羊のスープ   作:XP-79

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後編

 

 

 人の業は深い。魔族などより余程、余程深く、暗い。

 

 可愛い息子よ。お前だけでも生きてくれ。

 父はそう言い残すと、自らの米神を拳銃でぶち抜いた。「テメェのせいでこうなっちまったんだろうが」と罵る隙も無かった。

 その場に倒れた父の手から銃が零れ、母はすぐさまに飛びついて後を追った。

 妹は母の遺体から恐々と銃を取り上げたが、銃弾が残っていなかった。しょうがなくメソメソと瞼を擦りながら首を吊った。

 

 家族は皆貴族だった。地下でネズミを喰らって生き延びるより、ふくよかな肉を纏ったまま死ぬ方が気高いと思っていた。

 しかし妻だけは違った。彼女は庶民出の強く賢く、生き汚い女だった。

 泣き喚く自分の隣で妻は母を捌いて肉を調理した。絶望のあまり蹲った自分の口に妻は無理やり姑の腿肉を突っ込んで、「煙草が欲しいわ」と嘯いた。

 

 そうして何とか地下で生き延びた。自分も徐々に、家族の血肉を食べることに抵抗を覚えなくなっていった。

 

 3人分の血肉を喰い尽くし、とうとう2人揃って飢え死にするか、どちらか一方が食料になるしかないという所まで追い詰められた時、次は自分の番だと思った。

 自分より妻の方が強いのだから。自分が妻の食料になるのは当たり前だった。

 しかし妻は、地獄の悪魔も裸足で逃げ出すような顔をして「絶対に復讐しろ」と私に誓わせてから自分の首を一太刀で掻っ捌いた。

 庶民の彼女が生き残っても復讐は不可能だと確信しての決断だったのだろう。一切の躊躇いの無い見事な最後だった。

 美しかった。

 

 それから地下牢を出るまでの数週間の記憶は無い。

 ただ、昔に戦場で眺めた魔族が人を喰う光景を何度も思い返していた。

 

 貴族の義務として、一度だけ戦場に出たことがある。狭い領地同士の小競り合いだったが、魔族が乱入したせいで規模の割に被害が多く出た。

 ヒトの形をした魔族が人を獣のように追い立て、次々と捕食する光景は、身震いする程に美しかった。

 雪崩に群衆が飲み込まれるような、噴火した火山の溶岩が人里を焼き潰すような、人の手が及ばぬ美があった。

 

 あの美しさは何なのだろうか。

 妹の血で父の眼球を洗って喰った妻。目の前で殺された妻を喰った敵の有様。

 鮮やかな絵画や優美な音楽より壮絶な美、未熟で野蛮で粗雑で悍ましい有様。救い難い人の業。原始的な人そのもの。

 厳しい自然の営みの極点にあるもの。

 

 レストランで客が人肉を、そうとも知らず口にする姿を見る度に、あの光景を思い出す。

 地下牢で凍り付いた心が、その時ばかりはゆるりとほどけて、温かい血肉を取り戻したような、醜い人の有様から逃れられたような気がしてならなかった。

 

 

「魔族は人と共存できない。それは、人は、人こそが魔族などより余程醜く、罪に塗れているからに他ならない。私はそんな人々が自らの罪に打ちのめされて、のた打ち回る瞬間が好きなんです。今の貴方のように」

 クノッヘンは動かなくなってしまったグリュックを見下ろした。胃液とスープで服を赤ン坊みたいに汚し、顔は死人より白い。

 惨めな有様だと、見下げる気にはなれなかった。自分が家族を食べた時はもっと酷かった。

 そして自分は、この姿の人間を見るのが何より好きだ。心がふくふくと満ちる感覚がした。

「可哀想に。しかし、すみません。私は貴方を殺してやれない」

 殺してやった方が楽だろうが、マハトへ告げた復讐の内容は、グリュックにレクテューレの肉を食べさせると言う事だけだ。

 グリュックを殺してしまえば自分はほぼ間違いなくマハトに殺される。

 

 今更自分の命に執着は無い。しかし自分はもっと多くの人々に羊のスープをふるまう使命がある。

 自然から離れてしまった人を自然に戻すために。つまりは人に、命の営みを取り戻させるために。

 最早それだけが生きる目的だった。であるのならば、グリュックの命はどうでも良かった。この男を殺しても息子が生き返る訳でもない。

 

「グリュック様には暫くこのレストランに滞在して頂きます。私がヴァイゼから離れるまでの間の事ですのでご安心を。食事の味は保証致しますよ」

「殺す、殺してやる」

 こちらを見上げるグリュックの顔は妻の死に顔に似ていた。醜くて、しかし人間らしい生気に満ちていた。

 好ましい顔だった。笑みが零れた。

「どうぞご勝手に。マハト様は……封魔鉱があるので暫くは出て来られないでしょうが、時間の問題でしょうね。気に入りの女でしたがしょうがない」

 女はとっくにマハトの胃の中に納まってしまっただろう。息子も珍しい肌色をしたあの女を気に入っていた。優しい子だったから南の国の歌姫から落ちぶれた身の上を憐れんだのだろう。

 しかしここまであのバケモノの時間稼ぎをしてくれるなら安い出費だった。

 

 給仕の女が食後のコーヒーを運ぶ。地面に這いつくばるグリュックを避けて、クノッヘンの目の前に金縁の鮮やかなデミタスカップと、白い手紙を置いた。

 手紙は一度くしゃくしゃに丸められたのだろう。脳みそみたいに皺が走っている。

 これは何だと眉を顰めるが、女は怯える様子も無くトレイを抱えているばかりだった。その顔に見覚えがある気がした。

「お坊ちゃまからの御手紙です」

「何だと」

 掠れた声にこめかみがツンと痛む。

 皺を叩くようにして伸ばしながら目を走らせる。しかし息子の筆跡ではなかった。もっと機械的で、読みやすい代わりに個性を廃した字形をしていた。

 

 曰く、クノッヘン卿は金で買った子供の肉をレストランでスープにして売っている。

 他にも死刑判決を受けた重罪人の肉をレストランで扱っているとか、乙女の血をワインに混ぜて提供しているとか。父母に妹、妻までも殺して喰ったとか。

 つらつらと並ぶ自身の所業は非常に詳細であった。

 最後に、これらの事柄はまず間違いなく事実であるが、確固とした証拠を掴むため貴公に是非協力して頂きたいという文言で締めてある。

 宛名は息子の名前。差出人はマハト。

 

「これは何だ」

「胃袋から見つけたのよ」

「は?」

「手紙は消えたんじゃなくて、飲んじゃってたのよ」

 飄々とした口調に始めて女の顔をまっすぐに見上げる。

 やはり、見覚えがある顔立ちである。北の国では珍しい黒髪に黒目。ひび割れたオカリナみたいな声。

 瞬きすると女の肌が褐色に染まった。一瞬の事だった。マハトが気に入ったという長い黒髪が揺れる。

 一拍呼吸が止まる。後ろ頭が寒い。深く息を吸ってクノッヘンは女を睨んだ。

「お前……お前は、マハト様に差し上げた筈だ」

「喰われる前提でね。このクソ野郎」

 下品に舌打ちした女の後ろからコツコツと上等な革靴の音が響く。扉がゆるりと開いた。信頼を置いている私兵が、ベルベッドの髪の向こうで廊下に崩れ落ちるのが見えた。

 

