒に困惑しつつ、途方に暮れていたとき、視界の端にクーゴ/ブレイヴとイデア/ガンダムが剣載を繰り広げているのが見えた。
2人が不適に笑う横顔が《視えた》気がして、宙継の口元が自然と緩む。どうかこのまま、いつまでも、2人が穏やかでいられれば――そう、願っていた。
――この場に、轟音が響くまでは。
◆◆◆
――さて、どうしようか。
クーゴは天を仰いで口元を覆った。隣に座っているであろうイデアのことを直視できない。ちらりと視線を向ければ、彼女はこちらに背を向けていた。気のせいでなければ、頭から湯気が漂っているように思う。
何かを言わなければとは思うのだが、言葉は喉に閊えたまま。半開きになった口から零れるのは吐息だけだ。気の利いた言葉が出てこないというのは死活問題である。
(気まずい……)
原因は分かっている。エキシビションマッチで持ちかけた/持ちかけられた賭けの結果が有耶無耶になってしまったせいだろう。
(あの場で
エキシビションの最中に乱入し、決死の戦いの後に撃破した敵――ヒトマキナとアンチスパイラルの連合部隊――を指揮していたヒトマキナの大将を思い返す。カイルスの力を総動員し、紙一重で下した強敵だ。あの戦いの最中は死ぬか生きるかの瀬戸際で、こんなことで頭を悩ませる羽目になるとは思わなかった。
「死亡フラグを乗り越えても、次の死亡フラグがやってくる」なんて話を思い出したのは、どちらも頭が痛い事態だからだ。このまま賭けを“なかったこと”にするには惜しい。だからといって、いきなり関係の形を変えることは、酷く難しいことのように感じる。その一歩をどう踏み出せばいいのか、実に悩ましい。
(……女々しいなぁ。腹はとうに括ったはずなのに)
クーゴはがりがりと頭を掻いて息を吐く。こんなとき、グラハムのような勢いが羨ましいと思うのだ。真似できるとは思っていないが。
……考えるのは、辞めだ。賭けの結果内容は「最終的にどちらも同じ」なのだから、何も問題あるまい――己にそう言い聞かせた。そうして、声を上げる。
「なあ、どうするんだ」
「へっ!?」
「賭けのヤツ。……結局、
勤めて落ち着いているように振る舞ってはいるが、心臓は悲鳴を上げている。身体は酷く熱を持っていた。
「ここに来る前、
「……そ、それで?」
「映像解析の結果、キミ優勢だった。つまり、キミの判定勝ちということになる」
クーゴは一端、そこで言葉を切った。イデアが弾かれたように振り返り、こちらを凝視する。頬は真っ赤に染まっていた。
勝利と権利はイデアに譲るような形になったが、どこぞの誰かさんのように、せめて一矢報いるくらいは許してもらえないだろうか。心の中で言い訳しながら、クーゴは苦笑した。
「キミは魅力的な女性だから、俺なんかより相応しい相手はいくらでもいたはずだ。……でも、星の数ほどいる男の中から、俺を選んでくれたこと、嬉しく思うよ」
「クーゴさん」
「不束者だが、キミの夫として、どうかよろしく頼む」
イデアを真正面から見据えて、クーゴは頭を下げた。イデアの返事はない。顔を挙げれば、彼女は俯いて肩を小さく震わせているところだった。幾何かの沈黙ののち、イデアは恐る恐る口を開く。
「ご、ごめんなさい。その……賭けの内容、ちょっと、変えてもらえませんか?」
「え?」
「本当にごめんなさい! まさか『キミの夫』の破壊力がここまでとは思わなくて……本当、このままだと、心臓が持たない……!」
「はわわわわ」なんて奇声を上げながら、彼女は両手で口元を覆った。相変わらず顔は真っ赤である。「舞い上がっている」という表現がよく似合う挙動だ。このまま昇天されてしまうのは本当に困る。
イデアは顔を真っ赤に染めたまま唸った。どうしていいのか分からず、クーゴも唸る。幾何かの後、イデアはおずおずとクーゴの方に向き直った。申し訳なさそうに、気恥ずかしそうに、彼女はぽそぽそと言葉を紡ぐ。
「……や、やっぱり、いきなり結婚は、私のキャパシティ的に、ちょっと無理があるなと思いまして……。このままだと、夫婦としての些細なやり取りしただけで昇天しちゃいそうなんです……」
「相手側からすれば頭が痛い死因だな、それは」
「だから、それまでの準備ってことで、その……婚約者としての準備期間が欲しいんですが……ダメですか?」
おそるおそる、上目遣いでこちらを見上げるイデアの眼差しに、クーゴは生唾を飲んだ。――照れる。物凄く照れる。直視できないくらい照れる。
イデアの提案には肩透かしを食らったような気になったが、これはクーゴが彼女に提示した条件だ。回り道をしたが、スタートに戻ってきたような結果である。
……いいや、元から似たような条件を提示していたのだ。故に結果も変わらないだろう。
「……分かった。それじゃあ、これからはキミの婚約者としてよろしく頼む」
「は、はい! 不束者ですが、よろしくお願いしますっ」
互いに頭を下げ合う。どうやら、イデアにとっては『キミの婚約者』も充分な破壊力を有していたらしい。吐息のような声色で、「ひええええ」と悲鳴を上げていた。それはクーゴも同じである。口には出さないが、内心はもう悲鳴を上げてのたうち回っていた。現実で踏みとどまっているのは、ひとえに鍛えた精神力の賜物であった。
これで、自分たちの関係は“本当緒の意味で”区切りがついたと言えるだろう。この答えもまだ途上ではあるけれど、大事に育んでいければいい。大事に育んでいきたいと、クーゴは決意を新たにした。――恐らくは、自分の真正面ではにかむイデアも。
満面の笑みを浮かべたグラハムや竜馬たちに突撃されたり、虚ろな目をしたデカルトやハマーンたちから「おめでとう」と雑な祝福をされたり、浩一とシンジから「2人とも幸せになっていいけど、宙継を泣かせるような真似しないって約束してください」と念を押されたり、悪の組織2代目社長と役員たちから祝電が届いたり、悪乗りした石神が変なイベントを企てて加藤・森次・ゼロに止められたり、刹那やC.Cたちから「ああ、やっとお前らくっついたのか」と呆れられたりして、カイルス全体がお祭り騒ぎになったのは、それから数時間後の出来事である。