 強張っていた背筋から力が抜ける。ああ、終わったんだなぁとクノッヘンは悟った。

「不思議ですよね。貴方の息子は貴方の所業に胸を痛めて自殺までしたのに、その所業を隠すために私からの手紙を飲み込んだ」

 以前このレストランに来た時と、地下牢に居た時と、寸分変わらない美しい微笑みを魔族は浮かべていた。

 筆舌に尽くしがたい美貌であった。狭い世界に閉じ籠る人間には持ち得ない壮絶な美だ。大型の獣が喰い合う生々しい美。凍り付いた俊峰の頂点に輝く美。

 

 善も悪も無く、ただ魔族とはそういった生物なのだと一目で解る。生まれながらに原罪を背負う人間とはどこまでも相容れない黄金色の天使。

 マハトは杖を握る少年とレクテューレを引き連れて、恭しく首を垂れた。

 

(息子)のスープ、お味は如何でしたか?」

 

 

 

■  ■  ■

 

 

 

「心配して損した!ホントに損した!!」

「おや、心配して下さったのですか」

「お前なんて誰が心配するかバーカ!!!」

 デンケンは兵士の肩に担ぎ上げられたままじったんばったん手足を振り回した。

 

 義憤に駆られるがまま魔法を駆使してなんとか裁判所地下まで潜ったは良いが、マハトが幽閉されているだろう地下牢に近付くと突然魔法が使えなくなってしまった。

 封魔鉱だと気づいた時には警備兵にボコボコにされてこの有様である。

 魔法使いが拳で戦う事態なんてある訳が無いと思って碌に鍛えていなかったのが運の尽きだ。

 

 担ぎ上げられ、ガキだけど不審者だから一応地下牢に入れておこうか、という警備兵の適当な呟きを聞きながら厳重な扉の奥に運ばれると、マハトが居た。

 タペストリーの鮮やかな一室で柔らかいソファに身を任せ、手には魔導書。机にはワインとツマミ。膝の上には褐色美人を乗せて長い髪を弄んでいる。

 愛人とバカンスを楽しむバカ貴族みたいな様相だった。こんなヤツを心配していた自分が情けないわ恥ずかしわでデンケンは大声で喚き続けた。

「レクテューレが誘拐されたんだぞ!お前、お前が戻らないとレクテューレが死んでしまうかもしれないんだぞ!?」

「そうですか」

「お前はグリュック様の部下だろうが!何をこんな所で、何、何?その女性は!?」

「クノッヘン卿から頂きました」

「頂かれました」

「本当に何なんだ!?」

 艶やかな美女はマハトに媚びる訳でもなく、かといって怯える風は欠片も無く、暇を持て余した猫みたいにソファへ体を投げ出している。

 マハトの檻の前を通り過ぎ、デンケンはその向こうにある小さな牢に押し込められた。当然魔法は使えず、鉄の錠前をどうしようもない。ギリギリと歯を食い縛りながらマハトを睨む。

「クソ、クソ!!お前は此処から出られないのかよ!!」

「出る理由が無くて」

「出る理由しかないだろうが!!レクテューレが誘拐されたっつってんだろ!!」

「ええ、クノッヘン卿から伺いました。レクテューレ様を誘拐して、グリュック様に眼に物を見せると」

「分かってんだったらさっさと出ろ!」

 こちらは気が気でないというのにマハトは優雅にワイングラスを傾ける。

 そのあんまりにも悠長な様子にデンケンは、もしやこの魔族はこの状況が理解できていないのではないかと考えた。

 

 レクテューレはどこか安全な場所に閉じ込めておくだけで、それ以上の危害を加えるつもりは無いとでも言われたのかもしれない。

 貴族の居室めいた地下牢にマハトを収監した男にそう言われてしまって、そうか、レクテューレも自分と同じような待遇を受けているのかとでも勘違いしたのではなかろうか。

 そもそも人間には人間同士で醜く争い合う習性があることを魔族が理解しているのか定かではない。

 

 そうと気づいてデンケンは唇を噛んだ。

 ああ、そうだ。きっとそうなのだ。

 この聡明で素直な大魔族は、力を合わせて生きる人間が同族に対して非道な真似などする訳がないと、道理と正論でもって思い込んでいるのだ。

 

 魔族が大嫌いなデンケンだが、美しくて真面目で時折天然ボケをかます師匠に対しては目が曇る時があった。

 

 実際のマハトは、「レクテューレは誘拐した後、胃の中が空っぽになるまで待ってから殺して血抜きをして一番美味しい腰の肉をグリュックに喰わせる」としっかり言われている。

 そうしっかり言われた上でマハトは地下牢から出る理由がこれっぽっちも思いつかなかった。

 マァそりゃあ娘が死んでしまえばグリュックは落ち込むだろう。しかしレクテューレはどうせ病弱で近々死ぬと分かっているんだから、そんなにショックでもあるまい。

 それより実の娘を食べてしまった時のグリュックのリアクションが見たいという欲が勝った。

 なにせ人間は若さのためなら滋養強壮を謳う謎のスープに殺到するし、美味しいのならば同族の血だって飲む。人間の好奇心と欲深さは魔族など比にもならない。

 同じ人間であるグリュックも勿論そうだろう。

 ではグリュックも滋養強壮効果のある同族の、血の繋がりのある娘の肉を喜んで食べるのだろうか?

 もし食べるのならばその時はどのような顔をするのだろうか。もしかすると、悪意や罪悪感が満ち満ちた顔をしているのか。

 その顔を想像するとマハトの胸はぽかぽかと温かくなった。

 

 マハトは本当にグリュックが好きだ。グリュックは情に篤く聡明で、自分の求めるものを理解した上で善く協力してくれる。かといって過度に遜ることもなく、思う所を素直に言葉で表現する胆力もある。

 これまで出会った人間の中で間違いなく一番に気が合う男だった。何のてらいもなく友人と呼べるたった一人の人間である。

 だから自分が常々欲しいと思っている悪意や罪悪感が、大好きなグリュックの白い石膏みたいな顔を覆う様を見たかった。

 自分が見た事の無いグリュックの顔が見られるのならば地下牢に監禁されるぐらいへっちゃらだ。

 これはマハトにとってみれば、大好きな人の意外な一面を見たくてバイト先へ「来ちゃった♡」するJKと同じような行動原理である。勿論、悪意の欠片も無い。

 

「グリュック様だって、死んでしまうかもしれないんだぞ!」

 そう言われてマハトは「へ?」とマヌケな声を上げた。

「え?何故グリュック様が?」

「グリュック様はレクテューレを愛してるんだ!彼女が誘拐されて、殺されるかもしれないなんて……グリュック様がレクテューレのためにクノッヘンに直接会いに行きでもしたら、殺されるかもしれない!」

「………そんなにショックな事なんですか?(どうせ病弱なレクテューレは近々死ぬのに?)」

「娘が誘拐されるなんてショックな事に決まってるだろ!(クノッヘンに殺されるかもしれないんだから)」

「しかし、クノッヘン卿は私に(レクテューレは殺すけれどグリュックは殺さないと)約束されました。まさか約束を破るなんて……」

「そんな(レクテューレを無事に返すという)約束を守るようなヤツじゃない!早く助けに行かないと取り返しが付かない事になる!」

 鉄の檻を揺らしたり殴ったり噛みついたりするデンケンに、なーんか行き違いがあるんだろうなぁとマハトは呑気に思う。

 しかし現状がなんだか面白いので無視することにした。魔族は生来の強靭さ故か、その場のライブ感に乗り易い。

 その結果としてクソみたいな奢りと油断で死ぬ羽目に陥るのだが、そうと分かっていてもビッグウェーブがあれば乗るのが魔族だ。

 後は目の前の若く未熟なデンケンが上手くウェーブを作れるかどうかの話だった。

 レクテューレの言に乗る訳では無いが、確かにデンケンは才能も根性もある。この上マハトをその気にさせるような気質があるなら、確かに都合が良い。人間を理解するのに丁度良いロールモデルに成り得る。

 

 マハトは読みかけの魔術書を静かに閉じた。

「人間は何故同族で頻繁に殺し合うのですか?昆虫類にはメスを取り合って殺し合う種族もありますが、それは種を残すという本能的な理由がある。人間程に曖昧な理由で殺し合う種族は自然界では珍しい」

「……?それは、人間に社会があるからだろ。国とか、宗教とか……そんな事より、」

「そういった群体を作るメリットは多いでしょうが、頻繁に戦争を行うデメリットに見合うとは思えません。どうも人間って生存欲が薄いように思えてならないんですよね」

 何の脈絡も無くぶつけられた疑問に、そんな状況ではないと分かっていながらデンケンはこの生物の有様の一端を垣間見た気がしてこめかみが軋んだ。

 

 きっとマハトは今この時と同じように、その時々で浮かぶ子供みたいな疑問をグリュックに投げつけているのだろう。愛はどうして尊いのとか、どうして家族を大事に思うのかとか。無垢な疑問に真面目に向き合っているグリュックの姿が容易に想像出来る。

 魔族は人の言葉を真似て鳴くだけの魔物で、意思の疎通は不可能であると聞くが、きっとマハトは違う。

 幼児と大人が対等に話し合うのが不可能であるのと同じ理由で、マハトは人と話し合えない。

 経験が足りないという優しい理由ではなく、種族の違いという絶望的な理由によって、マハトの情緒と感性はいつまでも小さな子供のように、野生の獣のように、無垢で未熟で愚かしい。

 

 小さな汗の粒が頬を伝う感触がした。北部の戦場では少年兵は何より恐ろしいという。何にも知らない子供は罪悪感なく人を殺せてしまうからだ。マハトはそう成り得る。

 というか、もうなっている。今は、ものすごくマハトと馬の合うグリュックが偶然こちら側に引っ張っているだけで。

 自分の一言でマハトは容易に元の方向へ振れる。責任感と重圧に、よくもグリュックは平気な顔でマハトの傍に居るものだと口元を引き締めた。

「……戦争だったり反乱だったりは、国とか宗教とか原因はあるんだろうけどさ……多分、突き詰めて言うと、人間って、人間の間に分類を作る習性があるんだと思う。社会を作る上で、その方が運営し易いから……だから国とか身分とかがあるんじゃないかな。そのせいで対立して殺し合いに発展しやすいんだろうけど、でもそれって多分、悪い事だけじゃないんだ」

「と言うと?」

「何かあった時に助けてくれるコミュニティが決まってるだろ?戦う敵が出来た時に、味方になってくれるヤツも決まってるから……まぁでも争いなんて無い方が良いんだろうけどさ」

「争いなんて無い方が良いと分かっているのに、所属しているコミュニティのせいで人間同士の戦争が起きたとして、それで誰も彼もが納得して戦えるのですか?」

「……宮廷魔法使いとかだったら納得するしかないんじゃないかな」

「どうして?」

「居場所を守るために。人間ってお前らよりずっと弱いから、皆で集まって社会の中で生きてるんだ。だから今の居場所が凄く大事に思える。それが間違いだと分かっていても、人間同士での殺し合いになったとしても、今の自分を分類する要素からは逃げられないんだ」

「難しいですね。死ねば全てパァなんですから、無駄な戦いからは逃げた方が良いでしょうに」

「逃げる先も無いんだよ。人間の世界は狭いから」

「……だから現実逃避しちゃうんですねぇ」

 そう呟いてマハトは鉄格子を指先でひん曲げた。まぁツマラナイ回答ではあったが、乗ってやろうという気になったのだ。

 将来性に期待というヤツである。

 

 そのまま蜘蛛の巣でも破るようにくちゃくちゃに破壊して悠々と牢を出る。

 唖然とするデンケンの前でマハトは「力こそパワーですよ」と何故か自慢げな顔をした。

「お前ぇ……」

「さぁデンケン様も。こんな牢などさっさと壊して出て来て下さい」

「できるかバカ!!本当にバカ!!」

 何で出来ないのです?とキョトン顔のマハトに歯ぎしりする。

「人間は!鉄を飴細工みたいに曲げらんねぇんだよ!!」

「人間ってそんなに非力なんです……?勇者一行の戦士はダイヤモンドを素手で砕いた逸話があるというのに……?」

「ごくごく特殊な一部のバケモンだそれは!!」

 こちらを見下すマハトの嫌味の無い顔がいつもの10倍以上憎たらしい。

 しょうがないなぁとわざとらしく肩を竦めて「弱っちい弟子を甲斐甲斐しく助けてあげる人の出来た師匠」の面をするマハトに、デンケンは魔術の腕に加えて肉体も鍛えようと心に決めた。

 二度とこの男に情けない様を晒してなるものか。

 

 デンケンを牢から出したマハトは、黒髪の乙女に「クノッヘン卿の御令息の遺体を探して下さい」と飄々と告げた。

「あたしが?」

「はい。私はレクテューレ様を確保した後に向かいます。グリュック様に対するクノッヘン卿の誤解を解かなければなりませんからね」

「でもここは警備兵が結構居るからあたしなんてすぐに捕まっちゃうと思うわよ。貴方達が脱走したこともバレるだろうし」

「クノッヘン卿に、私達が脱走したら御遺体を守れと命じられたとでも言っておきなさい。自分が御遺体の傍に居れば、自分に情が移ったマハトは手を出さない筈だとも」

 黒髪の乙女はそれなりに人生の酸いも甘いも噛み分けているので、目の前で微笑む美麗な男が自分に情の欠片も抱いていないことは察していた。それどころか警備兵に殺されたとしても眉の一つも動かさないだろう。

 しかしそれはそれとして、自らが人生の岐路に立っていることは分かる。乙女は掠れた喉で細い息を吐いた。

「……私が貴方達に協力したってグリュック様に伝えてくれる?」

「心優しく健気で有能なお美しい方に救われたと伝えておきましょう」

「クノッヘンのクズに利用された哀れな女とも付け加えといてね」

「勿論」

 マハトが嘘を吐く理由も無い。パァンと自らの両頬を張った乙女は、マハトを振り返りもせず己の豊満な肉体を見せつけるように歩き出した。ピュウ、と口笛を吹くと細い中指を天に突き上げる。

 誘うように揺れる黒髪を見送った後、マハトはデンケンを脇に抱えた。

「では、私達はレクテューレ様を探しに行きましょうか」

「場所が分かるのか」

「私の魔法の痕跡を辿れば容易です。今日のレクテューレ様はあのドレスをお召しになっておりますからね」

 

 

 

 納屋は農具置き場として使われていた。少なくとも、そう使われているよう幾重もの魔法で見せかけていた。

 レクテューレから漂う自らの魔力の痕跡が無ければ、マハトですら地下室の発見は困難であっただろう。

 

 芝と土の青い匂いのする農具を避けると、木目に沿って地下扉があった。潜り抜けた先には冷えた石の匂いがする。

 衛生面には随分と気を付けているらしく、血の匂いは薄い。作業をしていた数名の他に生きている人間は少なかったが、加工されている最中の人間が複数体あった。

 

 マハトが救出に来た時、レクテューレは素っ裸で石天井から逆さに吊り下げられていた。血が頭に溜まり、破裂する寸前のトマトのように見えた。

 その隣には同じような恰好で首から血を吹き出して床を汚す子供の遺体があった。

 ああやって頭に血を昇らせてから大きな血管を傷つけることで血抜きをして、肉が生臭くならないよう加工するらしい。

 

 マハトによって地面に降ろされたレクテューレは唇のめくれた皮をひっぱりながらウツウツと説明し、それからずっと地べたに座り込んで震えている。

 目の前でマハトが作業員達の首を刎ねたり胴体をへし折ったりしている間も、指のさかむけを忌々し気に噛んでいた。

 冬の妖精みたいなレクテューレがそうやって素っ裸で血の海に座っていると人間離れして美しく見える。

 

 マハトは泣き喚いて許しを請う最後の一人から背骨を引き抜いて始末した後、震えるレクテューレに外套をかけてやった。

「お寒いでしょう。すぐに此処から出ましょうね」

「別に寒いから震えてるんじゃないのよ……」

 溜息を吐く。部屋は血溜まりに沈んでいた。レクテューレは凄惨な室内から目を背けて、この部屋で一番物騒な男を見上げた。

「デンケンは?」

「納屋の外で待ってもらっています。流石に刺激が強いかと思いましたので」

「そう。良い判断ね」

 レクテューレは無言で両手を差し出した。意を汲んだマハトがしゃがんで小さな体を抱きかかえる。

 ぽんぽんと背中を叩きながらマハトはレクテューレの身体を魔法で清めた。傷は一つも付いておらず、丁寧に扱われていたらしい。畜産業者が家畜にするような意味での丁寧さではあろうが。

「服はどちらに」

「ココに来た時に没収されたわ。あっち」

 指差された方向に足を向ける。踏み出す度に靴がぱちゃぱちゃと血の海に波紋を作った。

 部屋の隅には小さな金庫があった。食肉加工の前段階として羊たちの所有物を没収し、その中でも高価な物品は金庫の中に纏めて放り込んでいたらしい。力任せに扉を開くと一番にレクテューレのドレスが目を引いた。

 他は傷だらけの指輪やら、小さな聖典、金歯等々。二束三文の遺品が乱雑に放り込まれている。

「被害者の身元を探すのに役立ちそうですね」

「可能な限り家族の元に返すわ。でもまずはお父様の元に行かなければ……ねえマハト」

「何でしょう」

「多分だけど、クノッヘン卿って私をお父様に食べさせるつもりだったのよね?」

「ええ、そうでしょうね」

「……知ってたのね」

「知ってましたね」

 そう言うとレクテューレは頬を膨らませてマハトの角を両手で掴んだ。そのまま首をへし折ろうと全体重をかけてぶら下がる。

 しかしマハトは細い首を僅かに傾けることすらなく、貧相で食いでの無い女だナァと思っただけだった。

「だったらさっさと助けに来なさいよ!間に合ってなかったらどうするつもりだったの!?」

「レクテューレ様を食べてしまったグリュック様を観察した後にお慰めするつもりでしたが……?」

「メンヘラの最悪進化系みたいな生態してんじゃないわよ!!何よ慰めるって!!アンタ何をどうやったら娘を食べた父親のメンタルが回復すると思ってんのよ!!」

「美味しいもの巡りとか」

「娘の肉の口直しって!?アンタに人の心は無いの!?」

「無いです」

 平らな声で返すと、レクテューレは淑女にあるまじき勢いで舌打ちして、紫色の唇を噛んだ。

 そうして白い尻を冷たい石に下ろし、胡坐をかいて眼光鋭くマハトを睨む。ヤクザの下っ端みたいな態度に、何か碌でもないことを考えているに違いないと思った。

「まだクノッヘンは貴方が私を助け出した事には気づいてないでしょうね」

「ええ。魔法による通信はこの施設にはありません。とはいえ時間の問題ではあるでしょう。貴女が食肉加工されたらすぐにグリュック様へ提供するため搬送される手筈になっていたでしょうから」

「……貴方、幻覚の類の魔法って使えるの?」

 その一言でレクテューレの思惑を察したマハトは、」「得意分野ではありませんが」と微笑んだ。

 

「……クノッヘンを殺すのは簡単でしょうけど、そうなったらこの事件は表沙汰にならないわ」

「高級レストランで人肉が提供されていたなど貴族連中は絶対に隠蔽するでしょうね。意図していなかったとはいえ人の肉を喰っていたとは認めがたい」

「それに間違いなく協力者が多数居る。クノッヘン一人でここまでの人肉流通経路を確立させるなんて不可能だもの。クノッヘンを殺したら他の連中はクノッヘンに罪を全部ひっかぶせて逃げるでしょうし、そうしたら全貌が分からなくなる。だから、」

「レクテューレ様」

 マハトは身を屈め、鼻と鼻が触れ合う距離で目を合わせて柔らかく微笑んだ。

「本音は?」

「一泡吹かせたいわ」

 子供らしく澄んだ瞳が純度の高い悪意でねばついて光っている。前向きな悪意を抱える少女の顔はグリュックによく似ていた。

 この子供の身体が強靭であればきっと長く楽しめただろうに。マハトは珍しくも心から惜しく思った。

 

 

 

 レクテューレの無事を喜ぶデンケンを連れてマハトは裁判所に戻った。

 黒髪の乙女は首尾よく嫡男の遺体が保管されている場所を見つけており、マハトは腐敗しかけている遺体を手早く解体して『腐りかけた肉を食べられるようにする魔法』をかけた。

 

 そうして4人でレストランに向かい、今は給仕役のため離れた黒髪の乙女を除いた3人がその一室で待機している。

 調理室で諸々の仕込みを終えたマハトは擦り傷だらけのレクテューレと、ボコボコにされたデンケンへ治療魔法をかけた。

 僧侶の才能は無いが多少の怪我なら治せる。青いドレスの代わりに給仕服を着たレクテューレが「一応言っておくけど」とそっけなく呟いた。

「さっきの、命令じゃないのよ」

「分かっておりますよ」

 レクテューレは幻覚の魔法が使えるかどうか自分に聞いただけだ。ただ自分がレクテューレの望みを察して、それが面白そうと思ったから動いただけ。

 レストランの従業員に幻覚の魔法をかけて忍び込み、クノッヘンの息子の肉をレクテューレの肉と偽って調理師に渡したのは自分の判断で、レクテューレは一言もそうしろとなんて言っていない。

「私は誰の命令も聞きはしません。何時だって私の行動は全て私に責任がある」

「魔族って皆そうなの?」

「自然界の生物は皆そうですよ。誰かの命令に従うにしても、そう決断したのは自分だ。その責任は自分にある。人間と家畜以外の生物は、産まれてから死ぬまでの全てが自己責任なのですよ」

「そりゃあ魔族のコミュ力が低い訳だわ。全てが自己責任ならコミュニケーションの必要性が薄いものね……貴方って魔族の中じゃ変わり者でしょ」

「もしやレクテューレ様は私を褒めていらっしゃるので?」

「そう聞こえていなかったのならまだまだね」

 レクテューレは呆れ顔で紅茶に口を付けた。彼女なりの賞賛と察したマハトは緩く微笑む。

 別に嬉しいわけじゃない。相手を褒めた人間にはこう反応した方が好感触だと知っているだけだ。

 

 レクテューレはマハトの、叩けば鳴るおもちゃみたいな反応に微笑み返す。嬉しくも無いのに相手に会わせて微笑み返すのは、間違いなく人間特有のコミュニケーションだ。

 レクテューレはそういった、マハトの計算され尽くした人間臭さが嫌いではなかった。

「ところでこちら、クノッヘン様の御嫡男の胃袋から回収したものです。私が彼に宛てた手紙ですね───クノッヘン卿はこの手紙が御嫡男の死の原因だとおっしゃっていたのですが、どうにも私には彼が死んだ理由が分かりません」

「死ぬ前に飲み込んでたのか。証拠隠滅にしたって燃した方が良いだろうに、何でだろう」

「そもそも死因は何だったのよ。呪いじゃないんでしょう」

「普通に頸椎損傷とくも膜下出血でしたよ。墜落死ですね。潰れた頭蓋骨に草やら土やらが大量についていたので間違いありません。突き落とされた可能性はあるものの自室には鍵がかかっていたそうです」

「じゃあ自殺か」

 手紙はマハトが魔法で清めたらしく胃液のシミ一つ無かった。レクテューレは丁寧に皺を伸ばして眼を通す。

 ぱちりぱちりと瞬きしながら一通り読み終わった後、目をバッテンにして手紙をデンケンに突き出した。

「貴方ねぇ……」

「何か?」

「そりゃあ自殺もするわよ。単なる悪事ならともかく、これは甘っちょろいお坊ちゃんにはショックが過ぎるわ」

 酒の代わりに紅茶をがぶ飲みするレクテューレの隣で、手紙を読んでいるデンケンの顔が段々と曇る。

 何とか半目でぺらぺらぺらと手紙を捲り、最後には泣き出す寸前の赤ン坊みたいな顔でマハトに手紙を突き返してわっと突っ伏した。

 

 手紙はご丁寧に証拠付きであった。イラストも交えてバカでも分かるよう工夫されており、一目でクノッヘン卿とその嫡男である彼が何人分の人肉を食べたのか分かる。

 その供給元も詳しく記載されていた。旅人から貴族の令嬢、老人から嬰児まで。貴賤出身老若男女一切の差別なく平等に殺して捌いてソテーにしており、その過程すら詳らかである。

 淡々とした文体は逆に現実味が強い。読めば読むほど悍ましく、クノッヘン親子への憎しみが湧き上がるようになっている。

 そうと思わせる力のある手紙だった。嫌味な程に構成力が高く、読みやすい字体は反論の気を削がせる。

 最後にはお手本のようなスペンセリアンでMahatと黄金色の署名がしてあった。インクが紙に馴染む寸前に黄金化したのだろう。偽造という可能性すら叩き潰す徹底的なやり方だった。

「賄賂とか脱税とかはともかく………これ、この、父親が母親を食べたって……本当に?」

「本当でございますよ」

「人身売買で集めた人肉をレストランで振る舞ったっていうのも」

「本当ですね」

「息子に毎日食べさせていた羊のスープは」

「赤ン坊のレバー煮でした。体に良いそうですよ」

「息子の恋人を……」

「恋人じゃなくてセフレらしいです。玉の輿目的で近付く女の良い処分方法だと。ご本人も妻を食べていたそうですし、人間って好きな人を食べることに幸福を感じる習性でもあるんですかね」

 その言葉にデンケンは殆ど殴られるような勢いで首を何度も横に振った。そうですか、とマハトはちょっと残念な顔をした。

 もしそうであるのならグリュックを食べてしまえば自分も人間と同じ幸福を味わえるかもしれないと思ったのに。

「それで、何でこんな手紙を出したのよ」

 マハトの不穏な気配を察したのかレクテューレが睨んでくる。父親にそっくりな顔に少し和んだ。

「グリュック様はクノッヘン卿を公に断罪なさるおつもりでしたが、その前に財産を抱えて逃げられてしまう可能性が高いと危惧されておりました。そうなってしまうと、元々が名門の出の御方。ほとぼりが冷めれば再び悪事を企むでしょう」

「息子を味方につけようとしたの?」

「はい。クノッヘン卿は御子息を愛しておられましたから。愛する息子によって悪事の証拠を付きつけられれば、マァ、あれやこれやで愛の力で改心してハッピーエンド。観念して大人しくお縄についてくれるかなと」

 人間の愛の力って凄いですよねぇとマハトは教会の神父みたいな清廉な顔で手紙を丁寧に畳んだ。

 愛情へのあんまりにも薄っぺらい理解にデンケンとレクテューレは唖然とした。愛の存在を確かめるためにデスゲームを開催するようなヤツだと思った。

「あんたね……愛は万能の解決方法じゃあないのよ。どっちかが死なないと出られない密室にカップルを閉じ込めて『愛の美しさを見せてくれ!』とか言っちゃうようなタイプでもあるまいし、」

「それはしたことがありませんね。恋人同士にナイフを持たせて殺し合わせたことはありますけど」

「デスゲーム主催したことがあるんじゃないか。どうしてこいつは捕まってないんだ」

「……?ヴァイゼを守るために数多くの魔族と敵対した、この街の守護者だからでしょうか……?」

「一切の嘘偽りが無いのが恐いわ」

「毒を喰うなら皿まで……か」

 2人からジトリとした視線を向けられて、マハトは「この視線は思惑通りに事を進められなかったことを非難しているんだろうな」と思った。

 

 実際にはマハトを非難するどころではない心境だった。こいつはさっさと殺すべきド畜生なんじゃないかと今更ながらに思っていた。

 しかし食人癖のクノッヘンというド畜生からマハトによって助けられたばかりであることを思い出して、2人は揃って眼を瞑った。

 同じド畜生なら自分を助けてくれたド畜生の方がまだマシに見えてしまう。悲しき人のサガである。

 

「しかし自殺なさってしまうとは予想できませんでした。というか、何故人間は自らの命を断つのでしょう。蜘蛛の中には自ら進んで卵を孕んだ雌のエサになる雄もいるそうですが、彼はそういう理由で死んだのではないでしょうに」

 まぁた始まったとレクテューレは肩を竦めた。彼女はマハトがグリュックにこうして唐突に疑問を投げかける光景に慣れていた。

「生きるのが辛いくらい苦しいからでしょ」

「彼は健康体ですよ」

「そうじゃなくて、現実逃避よ。そうね、自殺ってきっと究極の現実逃避なんだわ」 

「分かりませんね。逃げることも避けることも、生き延びるためにすることです。生き辛いから現実逃避をして一瞬の楽を得るのはともかく、命を絶つのは本末転倒だ。いくら人間が群体的な性質を持つ生物だとしても、彼が父の業から逃げられなくても、死を選ぶ理由にはならない。生存こそ全ての命の存在理由でしょうに」

「……死ぬことを含めて生きることだからじゃないのかな」

 手紙を読んでからずっと蝋みたいな顔色をしたデンケンがおずおずと口にする。

「どうやって生きたとか、何を得たのかとか……多分、全部自己満足なんだよ。生きることって、大抵がそうなんだ。生存すること自体に意味は無いんだよ」

「むしろ魔族はどうして命に拘るの?魔族は生き汚いって聞くけど」

「個々人で異なるでしょうが、私に限って言えば……もっと色んなことを知りたいからですかね?」

「好奇心や知識欲が生きる原動力ってこと?」

「………いえ、多分違います。もっと機械的な理由かもしれません。野生動物がイチイチ生きる意味なんて哲学的なことを考えないように、産まれた瞬間からそう組み込まれているというか……」

「それは人間もそうよね。ただ、うん、人間って貴方達よりもっと狭い世界に生きてるんだわ。だから本当なら死ななくても良いような事で死んじゃうのよ」

「だったら広い世界に出れば良いでしょう。現実逃避で死を選ぶくらいなら現実を変えれば良い。名前を変えて違う街に移り住んで、また一から始めれば良いだけの話だ。身元が発覚するのが恐ろしいなら人里離れた場所に住めば良い。健康で若いのだから、そのくらいなんとでもなる」

「でも自分が自分でいることは止められないもの。いつまでも、どこまでも自分という存在は付き纏うもの」

 それはどういう、とマハトが首を捻ると同時に扉がノックされた。返事を待たずに勢いよく開く。

 マハトの魔法により褐色肌を白く変色させられた乙女がトレイを手に入って来た。緊張から、顔には小さな汗の粒が浮いている。

 女は机に置かれていた手紙をさっさとトレイに乗せて、豊かな尻を強調するように歩き出した。

「予定通り2人ともスープを食べたわよ。領主様がひっくり返って悶絶してるわ」

「それは是非見に行かなければ」

 マハトはキラキラした顔で勢いよく席を立った。子供達と話を続けたいのはやまやまだが、最優先は始めて見るグリュックの表情だ。

 つまりは娘を喰ったと勘違いした瞬間の、罪悪感が乗った顔。

 想像するだけでちょっと楽しい。グリュックは表情の変化が乏しい男だが、娘に関することだけは表情が比較的豊かなのだ。子供たちの背を押して乙女を追いかける。

 

 レクテューレはマハトに押されるがまま重い足を引きずって、ぎゅ、と口を巾着みたいに引き絞った。大一番を前にしてレクテューレはちょっと尻込みしていた。

 クノッヘンが怖いのではない。今更ながらに父親から怒られるのが怖くなってきていた。

 クノッヘンへの苛立ちと腹立たしさと復讐心でやらかしてしまったが、結果的に父親から見れば散々に心配させられた上に人肉を食べさせられたのだ。

 すごく怒られるかもしれない。

 マハトのマントの裾をぎゅううと握りしめるとマハトはおやおやと微笑んでレクテューレを軽々と抱え上げた。

「そんなにイヤならやらなければ良かったでしょうに」

「その方が嫌よ。絶対にやり返してやンなきゃ腹の虫がおさまらないもの」

「グリュック様にお任せすれば罪に相応する罰を与えられるでしょう。いずれにせよ死刑は確実です」

「───これも自己満足よ。私の命は短いんだから、やりたいって思ったらやる以外の選択肢なんて無いの。私は最期まで自分の納得する自分でいたいのよ」

「そうですか」

 小さな勇ましい少女がふんすふんすと鼻を膨らませる。まるっきり駄々を捏ねる子供そのものの仕草であるが、子供なりに小さい頭で色々と考えているらしい。

「レクテューレ様は自分が好きなのですか?」

「好きよ。出来る事なら自分と結婚したいくらい」

「デンケン様は?デンケン様も自分のことがお好きなのですか?」

 そう問うと、何故かデンケンは悠々とレクテューレを抱きかかえるマハトを睨んだ。

「お前に先を越されたからあんまり好きじゃない」

 

 

 

■  ■  ■

 

 

 

「レクテューレ、レクテューレ!!」

 グリュックはレクテューレに駆け寄り、その体に傷が無い事をまずは確かめた。

 頭が痛くてしょうがなかった。喜ぶ感情が現実に追っついて来ない。吐気と寒気と頭を揺らす熱がしっちゃかめっちゃかになって、意味も無く涙が零れる。

 真っ白い唇を震わせながら自分の両腕を痛い程に握り締めるグリュックに、レクテューレは「お父様……」と気まずそうな顔をしてしゃがみこんだ。

「……ぉめんなさい……」

「何を謝る。お前は何も悪くない!」

「でも、心配をさせてしまって、」

「何も悪くない。生きていた。本当に、生きていてくれてっ」

「あとクノッヘンの息子の肉を食べさせてしまって」

「別に大したことじゃない!」

 

 いや大したことでは?

 

 デンケンはそう言いそうになったがすぐに口を噤んだ。気が緩んで顔をくしゃくしゃにするグリュックに茶々を入れるのは流石に気が咎めたのだ。デンケンは空気が読める良い子だった。

 ひとしきり感動の再会をしている父娘から視線を横にずらす。

 クノッヘンが目をバッテンにさせていた。ゲームで負けて悔しがっている子供みたいな顔は、息子を喰った父の顔ではない。

 その顔があんまりにも怖くて、デンケンは息を短く吐いて体をぶるりと震わせた。

 これが殺人犯らしく恐ろしい容貌をしていればもっと気楽に構えられただろう。マハト然りクノッヘン然り、本当に恐ろしい者はつるりと無垢で、話の通じない子供のような顔をしている。

「あれは、あの子の肉だったのか」

「はい。腰肉を使いました」

「そうか。惜しい事をした。もっと味わえば良かった」

 そう言ってクノッヘンは地べたに座り込んで煙草を取り出した。マハトは屈んで火を点けてやる。

 白い煙が天井に吸い込まれていくのを暫く見上げた後、クノッヘンは今気づいたとばかりにマハトに視線をやった。

「それで、私を殺すのか」

「いえ。人身売買やら裏取引やら、貴方の悪事に関与していた他の方々についての証言が必要ですので」

「私の家を捜索すればすぐに分かるだろうに」

「貴方が死んだとなれば他の方々は隠蔽に走るでしょう。それは拙い」

「マ、そうだろうな。全部私のせいにしてトンズラするに違いない」

「……貴方、死にたいのですか」

「ああ、そうだな」

「何故です。楽になりたいのですか」

「そうだとも」

「死ねば楽になると本気で思っているのですか。死後の世界はもっと酷いかもしれないのに」

「何だ。セラピーでもする気か?魔族が?」

 そう茶化したクノッヘンに、しかしマハトは首を緩く横に振った。

「違います。人の心についてもっと知りたいのです。もっと心について知らないと私は人間と共生が出来ない」

「勉強熱心なことだ。しかしそう思う時点で既に貴方は人と共生が出来るだけの優しさを持っているんじゃないかな」

「ありがとうございます───ところで私は、貴方の人肉嗜好も、家族を食べたことも大したことじゃないように思うのですが、どうして死にたくなるのですか?人肉も豚肉も同じタンパク質で何にも変わりありません。それに他人に人肉を食べさせたいのなら、どうしてレストランなんて迂遠な手段を取ったんですが。学校給食や炊き出しやらに混ぜた方がずっと効率が良い」

「前言撤回させて貰っても良いかな?」

 心底怖いものを見た顔で、クノッヘンは息子の胃袋に入っていた手紙を取り出した。

 内容は非常に業務的で一切の遠慮や配慮が省かれている。それは意図的にというより、冗長な表現をマハトが好まなかっただけなのだろう。

 それだけに事実が生々しく脳裏に浮かび上がるようだった。この手紙を読んだ者は一人残らず自分を死刑にすべき極悪人と思うだろう。

 そしてこんな極悪人が実父と知れば、マァ良心のある人間なら死にたくもなる。息子を自殺に追い込んだのはマハトで間違いない。

 しかし元々の原因は自分だ。だと分かっていて後悔の一粒も無いのだから救いようが無い。今だって、目の前でグリュックと抱き合っているあの雪の妖精のように可愛らしい子の腿肉の味を想像している。

 

 息子が死んだことは悲しいのに。本当に悲しくて、グリュックが殺したのだと思い込んで復讐を胸に抱いたのに。

 本当に復讐のためだけにレクテューレの肉をスープにしようとしたのかも分からない。

 クノッヘンはウツウツとした気分で煙草を指から零した。

「そりゃあ死にたくもなるよ……」

「何故」

 マハトは白いマシュマロに落ちたビー玉みたいなクノッヘンの瞳を覗き込んだ。

「おしなべてこの世に産まれたものには生きる意味がある。人生の長短、他者の評価、社会も環境も、家族も隣人も友人も、突き詰めれば些末な事だ。結局全ての命は孤独に死ぬのだから。だのに何故、死にたくなる?どうせ何時かは死ぬというのに」

「苦しいからさ」

 苦しいんだ。そう言ってクノッヘンは掌で顔を覆った。

 嗚咽を零す。マハトは訳が分からないという顔で首を傾げている。その無垢さ、美しさが羨ましくってならない。

 

 指の隙間からグリュックがレクテューレと抱き合っている光景が見える。腹の底が逆巻く程に熱い。憎くてたまらない。彼らのせいで息子が死んだなんてもう思っちゃいない。そもそもそうと本気で思っていた訳でもない。

 本当は最初っから、全部自分のせいだなんて分かっていた。自分がマトモじゃないからこうなったのだ。しかしそれでも、彼らを陥れる手段が残っていないことが悔しかった。

 ああなりたかった。自分だって家族を食べたくなんてなかった。確かに自分は妻も息子も愛していたのだから。

 しかしそうなれなかった。どうすれば良かったかなんて今でも分からない。

 

「魔族に産まれたかったなァ」

 そうすればこんなに苦しむことは無かっただろうに。

 都合の良いことを宣う自分に、マハトは曖昧な顔で笑った。幼い息子が何かを誤魔化す時とそっくりな顔で思わず笑ってしまった。

  

 息子も羊の味がした。

 

 

 

■  ■  ■

 

 

 

「あの後なぁ……納屋の地下から押収した肉をマハトが欲しがって、どうするのかと聞いたら燻製肉を作りたいんですとか言い出してな」

「はぁ」

「スモークチップを買ってやったら色々と試し始めて。アレで凝り性な所があるから……最後には庭にピザ窯を作ってしまったよ」

「そういえば月に1回はピザを焼いてましたな。あれってあの流れで始めたのですか」

「そうだ。器用で好奇心が旺盛で……ちょっと目を離した隙に街に出て服飾を学んだり、パティスリー巡りをしたり、教会に行って孤児達を抱えて遊覧飛行をしてやったり」

「ありましたねぇ」

 年老いたデンケンの声は低く掠れている。足元を薙ぐように風が吹く。レクテューレの墓の周りに咲く花々が波打つように揺れて、首を振ってるようだと思った。

 

 ヴァイゼが解放されて1ヵ月が経つ。人々はようやく50年の重みを知り始めていた。

 これまで使っていた家具が外では骨董品扱いになっていて、あらゆる法律が時代遅れと糾弾されていて、物価はバカみたいに上がっていて、仕事のノウハウが通用しなくなっている。

 外の常識に刷り合わせようと、狭苦しいヴァイゼの中で皆がヒィヒィ悲鳴を上げていた。

 口々にマハトの悪口を言いながら、それでもえっちらおっちら生きている。

 

「パン屋の主人がな、マハトの墓にラムレーズンパンを供えてやると怒鳴っていたよ」

「嫌いでしたなぁラムレーズンパン」

「朝食に出たらあからさまに顔を顰めて、あれは面白かった」

「そう言えばあの音楽教師の方。あの、クノッヘンの所で働いていた……」

 そう言われて、ああ、とグリュックは遠い昔を思い出した。

 南の国の歌姫は事情聴取の後に解放され、紆余曲折の後にヴァイゼの音楽教師になった。煉瓦職人と結婚して子供を6人産み、何人か孫もいる。

 彼女率いる合唱団のコンサートは今やヴァイゼの名物となっていた。

「今でも元気そうで。いやはや、随分と変わりましたな」

「横に3倍は太っていただろう。逞しい人だ。若い頃からマハトに物怖じしない人ではあったが」

「えぇ……マハトの歌を作ると息を巻いておりましたよ。恩知らずを罵る歌にすると」

「そりゃあ良い。後世に残る名曲にして欲しいな」

 カラカラと笑って煙草を咥える。しかしすぐに咳込んで赤色混じりの痰を吐いた。

 デンケンは煙草を止めようかと悩み、しかし止めなかった。

 咳込むグリュックの目じりに小さな涙の粒が浮かんでいた。苦しいのだろう。

 

 その苦しみはデンケンにも分かった。

 自分も苦しい。レクテューレが死んでしまってからずっと苦しい。

 マハトを殺してからさらに苦しくなった。何にも後悔なんて無いのに。

 他の手段は無かったのかと、ある訳がないと分かっていながら考える。

 

「皆、どうしたって師が嫌いになれないのですね」

 言ってしまったナァと思ってデンケンは顔を掌で覆った。

 

 あのバケモノは人の命なんて何とも思っていなくて、ヴァイゼを黄金にしても罪悪感なんてこれっぽっちも抱いちゃいなかっただろう。

 それこそクノッヘンなんて及びもつかない真正の人でなしだった。

 殺人なんて呼吸して食事してクソを出すのと同じように自然なことで、悪意なんて抱く筈も無い。

 どうやったって人と共生なんて出来る筈も無いバケモノで、そんなことはもうヴァイゼの民は一人残らず分かっていた。

 

 皆がマハトに怒っている。ヴァイゼが解放されてからマハトへの罵倒を聞かない日は無い。

 裏切られたと泣き喚く人は大勢居る。怪しいと疑っていたんだと喚く者も沢山居る。

 

 ああ、でもそれでも。何をどう言っても。

 やっぱり皆、どうやったってマハトを心底憎めない。

 

「苦しい」

 グリュックがずるずると体を落とした。レクテューレの墓の前に蹲る。

 ふと気が緩むと、パン屋で嫌そうな顔でラムレーズンパンを買っていたマハトを皆が微笑ましく眺めていた光景が思い出される。

 教会で子供達を肩に乗せてふわふわと浮かんでやっている時のことも、レクテューレと手を繋いでぽけっとした顔でマネキンの着る派手なドレスを眺めていたことも、楽しそうな顔で新入りの兵隊たちをシゴキ上げていたことも。

 ヴァイゼの治安維持のために奔走していたことも。魔族からヴァイゼを長く護っていたことも。裏でヴァイゼに巣食う犯罪者を惨殺していたことに気付いた者も少なくない。

 マハトが自分達のことをどうとも思っていなくても、自分達は勝手にマハトのことを好きになった。

 その思い出が胸の中にしつこくこびり付いている。

 さっさと忘れた方が楽だろうに。

 

 人は本当にどうしようもないくらいに、何をどうやったって狭い世界で苦しんで生きるように作られている。

 

「苦しいなぁ」

「はい」

「でも悪くはない」

 煙を吐く。肺を病んでいる自分はじきに死ぬだろう。苦しみは長く続かない。

 後悔なんて一粒も無い。良い人生だった。良い妻と子供達に囲まれ、良い友を得た。

 心残りと言えば、どうせならマハトに喰われてやってしまいたかったというぐらいのことで、それも大したことじゃない。

 あの男はどうせ嫌そうな顔をして「ニコチン漬けの肉を喰えと?罰ゲームですか?」とでも言っただろう。

 自分に対しては遠慮斟酌の無い、小憎たらしく可愛い男だった。

「人が人肉を喰うことは罪だ。しかし羊を喰うことは罪じゃない。では、魔族にとっては殺人なんて罪でも何でもないのだろう。人を殺して食べるよう進化した生き物なのだから……」

「そういう生物ですからな。それが罪ならば、生まれたことが罪になる」

「流石にそれは無いだろう。もし女神がそんな事を宣うのなら、それは邪神だ。さっさと殺した方が良い───そしてそうなら、少し怖いな」

「何がでしょう」

「私は地獄へ行くが、マハトは地獄へ行っていないかもしれない」

 

 どうしたってグリュックはマハトが嫌いになれない。死んでしまったことが悲しくて寂しい。あの人を小ばかにするようなうすら寒い笑みをもう一回見たいなぁと思っている。

 これではクノッヘンを笑えない。取り調べが終わった後、あっさりと絞首刑になったクノッヘンが羨ましくすらある。

 

 死んだ先にマハトが居ないのであれば、それは哀しい。

 人の世界の狭さを理解すら出来ないあの男がいれば、地獄がどれだけ狭く苦しかろうと楽しんで過ごせるだろうに。

 

「義父上……」

「何だ」

「貴方、マハトのことが好きなんですね」

「何を言うんだ気色悪い」

 不本意だという顔で睨んでくるグリュックだが、デンケンからすれば死んだ先で会えないのが怖いだなんてちょっとびっくりするぐらいに重い。

 そして同時に、このグリュックが居たからこそマハトは人間と奇跡的なバランスを保ち、共存出来ていたのだと思う。

 野生の狼が人に飼い慣らされる以上の奇跡だ。

 大昔にレクテューレと、マハトと3人でピクニックに行った時のことを思い出す。自分達を見るなりに狼は襲って来て、そして敵わないと悟ると森に帰って行った。

 自然はああいうものだ。狼からすれば人間も羊も変わらない。

 殺すこと、食べることに悪意も罪悪感も、罪も罰もない。

 クノッヘンはそれを評して美しいと呼んだのだろう。

 

「───魂の研究は途上ではありますが、死後はあるというのが定説です。そして魔族にも魂があることは確かです。七崩賢のアウラは魂を利用しての魔法を使っていたそうですから………しかし地獄や天国については未だ立証されておりません」

 デンケンはグリュックの隣に腰を下ろした。レクテューレの墓を優しく撫でる。

 自分より幾分か年若い義父を教え諭すように、ぽつりぽつりと話す。

「もし死後に人の罪を裁く存在があったとして、それは魔族の罪は裁かないでしょう。常識が違い過ぎる。狼どころか、忠犬だって飼い主の死体を喰うことがある。それは自然の営みです。だから貴方が地獄に落ちてもマハトは居ないかもしれません──しかしグリュック様、きっと師は貴方に会いに行きますよ」

「何故?」

「そりゃ、死んだくらいで師が諦める筈もないでしょう。あの行動力と好奇心の化身のようなヤツが」

 グリュックの手が震えて、短くなった煙草が指から落ちる。ぱちぱちと瞬いた瞼から小さな粒が散っていた。

 

 本当は、詳しいところはデンケンには何も分からない。魂の研究は専門外だ。きっとフリーレンの方が良く知っている。

 否、もしかするとこれから知ろうとしている最中なのかもしれない。魂というものは研究が難しく、先が知れない分野である。人間如きがどれだけ時間をかけても魂の端っこすら解明できないかもしれない。

 しかし間違いなく、あの師は魂だけになろうが大人しくしているようなタマでは無いと断言できる。

 女神とやらに大人しくするよう言い聞かせられても、黙って中指を突き上げるような問題児だ。

 本当に、人生の苦しさや世界の狭さとは無縁の、つるりと無垢な子供のような男だった。

 

「来るだろうか」

「来ますよ。貴方の行く先が天国だろうが地獄だろうが、師は必ず会いに行きます」

「随分と自信があるんだな?」

 皮肉っぽく口角を釣り上げる顔はレクテューレに似ていた。

 胸が苦しい。しかし悪い気分じゃない。振り返ると思い出は優しく、前を見ると暗く、それでも足を進めなければならない。

 そうやって人間は苦しんで生きる。魔族には理解できないだろう。なんなら自分達も、どうしてこんなに苦しみながら生きなきゃならないのかあんまり理解できていない。

 でも、悪くはない。悪くは無いのだ。

 そうやって生きた先に、悪くない人生だったと言えるのなら。

 

「貴方の悪意も罪悪感も、今やマハトの形をしているでしょう」

 そうと言うと得心が行ったのか、グリュックは笑って次の煙草に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

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